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触手勇者(途中打ち切り)  作者: 刃羽器霧
前振り的なアレ
3/12

召喚 その2

 青年の洞察能力に舌を巻きながら必死に頭を巡らせる。

 ルドルフは確かに死を恐れてはいない。さりとて今死ぬことは許されないことも知っている。


「……全くその通りじゃ」


 言いながら青年を観察する。


 典型的な中肉中背の日本人の容姿は戦士としいてはひ弱く感じる。せいぜいが斥候や密偵にいるくらいで、兵士や騎士にはいないだろう線の細さだ。

 女性のような美丈夫も中にはいるがそれでも男性的な力強さは備えている。


 そういうものを青年――シオンは微塵も感じさせない。

 さらに言えば一部とはいえ異形と化する腕を見ればまず人間なのかと疑うべきだろう。

 歴史的に言えば100名以上、ルドルフ自身でも11人の勇者を召喚してきた。ちなみにこの数字は歴代最高である。


 その12人目――。


 彼は本当に人間なのか?


「その怯えようを見るに別世界の人間に頼るのは常習化しているようだな。俺のような人間を召喚したのは初めてかい?」


「当然じゃろう。貴殿は本当に人間なのか?」


「元、だな。死にかけていたんだが勇者召喚の陣を見かけたんでね。拾った命で人助けでも――と思ったんだが、とんだハズレを引いたもんだ」


「なんじゃと!!」


 シオンの「ハズレを」と被せるようにルドルフは叫んだ。


「な、ならば貴殿は――英霊……」


「それほど良いものではないが、まあ、近くはある」


 ルドルフは痛恨の失敗を犯したことを自覚した。

 これまでの名ばかりの勇者召喚などではない。正真正銘の勇者を召喚し――そしてこれまでと同様に対処してしまった。


 その結果は怒りだ。


 間違いなく自分は死ぬ。それはもはや抗えないだろう。

 しかしなんとしても彼にはこの国のために戦ってもらわなければ!


 今度はルドルフが跪いた。


「英霊よ、どうか――」


「断る」


 願う前にシオンは切って捨てた。


「お前が気に入らないのは確かだが、そうでなくとも俺は組織や集団に味方しない。俺が味方をするのはあくまで個人だ。そしてその判定は俺自身が下す。お前がなにを言おうともそれは覆らない」


「な……ならば! ならば!! せめて、せめて死ぬ前に陛下に、陛下に貴殿を紹介申し上げたい!」


「構わないが決裂した先に待つのは破滅だぞ?」


「ッ――――」


 英霊の言葉に息を呑む。


 そうだ。これだけの大戦力だ。陛下は取り込むのに躍起になる。否、そうさせる。

 その結果彼が陛下に付いてくれるならば問題ない。

 しかしそうならなかった時、この国は彼に挑むことになる。それは別の国の勇者としてかも知れないし、あるいは外患と判断した陛下が軍を差し向けるのかも知れない。

 だがいずれにせよ英霊に勝っても負けてもこの国は破滅を迎える。


 英霊を相手に無傷で勝てるわけがなく、国力を減らせば他国の餌食に。

 そして負ければそのまま彼に屈することになる。


 さりとて英霊を見逃せば100%敵となってこの国の前に現れるだろう――。


 八方塞がりだ。


「……っ! 覚悟の上です」


 長い沈黙を経てようやくルドルフはそれだけを吐き出した。

 進むも地獄。退いても地獄。

 ならば先へ行くしかない。


「そうか。しかしこの場を動くことは許さん」


「……誰ぞ陛下を呼んで参れ」


 10人のうちの誰かが敬礼し部屋を出ていった。


「ほう、王を呼び出すとは。親しいのだな」


「でなければ紹介など申し出ませぬ」


「それも道理か」


 それから30分の沈黙があった。ルドルフたちにしてみれば緊張の絶えない時間であったし、シオンにしてみれば少々退屈な時間だった。

 もっとも、自分ができることを確認するのに丁度良かったので有意義だったが。


「ルドルフ!!」


 供を置き去りにしてこの国の王は現れた。

 活力の漲る、年齢を感じさせない巨躯は一介の戦士としても彼が有能であることを示している。


「陛下!」


 魔術師の老人は平伏したまま声を上げる。それを王は制した。


「良い。話は騎士から聞いた。――初にお目にかかる、英霊よ。私はこの国、ランドゥール王国国王、ヴァイセン・アルファ・ランドゥール。まずは此度の召喚の儀に応答いただき感謝いたしまする」


 さすがに跪くことはなかったが、しかしそれでも王は頭を下げた。


「構わん。喚び手に礼節がないのはこちらの不運故な」


「……申し訳ありませぬ。しかし! そこを枉げてお願い申し上げる!」


 王――ヴァイセンは膝を屈した。


 それは取りも直さず王という権威を貶める行為だ。たとえそれが親友であり重臣でありこの先の戦争に必要な人材のためであってもしてはならない行為だ。


「陛下ッ!!」


 これに声を荒げたのは当人であるルドルフだ。


「な、なんということを!!」


 ここにいるのがシオン、ルドルフ、ヴァイセンだけならばまだ許された。しかしここには騎士たちも多数いるのだ。

 扉の先には重臣たちも見える。


 衆人環視の元、王が頭を下げるのは稀有だがありえないわけではない。相手が英霊ともなればやむを得ない場合もある。


 しかし――跪くことだけはしてはならない。


 それは国そのものの失墜だからだ。


 だが。


「良い。ならば許す。ただし、この次があるか知らんが、もう少し異邦人に対して謙虚であるべきだな」


「ハ!」


「たとえそれが弱者だろうとも。なあ? ルドルフ」


「は、ハイ!」


「2人とも楽にして良いぞ」


 クスクスと笑ってシオンは告げた。


「お前たちも覚えておくが良い。全てを――預けられた物さえも投げ出した先にある道もある。もっとも――そこへ往かないのが賢い選択と言うものだがな」


 居並ぶ家臣たちにシオンはそう告げ、笑い続けた。

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