海軍タイムスリップ
今回、本当に申し訳ありません…。護衛艦やまとの方はもしかすると次年度になってしまうかもしれません。重ねてお詫び申し上げます、本当に申し訳ありません…。
2015年、日本・沖合にて。
海上自衛隊は観艦式を行っていた。
軽快な行進曲が聞こえる中、艦隊上空に暗雲が立ち込めた。あっという間に雷雨になり、雷光が艦隊を覆った瞬間…。
同時刻。アメリカ合衆国・パールハーバー基地にて。先程の海上自衛隊の艦隊と同じように、基地の上を暗雲が立ち込め、雷光が基地を覆った…。
この現象は、イギリスやフランス、ドイツ、中国、ロシア等々の各海軍基地で見られ、その基地に配属されていた艦艇は全てが消失した。これに各国政府は緊急声明を発表。世界はどんどん狂っていった。
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時は変わり1923年、大日本帝國海軍内はもめた。その理由は見ず知らずの軍艦が各鎮守府と大湊警備府に現れた為である。その軍艦は自らを「護衛艦」と名乗り、船員も全員日本人とおぼしき人々であった。
同時刻、アメリカ合衆国海軍内も同じような状態に陥った。原子力空母という未知の機関を搭載した空母や、ミサイル巡洋艦・駆逐艦といった意味不明な艦種の出現で、もめていたのだが、大日本帝國と同じく、船員がアメリカ人ということを確認した。
これらの現象も前述の国で起こったが、殆どの国がそれらを自軍に編入することとなり、事態は収拾したに見えたのだが。
問題は大日本帝國…もとい日本・横須賀に停泊していた「米第七艦隊」である。
これの処遇をどうするか、で海軍内は再度揺れた。処分すべきという人や、海軍に編入して大幅な戦力の増強を図るべきだ、という人もいた。ただし、船員は全てアメリカ人。対応に大日本帝國海軍は困りきっていた。
国会の最終決議案として出された案は、編入、であった。ただし、アメリカ人乗組員は茨城に新設する施設へ、という条件であった。
この最終決議案を出すために幾度もの採決などを行ったものの、「原子力機関」というものの怖さを護衛艦乗組員から聞き、条件付きで編入、となった。
「どうしてこうなってしまったんだろうな…」
とあたごの艦橋のウイングで、舞鶴の停泊艦艇を見ながら桐島仁二等海佐は呟いた。
桐島仁二佐は、今年の3月にあたご艦長に就任したばかりでこの事態に巻き込まれてしまったのだ。家族もの連絡が取れない中での生活は海上自衛隊員全員のストレスとなっていた。その乗組員よりもストレスが大きかったのは桐島二佐含む、艦長や副長などの重要な役職の人物たちであった。
「ああ、艦長。こんな所にいたんですね。」
と桐島二佐に声を掛けたのは副長の佐藤健二等海佐であった。明るい性格で乗組員からも慕われている副長である。
「ああ…。ちょっとなぁ…。」
「この事件ですか?」
「ああ、この事件だ。佐藤は家族の事とか心配にならんのか?」
「勿論心配ですよ?ただ、帰れると信じるしかないじゃないですか」
「それもそうだな、流石副長だ。」
「いえいえ…」
そういった会話の数日後、あたごはドック入りをした。これは番号を消すのと、日本海軍塗装にする為である。
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二ヶ月後の1923年12月。年末にそれらの工事は終了し、我々の元へと帰ってきた。
周りの人々には番号が消されたあたごとあしがらがどちらか分からなかった様だが、あたご乗組員はあたごへ、あしがら乗組員はあしがらへ、という事があった。
これは自らが居た護衛艦に強い思い入れ等があっての事だったのだろう。これには両艦長共に感無量で涙が止まらなかった。
「これより訓練を行う、総員配置につけ!」
これを令するのも何回目なのだろう。
海上自衛隊から海軍へ移動し二ヶ月。桐島二佐の初めての号令であった。
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「ふう、今日もなんとか訓練が終わったな…。」
「そうですね、大日本帝國海軍にも慣れてきましたしね」
「そうだなあ、まだまだ規則は分からんが、なんとかだな」
「そういえば、こちらの世界でも大和は建造されるのでしょうか、まだまだ先の話ですが…。」
「私達が助言すれば建造は無くなるはずだ。ただ、それに対する歴史の改変は必ずある。」
「そうですね、現有空母はどれくらいでしたかね?」
「えっと…まだ鳳翔と米空母だけだな。軍縮条約の締結が1922年、つまりは去年だから時期に赤城や加賀も空母に改装されるだろうな。」
「このあたごには旧軍の設計図が乗ってましたよね?それを海軍に貸し出ししてはいかがですか?」
「それもそうだがなあ…。歴史の改変はタイムトラベルで問題になることだ、よしておけ。ただ、海軍の軍人が来れば渡すことにしよう。」
「了解しました。そういえば、軍縮条約が締結されたのなら護衛艦はアウトではないのですか?」
「いや、まだワシントン軍縮条約が締結されただけだ、あくまで主力艦の制限だが…。ロンドン軍縮条約が結ばれればどうなるか…。まあ、護衛艦の存在は秘匿されている。取り敢えずは大丈夫だろう。」
「そうですね…。」
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その話の三日後。桐島二佐の元にかの時の連合艦隊司令長官が訪れた。
「か、艦長…、竹下長官が来艦されてます…!」
「…何!?副長、その話は本当か!?」
「ええ、竹下連合艦隊司令長官だと思われます。」
「取り敢えず、艦長室にお通ししろ…。」
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ガチャ。
扉が開く音とともに、竹下勇長官が現れた。
「ど、どうも…。あたご艦長の桐島仁二等海佐です!」
「どうも、竹下勇だ。」
「あ、お座りください…。」
「ああ、ありがとう。で、早速今回の用件だが、未来のことを教えて欲しい。」
「えっ!?」
桐島二佐は、一昨々日佐藤副長と話したばかりの事で気が動転してしまった。
「は、はい。ただ、一昨々日に副長ともその話をしておりまして、歴史を変えてしまうかもしれません。それでもよろしいですか?」
「もちろんだ。あと、我が大日本帝國がのちに作る軍艦の設計図や写真があれば、提供してほしい。」
「了解しました、設計図や写真は後でお持ちします。」
桐島二佐は、太平洋戦争を知りうる限り喋り尽くした。真珠湾攻撃の成功。ミッドウェーでの敗北。ガダルカナルの死闘。そして、神風特別攻撃隊の話。ヒロシマ、ナガサキでの原子爆弾の投下。ポツダム宣言の受諾…。
「…ほう。ならば、そのミッドウェー海戦とやらを成功させればいいんだな?」
「はい、そうなんです。ただ、レーダー…つまりは電波探針儀の開発も急がねばなりません。」
「それは何故だ?」
「はい、ミッドウェー海戦では目視による対空見張りが行われていましたが、その目視による対空見張りのみでは不十分です。」
「…いち早く敵機を見つけるため、ということか。」
「そうです。ミッドウェー海戦では、急降下爆撃機「ドーントレス」によって最初に三隻の空母が撃轟沈しました。これがこの大戦の分かれ道です。」
「ふむ、そうか。あ、そうだ。この護衛艦?なら、そのドーントレスを発見する事は可能かね?」
「無論、可能です。長官もご覧になったとは思いますが、艦橋に四つの八角形のものがあったと思います。それが、電探なのです。」
「ほう。なるほどな。ちなみに、何機くらいなら迎撃できる?」
「10機以上は同時攻撃可能です。また、200機以上を電探に補足し続けます。」
「!?そ、それはまた凄い艦だな…。」
「あ、ありがとうございます。もともと対空戦闘に特化して作られたものですから。」
「…?ということは…。」
「あ、その事を言い忘れてました。この後、大艦巨砲主義は一気に廃れます。」
「そ、そうなのか…。という事は、八八艦隊計画は無くなって良かったのか…。」
「まあ、そうなります…。」
「よし、大艦巨砲主義が廃れるとなれば、これ以降の新戦艦は建造停止、軍縮が無くなってから航空母艦を建造することにしよう。」
「あ、あと建造するなら、安くて早く作れる駆逐艦も、です。」
「お、そうか。ならそれも具申しておこう…。」
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「一応資料をお渡ししたものの、航空戦艦の資料が無かったのは痛手だな…。」
「艦長、どうかされました?」
「いやあ、航空戦艦伊勢の資料が無かったのは痛手だな、と思ってな…。」
「確かに痛手でしたけど、概要を説明したんですから海軍は作ってくれますよ、きっと。」
「だな。そう信じよう…。」
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「そ、総理!米国からロンドン軍縮条約破棄の具申が来ております!」
「…、そんなわけないだろう、まだ条約締結から一年だぞ?」
「何故かは不明ですが、何かしら起こるのではないのでしょうか…。」
「うーむ、英国と対談して米国に対する行動をどうするか考えねばならんな、第二次日英同盟の締結もあり得る。」
「取り敢えず、英国に日英会談を申し入れてきます!」
ーアメリカー
「あんなニミッツ級…いや、今はシリウス級か…。そのシリウス級が来なければこんな事にはならなかったのに…。」
「まあ、仕方ないでしょう。我が国はもう海軍力一位と言っても過言ではありませんよ。あの二国など、敵ではありませんよ。」
「慢心はするな…。とは言いたいところだが、実際そうだからな…。」
ー在日英国大使館ー
「お忙しいところ、会談を快諾して頂きありがとうございます。」
「いえ、我が国にとっても現在における最重要要件ですから。」
「では、その要件なのですが、ご存知の通りアメリカ合衆国は、日英仏伊に対しワシントン海軍軍縮条約の破棄を申し出てきております。これには何の意図があるのかは不明ですが、おそらく大型戦艦、もしくは大型空母を建造しようとしているものと思われます。このことから、我が国は条約破棄通告後より二年後…。つまりは再来年の1925年に貴国との同盟復活を申し入れたい。」
「我が国としても、その案には賛成です。この際、破棄した日英仏伊でユーラシア条約機構なるものを設立することを提案致します。この条約機構は勿論仏伊にも伝えてあります。なおその二国は参加を決定したそうです。」
「おお、そんな条約機構を作ろうとしておられたのですね。我が国としても参加させて頂きたいところですが、天皇陛下のお許しが無ければ私の一存では決められません故、少々お待ち頂きたいのですが…。」
「問題ないですよ。無論条約破棄まではあと二年ありますから、じっくり考えてからおっしゃってください。」
「ありがとうございます。貴国の対応に感謝致します。」
両者は熱い握手を交わし、日本外交官はその場を去った。
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「天皇陛下、英国よりユーラシア条約機構加盟の誘いが来ております。」
「ほう、そのユーラシア条約機構とやらはどのような機構なのか、それを説明しなさい。」
「アメリカの軍縮条約破棄に対する処置だと思われます。また、英国はその機構内での貿易も活発化させたいようです。」
「なるほど、我が国にとって入って悪いところは無いようだね。よし、明日加盟申請をしなさい。」
「了解しました。」