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魔女と使い魔  作者: たま
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買い物に行こう③

 世の中には本当に不本意で不本意で仕方がないことがあったとしても、どうしようもないことはあるものです。それがまさに今レイヴンが身を置いている状況でした。

 レイヴンは地面に落ちたままぶうたれておりましたが、このまま居てもおなかがすくだけでなにもならないということはわかっておりました。 魔女はけして自分からは迎えにこないでしょうし、だからといって自分が魔女の元を離れることも許さないのです。となればただひとつしか道はありませんでした。レイヴンは、自分で魔女の元に戻るしかないのです。


「鴉どん、どうするべか」


 ジョンがおろおろと聞いてきたのでレイブンはおしりを天につきだした姿勢のままむっつりと答えました。


「戻るしかねえだろうが」

「それなら早く追いかけねえと、鴉どんは鳥目だべ? 夜は帰り道がわかんなくなっちまうんじゃないべか」

「それを早く言え!」


 レイヴンはぎゃあとわめいて空に飛びあがりました。しかし思ったよりも夕闇は空を覆い尽くしておりました。空を飛んでいるはずの魔女の姿は、すでに夜に紛れてほとんど見えなくなっておりました。


「もう全然見えねえ……」


 レイヴンが下に舞い降りると、ジョンがあははと笑いました。


「仕方がねえべ、今日はおらの家に泊めてやんから、明日明るくなってから帰るといいべ」


 レイヴンは少しだけ驚いてジョンを見やりました。まあ、なんというお人よしな人間なのでしょう。あのとき、あの時代にこんな人間はいただろうかと思い返すとなんだかうんざりしてきました。

 レイヴンは首を振り、お人よしの男の顔をしかめっつらで見上げました。


「……うむ、じゃあその言葉に甘えるとしよう」

「いいべよー」


 ジョンはあくまでにこやかに頷きました。しかしすぐにきょとんとしたふうにレイヴンをみつめます。


「それにしても鴉どん、その姿でいったいどうやって荷物車を引いて帰るべか。変化でもできるべ?」

「……」




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




 ジョンの家はちいさいけれど、魔女の家よりも片付いておりました。年老いた母親と二人暮らしとのことですが、その母親の作ってくれる料理といったら粗末ですけれどどれもこれもおいしくて、レイヴンはしみじみと食べ物の大切さを思い知ったのでした。


「おい女、これとこれとこれの作り方を教えろ」

「おやおや、使い魔さんはこんなものが気に入ったのかねえ、うれしいねえ」


 ジョンの母親は息子と同じく底抜けに気の良い女性のようでした。レイヴンの口の悪さもきにしたふうもなく、豆のスープやらパンやらオムレツやらの作り方を丁寧に教えてくれました。それをみながらにこにことしたジョンは、レイヴンのために藁を集めてきてふかふかとした寝床を作ってくれました。なんとまあ、お人よしな家族なのでしょう。


 しかしお人よしなのはジョン一家だけではないようでした。村人たちがかわるがわるやってきては、酒やおいしいものを持ってきてくれるのです。さすがに不審がると、ジョンは笑いながら言いました。


「だって鴉どんは西の魔女様の使い魔さまだべよう。この村の者ぜんいん、西の魔女様にはほんとうに世話になっているからなあ」

「あのババアが何をしたんだよ。いっつもぼーっとしているだけじゃねえか。掃除も飯も作らずにただただぼーっとぼーっとしているんだぞ」


 そういうとジョンはにこにこと笑ったまま首を横にふりました。


「西の魔女様はかつて人間を滅ぼそうとしていた魔王を封じたと言われるすんごいお方だべ。そんでいまも、この世界のために働いてくださってる。世界を平定してくださっているんだべ」

「なんだとこのそばかす野郎め。そんなやつ、魔王たちにとっては敵じゃねえか。人間のためだけのエゴじゃねえか」

「そんなことねえべ」

「そんなことあるだろう! お前ら人間にはわからないだろうがなこのトウモロコシ頭め!」


 かっとなってしまったレイヴンは、ジョンの作ってくれた寝床に入ると、おやおやと呼び止める声を無視して身体を丸めました。腹が立って仕方がありませんが、いまこの世界に生きる人間たちにとっては魔女は英雄だということがよくわかりました。


 腹が立っているので眠れないかと思いましたが、ふかふかの藁はとても心地よく、レイヴンはすぐに眠りに引き込まれてしまいました。明日はすぐに魔女の元に戻らねばなりません。そしてそこで人間の姿に戻してもらって、歩いてこの村まで再びやってきて、できるかぎりの荷物を抱えて帰らねばなりません。そのためにも早く起きなければなりません。

 眠りの底に入り込む寸前、ちらと浮かんだのはあのちいさな小屋で眠る魔女のことでした。レイヴンがいないので火もおこしていないはずでした。明かりひとつないまっくらな小屋の中、いつもの襤褸布をかぶってつくねんと眠っているに違いがありませんでした。いつものパンだけをかじりながら、たったひとりで。


 ……もしかしたら、何百年も。




 次の日目が覚めると、レイヴンの身体は何故だかいつもの赤毛の大男の姿に戻っておりました。それを目にしたジョンと母親が腰を抜かしてひっくりかえりました。


「なんだべ、使い魔さんはほんとうはご立派な姿だったんだべなあ」


 どうしてこの姿に戻れたのかわかりませんが、これでいちいち魔女の家に戻って魔法を解いてもらうことをしなくてよくなりました。レイヴンが昨日ジャンたちに用意してもらっていた荷車をひょいと抱え上げると、見送りに出てくれていた村人たちの間からおおと歓声が上がりました。


 レイヴンは荷車を抱えたまま森に入りました。なんせ魔女の家に通じる道はないので、このようにけもの道をたどっていくしかなく、荷車をひいて歩くこともできないとのことだったのです。


「使い魔さまあ、気を付けてなあー」


 背後からいかにものんびりとしたジョンの声が聞えます。レイヴンは少しの間迷って、それから振り返りこそしませんでしたが、それでも「おう」と返事をしたのでした。


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