コブ男 ジョナの物語
ある所に、一人の男がいました。
男は、ジョナといいました。
ジョナの背中には生まれつき大きなコブがありました。
奇妙な事に、そのコブは人の顔をしていてしゃべるのです。
異様な姿に人々は忌み嫌い、石を投げつけるか、
避けて通るかのどちらかでした。
ジョナはひどく落胆し、大人になると国を捨て
ひっそりとした山奥に身を隠して生きていく事にしました。
背中のコブは、ジョナに話しかけジョナもコブと普通に会話します。
驚く事に、コブはジョナの知らない事を良く知っていました。
ジョナとコブは不思議で奇妙な関係でした。
何年か立った、ある秋の事でした。
ジョナは、冬を越すための食物を探しに山の奥へ奥へと歩みを進めて行きました。
すると茂み陰に人が倒れているではありませんか、
それはボロボロの服を着ていたものの、見ると若く美しい娘でした。
「どうしたものか、もう秋も深い、こんな山奥にこのままにしておけば凍えて死んでしまう。」
ジョナは娘を抱き上げると家に連れて帰る事にしました。
見殺しにする事が出来なかったのです。
次の日、目覚めた娘はジョナの顔を真っ直ぐ見て言いました。
「助けて下さって、本当に ありがとうございます。」
ジョナは驚きました。
自分の姿を見て、お礼を言われるなんて、生まれて初めての事でしたから…。
けれども、その理由はすぐ分かりました。
娘の目はジョナの姿を映すどころか、世界の光りそのものを、映すことが出来なかったのです。
娘の名前は、コーラル、遠い西の国にすんでいました。
が、どうした理由か、ある日 急に目が見えなくなってしまったというのです。
コーラルは、再び光りを取り戻そうと、町中の医者に診てもらいました。
しかし、どんな名医に診てもらっても 直す事が出来ませんでした。
色々な所を巡り、この山の頂きにある
『神秘の泉』
その水で目を洗うと治るかもしれないと聞き、
長い旅の末、やっとここまで来たのでした。
ジョナは、泉までの道を知っていました。
けれど、もう秋も終わりです。泉まで着く前に雪が降り出してしまう。
そうなればとてもコーラルには行き着く事が出来ないでしょう。
春になったら泉まで案内してあげると、ジョナは約束しました。
それまでは、ここにいて家事を手伝ってくれればいい。
コーラルは大変喜びました。
ジョナは、コーラルのために暮らし易い様に家の中を作り変えました。
おかげでコーラルは山の暮らしにも、すっかり慣れ、体力も徐々に回復していったのです。
やがて、雪も溶け、春の声を聞く頃、ジョナはすっかりコーラルの事を好きになっていたのでした。
コーラルの方もジョナやコブを頼り、
穏やかに時が過ぎて行ったのです。
ジョナはコーラルを『神秘の泉』につれて行く事を本気でためらいました。
本当に目が治ってしまうと、
自分の恐ろしい姿を見られてしまう。
姿を見られる事が怖かったのです。
けれども、約束です。暖かくなるのを待って、出発する事にしました。
泉までの道のりは、大変険しいものでした。
目の見えないコーラルの変わりにジョナが目になり支えながら、
やっとの思いで、頂きにある『神秘の泉』までたどり着く事が、出来きました。
ジョナはコーラルに頼みました。
「もしも、目が見えるようになって
私の姿を見たとしても、どうか怖がらないで下さい。
私は私なのですから。」
コーラルは、ジョナが何を言っているのか良く分かりませんでしたが、
「はい。」とだけ答えました。
そして目を洗おうと泉の水を、手ですくい取った時、
不思議な事がおきました。
すくった水が手のひらの上で突然光りコーラルの体を包んだのです。
コーラルを包んでいた眩い光消えると
コーラルの目は見えるようになっていました。
コーラルはジョナの方に振り向きました。
そこには、ひどく醜い姿の男の顔が不安そうに立っています。
一瞬コーラルは戸惑いました。けれどコーラルは、ジョナの顔を真っ直ぐ見ていいました。
「驚きました。私の目が見えなくなった理由がやっと分かりました。
暗闇の世界では姿や形ではなく真実の心しか伝わって来ませんでした。
私はどれだけジョナやコブの真心に救われた事でしょう。
ジョナ、コブ、目が見えるようになったのは、あなた達のおかげです。
ありがとう。心から感謝します。」
コーラルはしっかとジョナを抱きしめました。
すると、突然、泉の水が巻き上がり、ジョナの体を包み込みました。
みるみるうちにコブが溶けて光りの泡になって行きます。泡の中からコブの声が聞こえてきました。
「今まで、ありがとう。幸せになるのだぞ。」
やがて、2人は結婚し元気な男の赤ちゃんが生まれました。
そして、いつまでも、幸せに暮らしたという事です。