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七章 悪霊と死神

 七章 悪霊と死神


 それから数日、緊張の中でヒースたちは過ごしていた。


「いやあ、あれだよな、いざ戦いが始まればかえって怖くねえんだが、これから危ない連中が来るのをじっと待つっていうのは気持ち悪いよな」

 レミーがぼやいていたが、全くその通りだと痛感した。

 心の奥にある、もし連中が来なければいい、という願いが打ち消せない。

 そんなはずはないと思いつつも、都合の良い可能性を追ってしまうのだ。


「逆に考えなさい。あんな連中に不意打ちされたら、それこそ命がいくつあっても足りないわ。分かっているだけ、自分たちは運が良いのよ」

 そう答えるルカの言葉も、もっともであったが。

 ヒースはこれまでと同様、街を駆け回って情報収集に努めていた。

 まだ街に残っている敵の動向ももちろんだが、一番知りたいのは援軍である『悪霊』と『西方羅刹』の到来するタイミングだ。

 だが、さすがに街の耳聡い者も彼らの情報は掴めていないようであった。


 そして、ジェイコブが到着してから五日後の夜。

 ついにその難敵が、ルカたちの前に姿を現した。


 少し風が強い曇天の夜だった。

 月も星も姿を見せず、そろそろ夏も近いというのに肌寒さすら感じてしまう。

 この時、正門を守っていたのはゴドー、裏門はジェイコブだった。

 ゴドーに従っていた若い衆の一人が、血相を変えて屋敷に飛び込み、

「……『悪霊』です! 悪霊がやって来ました!」

 屋敷中に聞こえる大声で、敵の襲来を告げた。


 寝室で若い衆数名と共に仮眠をとっていたヒースはすぐさま飛び起き、準備を済ませた。

 玄関前に駆けつけると、すでに全員が集まっている。


「まずは『悪霊』が引き連れているであろう下僕が何者か、それを見極めるのが先決よ。深追いはしないこと。行くわよ!」

 てきぱきと指示をし、ルカが先頭を切って戸外に出た。

 玄関先にいた一羽のカラスが、東の空へ向かって飛び立っていく。

 この緊急時だというのに、ルカはなぜかその姿を目でずっと追っていた。

 ヒースもすぐに後を追い、彼女の隣に並ぶ。

 レニーが鋭い目で前方を見据え、彼女の隣にいた。


「ヒース、落ち着くのよ。しつこいようだけど、まずは見極めること」

「分かってるぜ、ルカ姐さん」

 駆けつけると、まだ戦いは始まっていなかった。

 ルカが若い衆に屋敷に戻るよう命じる。

 彼女とゴドー、レニー、そしてヒースの四名が並んで『悪霊』の前に立ちはだかった。


(これが『悪霊』か!)

 漆黒のローブに身を包んだ、妖艶な雰囲気の長身の女だった。

 腰の辺りまで伸ばした長い黒髪が、艶やかな光を放っている。

 肌はまるで血が通っていないのではないかと疑ってしまうほど蒼白だ。

 これが恐るべき魔女と知らなければ、美女と言っても良かったかもしれない。

 いや、「かつては美女だった」と言うべきだろうか。

 整った顔には、痛々しい刀痕が刻みつけられていた。

 額の上から斜に入った傷が、そのまま右目と鼻の上を通り、唇から顎まで一直線に残っている。


 ルカの姿を認めた『悪霊』が、残忍な笑みを浮かべた。

 傷跡のためであろう、思うように顔を動かせないようだ。

 引きつった笑みが見る者の心胆を寒からしめる。


「逢いたかったわあ、ルカ。ふふ、貴女をこの手で殺したくて……それだけを支えに、この三年間生きてきたのよ?」

「それは光栄ね。でも、残念ながら私にはこうとしか答えようがないわ。あの時、ちゃんと死ねば良かったのにってね」

 まるで無関心な様子のルカに、『悪霊』がさらに顔を歪める。


 彼女の背後には、二つの不気味な影があった。

 一つはゴドーすら越えるような巨躯の影。

 もう一つは、荒野を駆ける肉食獣のような四足の影だ。

 その二つの影が、同時に石畳を蹴った。


「来るぞ!」

 ルカが声を発し、背後に飛び退いた。

 それに従い、かねてルカが指示していたように三人が動く。

 ルカの正面をゴドー、左右をヒースとレミーが挟んで守る。

 これが『悪霊』一味に対する基本陣形だった。


『悪霊』本人の最大の武器は、もちろんその恐るべき魔術だ。

 それに真正面から対抗できるのは、やはり魔術を操るルカしかいない。

「才能、術者としての力量では私なんか遠く及ばないわ。だけど、守ることに専念すれば時間稼ぎはできるはずよ」

 そう語っていたルカが『悪霊』のもう一つの脅威として挙げていたのが、彼女の忠実な下僕たちだ。 ヒースたちが彼らを全力で討ち果たし、それからルカと共に『悪霊』を討つ、という戦術だった。

 しかし、何しろ今回はその下僕たちが何者か、どれだけの頭数かも分からない。

 そこでまずは守りに徹し、戦力を見極めようということであった。


 巨躯の影が、地を蹴って大きく跳躍する。

 長い両腕には、一振りでまとめて数人を屠れるような斬馬刀が握られていた。

 ゴドーが一歩前に踏み出す。

 この長柄物を振りかざす巨人には、どう考えても彼しか太刀打ちできない。

 凄まじい刃風と共に、斬馬刀がうなりを上げて振り下ろされる。

 ゴドーが両手の双鉄棍を交差させ、その重い一撃を受け止めた。

 鉄と鉄が激しくぶつかり合い、夜の闇に火花が散る。

 そこでヒースも、初めてこの巨人の風貌をはっきりと確認した。


 土気色の顔に、焦点の合わない瞳孔。

 まるで石のような肌をしていた。

 姿形こそ四肢の備わった長身の人間であったが、どう見ても生きているようには思えない。

魔造人ホムンクルスかっ!」

 ゴドーが叫び、裂帛の気合を込めて押し返そうと試みた。

 だが、敵は微動だにしない。

 そのままゴドーの鉄棍を押し切って、斬馬刀の露にしてしまおうとする。

 後方では、ルカがヒースには理解できない呪文を朗々と唱えている。

 仕込み杖の刃は抜かないまま、杖の先端で地面をリズミカルに叩いていた。

 すでに彼女と『悪霊』との、見えない魔術戦は始まっているようだった。


 もう一つの四足の影は、ヒースとは反対側にいるレミーに襲いかかってきた。 

「なんでえっ、俺の相手は犬っころかよっ!」

 四足で庭の芝生を荒々しく蹴って突き進んでくる様は、確かに犬のようであった。

 だが、その体躯はむしろ獅子か虎を思い起こさせる。

 獣がレミーに飛びかかった。

 間近に迫ったその顔は、ヒースが知るどの動物にも似ていない。

 しいて近しいものを挙げるとするならば、

「畜生! 犬かと思えば猿じゃねえかよっ!」

 太い腕の一振りをギリギリで避けた、レミーの見立てが一番的を射ていた。


「よし! 退くわよ!」

 ルカが呪文の詠唱を止め、一同を促した。

 あくまでも今回は、敵戦力の見極めを主眼に置いた戦いなのだ。

 だが、ゴドーは少しでも力を抜けば仕留められてしまう状況であり、敵も退却を簡単に許すほど甘くはない。

「退く? はは、戦乙女よ、何を眠たいことを言っているの?」

 ルカの言葉を耳にした『悪霊』がせせら笑う。

 だがその嘲笑は、すぐに驚愕に転じた。


 彼女の背後に、刺客の鋭い刃が迫っていた。

 秘かに接近していた『墓場鳥』フローラ、その人であった。

 深紅の布で口元を覆った彼女は、呼気を静めて気配を消し背後に回り込んでいたのだ。

 さらにルカは、彼女を援護するために『沈黙』の術を唱えていた。

 一定の時間、狭い範囲でしか効力を及ぼさない術であったが、それは見事に『悪霊』の裏をかくことに成功していた。


 間一髪のところで、身をよじって『悪霊』がその必殺の突きをかわす。

 だが、フローラは休むことなく次々に刺突を放っていった。

 さしもの『悪霊』も、ついにここまでかと思われた。

 二匹の下僕が、主人の危難を察知して舞い戻る。

「フローラ!」

 ルカが叫んだ。

 その意を察したフローラが、大きく背後に跳び退る。


 彼女と『悪霊』の間に、小柄な影が分け入っていた。

 肩まで伸ばした白金色の髪が、折からの強風に煽られて激しく靡いている。

 白い肌。

 まるで芸術作品のように整った顔立ち。

 右手には、華やかな意匠の凝らされた反身の刀が握られていた。

 その痩身に纏うは、フリルのついた赤のロングドレス。

 胸元にはエメラルドのブローチ。

 足には色をドレスと合わせた、踵の高いシューズを履いていた。

 どう見ても、戦いに赴くようないでたちではない。

 そもそも『少年』であるというのに、なぜ少女の装いをしてきたのか。

 事前に知らされていなかったら、ヒースも少女と見間違えていたことだろう。

 しかもその姿は、舞踏会と間違えてきたのかと問いたくなる格好だ。

 だが、その身から放つ剣気の鋭さは、端倪すべからざる彼の実力を物語っていた。


 これまで正体を隠してきた『天使』が、ついにその姿を現したのだ。


「ふふ、皆さま、ごきげんよう」

 抜き身の刀を手にしたまま、優雅な物腰でフローラ、続いてルカたちに向けて挨拶をする。

 『悪霊』が顔を歪め、

「手は出さない、という約定だったわよね?」

「あららぁ、そんな怖い顔をしないでくださいよ。せっかくボクが助けてあげたっていうのにぃ」

 まるで意に介さない、というよりも明らかにおちょくった態度であった。

「さあルカさんも、退くだなんてつまらないことを言わないで、存分に殺し合いを続けてください。ボク、それだけがずっと楽しみだったんですよぉ」

 無邪気な子どものような笑顔だ。

 決してそれが、ルカたちを挑発する意味合いではないことに、ヒースは戦慄した。

 この少年は、本気でそれを願っているのだ。


「ふうん、それでわざわざそこの『悪霊』のお姐さんやら、『西方羅刹』なんて頭のタガが緩んだ連中を集めたってことね。本当に困ったものだわ」

 ルカの目は、軽い口調とは裏腹に全く笑っていなかった。

「うふふ、戦乙女のお姉さま、そんなに怒らないでぇ。あはははは」

「反省の色なし、か。全く……そういう悪い子には、お姉さんがお仕置きよ」

 ルカの言葉を耳にし、『天使』の顔に一瞬だけ影がよぎった。

 否、この殺戮を好む狂獣の鋭敏な勘は、すでに背後に迫る強大な存在を感知していたのだろう。

「あれは!」

 思わず、ヒースは声を上げてしまった。


『天使』のすぐ後ろに、彼と同様に小柄な黒い影がどこからともなく現れていた。

 陶磁器のような美しく白い肌。

 白金色の髪。

『天使』と瓜二つの風貌をした、妖かしの民の少女だった。

 だが、その身に纏うのは見るも華やかなドレスではなく、漆黒の闇を思わせるローブであった。

 そしてその手に握られていたのは装飾を施された刀ではなく、鈍い光を放つ刃の巨大な鎌だった。


「お姉さま!?」

「……ファーナ。わらわが導く。冥府に逝くがよい」

 その少女が持つ大鎌は、魔造人の斬馬刀にも匹敵するほど巨大なものであった。

 小柄な体格の少女の膂力では、まず持ち歩くことすら困難な代物であろう。

 しかし黒衣の少女は、目にも止まらぬ速度でその大鎌を振るい、『天使』の痩躯を薙ぎ払った。

 仕留めた、と思われたその次の瞬間、『天使』の姿が消えていた。

 その身体は遥か遠く、屋敷の外の大通りに移っている。


「あはは、久方振りの再会だというのにずいぶんなご挨拶だなあ、お姉さま。これはまた面白くなってきたね。ボク、本当に嬉しいよ」

 黒衣の少女は『天使』を追おうと身構えたが、その背後を魔造人と犬猿が襲った。

 しかし彼女は恐ろしいほどに落ち着いた物腰で、真横に飛び退いて回避する。

「あはは、『悪霊』さん。今日のところはボクたちに分がない。退くとしましょうよ。ボク、あんまりこの衣装を汚したくないしね」

『悪霊』が舌打ちを洩らし、ルカを一瞥してから呪文を唱えた。

 ほどなくその姿が、宵闇の中に溶け込むように消えていく。

 二匹は『天使』の後を追うように、石畳の上を疾駆していった。


「追わぬのか、『戦乙女』よ」

 黒衣の少女がつまらなそうな表情でルカに問いかけた。

「今日のところはこれで十分よ、『死神』ラフィ」

 ルカの答えに、黒衣の少女は静かに頷いた。

 レミーが低く口笛を吹く。

「まったく、『死神』まで呼ぶなんて聞いてないぜ、ルカ姐さんよお」

「あえて言わなかったのよ。何しろ、私のとっておきの援軍だからね」

 悪戯っぽい笑顔に、ヒースは安堵と驚きでため息をついた。

(あれが『死神』ラフィ……)


 暗殺者の組織と言えば、真っ先に名が挙げられるのが『黒死會』だ。

 だが実際には、彼ら以外にも小規模な組織や、単独で仕事を請け負う者が裏社会には多数存在している。

『死神』ラフィは、その中でも特に伝説と謳われていた。

 組織に属することなく、また仕留める獲物も「生きていても害をなすだけの悪党」で、なおかつ大物ばかりだという話だった。

 その外見が少女のようだと小耳に挟んではいたが、いざ顔を合わせてみると、その戦いぶりとのギャップに戸惑いを覚えずにはいられない。


「わらわはラフィ。以後、宜しくお見知りおきを……」

 戦いを終えた一行は、応接室に集合していた。

 拱手し、小声で挨拶をするラフィの姿は、やはり儚げな妖かしの民の少女にしか見えなかった。

 もっとも、以前聞いた話では、彼女たちは見た目よりも実際の年齢は遥かに高いのだということであったが。

「ふふん、俺の情報網にも全く引っ掛かってなかったのう。怖い、怖い」

 ジェイコブが無精髭をゴリゴリと触りながら、ニヤニヤと笑う。

「彼女に関しては秘中の秘、としておきたかったのよ。どこから情報が洩れるか分かったものじゃないからね。で、ラフィ。首尾は?」

 ルカが促すと、ルフィは懐から大ぶりな真珠のブレスレットを取り出し、無造作にテーブルの上に置いた。それを見た元締と幹部衆が一斉に声を上げる。

「これは! もしやエブロのっ!」

「はい。このために、今までずっとラフィには街の外に待機してもらいました」

「それはつまり、『天使』がエブロの側から離れる機会を待っていたってこと?」

 ヒースが問うと、ルカが大きく頷いた。

「その通りよ。彼は実際、エブロのことなんか最初からどうでもいいと思っていたでしょうね。だけど彼にとって一番の喜びは、他人同士の殺し合いを見物すること。だから、これまでは側にいて指揮だけとっていたってことよ」

「己の愉悦のために小賢しい策を弄する。わらわの弟の悪癖じゃ」

 ラフィが不愉快そうな顔で洩らす。

「でもルカ姐、一体どうやって連絡をつけたってんだい?」

 レミーが首を傾げる。

 ヒースにも、その手段が全く想像できなかった。

「私もたまには、魔女らしい仕事をするってことよ」

 ルカが天井を指差すと、屋根の上で数羽のカラスが一斉に鳴いた。

「使い魔ですね。お姉さま」

「その通りよ、フローラ。あの子達にお願いして、『悪霊』が現れたのと同時にラフィに連絡をつけたの。私たちと『悪霊』の戦いなら、『天使』はきっと、いや必ず様子を見物に来ると思ったからね」

 その間隙を縫って、街に忍び込んだ『死神』が一仕事を済ませたというわけだ。


「ともあれ、これで敵の首魁は倒すことができました。傭兵たちも間違いなく全員逃げ出すことでしょう。雇い主を失った彼らには、もう街に留まる理由がありませんからね。もちろん幹部や若い衆は残っていますが、果たして彼らがエブロの復讐に燃えているかというと……怪しいところでしょう」

 ルカは肩をすくめ、さらに話を続けた。

「彼らは言ってみれば、『勝ち馬に乗った』連中です。恩義のある元締に反旗を翻し、裏切り者と呼ばれることも厭わなかったのも、全ては『勝ち目があった』からでしょう。しかし今、担ぎ上げたエブロは討たれ、頼みにしていた傭兵たちも逃げ出した。残ったのは、正気とはとても思えない厄種だけ。どう考えても、ここで踏み止まって元締たちと戦う利はありませんよ」

「ふむ。奴らもおいおい逃げ出すということか」

 元締が深く息をついた。

「ええ、そして今この屋敷に残っている内通者も」

 元締の眼が鋭い光を帯び、ルカを見据えた。

「この中にいる、というのか?」

「いいえ元締、この部屋の中にいるとは限りませんが……。まず間違いなく、誰か一人は……あるいは数名の裏切り者がいることでしょうね」

「それを炙り出そうというのか、お前は」

「元締がお望みであれば、そう致しますが。簡単なことです。金の流れを追えば、誰が該当するかすぐに判明するでしょう。連中が謀反を起こす前後に、エブロから大金を受け取っているはずですからね」

「なぜ、それが分かっていて今まで口に出さなかったんだ?」

「それは今夜、エブロを討ち取るまでは泳がせておこうと思ったのですよ。細かい打ち合わせを、私たちの間でだけ行ったのもそのためです」

 ルカが視線を幹部衆に走らせる。

 アマルだけが、真っ直ぐに彼女を見つめていた

「いや、ルカよ。わざわざ見つけ出す必要はない。そやつは明日の朝には、おそらく何処かへ消えておることだろう。今は、金に尻尾を振るような犬コロを探し出すヒマなどなかろう?」

「その通りですね、元締。今やらなければならないことは、早急に『悪霊』を片付けることです。さ、みんな、準備を始めるわよ」

 ルカがヒースたちを見回す。その表情には自信が満ち溢れていた。

「今からかい?」

 ヒースは反射的に呟いてしまい、声に出してから赤面した。

 これではまるで、自分が戦いを面倒くさがっているかのようではないか。

 だがルカは、そんな心中を察するかのように笑顔を向けてきた。

「今ちょうど終わったばかりで、また戦いに臨むのは確かにつらいことだわ。でも、今やらなくちゃいけないのよ。なぜか分かる?」

「え……?」

「今、はっきりと分かっていることは一つ。『まだ西方羅刹は到着していない』ということよ。来ていれば参戦していたでしょうからね。でも、明日はどうか分からない。こうしている内にも、奴はこのリカオールに向かっていることでしょうから」

 ルカの話に、一同が頷いた。

「戦いの基本は、『拙速は巧遅に勝る』よ。今日の疲れを癒して、また明日万全の態勢で……なんて、呑気な者は必ず敗れるの。それに、さっきの戦いで『悪霊』の下僕については確認できたからね。対策はもうここで組み立てたわ」

 ルカが片目をつぶり、己の頭を指差した。

 彼女の鋭敏な頭脳は、すでにあの凶暴な獣と不気味な魔造人――ルカはそれを『人形』と命名した――を仕留めるイメージができあがっているということだろう。

「じゃあ、早速打ち合わせを始めるわよ」



(八章 逢魔が刻 に続く)

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