巫女さん、どきゅめんと。
このお話は、あくまでも山藍摺の場合です。他の巫女さんはどうか知りません。
さあ、さあさあさあさあさあさあさあさあさあさあさあさあ! え、“さあ”が多すぎ? 別に多くてもいいでしょう、いうのはあなたじゃあないんだから。
まあ、ごほん、ごほん。
――世間一般で“巫女”さんといえば、皆様はどんな“巫女さん”を思い浮かべるのでしょうか。
神社で神楽を舞う、華やかな衣装をまとった巫女さん?
それとも社務所でお守りを販売している巫女さん?
はたまた――アニメとか、漫画とか、ゲームとか、小説に登場するキャラクター?
それでも、“白い着物に赤い袴”というイメージは変わらないに違いないでしょう。そこの読者の皆さん、そうでしょう、そうでしょう?! ……違う? まあとにかく、その前提で進めます、ハイ。
そこで、巫女さんの実際はどうなんだと――取材に踏み切ったのです、ジャッジャジャーン、拍手〜。拍手しない馬鹿って? そこはノリでしょう、ノリ〜? うるさい、先進めって? はいはい、素直じゃな――ゴフッ、ちょ、ぼ、暴力反対ッ!? 卓袱台ブーメランじゃないから?!
◆◇◇◆(/´△`\)◆◇◇◆
まあ、気をとりなおして……ああ、痛い……君の視線と額のたんこぶが痛い……え、さっさとしろ? 君がしたんで――あ、アアボクガワルイデス、だからチョットナゲナイデ――
◆◇◇◆(ノ_・。)◆◇◇◆
――ああ、痛い痛い………ハイ、改めて。質問ヒトツメ。え、その前に、これを読め、え、音読するの?! あ、ナゲナイデ、ナゲナイデ! お盆ナゲナイデ! て、旧型アンテナ付きブラウン管テレビ(ちびまちゃんのお茶の間のあれ)投げたら刺さるー?!
えーっと……、読むから読むからたんま!
……うぉっほん、ごほん。なになに……“注意!! WARNING!!! このイメージ通りの格好で、わたしは実際に巫女さんのアルバイトをした。その時の体験である。
あくまでもこの文章はわたし、山藍摺の体験であって、全ての巫女さんが、こうではないことを念頭に読んでいただきたい。”
……え、ワーニングって、危険なの? 修羅場なの? 何か投げられるの、何か飛んでくるの((((;゜Д゜)))
「……落ち着けじゃかあしい。わたしが巫女さんをしたのは――ざっと十年近く前だ。あの頃は若かった」
え、勝手に進めないでよ?!
「……あんたが落ち着かんからだろうが。
まず、神社で働く巫女さんには、正規雇用の会社員である巫女さんと、正月だけ働くアルバイトの巫女さんに別れる。わたしの場合はこのアルバイト巫女さんに該当するわけだ」
だから、勝手に――モウイワナイカラ、フライパンナゲナイデ! 物干し竿ナゲナイデ、投擲しないでえええ!! まな板投げるもの違うゥゥ!! こっちのがWARNINGーってやめて!!
◆◇◇◆(>o<")◆◇◇◆
「――とにかく。
アルバイトをしていた時、巫女さんの同僚は皆さんアルバイトだった。わたしがお世話になった神社には、正規雇用の巫女さんはいらっしゃらなかった。――少なくとも、わたしがお世話になった神社は」
え、いないの?
「いらっしゃらなかったな。繰り返すが、わたしがお世話になった神社は、そうだったし、確かめたところ、普段は宮司さんと奥さんのお二人で運営されていた。他の神社は雇われたことがないから知らない。 ――ちなみに、わかりやすくアルバイトと記しているが、わたしの場合、お世話になった神社側が“有給奉仕”と募集していたのであって、正式にはアルバイト募集ではなかった。有償ボランティアだったのさ」
え、奉仕って何か桃色チックぅ、巫女さんにぃ、いか○○い、破廉ピー――うわあ、怖い怖い睨まない?! え、R15になるからしゃべるな? え、それ君の電話? え、ぼくが出るの………何で………え、あ、
「ええから出ぇやっちゅーねん」
はいはい、え、もしも――……し、え、奥さん?! あ、違うから、どこから聞いてたの………え、桃色のとこから、え、そのことでお話………え、奥さん浮気はしてないからああ!! ああ奥さ――
(遠ざかる足音、遠ざかる悲哀と懇願に満ちた悲鳴。)
「――だからか、一時間当たり何円という時給制ではなく、一日何円という日給制であって、現金支給であった。色々と書き連ねたが――」
(メガホンの声が響く。答える側、そちらを振り向く。)
――この先イメージ崩れるよ! え、奥さん、ちょっと待って……浮気はしてないからああ!!
聞く側、メガホンを投げて携帯通話を再開。
「……とにかく、この先、“巫女さんのイメージが崩れた!”になるかもしれないが、巫女さん夢の中、イメージの中の存在ではなく、かつボランティアでもなく、れっきとしたお給金を頂く職業であることをご理解いただきたい。
れっきとしたお給金を頂く職業なので、もちろん制服=巫女装束も貸与される。コンビニエンスストアの制服のように貸与であり、学校の制服のように支給ではない」
――はあ、はあ……ただいま戻りました。酷いよぉ、奥さんにいつのまにか電話して、通話中にして聞かせるんだから、ぼくちゃんも怒るんだからねっ、……ほら、電話!!
「(答える側、ちらっと見て携帯受けとるが無視、聞く側固まる)クリーニングの札がついた巫女装束(上下一式、足袋等も含む)を最初に渡され、これを“着付けを軽く習った”後に、毎回毎回自分で着付けて業務に従事する」
――え゛、無視?! って、え、マジ無視?!
「(答える側、頷く)当たり前だが、これが着付けられないと仕事にならないし、意外にずれたりするので“着付け直し”もできない。
まず、赤い袴は本当は朱色の袴で、長いヒダの入ったフレアタイプのスカートのようなものだ。動く度にひら、ひらと空気を含んで動くし、軽いように見えて、そのじつ意外に軽くはない。
夢がさらに壊れるかもしれないが――」
――よし、そちらがその気なら………メガホンでっ、せーの、“むーしーすーるーなー”!!
「……………(答える側、一枚の写真を懐から取り出す)」
(聞く側メガホンを取り落とし、よよよと座る)ぎゃあ、なんてものをだすのさっ?! それをどこで――
「(答える側、チラ見もせずまる無視)――巫女装束ははっきりいって、上部の白装束は風通しがよすぎる。袖だって、長袖ではなく五分〜七分あたりだ。この袖口からばんばん風が入るわけだ。
ここに、夢をさらに壊す事実がある。巫女さんに、特に巫女装束に男のロマンを感じる殿方は、バックを推奨する」
――また同じことを! (答える側、一枚の写真、再び取り出す)ほぎゃあ!!
「――こほん。巫女装束は、思ったより薄い。裏起毛とかではない。だから、油断すればすぐに風邪を引く。 わたしたちは、その事実に夢がちょっぴり崩れた。友人なんて、憧れの巫女装束――女性は一度はあの巫女装束を体験したいはず――に対するイメージにヒビが入り、がらがらと激しく崩れたらしい、南無」
――……そんな、男のロマンがああああああ、夢がああああ!!
「ほら、あのように。
(答える側、いつのまにか通話しながら)――だそうだ、奥さん。ああ、帰宅したら思う存分問い質してやってくれ。
まあ、とにかく――外見から見れば憧れの、そしてロマン溢れる巫女装束。しかしてその実態は……以下に語る通りだ。
まず見た目に悪いため、マフラーは自粛。移動時、防寒着の類いはなかったな……。
よって、防寒対策を内部、服の下に限られた。結果、カイロだらけになる。
しかも貼るカイロをこれでもかと。もちろん、日本が誇るユ○クロの薄手のヒートテ○クを重ね着したうえで。ここまでしないと寒いのだ。むろん、タイツも重ねて極めつけに毛糸のレギンスもはいたな。くるぶし丈のを、見えないように裾を折ってだな。
もちろんタイツも分厚いぞ、おばちゃん状態だ。まだ二十歳前後の乙女には辛い現実であった。寒い季節、巫女装束は防寒対策の努力に満ちている。
夢と憧れとロマンを壊してきたわけだが、もう一度記す――あくまでも、山藍摺の体験であって、他所の巫女さんがどうかは、知らない。あくまでも、わたしの場合だ。
ここまで、夢を壊しながら、巫女装束が意外に寒い格好だとお伝えした。
次は夢を壊さない話である」
――本当に壊さない!?!
「外野がうるさいが、続ける。(聞く側、きゃんきゃん騒ぐが、答える側無反応)
――まあ、だからバックをしないでいただけたらありがたい。
壊さない話、それはアルバイト巫女さんの業務だ。
まず、皆さんがよくご存知のように、各種お守りの販売だ。おみくじを引いた後に、紙のおみくじを渡すのも役目だ。
お守りを販売しながら、お守りの補充に、おみくじの補充。そしてその合間に、ご祈祷の受付をこなし、ご祈祷希望の参拝客を待合室へ案内し、お茶と茶菓子を準備しお出しする。 そして、木に結びつけられたおみくじを回収する。
皆さん、おみくじ=木に結びつける、というのは実はいけない事なのだ。木だって生きている。結びつけられた木は、おみくじに生育を邪魔されてしまうのだ。江戸の世より続くこの風習、昔はそれで良かったのだが、今はそうではないのだ」
――ならば、どこに結びつけたらいいのさ?!
「怒るな。落ち着いて聞け。
専用のみくじ掛けに結ぶのである。
どこの神社にも必ずある、みくじ掛け。今の時代はここに結びつけるのがベストだそうだ(宮司さん談)。風習も時代によりけりだ。
ならば、木に結びつけられたおみくじは、どうするのか、どうなるのか。
木にあまりよくのないならば、はたしてそのままなのか。いや違う。アルバイト巫女さんや宮司さんが、ひとつひとつ丁寧に取るのだ、手作業で。そう、手作業で。寒いなか、手作業で」
――まじ? 霜焼けになるじゃん。素手、素手?!
「立ち直り早いな、おい。
ああ、素手だ。素手で作業する。ノー手袋、ノー軍手だ。手袋等を装着すれば、木に引っ掛かるんだ。
――本題だが、木に結びつけられたおみくじを、ひとつひとつ破れないように気を付けながら、結び目をほどいて取っている。
取ったおみくじは、ひとつの箱にまとめる。これがある程度溜まれば、宮司さんがご祈祷をされるという流れだな。
この作業は、巫女さんのアルバイトをしている間、暇さえあれば行うものだ」。
――もういいの、ぶり返させないでよ?! 男だって弱いんだよ!!
……で、どうやればこんなところに?? ってなるのはないわけ? 届かないよチキショーみたいな。
「……奥さんどこがよかったんだ? そっちに頭を抱えてしまうな、おい。
――まあ、チキショーではないが、苦に思う場所の場合もあるな、あの作業。
腕をのばし、取り、のばし、取りをひたすら繰り返す。これがかなり肩が凝るわけだ」
――巫女さん、地味、地味に大変だよ?! 寒さに耐えて、地味に肉体労働もして、華やかじゃないよ!
「……全国の巫女さんの皆さんに失礼だろう、それ。皆さん頑張っていらっしゃるんだ。
――読者の皆さん、もし、巫女装束を来て、境内ですれ違う人に“ようこそお参りでした”と笑顔で声を掛ければ、あちらからも必ず笑顔と挨拶が返る。
それに、朝も早い巫女さんの仕事柄、小高い丘にたつ神社の境内から――朝靄に包まれてのぼりゆく朝陽を拝めることができる。
何も華やかでない、そんなことはひとっつもないんだ。
どこか清廉な、清い気に満ちた境内で見る朝陽は格別だ。
最後に――来年、初詣に近く、または遠くの神社を参拝したときに、巫女さんとすれ違うことがあれば。
境内を移動したり、建物内を歩くとき、巫女さんは心持ち前傾姿勢――頭を下げる感じ、で歩いていたりする。
そんな彼女たちの顔を、ちらっと見てほしい。 彼女たちは皆、にこやかに微笑んでいるから。その笑顔は、寒さに耐えてこその笑みだったり……するから」
――え、しめちゃった、しめちゃったよ?! インタビューの主旨からおもいっきり離れちゃってるじゃん!! 結局聞き手の意味ないし……!?
「スライム杯の神のテーマからは離れていないだろう」
え、どこが“神”さま?読んだ皆そう思ってるよ、きっと?!
「レギュレーションをきちんと読め。“神”の字が入ってたらいいんだそうだ」
――この話のどこが(`へ´*)ノ?!
「……ついに、顔文字に頼りだしたか……」
ど、どうでもいいじゃん?! キャラ埋没してるから、読者の印象に残りたいんだよ! キャラの生命線だよ! とにかく! どこが? どこが?!
「神社の巫女さんがテーマだ」
……神社?
「神社。神、社。巫女さんは神社にしかいない」
――……無理すぎる。
「何かいったか?」
ナニモイッテマセン((((;゜Д゜)))
「お、“最後に………最後に、注意書。調べてみたところ、正規の巫女さんは本職巫女、アルバイト巫女さんは助勤巫女という”だそうだ」
え゛、四字熟語〜?!
「まあ、とにかくこの短編はここまで。スライム杯のたくさんある作品のなか、こんなくだらないだらだらな語りに足をお運びいただいた上に、最後までお読みいただきありがとうございました」
ありがとうごじゃっ――ああだから投げないでよ! わかった、真面目にするから……ありがとうございました!!
〜楽屋裏〜
まだ語るの?! 奥さんのところに帰って奥さんが奥さんでー奥さんを奥さんの奥さんを奥さんのしたい!!
「“奥さん”活用形のある動詞じゃないだろうが。しかもなんだ、おまえが奥さん業するみたいに読めるぞ」
奥さん可愛いからいいの! 奥さん手伝いはするよ! 奥さん成分やばいよ底尽きてマイナスだよ残高!
「……奥さんは銀行でも通帳でも栄養素でもないだろうが」
と、ととと、とっとにかく?! ま、まだ語り残しがあるわけ?!
「あれだ。ドラマの始まる前とか終わった後に、テロップかなんかでて、“このお話はフィクションです、実際の実在のうんたらかんたらとは一切関係ございません”が」
でも、これドラマじゃないし、“ノン”フィクションでしょー?
「しかし、前書きにてあるように“あくまでも山藍摺の場合”だ」
よーするに、他の巫女さんは違うかもだから、変に誤解しないでください、巫女さんがすべて=あれではないってこと? 確かにクレームきそーだよね〜? スライム杯のお目汚し? とか、真面目に巫女についてもっと掘り下げなさいとか、そもそもロマンぶち壊しするなとか?
「――だから、だ。
読者の皆様方には寛大なるご理解を」
生暖かなご理――ごめんなさい真面目にするから投げないでよ炊飯器?! ……読者の皆様、どうかお許しを。