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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

【警備記録】深夜のショッピングモール、装填弾数6発、呼吸限界~空の喘息吸入器を握りしめた元肉屋の52歳夜間警備員は、350メートル先の『薬』を目指して死の迷宮を横断する~

掲載日:2026/10/20

本作は全VI節構成(約41,000文字)の読み応えのある長尺サバイバルホラー短編です。

通勤中や隙間時間に少しずつ読まれる方は、途中でページを見失わないよう、ぜひ最初に【ブックマーク】をしてからお読みいただくのがおすすめです!


════════════════════════════════════════

【 警備記録 ―― 第 I 節 / 全 VI 節 】

23時42分 ―― 北口警備室 | 装填弾数:6発 | 呼吸:正常

════════════════════════════════════════


その音はいつも、喉の奥深く――胸骨のすぐ裏あたりから始まった。


弱火にかけっぱなしにされた古いヤカンが鳴るような、ヒュー、という細く乾いた笛のような音だ。


アルトゥーロは灰色の制服の襟元に二本の指を差し込み、一番上のボタンを外した。


五十二歳になる。肺が悲鳴を上げるようになるまでの二十五年間、中央卸売市場で牛の枝肉を担ぎ続けてきた広い肩幅は今も残っていたが、六年間に及ぶ夜間警備のせいで、目の下には深い隈(くま)が刻み込まれていた。


彼は鼻からゆっくりと息を吸い込み、頭の中で四つ数えてから、わずかに開いた唇の隙間から静かに吐き出した。


気管の笛音は消えた。まだ発作ではない。


『レ・アルカーテ・ショッピングモール』の北口に据え付けられた、縦二メートル・横三メートルのガラスと塗装鉄板でできた狭苦しい警備室。その足元で赤く光る石英管電気ストーブの乾いた熱気が、粘膜を乾燥させていただけだ。


アルトゥーロは制服のズボンの左ポケットに手を突っ込み、青いプラスチック製の吸入器を手探りした。指先が冷たい吸い口に触れる。


それを唇に咥え、肺の中の空気をすべて吐き出してから、金属製のボンベの底を強く押し込んだ。


カチッ、プシュッ。


舌の上に広がるはずの、サルブタモール特有の苦く金属的な薬液の味はしなかった。代わりに口の奥に吹き込まれたのは、力の抜けた空(から)の噴射ガスだけだった。


アルトゥーロは眉をひそめ、耳元でボンベを振ってみた。中身の液体が揺れる音はしない。


三日前に使い切って、ゴミ箱に捨てるのを忘れていた古い方の吸入器だった。


新しい吸入器――そして重度の発作が起きた時に使う、ステロイドと気管支拡張剤が入った三本の透明なアンプルケースは、夜光反射材のついた分厚い防寒ジャケットの内ポケットに入れたままだ。


そしてそのジャケットは今、ここから三百五十メートル離れた中央広場とスーパーマーケット、さらに荷捌き通路を越えた先にある、モールの反対側の『南口警備室』の椅子に掛かっている。


「……馬鹿な真似をしたな」


アルトゥーロは低く呟き、空になった吸入器を親指と人差し指の間で転がしてから、巡回日誌の横に置いた。


「零時を過ぎてシャッターを下ろしたら、すぐに取りに行こう」


二十二時半、南側エリアの荷捌き場の南京錠を確認しに行った際、地下のボイラー室から上がってくる蒸し暑い熱気であたりが妙に暑かったのだ。汗ばんだ彼は分厚い防寒ジャケットを脱ぎ、午前二時の定時巡回の時に回収するつもりで、南口警備室の背もたれに掛けてきてしまったのである。


何しろ、今夜もこれまでの何千夜と変わらない、死んだように静かな十月の夜のはずだったからだ。


北口の巨大な自動ドアの向こうには、四百台分の駐車スペースがあるアスファルトの駐車場が、黒い砂漠のように広がっていた。


秋の夜風が吹き抜ける中、ナトリウム灯の不気味なオレンジ色の光だけが路面を照らしている。五本ある街灯のうち、まともに点いているのは二本だけで、残りの三本は接触不良でチカチカと明滅し、葉を落としたプラタナスの木の骸骨のような影を濡れたアスファルトの上に揺らしていた。


アルトゥーロは主電源パネルの上にあるデジタル時計を見上げた。


『23:44』。


完全閉鎖まで、あと十六分。


管理組合の規定により、北口のガラス面全体を覆い尽くす厚さ五ミリの亜鉛メッキ鋼板製『防犯重量シャッター』は、深夜零時ちょうどになるまで下ろすことができなかった。


冷凍設備の保守業者や、作業が遅れた清掃員が外へ出る際、警察署に直通している警報システムが誤作動するのを防ぐためだ。


腰に巻いた黒い革ベルトから、馴染みのあるホルスターの重みが右の腰骨を圧迫した。


アルトゥーロは視線を落とし、スミス&ウェッソン社製の38口径リボルバーの滑り止めが刻まれたグリップを見つめた。


シリンダーの中には、フルメタルジャケット弾が六発。


重さ一キロ弱のその黒光りする鉄の塊は、この六年間、ズボンの右腰の生地を擦り切れさせるだけの無用の長物として、毎晩彼の腰にぶら下がっていた。年に一度の射撃訓練以外で抜いたことは一度もない。撃鉄(ハンマー)を固定する革のストラップは長年の放置で硬くなり、親指で強く弾かなければ外れないほどだった。


ブラウン管モニターの横に置かれた古い電池式の携帯ラジオが、深夜の長距離トラック運転手の眠気を覚ますための八十年代のポップスを、かすかな音量で流していた。


アルトゥーロは、まぶたに鉛が詰まったような重さを感じた。


夜九時の出勤前、湿気の多い夜に決まって現れる気管のむず痒さを抑えるために飲んだ抗ヒスタミン薬が、今になって脳に濃い霧をかけ、彼を温かく粘りつくような眠りの底へと引きずり込んでいた。


(十分だけだ……)


彼は開いたままの巡回日誌の上に両腕を組み、シャツの袖に額を乗せた。


(23時55分になれば制御盤のブザーが鳴る。そうしたら鉄のシャッターを下ろして、南口へジャケットを取りに行けばいい……)


アルトゥーロは目を閉じた。モニターの変圧器が鳴らす低い唸り声と、足元のストーブのオレンジ色の熱が、彼の肩から力を奪っていった。


23時55分の予告ブザーは鳴らなかった。


三日前、外灯の故障ランプが鳴らし続ける警告音を止めるために、昼勤の誰かが消音ボタンの隙間に爪楊枝(つまようじ)を挟み込んで固定してしまっていたからだ。


小さな明るい水槽のような警備室の中で、アルトゥーロの寝息が深く規則正しいものに変わっていく中――ラジオから流れていた音楽が、曲の途中で突然ブツリと途切れた。


深い眠りの中で、男の脳はその音を、夢と混ざり合った遠い断片としてしか認識しなかった。


最初は、ひどいノイズ混じりの長い沈黙があった。


やがて聞こえてきたアナウンサーの声は、いつもの深夜番組の落ち着いた語り口ではなかった。マイクの前で原稿の紙をガサガサと震わせながら、何度も言葉を噛んでいる若い男の張り詰めた声だった。


『……県庁からの緊急発表を繰り返します。県内のすべての居住者は、決して自宅から出ないでください。また、市立病院の救急外来へは絶対に向かわないでください。現在、駅前周辺で発生している暴動は、デモ活動などによるものでは……』


アルトゥーロは椅子の上でわずかに身じろぎし、腕に乗せた頬の向きを変えた。


二十分が過ぎた。ラジオに音楽が戻ることはなかった。


アナウンサーの声は一オクターブ高くなり、もはや職業人としての平静さを完全に失った震えが混じっていた。ラジオ局のスタジオのマイクを通して、防音扉の向こう側で「何か」が規則正しく扉に体当たりしている鈍い音が聞こえていた。


『……開けないでください! たとえ外にいる人間の声や服に見覚えがあっても、絶対にドアを開けないでください! これは狂犬病ではありません、何が起きているのか誰にも……口の周りに黒い血がついている者、関節が硬直している者、脈拍がない者には決して近づかないでください! 繰り返します、人工呼吸を試みないでください! 連中は噛みつきます、歯で生きた肉を食いちぎっ……ああっ、神様、副調整室のガラスが破られ――』


ゴツン、とマイクが床に落ちる鈍い音。


金属製のパイプ椅子が引きずられる耳障りな音に続いて、携帯ラジオの小さなスピーカーが音割れするほどの絶叫が響き渡った。


そして、巨大な野犬が内臓の詰まった袋に牙を突き立てて振り回すような、ジュルッ、グチュッという粘り気のある水音と、血の泡が気管に詰まるゴボゴボという音。


午前1時08分。放送は途絶え、あとには無限に続く平坦なホワイトノイズだけが残された。


外では、駐車場の暗闇の中で、何かがアスファルトの上を走っていた。


そのあとを、また別の何かが走った。


午前1時40分。ヘッドライトを消した一台のセダンが駐車場の入り口でスリップし、モールの北口から五十メートル離れたコンクリート製の花壇に激突して止まった。


運転席のドアが内側から弾かれるように開いた。


明るいベージュのコートを着た女が、アスファルトの上に転がり出てきた。彼女は首筋の片側を両手で必死に押さえていたが、一歩よろめくごとに、指の隙間からどす黒い血が噴き出していた。


女は『レ・アルカーテ』の館内に灯る緑色の非常口誘導灯を見た。


北口の巨大な鉄製シャッターが、まだ上がったままになっているのを見た。


彼女は強化ガラスの自動ドアに向かって走った。食い破られた気管からは声にならない空気の漏れる音しか出なかった。


その背後――プラタナスの木々の影、そして彼女自身が乗ってきた車の後部座席から、四つの人影が飛び出した。


まるで関節の壊れた操り人形のようなギクシャクとした動きで、両腕を前に突き出し、顎(あご)が外れるほど大きく口を開けて、女の背中へと殺到した。


ガラス扉への激突が起きたのは、午前1時43分だった。


だが、二重の防音ガラスに守られた脇の警備室の中で、抗ヒスタミン薬の化学的な泥睡に沈み、耳元でラジオの砂嵐を聞いていたアルトゥーロは、その衝撃音では目を覚まさなかった。


彼が目を覚ましたのは、それから三十一分後のことだった。


彼を起こしたのは、音ではなく「冷気」だった。


* * *

アルトゥーロは、ほぼ完全な暗闇の中でハッと目を見開いた。


足元の電気ストーブはいつの間にか消えており――過熱防止のサーモスタットが作動したのだ――狭い警備室の中の気温は氷点下近くまで下がっていた。


身震いして鼻をすすった、まさにその瞬間だった。彼の肺が内側からギュッと収縮した。


ヒュー……ヒュウ。


静まり返った小部屋の中で、彼の唇から細い笛音が漏れた。


防犯ガラスの下にある書類受け渡し用の細い隙間から、氷のように冷たい隙間風が流れ込んでいた。その風は、外の霧の湿った匂いと一緒に……「別の匂い」を運んできていた。


アルトゥーロが、嫌というほどよく知っている匂いだった。


二十五年間、彼はステンレスの解体台と吊り鉤(フック)、そして冷蔵庫の中で生きてきた。


屠殺(とさつ)したばかりの新しい血の匂い――切り開いたばかりの温かい肉から立ち上る、鉄錆びのような、どこか甘く金属的な匂い――を知っていた。


そして、包丁の切っ先が誤って内臓を傷つけた時に溢れ出す、あの胃液と胆汁が腐りかけた脂と混ざり合う、鼻の奥を突き刺すような吐き気を催す悪臭も知っていた。


隙間から流れ込んでくる空気には、その両方の匂いが混ざっていた。


アルトゥーロは回転椅子の上でゆっくりと背筋を伸ばした。体重で椅子がかすかに軋(きし)む。背中がひどく痛み、口の中はカラカラに乾いて張り付いていた。


彼は頭上の赤いデジタル時計を見上げた。


『02:14』。


「くそっ……」


掠れた声で低く毒づいた。二時間半も眠り込んでしまっていた。シャッターだ!


彼は外側の重量シャッターを下ろす赤いボタンを押そうと、制御パネルに向かって身を乗り出した。


だが、その指先がプラスチックのボタンに触れる直前――彼の視線が警備室の横の窓ガラスを通り抜け、北口メインエントランスのホールへと落ちた。


アルトゥーロの右手が、空中でピタリと止まった。


警備室から十五メートル離れた場所にあるはずの、厚さ十二ミリ・高さ三メートルの強化ガラス製の巨大な自動ドアが、二枚とも消え失せていた。


そこにはただ、外の駐車場の濃い霧へと直接繋がる、巨大な黒い口がぽっかりと開いているだけだった。


宝石店を狙う窃盗団がやるように、ガラスカッターで切り抜かれたわけでも、バールでレールをこじ開けられたわけでもない。


ガラスは『内側に向かって』爆発したように砕け散っていた。


まるで合計三百キロ近い肉の塊が閉まった扉に全速力で激突し、ひび割れたガラスに頭や肩を何度も何度も打ちつけて、枠ごと内側へへし折ったかのように。


『非常口』を示す緑色の不気味な誘導灯の下で、ワックスで磨き上げられたテラゾー(人造大理石)の床は、鋭く尖ったガラスの破片の絨毯(じゅうたん)に覆われていた。


そして、そのガラスの海の真ん中に、幅二メートルほどの黒い水たまりが広がっていた。こぼれたエンジンオイルのようにドロリと濃く、鈍い光を放っている。


アルトゥーロは、心臓が肋骨を内側から強く蹴り上げるのを感じた。


椅子を軋ませないように極限までゆっくりと立ち上がり、汗ばんだ両手のひらをカウンターについて、薄暗いホールに目を凝らした。


アルミサッシの下枠に突き刺さったまま残っているギザギザのガラスの牙に、明るい色の布の切れ端――女性用のウールコートの破片――が引っかかっていた。


その布はどす黒い液体をたっぷりと吸い込み、床のタイルの上に、粘り気のある雫をゆっくりと落としていた。


ポタ……ポタ……ポタ……。


少し離れた場所には、足首のストラップが乱暴に引きちぎられた、ベージュ色のハイヒールが片方だけ転がっていた。


だが、そのコートを着ていたはずの体も、靴の持ち主の姿も、ホールにはどこにもなかった。


入り口近くの巨大な黒い血だまりから、幅五十センチほどの引きずられた跡が伸びていた。


大理石の床の上を必死に這って逃げようとした「誰か」が、足首か髪の毛を掴まれ――タイルの目地に爪を立ててしがみつこうとした、血まみれの十本の指の跡がくっきりと平行に残っていた――そのまま観葉植物の鉢植えの横を通り、真っ暗なショッピングモールの奥深くへと引きずり込まれていたのだ。


そして、その引きずられた血の帯の周囲には、無数の靴跡と、裸足の足跡が重なり合っていた。


何十という黒い足跡。


どれも歩幅がバラバラで、中には足首の骨が完全に折れているのか、一歩ごとにくるぶしの骨を床に擦りつけたような引きずり跡もあった。


足跡はすべて、外の駐車場から館内へと向かっていた。


外へ出て行った足跡は、ただの一つもなかった。


ヒュー……ヒュウ。


アルトゥーロの気管支で鳴る笛音が、一段階高くなった。


砕け散った入り口から流れ込んだ氷のような夜気がホールを満たし、今や彼の肺を冷たい水のように浸して、気管支の平滑筋を急速に収縮させていた。


反射的に咳き込もうとして口元に手をやったが、唇の数ミリ手前でハッと目を見開き、自分の手で口を塞いだ。


この死のような静寂の中で咳をすれば、大理石とガラスでできたこの巨大な共鳴箱のようなモール全体に響き渡り、中央通路の奥の奥まで届いてしまう。


彼は奥歯を強く噛み締め、気管を爪で引っ掻かれるような猛烈なむず痒さを押し殺すために、粘り気のある唾を必死に飲み込んだ。こめかみがドクドクと脈打ち始める。


ヴェントリン(吸入薬)が必要だった。今すぐにだ。


気管支拡張剤がなければ、この冷気とガラスの粉塵、そして恐怖によるアドレナリンのせいで、あと二、三十分のうちに気道はストローの隙間ほどに狭まってしまうだろう。


そうなれば、横隔膜が痙攣(けいれん)するたびに壊れたふいごのような笛音を鳴らしながら、床の上で唇を紫色にして窒息死するしかない。


そして彼の吸入器は、南口警備室にある。あの暗闇の向こう側だ。


わずかに震える指先で、アルトゥーロはカウンターの下に腕を伸ばし、警備室の天井にある蛍光灯のスイッチを切った。


明るい金魚鉢の中の魚のように外から丸見えにならないよう、自分自身を暗闇の中に沈めたのだ。


残された光は、目の前の壁に埋め込まれた八つの小さなブラウン管モニターが放つ青白い光と、横で『ザァァァ……』と小さな砂嵐を鳴らし続ける携帯ラジオだけだった。


アルトゥーロはラジオのつまみを回し、カチリと音がするまで電源を落とした。


ノイズが消えた瞬間、ショッピングモール全体の沈黙が、物理的な重みとなって彼の肩にのしかかってきた。


それは「誰もいない」沈黙ではなかった。


閉め切られた暗い部屋の中で、自分以外の『何か』もまた、すぐそこで息を潜めていると確信した時の沈黙だった。


中央通路の深い暗闇の奥――香水店と婦人服ブティックの角を曲がった向こう側から、音が聞こえた。


遠い。おそらく四十メートルほど先だ。


ズリ……カチッ。ズリ……カチッ。


濡れた靴底がタイルの上を引きずられる音と、何か硬いもの――剥き出しになった骨か、ベルトのバックルのようなもの――がショーウィンドウのガラスにぶつかる乾いた音。


アルトゥーロは息を止め、砕いたガラスを吸い込んだように焼ける胸を押さえながら、右手をゆっくりと腰の38口径リボルバーのグリップへと伸ばし、白黒モニターの最初の画面へと視線を釘付けにした。


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【 警備記録 ―― 第 II 節 / 全 VI 節 】

02時16分 ―― 北口警備室 | 装填弾数:6発 呼吸:喘鳴(ぜんめい)

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九インチのブラウン管モニターは四つずつ二段に並び、焦げた埃とオゾンの匂いがする灰色の鉄枠にはめ込まれていた。


カラー映像ではない。『レ・アルカーテ』のアーケード天井に設置された防犯カメラは九十年代後半の古い代物で、真っ暗な通路を赤外線LEDで照らし出し、ザラついた灰色とコールタールのような黒、そして白濁した乳白色だけの亡霊じみた世界を映し出していた。


アルトゥーロは、息を吐くたびに漏れる細い笛音を殺すために左手で自分の口元を強く押さえながら、丸みを帯びたモニターのガラス面から二十センチの距離まで顔を近づけた。


【モニター1】は、警備室のすぐ外にある北口ホールを真上から映していた。


赤外線の平坦な光の下では、砕け散ったガラスの海に広がる巨大な血だまりは、ぶちまけられた黒いインクの池のように見えた。動くものは何もない。


彼は【モニター2】へと視線を移した。


カメラはアーケードの最初の区画――高級婦人服ブティック『セタ・エ・オンブラ(絹と影)』の湾曲したショーウィンドウの前を斜めに捉えていた。


この六年間、毎晩欠かさず行ってきた巡回のたびに、アルトゥーロはそのショーウィンドウの前を歩いてきた。


あのガラスの向こうに何があるかは、目をつぶっていてもわかる。顔のない白いグラスファイバー製のマネキンが七体、暗い木製の台座の上に半円状に並び、秋物の新作コートを着せられているのだ。


孤独な夜勤の退屈しのぎに生まれた昔からの癖で、彼はそこを通るたびに必ずマネキンの数を数えていた。動かない七つの影。


だが今、【モニター2】の画面の中で、ショーウィンドウの前に立っている人影は『九つ』あった。


アルトゥーロは目を細めた。冷たい脂汗が背中のシャツを肌に張り付かせるのを感じた。


最初の七体のマネキンは、いつもの不自然なポーズのままガラスの内側に直立していた。


だが、三体目と四体目のマネキンの間――通路に面したガラスのすぐ『外側』、アーケードの大理石の床の上に、二つの人影が暗闇の中に立っていた。あまりにもガラスに密着しているため、展示されているマネキンと完全に同化して見えたのだ。


グラスファイバーの人形ではなかった。


赤外線カメラのレンズは、暗闇の中で人間の網膜の奥に不可視光を反射させる。夜の道路で車のヘッドライトに照らされた猫や鹿の目が光るのと同じ現象だ。


暗い通路に立つその二つの人影には、黒く歪んだ顔の中央に、銀貨のように白くギラギラと光る四つの円盤が貼り付いていた。まばたき一つせず、虚空を見据えている。


左側の影――片肩が大きく裂け、そこから白っぽくささくれ立った肉の断片が飛び出しているレインコート姿の背の高い男――は、ブティックのガラスに額を押し当てていた。


そして、わずか二センチほどの振り幅で、ゆっくりと、催眠術のような一定のリズムで頭を前後に揺らしていた。


コツ……コツ……コツ……。


男の額がガラスを軽く叩く音だった。ぶつかるたびに、滑らかなガラスの表面に黒く脂ぎった染みがスタンプのように広がっていく。


その隣に立つもう一つの影は、右側に大きく傾いていた。左の足首が完全に折れているのだ。


スニーカーを履いたままの足先は内側へ九十度ねじ曲がり、破れた靴下から突き出した白い脛骨(すねぼね)の断面が、直接タイルの床に突き刺さるように接地していた。


それなのに、その『何か』は痛がる素振りすら見せず、剥き出しの骨の切り株の上に立ったまま、両腕をだらりと垂らし、大きく開いた口から胸元へと黒い粘液の糸を垂らしていた。


アルトゥーロは震える視線を【モニター4】へと動かした。ここ北口と南口警備室のちょうど中間地点にある『中央広場』を映すカメラだ。


その画面を見た瞬間、彼の喉の奥で息が詰まった。


中央の巨大な防火シャッター――火災時にモールを南北に分断するための分厚い鋼鉄の隔壁――が下りていた。一時間前のパニックの中で、誰かが通路の非常ベルの赤いガラスを割って作動させたに違いない。


だが、シャッターは床まで閉まりきっていなかった。


床から四十センチの高さで引っかかり、止まっていたのだ。


総重量三百キロを超える鋼鉄の板の下に、うつぶせの状態で挟まれた『人間の体』があったからである。


シャッターの重みは、その男の胸郭(きょうかく)を押し潰し、腰のあたりで背骨を完全にへし折って、肉体をグロテスクな『L字型』に折り曲げていた。生きている人間なら即死しているはずの損傷だ。


それなのに、白黒画面の中で、その押し潰された上半身はまだ動いていた。


二本の腕が、大理石の床の上を前へと伸びる。


指先が鉤(かぎ)のように曲がって滑らかなタイルを引っ掻き、自分の血だまりの中で手のひらを空転させて滑り、そしてまた最初から同じ動きを繰り返すのだ。


伸ばす。掻く。滑る。伸ばす。掻く。滑る。


まるで靴底で半分に踏み潰されたゴキブリが、自分が死んだことすら理解できないまま、何時間も前脚だけを動かし続けているかのように。


(中央通路は通れない……!)


アルトゥーロの背筋を、氷の刃のような悪寒が駆け抜けた。


防火シャッターが下り、その下の隙間をあのうごめく肉塊が塞いでいる以上、メインストリートを直進して南口警備室へ行くことは不可能だった。


残されたルートは一つしかない。


この警備室を出てアーケードの最初の五十メートルを進み、あのマネキンのブティックの前を通り抜ける。


そしてマスターキーを使って大型スーパーマーケット(イペルメルカート)の側面にある鉄扉を開け、真っ暗な売り場の棚の間を抜け、奥の精肉コーナーと冷蔵庫エリアを通って、南口警備室へと続く裏の荷捌き通路に出るのだ。


彼の目は【モニター5】へと滑った。館内薬局の前と、スーパーマーケットの通用口が交差する角を映す画面だ。


画面の中央、床の上に黄色い清掃用カートが横転していた。バケツの石鹸水がタイル一面に広がり、モップの柄が真っ二つに折れている。


そのカートのすぐ横に、誰かがぺたりと膝をついて座り込んでいた。


アルトゥーロは、背中に『プリサービス』と印刷された水色の作業着を一目で認識した。そして、スポンジの髪ゴムで束ねられた長い栗色のポニーテールも。


エレナだった。


まだ二十二歳の娘だ。昼間は看護学校に通い、家賃を払うために毎晩十一時半までこのモールの床を磨いていた。


たった四時間前――十時十五分前に、アルトゥーロはスーパーのレジ近くで彼女と立ち話をしたばかりだった。「手が冷たい」と笑う彼女に、自分の魔法瓶から熱いコーヒーを紙コップ半分に分けてやり、「寝る前に解剖学のテキストを一章分暗記しなきゃいけないんです」と話すのを聞いてやったのだ。


今、エレナは汚れた石鹸水と黒い血が混ざり合った水たまりの真ん中に膝をついていた。


彼女の頭は、もう首の上に真っ直ぐ乗っていなかった。


まるで首の骨を噛み砕かれたかのように、不自然な角度で左側にガクリと折れ曲がり、左耳が鎖骨の上にべったりと張り付いている。


少女がゆっくりと顎を持ち上げた時、赤外線ライトが彼女の顔の「残された部分」を照らし出した。


右の頬が、口角から頬骨に至るまでごっそりと消え失せていた。


黒ずんだ肉の裂け目からは、白い上下の歯列と剥き出しの歯茎が、彼女がリュックに入れていた解剖学の教科書の挿絵のようにくっきりと覗いていた。


エレナは泣いてはいなかった。うめき声すら上げていなかった。


膝の前の床に両手をつき、折れた爪でタイルの目地を規則正しくカリカリと引っ掻きながら、冷たい空気の中の匂いを嗅ぎ取る猟犬のように、肩を小刻みに、不規則に上下させていた。


ヒュー……ヒュウ……カハッ。


アルトゥーロの胸が、突発的な痙攣(けいれん)を起こした。


変わり果てたエレナの姿を見たショックと、部屋の冷気が、彼の気管支をさらに強く締め上げた。


息が吐き出せない。胸骨の上にコンクリートのブロックを二つ乗せられたような感覚だった。短く鋭い空気をかろうじて吸い込むことはできても、吐き出そうとすると古い空気が肺の中に閉じ込められたまま膨れ上がり、首筋と腹の筋肉を必死に絞らなければ息が抜けなかった。


警備室の壁に寄りかかろうとして一歩後ろへ下がった瞬間――彼の安全靴の硬い靴底が、リノリウムの床に落ちていた小さなプラスチックの破片を踏み潰した。


パキッ。


ごく小さな音だった。指を鳴らす音よりも小さい。


だが、警備室の防犯ガラスの下にある書類受け渡し口は開いたままで、外のホールと直接繋がっていた。


四十メートル離れた場所を映す【モニター5】の中で、床を引っ掻いていたエレナの両手がピタリと止まった。


肩の上に折れ曲がったままの彼女の頭が、猛禽類のような機械的な素早さで、ギョロリとカメラのレンズの方へ回った。


だが、問題はエレナではなかった。


それと全く同じ瞬間、モニターの下の死角――カメラの映らない、アルトゥーロがいる警備室の外壁からわずか二メートル以内の暗闇の中で――『何か』が動いたのだ。


コツ、ペチャ。コツ、ペチャ。


片足に履いたハイヒールの硬い音と、もう片方の剥き出しの濡れた肉が床を叩く、左右非対称の足音。


アルトゥーロは鍵保管庫の鉄扉に背中を張り付かせたまま凍りついた。耳の奥で自分の脈拍が太鼓のように鳴り響き、他のすべての音をかき消してしまいそうだった。


警備室の横の暗がりから、一つの影がぬっと現れた。


あのベージュのコートの女だった。外の駐車場で車を激突させ、午前1時43分に正面入り口から引きずり込まれた女だ。


もうコートは着ていなかった――シルクのブラウスの大半と肩の皮膚ごと引き剥がされていた――そして、死んではいなかった。


いや、正確には少なくとも三十分前に失血死していたはずだが、その死体は建物内に残された唯一の「生きた人間」の匂いを辿り、入り口へと引き返してきていたのだ。


彼女の首の左側には、男の拳が入るほどの黒いクレーターがぽっかりと開いていた。胸鎖乳突筋も、頸動脈も、そして気管の半分もが、歯で食い千切られて消え失せていた。


女は、アルトゥーロの警備室の正面ガラスのすぐ前に立ち止まった。


警備員の顔と、死人の顔の間には、わずか三十センチの空気と一枚の防犯ガラスしかなかった。


暗闇の中で、照明を落とした警備室の黒いガラスの向こう側までは女には見えていないようだったが、今の『パキッ』という床の音を聞きつけ……何より、下の書類受け渡し口から漏れ出てくる、二酸化炭素とアルトゥーロの体臭を含んだ生温かい空気の流れを確実に嗅ぎ取っていた。


ドンッ!


女が顔面をガラスに叩きつけた。


アルトゥーロは全身を激しく震わせ、反射的に拳銃を抜いて撃ってしまわないよう、左手で自分の右手首を強く掴んで抑え込んだ。


アルミの枠の中で、分厚いガラスがビリビリと震えた。


彼の鼻先からわずか数十センチの場所で、八つのブラウン管モニターが放つ鈍い灰色の光に横から照らされながら、女の顔がガラスに押し潰されていた。


折れた鼻が平らに潰れ、どす黒い血の塊がこびりついた歯茎を剥き出しにした青紫色の唇が、ガラスの表面に黒い唾液と胆汁の混ざった粘着質の跡を塗りたくっている。


女の両目は見開かれていた。


その角膜はすでに、アルトゥーロが食肉解体場で何千回と見てきたあの色――解体から一日経ち、冷蔵庫のフックに吊るされた仔牛の頭部の目が帯びる、白濁した青灰色の膜――に覆われていた。


その目には怒りもなかった。苦痛もなかった。ただ、神経の反射だけで動く盲目的で機械的な『飢え』だけがあった。


そして、「音」が鳴った。


女は滑らかなガラスに噛みつこうとして口を開閉させた――カチ、カチ、と前歯がガラスを叩く乾いた音がした――だが、うめき声を上げようとした時、その口からは何の音も出なかった。


音は、首に開いた穴から出た。


半分に千切れた気管の断面から、黒い泡を吹き出しながら、洞窟の奥で水が湧き出るような悍(おぞ)ましい音が噴き出したのだ。


ゴボ、ジュワッ……フシュゥゥ――ゴボッ。


引き裂かれた喉から直接吹き出す腐った空気の笛音が、書類受け渡し口のすぐ前で鳴り響き、凝固した血と冷たい肉の耐え難い悪臭が狭い警備室の中へと一気に流れ込んできた。


死んだ女は、両手のひらと額を、何度も何度もガラスに打ちつけ始めた。


ドン。ドン。ドン。


素手でこの防犯ガラスを割ることはできない。それはアルトゥーロにもわかっていた。


だが、静まり返った深夜のモールに響くその鈍い打撃音は、警備室の金属フレーム全体を太鼓のように共鳴させていた。


彼は【モニター2】を見た。


ブティック『セタ・エ・オンブラ』の前で、マネキンの間に立っていた二つの影が揺れるのを止めていた。


二つとも、ガラスを叩く音に引き寄せられて頭を北口の方へと向けており、脛(すね)の骨が飛び出した方の影が、ちょうど警備室に向かって最初の一歩を踏み出したところだった。剥き出しの骨が大理石の床を削る音が、画面越しにも聞こえるようだった。


ギギギ……カツン。


あと三十秒以内にここから出なければ、逃げ場のないブリキの箱の中に完全に包囲される。ガラスの向こうからあの化物たちに覗き込まれながら、床の上で窒息して死ぬことになるのだ。


アルトゥーロは、残された時間が数分しかないことを悟った人間の、氷のような冷静さで動いた。


ガラスに押し潰された女の顔から目を逸らさないまま、開いた鍵保管庫へと手を伸ばす。


モールのマスターキーの束――鋼鉄のリングに通された十二本の真鍮(しんちゅう)の鍵――を取り上げると、歩くたびにジャラジャラと鳴るベルトのカラビナには掛けず、金属の刃を左手の指の間に一本ずつ挟み込んで、絶対に音が鳴らないよう拳の中に強く握りしめた。


次に、ベルトからアルミ製の懐中電灯を外し、スイッチは入れないままズボンの横ポケットに滑り込ませた。


最後に、親指でホルスターの硬い革ストラップを弾いて外し、38口径リボルバーのグリップをいつでも抜ける状態にした。


(六発だ……)


鉄のヤスリで胸の内側を削られるような肺の笛音を感じながら、彼は頭の中で繰り返した。


(だが、この館内で一発でも撃てば、俺は終わる)


警備室の出入り口は、女が額を打ちつけ、裂けた喉から黒い泡を撒き散らしている正面ガラスとは反対側の『背面パネル』にあった。コンクリート製の花壇の裏手にある、館内側の小さな暗がりへと直接繋がっている扉だ。


アルトゥーロは右手で冷たいドアノブを掴んだ。


金属のラッチが錠前の中でカチリとも音を立てないよう、息が詰まるような五秒間をかけて、一ミリずつレバーを押し下げた。


扉を手前に引く。先月、彼自身がグリスを塗っておいた蝶番(ちょうつがい)は、完璧な無音で回転した。


氷のような夜気の塊が、彼の顔面を撫でた。


アルトゥーロは唇を固く結び、気管の奥で鳴る喘息の笛音を封じ込めるために奥歯を噛み締めると、警備室から滑り出し、ショッピングモールの深い暗闇の中へと足を踏み入れた。


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【 警備記録 ―― 第 III 節 / 全 VI 節 】

02時19分 ―― 北側アーケード / 大型スーパー通用口 | 装填弾数:6発 | 呼吸:気管支痙攣(初期)

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警備室の外の空気は、ただ冷たいだけではなかった。


何世紀も閉ざされていた地下納骨堂の空気のように重く淀み、脂ぎっていて、そこに砕け散った北口のガラス扉から流れ込む氷のような隙間風が、不規則な渦を巻いて入り混じっていた。


アルトゥーロは背後の金属扉を、ラッチが錠前に落ちてカチリと鳴らないよう、ゴムのパッキンに軽く触れるだけの位置までそっと戻した。


彼が立っていたのは、警備室の背面パネルと、打ちっぱなしのコンクリートで作られた巨大な長方形のプランターの間にある、幅わずか一メートルほどの暗い隙間だった。プランターには人工のフィカス(ゴムの木)が三本植えられており、プラスチックの葉の上には灰色の埃がうっすらと積もっている。


薄い鉄板一枚を隔てた向こう側――彼から二メートル半も離れていない場所では、喉を食い破られた女がまだ正面ガラスに頭を打ちつけていた。


ドチャ……グチュ。ドチャ……グチュ。


二重の防音ガラスというフィルターを通さずに生で聞くその音は、吐き気を催すほど生々しかった。


指の関節で窓をノックするような乾いた音ではない。死んだ肉の塊が硬い表面に叩きつけられて潰れる、重く湿った水音だ。


それに混じって、折れた鼻の軟骨がひしゃげるミシッという音と、胸郭が後ろへ跳ね返るたびに首のクレーターから噴き出す、あのゴボゴボという泡混じりの笛音がすぐ耳元で響いていた。


アルトゥーロはプラスチックの葉の隙間から、ほんの一センチだけ顔を覗かせた。


北側アーケードのメイン通路が、非常灯の病的な緑色の薄闇の中に伸びていた。閉まった店舗のひし形格子のシャッターに挟まれた、幅八メートルの磨かれた大理石のトンネルだ。


三十メートル先、ブティック『セタ・エ・オンブラ』の湾曲したショーウィンドウの前で、【モニター2】に映っていた二つの影がガラスから離れていた。


警備室のガラスを叩く女の音に引き寄せられ、こちらに向かって歩いてきている。


二つの影は、消えた天窓の下、通路のど真ん中を進んでいた。


裂けたレインコートを着た背の高い男は、死後硬直が始まりかけているのか、両膝がほとんど曲がらない状態で、骨盤を機械的に揺らしながら足を前へと放り出すように歩いていた。


一歩ごとに頭が左右にぐらりと揺れ、大きく抉(えぐ)れた左肩からは、灰色に変色した三角筋の肉の帯がぶら下がり、濡れたネクタイのように胸元をペチペチと叩いている。


その隣を、足首の折れた若い男が歩いていた。


モニター越しではなく肉眼でその動きを見た瞬間、アルトゥーロはシャツの下で腕の毛が逆立つのを感じた。


左足に体重がかかるたび、内側に九十度ねじれた足首が完全に横へと潰れ、黒ずんだ皮膚と血まみれの靴下を突き破って五センチほど飛び出した白い脛骨(すねぼね)の断面が、直接床の人造大理石に突き刺さるのだ。そして、耳を劈(つんざ)くような摩擦音を立てて前へと滑り、また持ち上がる。


ガツッ、ギギギ……。一歩。ガツッ、ギギギ……。一歩。


その背後には、白っぽい大理石の床の上に、黄色い骨髄の脂とどす黒い血が混ざった断続的な線が引かれていた。


二体がホールの入り口に到達するまで、残り十五秒もない。


もしそれまでに動かなければ、彼らと警備室の前の女との間で完全に挟み撃ちにされる。


アルトゥーロはすぼめた鼻孔からゆっくりと息を吸い込んだ。煤(すす)で詰まったオルガンのパイプのように気管支がヒューと鳴るのを感じながら、プランターの影から滑り出し、ブティックとは反対側の右手の壁に背中を張り付かせた。


膝を深く曲げ、まずは安全靴のかかとの外側をそっと床につけ、次に足の裏全体を下ろす。九十キロの体重を乗せる前に、暗闇の床にガラスの破片が落ちていないか足裏の感覚で確かめるためだ。


左の拳は、真鍮の歯が手のひらの皮に食い込むほど強くマスターキーの束を握りしめ、右手はストラップを外したホルスターの中の38口径のグリップに軽く触れていた。


十メートル。十五メートル。


通路の中央を歩いてくる二体の死人と、壁際を這う彼との距離が急速に縮まっていく。


彼らとの距離が残り八メートルになった時、アルトゥーロは自分が背中を滑らせている平らな壁が、『ヴァレンティ時計店』の太い構造柱で途切れていることに気づいた。奴らが目の前を通り過ぎる前に、店の前を横切る時間はもうない。


彼は時計店の小さな入り口の窪み――奥行きわずか八十センチ、奥が細かい網目の鉄格子シャッターで閉ざされたアルコーブ――に背中から身を押し込み、全身の筋肉を石のように硬直させた。


背後の鉄格子の向こう側、真っ暗な時計店の店内では、三十個近い振り子時計や掛け時計が、それぞれバラバラのタイミングで時を刻んでいた。


チクタク、チク、チック、タック、コチ……。


木の箱の中に何百匹もの昆虫を閉じ込めたような、乾いた機械音の群れ。それは音響的な奇跡となって、アルトゥーロの喉の奥に閉じ込められた細い喘鳴(ぜんめい)を完璧にかき消してくれた。


二体の死人が、柱のすぐ横までやって来た。


アルトゥーロの安全靴のつま先から、二メートル半も離れていない場所を通り過ぎていく。


アルトゥーロは目を閉じなかった――視線を切る勇気はなかった――だが、自分の額や白目が非常口の緑色の光を反射しないよう、顎を強く胸に引きつけた。


二つの影が視界に入る一瞬早く、『臭い』が彼を襲った。


警備室で嗅いだ血の匂いだけではなかった。


レインコートの男は、ズボンのベルトの下あたりで腹が大きく裂けていた。破れたシャツの隙間から、白っぽく膨張した小腸のループが外に飛び出し、歩くたびに太ももにぶつかって揺れている。そこから、密閉された通路の中に、酸っぱく濃厚な糞便と腐敗した内臓の悪臭が撒き散らされていたのだ。アルトゥーロの胃が激しく痙攣した。


気管の途中で、呼吸が完全に止まった。


腐った屠殺場のようなその悪臭を吸い込んだ瞬間、彼の細気管支が激しい拒絶反応を起こした。気道の内壁が一気に腫れ上がり、粘り気のある濃い粘液が分泌されて、空気の通り道を塞いだのだ。


溶けた鉛を喉から流し込まれたように肺が焼けた。


首筋の血管が浮き上がって耳の奥がドクドクと脈打ち、視界の端に無数の白い火花と黒い斑点がちらつき始める。


(息をするな……!)


右手の指でズボンの生地を爪が剥がれそうなほど強く握りしめながら、彼は自分に命じた。


(あと三秒だ。あと三秒だけ耐えろ……!)


ガツッ、ギギギ……。一歩。ガツッ、ギギギ……。


脛の骨が飛び出した若い男は、時計店の窪みを見向きもせず通り過ぎた。白濁した目はまっすぐ北口ホール――女がまだ警備室のガラスを『ドン……ドン……』と叩いている方角――に向けられている。


だが、レインコートを着た男が、大理石の柱の真ん前に差し掛かった時、その足取りが遅くなった。


硬直した足が、ピタリと止まった。


だらりと垂れていた頭が、不自然な速さで左へと――アルトゥーロがシャッターに張り付いている暗がりへと――ギョロリと回った。


緑がかった薄闇の中で、アルトゥーロは二メートル足らずの距離からその顔と向き合うことになった。


四十代くらいの男だった。片耳だけに引っかかった眼鏡が斜めに傾き、片方のレンズは割れ、もう片方は黒い血しぶきで塗り潰されている。下唇の半分が食いちぎられて消えており、剥き出しになった下の前歯には、黒い布か皮膚の繊維のようなものが絡みついていた。


『それ』は顎をわずかに持ち上げ、血の塊で詰まった鼻を鳴らして、短く湿った音で二回、空気を嗅いだ。


フゴッ、ズルル……。フゴッ、ズルル……。


アルトゥーロの胸は、酸素を求めて今にも破裂しそうだった。


横隔膜が意思に反して肋骨の内側で暴れ、二酸化炭素を咳とともに吐き出そうと悲鳴を上げている。声門が開く反射を無理やりねじ伏せるため、アルトゥーロは自分の左頬の内側の肉に奥歯を突き立て、ありったけの力で顎を噛み締めた。


ブチッ、と粘膜が裂ける感触がした。温かく塩辛い、鉄の味を帯びた血が口いっぱいに広がる。


鋭い痛みが一瞬だけ喉の神経を麻痺させ、咳の痙攣を押し止めた。


まさにその時だった。


北口ホールの方で、喉の裂けた女が警備室の外に置かれていた金属製のチラシ用スタンドに腰をぶつけ、ガラスの破片が散らばるタイルの上に派手になぎ倒したのだ。


ガシャアアアンッ!


眼鏡の男の頭が、弾かれたように北口ホールへと向いた。時計店の暗がりのことなど、もう完全に忘れている。


喉の奥で低く濁った水音を鳴らすと、死人は足を引きずる仲間の後を追って再び硬直した歩みで歩き出し、柱の向こう側、無人の警備室の方へと消えていった。


アルトゥーロは噛み締めていた頬の肉を放し、唇をほんの一ミリだけ開いた。


そして、口元に必死に押し当てた綿のハンカチをフィルターにして、肺に閉じ込められていた空気を、長く震える吐息として少しずつ逃がした。


フゥゥゥゥゥ……。


視界がぐらりと揺れた。低酸素症のせいで、両膝が水のように頼りなく震えていたが、立ち止まるわけにはいかなかった。


アドレナリンの効果が切れ始め、気管支痙攣が急性期に入りつつあった。息を吸うたび、肺の下葉の奥から、丸めたアルミホイルを擦り合わせるような湿ったラ音(断続性ラ音)がはっきりと聞こえてくる。


気管支が完全に閉塞するまで、残り十五分もない。


彼は時計店のシャッターから背中を剥がし、北側アーケードの最後の二十メートルを進んだ。通路が直角に折れ曲がり、大型スーパーマーケットの通用口と『サン・ジョルジョ薬局』のショーウィンドウへと続く角だ。


角の頭上に突き出すように設置された薬局の『緑の十字架』のネオン看板は、変圧器が壊れていた。


点灯しっぱなしになるのではなく、二秒おきに低い電気ノイズ――ジジジ……パッ、ジジジ……パッ――を鳴らしながらゆっくりと明滅し、床を鮮やかなエメラルドグリーンの光で照らし出しては、また完全な暗闇へと突き落としていた。


緑の光。暗闇。緑の光。暗闇。


アルトゥーロは壁の角からそっと顔を出し、下を見た。


彼から五メートル先に、灰色に塗装された大型スーパーの分厚い鉄製防火扉があった。『関係者以外立入禁止』のプレートが貼られている。


そして、その扉のすぐ前――彼が鍵を差し込まなければならない鍵穴から二メートルと離れていない場所に――エレナがいた。


ザラついた赤外線モニター越しではなく、間欠的に点滅するエメラルドグリーンの光の中で直接見る彼女の姿は、比較にならないほど悍(おぞ)ましかった。


二十二歳の少女は、横転した『プリサービス』の清掃カートのバケツが作った広い水たまりの真ん中に、まだ膝をついて座り込んでいた。


レモン風味の漂白剤の鼻を刺すような化学臭が、水色の作業着を腰までぐっしょりと濡らしている黒い血の甘ったるい悪臭と混ざり合い、吐き気を催す空気を作っている。


頸椎(けいつい)の折れた彼女の頭は、糸の切れた操り人形のように左肩の上にだらりと垂れ下がり、長い栗色のポニーテールの毛先が床の血混じりの水に浸かっていた。


だが、彼女の両手は止まってはいなかった。


死んだ少女の脳の片隅に、襲われる直前に行っていた最後の行動の断片が、壊れたレコードのように引っかかっていたのだ。


彼女は右手にボロボロに裂けたマイクロファイバーの雑巾を握りしめたまま、ゆっくりとした、憑りつかれたような無意味な円運動で、自分の膝の前の全く同じ大理石のタイルを何度も何度も拭き続けていた。凝固した血と洗剤の泡のドロドロの膜を、ただ塗り広げているだけだった。


グチュ、グチュ……ザリッ。グチュ、グチュ……ザリッ。


彼女の右腕が前に動くたび、折れた首が鎖骨の上で受動的に揺れ、骨まで食い破られた右頬の裂け目から覗く上下の歯が、空中でカチ、カチと噛み合わさった。


アルトゥーロはスーパーの灰色の扉を見つめた。


このままでは近づけない。あの防火扉を開けるには、4番の鍵を鍵穴に差し込み、ハンマーで鉄を叩くような重い音がする鋼鉄のデッドボルトを二回転させ、重い扉を手前に引かなければならないのだ。


二メートル先にエレナがいる状態でそんなことをすれば、鍵を一回転させる前に喉笛に噛みつかれる。


彼女をあそこから引き離さなければならなかった。


それも、彼女を交差点の反対側へおびき寄せるには十分な大きさでありながら、四十メートル後方の北口警備室の前でまだうろついている三体の死人を呼び戻さない程度に小さな音で。


アルトゥーロは自分のポケットに視線を落とした。


左手は鍵の束を握っている。ズボンの右ポケットに二本の指を滑り込ませた。アルミ製の懐中電灯がある――重すぎる。大理石の床に投げれば凄まじい音が響いてしまう――そしてその横に、あの使い切った古い吸入器の青いプラスチックの筒があった。


重さは二十グラム足らず。中空のプラスチックと軽いアルミの缶だ。


アルトゥーロは空の吸入器を取り出した。


壁の角の後ろにしゃがみ込み、薬局の緑の十字架が消えて交差点が暗闇に沈む瞬間を待った。


そして、計算し尽くした手首のスナップで、スーパーの扉から八メートル離れた薬局の閉まったシャッターの前の暗い窪みへと向かって、乾いた床の上にプラスチックの筒を転がした。


コツ、コツ、コロコロコロ……カチャン。


プラスチックの筒はタイルの上で軽く鈍い音を立てて二回跳ね、薬局のショーウィンドウの真鍮製の巾木(はばき)にぶつかって止まった。


漂白剤の水たまりの中で、エレナの右腕が円の途中でピタリと止まった。


血まみれの雑巾が、彼女の指先から滑り落ちる。


緑の十字架が再び点灯した。ジジジ……パッ。


エメラルド色の光の中で、アルトゥーロは少女が折れた首を戻さないまま上半身を起こすのを見た。


彼女は立ち上がらなかった。


濡れた床の上に両手のひらと両足を突き、まるで巨大な蜘蛛(くも)のような不自然で猛烈な速さで、四つん這いのまま薬局のショーウィンドウへと飛び出したのだ。跳ねるたびに横に折れた頭が肩に激しく打ちつけられ、裂けた口が青いプラスチックの筒の上の空気を噛み砕いた。


(今だ!)


アルトゥーロは走らなかった――走ればその瞬間に肺が完全に閉じてしまう――だが、大股で音のない三歩で角から滑り出し、足跡を残したり滑ったりしないよう石鹸水の水たまりの縁を大きく迂回した。


スーパーの灰色の鉄扉に辿り着く。


酸素欠乏のせいで指先が激しく震えていたため、背中に二つの切り込みが入った『4番の鍵』の先端を鍵穴に導くのに、右手の親指を添えなければならなかった。


八メートル離れた薬局の前では、エレナが剥き出しの右顎の歯で空の吸入器に噛みつき、プラスチックを噛み潰していた。


その冷たい物体が生きた肉ではないことに気づき、少女は裂けた口からボンベを吐き出した。


アルトゥーロは鍵穴の中で鍵を回した。内部のバネの音を少しでも殺すため、腕の体重をすべてドアノブに乗せて押さえつけながら回す。


一回転目。カチャリ。


八メートル先、緑の十字架の点滅の合間の暗闇の中で、四つん這いのエレナの体がピタリと凍りついた。


二回転目。ガチャン。


薬局の緑の十字架が再びパッと灯った時、エレナはすでに百八十度向きを変えていた。


彼女の目――たった四時間前、温かいコーヒーの入った紙コップ越しに彼に向かって微笑んでいた、あの栗色の瞳。今は灰色の濁った膜に覆われ、焦点の合わないその目――が、アルトゥーロの背中をまっすぐに射抜いていた。


直角に折れ曲がった少女の喉から、罠にかかった野兎(のうさぎ)の悲鳴のような、甲高く詰まった空気の音が漏れ、濡れたタイルの上で彼女の両脚が弾かれたように縮んで、彼に向かって一直線に飛びかかった。


アルトゥーロは重い鉄扉をわずか四十センチ――自分の肩幅が通るだけの隙間――だけ引き開けると、大型スーパーの内部通路の完全な暗闇の中へと身を投げ出し、体に残された最後の力を振り絞って鋼鉄のハンドルを手前に引き、内側のカンヌキを回した。


鋼鉄のデッドボルトが枠の受け口に収まった、わずかコンマ一秒後――五十キロのエレナの肉体が、全速力で防音鉄扉の外側に激突した。


ドゴォォォンッ!


分厚い鋼板が、大槌で殴られた鐘のようにアルトゥーロの背中で激しく震えた。


直後、爪の音が始まった。折れた十本の指が鉄の向こう側で灰色の塗装を狂ったように引っ掻く音――ギギギッ、ガリガリガリッ――と、裂けた頬から剥き出しになった歯が外側のドアノブに噛みつく乾いた金属音。


だが、アーケードと大型スーパーの広大な売り場の緩衝地帯となっているこの鉄筋コンクリートの前室は、防火パッキンによって完全に密閉されていた。


そして、エレナの体当たりで震える鉄扉に背中を預けたその完全な暗闇の中で、ついにアルトゥーロの肉体が限界を迎えた。


時計店の前からずっと押し殺してきた痙攣が、肺の底から止めようのない暴力となってせり上がってきたのだ。


アルトゥーロは黒いゴム張りの床の上に両膝から崩れ落ち、ベルトから腕を離すと、自分の肘の内側の折り目に口と鼻を深く埋め――シャツと保温肌着の三枚の布地を唇に強く押し当てて――盲目的で激しい、押し殺した咳の発作に全身を揺らした。


ゴホッ、グフッ! ゴホッ、グフッ!


一回咳き込むごとに、焼けたペンチで肋間筋を引き千切られるような激痛が走った。


気管支を塞ぐ粘液の栓を吐き出そうとして胸郭が空しく収縮し、わずかな空気すら入ってこなくなる。こめかみが破裂しそうに膨れ上がり、舌の奥に血と鉄の濃い味が広がった。


彼は一分近くの間、冷たい床に額を押しつけて丸くなっていた。やがて激しい痙攣は、鎖骨の下でチリチリと震える細く途切れないラ音へと変わっていった。


ようやく暗闇の中で頭を持ち上げ、咳の苦しさで勝手に溢れ出た涙を手の甲で拭ったアルトゥーロは、正面を見た。


大型スーパーの広大な売り場へと繋がる、ゴム製の両開きスイングドアがわずかに開いていた。


その向こうには窓一つない。


五千平方メートルに及ぶ通路と、高さ三メートルの陳列棚、そして冷蔵ケースが、コールタールのように真っ黒な闇に沈んでいた。遠くにポツ、ポツと浮かんでいるのは、バッテリー駆動に切り替わった電子ばかり(計量器)の小さな赤いLEDランプだけだ。


冷却設備の電源は、電力負荷の遮断によって少なくとも二時間前に落ちていた。


それなのに、その暗い迷宮の一番奥――南口警備室へ抜ける通用口に辿り着くためにどうしても通らなければならない、ステンレス製の長いカウンターが並ぶ『精肉コーナー』の方角――から、二十五年間同じ仕事をしてきた彼には絶対に聞き間違えようのない、重く規則正しい音が静寂を裂いて響いてきていた。


ドスッ……バキィ。ドスッ……バキィ。


重さ二キロの骨割り包丁(クリーバー)がシデ材のまな板に振り下ろされる鈍い音と、それに続く、生の太い骨が真っ二つに砕ける湿った音だった。


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【 警備記録 ―― 第 IV 節 / 全 VI 節 】

02時27分 ―― 大型スーパー / 精肉コーナー | 装填弾数:6発 | 呼吸:急性呼吸不全

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大型スーパーマーケットの売り場へと続く黒いゴム製の両開きスイングドアには、中央にフォークリフトが擦った傷だらけの縦長のプラスチック窓がついていた。


アルトゥーロは左手でドア枠にしがみつきながら立ち上がった。制服のズボンの下で両脚が小刻みに震えている。彼は汗に濡れた額を透明なプラスチック窓に押し当て、その向こう側を覗き込んだ。


漆黒の闇だった。


深夜の主電源が落とされた後の巨大スーパーに足を踏み入れたことがない人間には、その闇がどれほど濃密か想像もつかないだろう。


幅八十メートル、奥行き六十メートルの窓一つないプレハブコンクリートの巨大な密室。そこに高さ三メートルの金属製の陳列棚が十四列も並び、あらゆる光の反射を飲み込んでいるのだ。


だが、暗闇よりも酷いのは『臭い』だった。


午前零時半、火災報知器の作動による過負荷で制御盤が冷蔵ケースのコンプレッサーを自動停止させてから、総延長三百メートルに及ぶオープンケース――乳製品、溶けかけた氷の上の鮮魚、パック詰めされた鶏肉、挽き肉のトレイ――の温度が、暗闇の中でじわじわと上がり始めていた。


淀んだ売り場の空気は、生温かい魚の塩水と動物性の脂が腐り始める、甘ったるくアンモニア臭い悪臭で飽和していた。


そして、その全体の悪臭のさらに下に、もう一つ別の、もっと新しくて重い匂いが混じっていた。第8通路の奥から漂ってくる匂いだ。


ドスッ……バキィ。


ドスッ……バキィ。


四秒間の沈黙。


幅広の刃の腹を木の表面に滑らせて、砕けた破片をかき集める音――ザリィッ、グチュ――そして再び、真上から振り下ろされる打撃音。


ドスッ……バキィ。


アルトゥーロは、自分の骨の髄までその音を知り尽くしていた。


どんな道具がその鈍い音を立てているのかも、正確にわかっていた。


家庭用の軽い肉切り包丁ではない。重さ二キロ二百グラムの角背の『骨割り包丁(スパッカトゥット)』だ。三つの真鍮(しんちゅう)のリベットで留められた黒い角製の柄を持ち、精肉コーナーのメインのまな板の上にある磁石ホルダーにいつも吊るされている、あの巨大な刃物だ。


そして、このショッピングモール全体でただ一人、シデ材の分厚いまな板の上で刃を跳ね返らせることもなく、メトロノームのように正確なリズムで一撃のもとに太い管骨(かんこつ)を叩き割れるほど重い手首を持った男が誰なのかも、彼は知っていた。


チェーザレ。


遅番の精肉チーフだ。五十八歳。牛脂(ヘット)の染みがついた白い白衣の下に百十五キロの太鼓腹と牡牛のような肩を持ち、灰色の剛毛に覆われた生ハムのように太い二本の前腕をした大男である。


アルトゥーロとチェーザレは、二人がこの郊外のショッピングモールでそれぞれの第二の人生――チェーザレは精肉カウンターの奥で、アルトゥーロは灰色の警備服を着て――を始める前、市営の古い屠殺(とさつ)場で十二年間、肩を並べて働いた仲だった。


金曜日の夜、チェーザレはいつも週末の特売に出す若い雌牛の後ろ四半身を骨抜き(脱骨)するため、夜十一時過ぎまで奥の加工場に残っていた。


(正面入り口が破られた時、あいつはまだ中に残っていたんだ……)


アルトゥーロは首筋を冷たい汗が伝うのを感じながら、ゴム製の扉をそっと二十センチだけ押し開け、売り場の暗闇の中へと滑り込んだ。


だが、チェーザレが今解体しているのは、牛の後ろ脚ではなかった。


まともな神経をした肉屋なら、午前二時半の真っ暗闇の中で仕事などしない。


何より、骨割り包丁を使って、二十分間もずっと『全く同じ場所』に刃を振り下ろし続け、骨をドロドロの破片になるまで叩き潰し続ける肉屋などいないのだ。


アルトゥーロは左側の外周通路に沿って進んだ。懐中電灯をつけずに暗闇の中で方向を保つため、左手の指先を電源の落ちた冷凍ケースの冷たい縁に軽く触れさせながら歩く。


彼の呼吸はもはや、焼けるように熱い極細の糸のようになっていた。


ヒュー……ヒュウ……カハッ。


肺の下半分は粘液と気管支の痙攣によって完全に塞がり、音が消えていた。鎖骨のすぐ下にある肺尖(はいせん)部だけでかろうじて浅い息を繰り返しており、顎まで水に浸かって溺れかけている人間のように、息を吸うたびに両肩が大きく持ち上がる。


暗闇の中に、光る小さな虫の群れのようなものが左から右へと飛び交うのが見えた。脳が酸素欠乏を起こし始めている初期症状だった。


売り場の一番奥にある精肉コーナーまで辿り着き、チェーザレが包丁を振り下ろしているまな板の『後ろ』を通って加工場の中へ入り、冷蔵庫の前の通路を抜けて、南口警備室へと直結する非常扉を開けなければならない。


全部で百二十メートル。


第3通路(ビスケット・小麦粉売り場)を通り過ぎた。


第5通路(缶詰・保存食売り場)を通り過ぎた。


第6通路――ペットフードと洗剤の売り場――の横に差し掛かった時、彼の安全靴の下の床の感触が突然変わった。


ゴムの靴底が踏んだのは乾いたタイルではなく、何かザラザラして湿った、踏むと小さく砕けるものだった。引き裂かれた十五キロ入りの大袋からぶちまけられたドッグフードの粒が、ドロリと粘り気のある液体と混ざり合っていたのだ。


第6通路の棚と棚の間の深い闇の奥――彼の右手から四メートルと離れていない場所――から、音が聞こえた。


店の奥から響いてくるチェーザレの包丁の音ではない。別の音だ。すぐ近くにある。


ジュルッ、ガリガリ……グチュ。ジュルッ、ガリッ。


ザラついた舌と歯が、割れたプラスチックトレイの底を擦り取る湿った音。それに続いて、液体が詰まったような短く濁った呼吸音。


アルトゥーロはチーズ売り場の冷蔵ケースの金属側面にピタリと張り付いて静止した。


第6通路の棚の間の黒いトンネルに目を凝らす。通路の中央に取り付けられた価格確認用のバーコードリーダーが放つ、小さな赤い光以外は何も見えなかった。


その血のように赤い小さな光の下、引き裂かれたペットフードの袋の真ん中に、獲物に覆いかぶさる野良犬のように二つ折りにうずくまっている人間の姿があった。


スーパーのロゴが入った赤いベストを着ている。深夜の品出し担当の若いアルバイトの一人だった。


男は精肉コーナーから引きずってきたらしい『牛レバーのファミリーパック』の中に耳まで顔を突っ込み、口を大きく開けて貪り食っていた。生のレバーと一緒に、白い発泡スチロールのトレイの破片や透明なラップまで噛み砕いて飲み込んでおり、血まみれの前歯の間にはちぎれたラップが絡みついていた。


アルトゥーロは息を止めた。


彼はこのスーパーの床を自分の家よりもよく知っていた。第6通路の真ん前には夜間清掃用の金属製の排水グレーチング(格子蓋)があり、コンクリートの枠の中でガタついていて、足を乗せれば『ガチャン』と大きな音が鳴ることを覚えていたのだ。


彼は暗闇の中でコンパスを開くように大きく脚を広げ、記憶だけを頼りに見えない鉄格子を跨(また)ぎ越すと、反対側の硬いタイルの上にそっとかかとを下ろした。


赤いベストの若者は、振り返ることもなく発泡スチロールと生レバーを噛み続けていた。


あと四十メートル。


アルトゥーロの安全靴の下の床が、売り場の滑らかなタイルから、滑り止め加工が施された濃い灰色のザラついた磁器タイルへと変わった。精肉コーナーの区画に入ったのだ。


目の前で、ようやく琥珀(こはく)色の微かな光が完全な暗闇を破っていた。


湾曲したガラスの長い精肉カウンターの向こう側、食肉加工場の奥から漏れている光だった。非常用バッテリーのおかげで生き残っていた『第1冷蔵庫』の制御パネルのオレンジ色のデジタル表示と、まな板の頭上に吊るされた紫外線式の青白い殺虫灯(電撃殺虫器)の光だ。


その紫とオレンジ色が混ざり合う不気味な薄闇の中で、アルトゥーロはソーセージ売り場のレジ台の後ろに身を低くし、ガラスケースの向こう側を覗き込んだ。


チェーザレはそこにいた。


売り場に背を向け、高さ九十センチのシデ材の巨大な丸太まな板の前に仁王立ちになっていた。加工場への入り口と、南口警備室へと続く裏通路のちょうど中間地点を塞ぐ位置だ。


百十五キロの巨漢は、その亡霊のような光の中ではさらに巨大に見えた。


だが、アルトゥーロが昔馴染みの輪郭に焦点を合わせた瞬間、胃袋が激しくひっくり返り、酸っぱい胆汁が喉元までせり上がってきた。


チェーザレの首の右側から僧帽筋にかけて――耳たぶの下から鎖骨の先端に至るまで――が、ごっそりと食い千切られて消えていたのだ。


白い白衣と、その下に着たウールのシャツの襟元は凝固した血で黒く硬直しており、大きく開いた傷口からは、削り損ねた豚の骨付きロースのように、肩甲骨の白い骨(肩峰)がテラテラと光りながら剥き出しになっていた。


首の右側の筋肉という支えを失ったチェーザレの禿げ上がった重い頭は、左側へと不自然に傾き、顎が胸にめり込むように垂れ下がっていた。


それなのに、チェーザレは立っていた。


何時間も前に死に絶えた彼の脳の中で、たった一つの寄生虫のような神経回路だけが生き残っていたのだ。四十年間、全く同じ作業台の前で骨を叩き割り続けてきた『筋肉の記憶』である。


死後硬直の激しい痙攣によって指の関節が象牙のように白くなった右手に、彼は二キロの骨割り包丁の柄を固く握りしめていた。


傷ついた肩関節の軟骨がゴリゴリと擦れる乾いた音を響かせながら、彼はギクシャクとした硬い動きで右腕を肩の高さまで持ち上げ――穴の開いた気管で息を止め――そして、二キロの鋼鉄の刃を木のまな板の上へと真っ直ぐに振り下ろした。


ドスッ……バキィ。


アルトゥーロの視線が、チェーザレの広い背中から、シデ材のまな板の上へと移った。


そして、長い一秒間、彼の脳は自分の目が捉えている光景の意味を理解することを拒絶した。


木のまな板の上にあるのは、雌牛の後ろ脚ではなかった。六十キロある牛肉の塊は何時間も前に吊りフックから滑り落ち、部屋の隅のタイルの上に転がっていた。


チェーザレがまな板の上に乗せ、包丁の刃の下へと一ミリずつ前へ押し出していたのは――『彼自身の左腕』だった。


首を噛まれた襲撃の最中、おそらくチェーザレの左手も傷つくか作業台に挟まれるかしたのだろう。そして死んで知性を失い、ただ盲目的な飢えに突き動かされて蘇った老肉屋は、自分の目の前のまな板の上に残されていた唯一の「肉の塊」を解体し始めたのだ。


彼はすでに骨割り包丁を振るって、自分の左手の指、手のひら、手首、そして前腕の半分を、肘のすぐ手前まで輪切りにしていた。


一撃振り下ろすごとに――ドスッ……バキィ――重い刃が、青黒く変色した肉と白い腱、そして橈骨(とうこつ)と尺骨の二本の骨を二センチ幅の輪切りにしていく。すでに心臓が止まった血管からは血しぶきすら飛ばず、冷えたコールタールのように黒くドロリとした塊が滲み出るだけだった。


そして、その後に起きることこそが、何よりも悍(おぞ)ましかった。


三、四回包丁を振り下ろすと、チェーザレは手を止めた。


まな板の上で輪切りになったばかりの自分の前腕の肉片の下に、包丁の平らな腹を滑り込ませる。生前、挽き肉をすくい上げてトレイに移していた時と全く同じ手つきでそれを持ち上げると、大きく開いた自分の口へと運んだのだ。


彼は力任せに咀嚼(そしゃく)した。


自分の骨の破片を奥歯で噛み砕く音――ガリッ、ボリボリッ、ガリッ――を響かせながら、空っぽの喉をごくりと鳴らして飲み込む……。


するとその一瞬後、食道まで食い破られた首の右側の深い裂け目から、噛み砕かれた黒い肉と骨の塊がそのままボロボロと外へこぼれ落ち、白いエプロンを伝って、彼の安全靴の間の床へと転がり落ちるのである。


そしてチェーザレは何事もなかったかのように再び右腕を高く持ち上げ、左肘の切り株をまな板の上でもう一センチ前へと押し出し、最初から作業を再開した。


ドスッ……バキィ。


アルトゥーロは空いている方の手で自分の胸を強く押さえた。こめかみの奥で、心臓が鈍く不規則な早鐘を打っている。


加工場の一番奥にあるスライド式の非常扉――残りわずか六十メートル先に迫った南口警備室へと続く荷捌き通路に繋がる、プッシュバー付きの扉――へ辿り着くには、他の道はなかった。


精肉カウンターの横の隙間から加工場の中へ入り、ステンレスの作業台の陰に四つん這いになって、チェーザレのかかとから『二メートル半も離れていないタイルの床』を這って進み、半開きになった『第1冷蔵庫』の扉の前を通り抜けるしかないのだ。


(あいつがまな板を叩き続けている限り、包丁の音が俺の足音と肺の笛音を消してくれる……!)


アルトゥーロは罠にかかった獣のような必死の冷静さで計算した。


(包丁が振り下ろされる瞬間に合わせて動くんだ)


彼は精肉カウンターの横の入り口まで進んだ。


加工場の床は、音を立てずに移動しなければならない人間にとっては地獄そのものだった。骨の挽き屑(おがくず状の骨粉)と、床に落ちた牛の腎臓周りの脂(ケンネ脂)、黒い血の塊、そしてチェーザレのエプロンから滑り落ちた彼自身の前腕の肉片が混ざり合い、氷の上のように滑りやすくなっていたのだ。


アルトゥーロは両膝をついた。動物性の脂の冷たく湿った感触が、ズボンの生地を突き抜けてすぐに膝頭に伝わってきた。


殺虫灯の紫色の光の中で、チェーザレの右肩が持ち上がるのをじっと見つめる。


(一……二……)


ドスッ……バキィ!


包丁が振り下ろされた瞬間、アルトゥーロは固く結んだ唇の裏に喘息の笛音を押し殺しながら、両手と両膝で一メートル半、前へと這い進んだ。


ピタリと止まる。


チェーザレが木のまな板の上で包丁の腹を滑らせ――ザリィッ――自分の肉と骨の塊をすくい上げ、口に運んで噛み砕いた。ガリッ、ボリッ。


噛み砕かれた塊が首の穴から外へこぼれ落ち、チェーザレの安全靴のつま先の上でペチャリと鈍い音を立てて跳ねた。


巨漢の右腕が、再び持ち上がる。


ドスッ……バキィ!


アルトゥーロはさらに一メートル半進んだ。


今、彼はチェーザレの広い背中の真後ろ、分厚い断熱材が入った『第1冷蔵庫』の重い扉のすぐ横にいた。


厚さ十五センチの鋼鉄の扉はカンヌキが掛かっておらず、二十センチほど半開きになっていた。その隙間からは、冷気を逃がさないための分厚い透明ビニール製の『のれん(ストリップカーテン)』が垂れ下がっており、その内側には血まみれの両手で擦ったような黒い跡がべったりとついていた。


デジタル温度計がすでに『+11.4℃』を示している真っ暗な冷蔵庫の内部からは、腐りかけた熟成肉と内臓の耐え難い悪臭が流れ出していた。


そして、アルトゥーロが奥の出口通路までの最後の一メートル半を進もうとして、鍵を握った左手のひらをタイルについた、まさにその瞬間だった。


真っ暗な冷蔵庫の奥から、天井のレールの上を鋼鉄の滑車(トロリー)が滑る金属音が響いた。


ギギギギッ――ガチャン!


冷蔵庫の透明なビニールカーテンのすぐ向こう側で、牛の枝肉ではない『何か』――背中かベルトに天井レールのS字フックを突き刺されて吊るされたまま、暗闇の中で空しく両脚をバタつかせている何か――が激しく前へと揺れ、アルトゥーロの顔からわずか三十センチの距離にあるビニールカーテンに、青黒い手をバシンと叩きつけたのだ。


アルトゥーロは、その手を避けようとして反射的に後ろへのけぞった。


右膝を後ろへ引いた瞬間、彼の安全靴のつま先が、タイルの上で踏み潰されていた牛脂の塊の上でツルリと滑った。


右脚が横へと大きく流れる。


血だまりの中に顔から突っ込むまいと必死に体勢を立て直そうとした拍子に、アルトゥーロの右肘が、まな板の横に止められていたステンレス製の器具カートの最下段に強くぶつかった。


棚の上から、骨スキ包丁が何本も入った金属製のバットと、磁石つきのスチール棒(研ぎ棒)が滑り落ち――静寂の中で、磁器タイルの上に凄まじい金属音を立ててぶちまけられた。


ガシャアアアンッ――カラン、カラン、チンッ!


刃物が跳ね回る耳障りな音が、銃声のようにスーパーマーケットの空気を引き裂いた。


アルトゥーロは血の中に散らばった骨スキ包丁の真ん中で、片膝をついたまま凍りついた。


彼の頭上、二メートルも離れていない場所で、チェーザレの骨割り包丁が一番高く振り上げられた位置でピタリと止まった。


まな板の上に、刃が下りてこなかった。


アルトゥーロが大型スーパーに足を踏み入れてから初めて、精肉コーナーに完全な沈黙が落ちた。聞こえるのは、殺虫灯の紫色の高圧電線に張り付いた蛾(が)の死骸がチリチリと焼ける音――ジジジ……パチッ――だけだった。


ゆっくりと、剥き出しになった首の骨同士が擦れ合う湿った音を立てながら、百十五キロのチェーザレの巨体が、かかとを軸にしてこちらへと振り返った。


サーモスタットのオレンジ色の光が、彼の白いエプロンの正面を照らし出した。


開いた首からこぼれ落ちた凝固した血と自分自身の肉片が黒い瘡蓋(かさぶた)の滝のように固まり、その上には、切断された二本の白い腱が十センチほどぶら下がったままの、ギザギザに砕けた左肘の切り株が突き出ていた。


老肉屋の垂れ下がった頭が、裂けた肩の上でわずかに持ち上がった。


その両目――かつて市営屠殺場で一緒に叩き割っていた、皮を剥がれた牛の頭部の目と全く同じ、白濁して濁りきった二つの球体――が、床に片膝をつくアルトゥーロの姿を正確に捉えた。


チェーザレの開いた喉から、言葉ではなく、蒸気ボイラーの排気のような深く低い空気の音が漏れた。


丸太のような両脚がアルトゥーロに向かって重い一歩を踏み出し、その右腕が、牛の膝骨を叩き割るように彼の頭蓋骨を真っ二つにすべく、二キロの骨割り包丁をさらに高く振り上げた。


すでに酸素の尽きたアルトゥーロの肺が、絶望的なほど甲高い笛音を鳴らした。


南口警備室へと続く出口の扉に向かって背中から滑り込むように後ずさりしながら、アルトゥーロの右手はベルトへと伸び、スミス&ウェッソン38口径リボルバーのグリップを鷲掴みにして、ホルスターから引き抜いた。


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【 警備記録 ―― 第 V 節 / 全 VI 節 】

02時34分 ―― 荷捌き通路 / 南口警備室 | 装填弾数:6発 ➔ 4発 | 呼吸:重度窒息・チアノーゼ

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アルトゥーロは精肉加工場の中では引き金を引かなかった。


背中はすでに出口の非常扉に張り付き、38口径リボルバーの銃口は二キロの骨割り包丁を振り上げて迫るチェーザレの巨大な胸板に向けられていたが、脳の片隅に残された最後の理性が、あの広大な空間で発砲することを押し止めたのだ。


撃つ代わりに、彼は自分の左腰を背後のパニックバー(押し棒)に思い切りぶつけた。


ガチャン、バンッ!


防火扉が外側へと弾かれるように開いた。


アルトゥーロは鉄の敷居を越えて後ろ向きに倒れ込み、荷捌き通路のザラついたコンクリートの床に背中から転がった。そして膝を立て直すよりも早く、左手で内側のハンドルを掴み、分厚い扉を手前に引いて閉めようとした。


扉が枠に収まるわずかコンマ一秒前――百十五キロのチェーザレの巨体が反対側から激突した。


ドゴォォンッ――ギギギギッ!


死んだ肉屋の怪力で振り下ろされた二キロの鋼鉄の骨割り包丁が、防火扉の外側の鉄板に凄まじい威力で叩きつけられ、金属の外装を引き裂いた。


ツナ缶の蓋を突き破るように、刃の上端の角が五センチほど鋼板を貫通し、ちょうどアルトゥーロの顔の高さでこちら側へ飛び出して、甲高い金属音を鳴らしながらビイィンと震えたのだ。


アルトゥーロは血まみれの指で、こちら側から扉をロックするための鍵穴かカンヌキを必死に探した。


どこにもなかった。


それは押し開けるタイプの非常口だった。火災時に従業員が中に閉じ込められないよう、スーパーの内部から荷捌き通路に向かって開く構造になっており、通路側にはロック機構が一切ついていなかったのだ。扉を繋ぎ止めているのは、頭上にある油圧式のドアクローザーのシリンダーだけだった。


扉の向こう側で、チェーザレが鉄板に食い込んだ包丁の角製の柄を力任せに引き抜き――ギリッ、ガチャン――直後、体ごと扉に猛烈な体当たりを食らわせた。アルトゥーロの体重を押し返して、扉が十センチ開く。


あと十秒も持たない。


アルトゥーロはハンドルから手を離し、荷捌き通路の奥へと身を投げ出すように走り出した。


そこは幅わずか二メートル二十センチ、長さ五十メートルの鉄筋コンクリートの狭いトンネルだった。店舗もショーウィンドウもない。天井の低い位置を赤い消火配管が走り、塗装の剥げた壁には黄色と黒の警告ストライプが描かれ、地下のボイラー室の通気口から乾いた蒸し暑い熱気が立ち上っている。


そして四十メートル先の一番奥、接触不良で『ジジジ……パチッ、ジジジ……パチッ』と電気ノイズを鳴らして明滅する一本の蛍光灯の下に――『南口警備室』があった。


アルトゥーロは走ろうとしたが、五歩進んだところで、まるで足の腱がロウでできているかのように両膝がガクンと折れた。


もう、息をしていなかった。


二年前、救急外来の医師が「窒息による心停止の一歩手前の状態」として彼に説明した、いわゆる『サイレント・チェスト(静かな胸)』の段階に達していたのだ。


細気管支は極限まで腫れ上がって痙攣し、濃厚な粘液で完全に塞がってしまったため、もはやあのヒューヒューという笛音すら鳴らなくなっていた。


胸骨の下で横隔膜が絶望的な痙攣を繰り返し、首筋の血管は係留ロープのように太く浮き上がり、彼の唇は――拳銃のグリップを握る爪の下の皮膚とともに――どす黒い青紫色(チアノーゼ)に変色していた。


視界の周囲は黒いトンネルのように狭まり、目の前の皿一枚分ほどの丸い範囲しか見えず、それ以外のすべては低酸素症の暗闇へと沈みかけていた。


背後で、精肉加工場の鉄扉が完全に押し開かれ、コンクリートの壁に激突した。


ドゴォォォンッ!


チェーザレが通路に入ってきた。


脂と血にまみれた安全靴の重い足音が狭いトンネルに響き渡り――ズシン、ズシン、ズシン――食い破られた首から漏れるゴボゴボという水音と、右手の骨割り包丁の刃先が右壁の漆喰(しっくい)を引きずって白い線を刻む音がすぐ後ろに迫る。


アルトゥーロは左肩を壁に擦りつけながら最後の二十メートルをよろめき進み、両足を引きずって、南口警備室の横の窓ガラスに胸からぶつかるように辿り着いた。


中を覗き込む。


彼の目から一メートル半も離れていない場所、警備室の冷たい白い蛍光灯の下に、事務用の回転椅子があった。


そして、その背もたれに――彼の『黄色と青の夜光防寒ジャケット』が掛かっていた。


胸ポケットのファスナーは半分開いたままになっており、その中から『新しいヴェントリン吸入器』の青いキャップと、気管支拡張剤のアンプルが入った透明なハードケースの角がはっきりと覗いていた。


(あそこだ……あそこにある……!)


アルトゥーロは警備室の金属扉に飛びつき、左手でドアノブを掴んで、自分の全体重を乗せて押し下げた。


ドアノブは空しく下まで下がったが、扉は開かなかった。


内側から、つまみ式のデッドボルト(サムターン錠)でロックされていたのだ。


アルトゥーロの完全に閉じた喉の奥から、声にならない絶望の空気音が漏れた。彼は鍵を握ったままの左拳で、扉の上部――内部に鉄線の網が格子状に入った、厚さ五ミリの長方形の『網入りガラス』の小窓――を激しく叩いた。


彼のマスターキーは外側の鍵穴を開けることはできるが、内側から手動の固定カンヌキを回されてしまえば、外のどんな鍵を使っても開けることはできない構造だった。


(なぜ内側から閉まっている!?)


酸素を失いかけた脳で、彼は必死に考えた。


(十時半に俺が出た時は、確かに開けておいたはずだ!)


まさにその瞬間だった。警備室のデスクの後ろ、リノリウムの床の上から、『何か』がゆっくりと立ち上がった。


アルトゥーロが着ているのと全く同じ、警備会社の肩章がついた灰色のシャツを着ていた。


マルコだった。


二十四歳。先月、十四時から二十二時までの遅番を埋めるために試用期間で雇われたばかりの若者だ。


二十二時にアルトゥーロが北口で彼と交代した時、マルコは「雨が止むまで、南側の更衣室で三十分ほど待ってからスクーターで帰ります」と言っていた。


彼は、ショッピングモールから出ていなかったのだ。


荷捌き場の外であの惨劇が始まった時、マルコはこの通路で襲われたに違いなかった。彼の左の前腕全体は、白い腱と黒い肉が剥き出しになるほど深く食い破られており――顔を守ろうとして腕を上げた人間の典型的な防御創だ――さらにもう一箇所の噛み傷が、彼の右耳の半分と下顎の一部を削り取っていた。


致命傷を負い、恐怖にパニックを起こした若者は、この南口警備室へと逃げ込み、内側からサムターン錠を回して閉じこもったのだ。


彼は使える電話を探し、デスクの引き出しをひっくり返し、包帯か鎮痛剤でも探そうとしたのか椅子に掛かったアルトゥーロのジャケットの表面に血まみれの手の跡をつけ……そして、二メートル×三メートルのこの鉄の檻の中で失血死し、床に倒れた。


そして、蘇ったのだ。


バンッ!


マルコが扉の網入りガラスの小窓に内側から飛びかかった。アルトゥーロの顔からわずか十センチの距離だった。


若者の両目は、腐った牛乳の玉のように白く濁っていた。


大きく開いた口からは、裂けた下顎から剥き出しになった下の歯がガラスをガリガリと引っ掻き、コールタールのように黒く粘り気のある唾液が垂れ落ちてくる。乾いた血がこびりついた両手が内側から狂ったようにガラスを叩き、扉全体をガタガタと震わせた。


アルトゥーロは閉ざされた警備室の扉に背中を預け、弾かれたように振り返った。


コンクリートのトンネルの中で、チェーザレはすでに彼から『六メートル』の距離まで迫っていた。


巨大な肉屋の死体は通路の幅いっぱいを塞ぐように進み、左肘の白い骨の切り株を前に突き出し、禿げ上がった垂れ下がった頭の上に二キロの骨割り包丁を高々と振り上げていた。


五メートル。


アルトゥーロの心臓が激しい不整脈を起こした。二回空打ちし、直後に膝が折れそうになるほど強烈な動悸が胸骨を内側から殴りつける。


視界が完全に消えかけていた。逃げるための息はもうなく、幅二メートルの通路ではチェーザレの巨体をかわす隙間もなく、彼と吸入器の入ったジャケットの間には、網入りガラスと、彼の顔に噛みつこうとしている死んだ若者が立ち塞がっていた。


(あと三秒で意識が飛ぶ……)


アルトゥーロは悟った。


もう選択肢はなかった。沈黙の時間は終わりだ。


素早く機械的な動きで、アルトゥーロは警備室の扉に向き直り、震える右手でスミス&ウェッソン38口径リボルバーを持ち上げた。


網入りガラスの小窓から五センチの距離に鋼鉄の銃口を突きつけ――ガラス越しに、内側のサムターン錠のすぐ上、マルコの胸骨と喉の真ん中に照準を合わせ――ほんの一瞬だけ目を閉じて、ダブルアクションの重い引き金を最後まで引き絞った。


ズガアアアアアンッ!!


幅二メートルの鉄筋コンクリートのトンネルの中で38口径のフルメタルジャケット弾を撃つ音は、映画で聞くような乾いた音ではなかった。


百六十デシベルを超える物理的な爆発だった。ハンマーで両耳の穴に太い鉄釘を打ち込まれたような衝撃が、アルトゥーロの鼓膜を直撃した。


目が眩むようなオレンジ色のマズルフラッシュ(銃口炎)が、暗い通路と警備室の内部を真昼のように照らし出した。


鉛と銅の弾頭は鉄線の網を焼き切るように網入りガラスを粉砕し、ガラスの粉塵の雲を巻き上げながら、マルコの胸骨のすぐ上――喉の付け根のど真ん中――に着弾して、下部頸椎(けいつい)を完全に吹き飛ばした。


至近距離からの運動エネルギーは七十キロの若者の体を宙に浮かせ、電源の落ちたモニター盤へと後ろ向きに叩きつけた。マルコの体は回転椅子の上に崩れ落ち、椅子ごとアルトゥーロのジャケットを床へと引きずり倒した。


アルトゥーロの両耳から世界のあらゆる音が消え失せ、鼓膜の奥で『キィィィィィィン……』という耳を劈(つんざ)くような高音の耳鳴りだけが鳴り響く中、焼けた無煙火薬(コルダイト)の鼻を刺すような硝煙の匂いが立ち込めた。


彼はコンマ一秒も無駄にしなかった。


拳銃の重いグリップの底で網入りガラスの残骸を二回激しく殴りつけて残った鉄線をへし折ると、その穴に左腕を突っ込んだ。


ギザギザのガラスの牙がシャツの袖と前腕の肉を深く切り裂き、鮮血が噴き出すのも構わず、内側の鉄板を手探りしてサムターン錠のつまみを掴み、一気に回した。


ガチャン!


扉を外側へ引き開け、南口警備室の中へと膝から滑り込むように飛び込むと、床に落ちた黄色いジャケットのポケットへと必死に左手を伸ばした。


チアノーゼで感覚のなくなった指先が、ファスナーの奥の清潔な内ポケットに触れる。


だが、それと全く同じ瞬間、二つのことが同時に起きた。


警備室の床の上で、首の付け根を撃ち抜かれたマルコ――背骨を砕かれて肩から下は完全に麻痺していたが、脳は破壊されていなかった――が、岩穴から飛び出すウツボのように首だけを前へと伸ばし、アルトゥーロの安全靴のすぐ上、右のふくらはぎに裂けた顎の歯を突き立てたのだ。


人間の歯は分厚い二重の作業ズボンの生地を貫通はしなかったが、死後硬直の痙攣で噛み合わされた顎の圧力は凄まじく、ふくらはぎの筋肉を骨まで押し潰すように固定して、アルトゥーロの右脚を床に釘付けにした。


そして開いた扉の敷居の上、わずか一メートルの距離に、チェーザレの巨大な影が立ち塞がった。


百十五キロの肉屋は、銃声にも怯まずすぐ後ろまで迫っていたのだ。狭い警備室に腐った屠殺場の悪臭が充満し、マルコに脚を噛まれて動けないアルトゥーロの頭蓋骨に向かって、チェーザレの右腕が二キロの骨割り包丁を真上から振り下ろした。


アルトゥーロは右脚を引くことができなかった。


彼はそのまま警備室の床に背中から倒れ込み、上半身を左へとひねった。


チェーザレの骨割り包丁は彼の額からわずか三センチ横をかすめ、横転していた回転椅子の金属製の背もたれの縁に凄まじい威力で叩きつけられた。クロームメッキの鉄パイプを白い火花とともに真っ二つに切断し、そのままアルトゥーロの両脚の間のリノリウムの床に深く突き刺さる。


空振りの重みで前のめりに体勢を崩したチェーザレが、床に食い込んだ包丁を引き抜こうと引っ張った瞬間――アルトゥーロは床から右腕を持ち上げ、煙を上げる38口径リボルバーの銃口を下から上へと向けた。


チェーザレの顎の下から二十センチ、白濁した左目の眼窩(がんか)のすぐ下を狙い――二度目の引き金を引いた。


ズガアアアアアンッ!!


わずか六平方メートルの密閉された警備室の中で炸裂した二度目の銃声は、天井の蛍光灯のガラス管を白い蛍光塗料の粉と火花のシャワーに変えて破裂させるほどの衝撃波を生み、部屋の中を非常停止ボタンの赤い光だけの薄闇へと突き落とした。


38口径の弾頭はチェーザレの左頬骨の下から侵入し、頭蓋骨を斜めに貫通して脳幹を完全に破壊すると、後頭部を突き破って天井の鉄板に黒い血と脳漿(のうしょう)の華を散らした。


屠殺場で屠畜銃(キャプティブボルトピストル)を額に撃ち込まれた牡牛のように、百十五キロの巨漢の動きがその瞬間に完全に消えた。


両膝がガクンと折れ、その巨大な肉の塊は後ろ向きに――ちょうど警備室の扉の敷居を跨(また)ぐようにして――仰向けに倒れ込み、まだアルトゥーロのズボンの裾に歯を食い込ませていたマルコの頭と上半身を、その圧倒的な体重の下に押し潰した。


アルトゥーロは必死の力でマルコの顎から右脚を引き抜くと、床の上の黄色いジャケットの内ポケットに両手を突っ込み、新品のヴェントリンの青いボンベを引きずり出した。


視界はほぼ完全に真っ黒だった。心臓は喉元で毎分百六十回の早鐘を打ち、今にも止まりそうになっている。


彼は歯でプラスチックのキャップを噛み千切るように外し、青紫色の唇の間に吸い口を押し込むと、肺の底に残っていた最後のわずかな空気を吐き出し、金属の底を強く押し込んだ。


プシュゥゥゥッ――カチッ。


冷たく濃密な、純粋なサルブタモールの苦く化学的な味を帯びた霧が、舌と喉の奥を満たした。


アルトゥーロは横隔膜の最後の力を振り絞って息を吸い込み、収縮した気管の奥深く、固く閉ざされた気管支へと薬の霧を引きずり込むと、世界がぐるぐると回る暗闇の中で、息を止めて頭の中で必死に数を数えた。


(一……二……三……四……)


気管支の受容体が少しずつ薬に反応して開き始め、殴られたような両耳の奥で鳴り響いていた銃声の耳鳴りがわずかに薄れ始めた、その時だった。


一時的な難聴のくぐもった静寂の向こうから、アルトゥーロは『あの二発の銃声の代償』を聞いた。


百六十デシベルの衝撃波はコンクリートのトンネルを駆け抜け、大型スーパーの天井に反響し、中央の防火シャッターを震わせ、三百五十メートルの大理石のアーケードを突き抜けて外の駐車場まで届いていたのだ。


暗闇に沈んだショッピングモールのあらゆる場所から――通路の奥の精肉コーナーから、赤いベストの若者が牛レバーのトレイを落とした売り場の通路から、エレナが鉄扉を引っ掻いていた通用口から、そして南口警備室の窓の向こうにある外の荷捌き場から――何十という『音』が一斉に目を覚ました。


踏み砕かれるガラス。暗闇の中でなぎ倒される陳列棚。引きずられる足音、四つん這いで疾走する音、タイルを削る骨の音。


そのすべてが、たった一つの場所――この『南口警備室』へと向かって殺到してくる。


そしてアルトゥーロが扉を閉めようとして視線を落とした時、彼は凍りついた。


チェーザレの巨大な死体――百十五キロの死肉の塊が、扉の枠のど真ん中に仰向けで横たわり、その背中の下でまだ生きて暴れているマルコとともに、鉄扉が閉まるのを完全に阻んでいたのだ。


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【 警備記録 ―― 第 VI 節(最終節) / 全 VI 節 】

02時36分 ―― 南口警備室(隔壁内) | 装填弾数:4発 ➔ 2発 | 呼吸:気道開通・回復

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二回目のサルブタモールの噴射が、化学的な氷の刃のように喉の奥へと滑り落ちていった。


アルトゥーロは青い吸い口をさらに五秒間唇で固く咥え込み、薬の霧を肺の奥に閉じ込め続けた。


その瞬間――激しく収縮していた細気管支の平滑筋が、ついに薬効に屈して一気に弛緩(しかん)するのを感じた。


まるで胸郭にぐるぐると巻きつけられていた鉄の鎖が、二回転分ほど一気に緩められたかのようだった。


胸の奥で、気管支の壁を塞いでいた濃厚な粘液の栓が剥がれ落ちる。


空気――本物の空気、酸素をたっぷりと含み、乾いた硝煙と血の匂いがする空気が――三十分間ずっと音を失っていた肺の奥底、下葉の肺胞の隅々まで一気に流れ込んできた。


視界の周囲を覆っていた黒いトンネルが、パッと開けた。


アルトゥーロは吸入器を口から離してズボンのポケットにねじ込むと、非常灯の赤い光に照らされた南口警備室の敷居を見た。


鉛の弾丸で脳幹を撃ち抜かれたチェーザレの百十五キロの巨体が、ちょうど金属製のドア枠を跨(また)ぐように仰向けに倒れ込み、防音鉄扉を九十度開け放った状態で完全に固定していた。


その肉屋の巨大な腰の下では、リノリウムの床に押し潰されながらもまだあの盲目的で神経的な飢えに突き動かされているマルコが、折れた首を動かして裂けた下顎の歯を空中でカチ、カチ、カチと鳴らし、アルトゥーロの安全靴に噛みつこうとしていた。


そして四十メートル先の荷捌き通路の奥からは、38口径の二発の銃声が呼び寄せた『代償』がすでに迫っていた。


「この忌々しい扉を閉めなきゃならん……」


アルトゥーロは低く掠れた声で唸った。だがその声にはもう、今夜が始まってからずっと付きまとっていた壊れたヤカンのような笛音はなく、生きた人間の力強い響きが戻っていた。


「今すぐ閉めなければ、俺はここで死ぬ」


彼は両膝をついて敷居へと飛びつき、チェーザレの血まみれの白い白衣の両襟を鷲掴みにすると、肩の力をすべて使って死体を警備室の外へと引きずり出そうとした。


死体は、一センチたりとも動かなかった。


百十五キロの死肉の塊は、骨盤が鉄のドア枠にがっちりと引っかかり、さらにその下で脂に濡れた床に押しつけられたマルコの体が楔(くさび)のような摩擦を生んでいて、この狭い空間で素手の力だけで動かすことは不可能だった。


そしてアルトゥーロが白衣から手を離したまさにその瞬間、コンクリートのトンネルの一番奥で、精肉加工場のスイング扉が再び弾かれるように開いた。


バアアアンッ!


明滅する蛍光灯に照らされた通路に、一つの人影が猛スピードで飛び出してきた。


第6通路にいたあの赤いベストの若者――発泡スチロールごと生の牛レバーを貪り食っていたアルバイト――が、銃声の轟音に引き寄せられて走ってきたのだ。頭を後ろにのけぞらせ、両腕を体の横に硬直させたまま、スニーカーの底をコンクリートの上で滑らせながら突進してくる。


そのすぐ背後、精肉加工場の入り口から現れた二つ目の姿に、アルトゥーロの背筋が凍りついた。


『第1冷蔵庫』の天井レールに吊るされていた、あの遅番の作業員だった。暗闇の中で銃声の方へ走ろうとして暴れ狂った末に、自分自身の背中の肉を引き裂いてフックから外れたのだ。その右の肩甲骨の下には、まだ巨大なステンレス製のS字フックが深々と食い込んだままになっており、一歩走るごとに長さ五十センチの鉄鎖が裸の背中を激しく叩いていた。


さらにその奥、大型スーパーの暗闇の中からは、四本の肢が蜘蛛(くも)のようにタイルの上を疾走する、あの絶対に聞き間違えようのない高速の足音が迫っていた。エレナが扉を突破し、スーパーの売り場に入ってきたのだ。


赤いベストの若者まで、すでに残り二十五メートル。背中にフックが刺さった男まで三十メートル。


連中がここに飛び込んでくる前に、死体をどかして扉を閉める時間はない。


アルトゥーロは床からスミス&ウェッソン38口径リボルバーを拾い上げた。


新鮮な酸素が再び腕の筋肉と脳に行き渡った今、アルトゥーロの右手はもう一ミリも震えてはいなかった。


彼はチェーザレの分厚い胸板が作る肉のバリケードの後ろに片膝をつき、射撃訓練場でやっていた通りに右手首を左の前腕の上に乗せて固定すると、銃口の上のフロントサイトとリアサイトをピタリと重ね合わせて待った。


二十メートル。


十五メートル。


十二メートル。


赤いベストの若者が、生レバーと白い発泡スチロールの破片にまみれた口を大きく開け、飛びかかる体勢に入った。


アルトゥーロは親指で撃鉄(ハンマー)を起こし――カチリ――引き金のストロークを極限まで短くすると、静かに引き金を絞った。


ズガアアアアアンッ!


三発目。


38口径の弾頭は、若者の眉間のど真ん中、鼻の付け根を正確に撃ち抜いた。


乾いた音とともに頭が後ろへと弾け飛び、走っていた肉体はそのまま顔面からコンクリートの床へと崩れ落ち、自分自身の黒い血の帯の上を三メートルほど滑ってから壁にぶつかって止まった。


肩甲骨に肉吊りフックが刺さった男は、倒れた仲間の体を速度も落とさずに跨(また)ぎ越えた。警備室の敷居まで、残り八メートル。


アルトゥーロは銃口を右へ二度動かし、再び親指で撃鉄を起こし――カチリ――白濁した両目の上の額の中央に照準を合わせて、引き金を引いた。


ズガアアアアアンッ!


四発目。


頭蓋骨が後ろ向きに破裂し、天井の赤い消火配管に黒い霧を撒き散らした。男は赤いベストの若者の両脚の上に重なるように崩れ落ち、扉から七メートル先の通路に動かない肉の山を作った。


(シリンダーに残ったのは、あと二発……)


アルトゥーロは銃を下ろさないまま数えた。


だが、四十五メートル先の精肉加工場の扉の向こうの暗がりから、折れた爪と両手が猛烈な速度でコンクリートを叩く音が響いた。エレナ――そしてその後ろから、通路を突き抜けてきた北側アーケードの死人たち――が、この直線通路に飛び込んでくる寸前だった。


十秒。敷居を空けて扉を閉めるまでに残された時間は、あと十秒もない。


アルトゥーロは両手を空けるために拳銃をホルスターに戻した。


警備室の床に視線を落とす。チェーザレの背中の下で、マルコがまだ折れた首をくねらせており、裂けた顎の前歯がアルトゥーロの左膝に届くところまで迫っていた。


アルトゥーロの足元から二十センチの場所に、横転した椅子の脚の間でリノリウムの床に深く突き刺さったままの、チェーザレの二キロの『骨割り包丁』があった。


アルトゥーロは三つの真鍮のリベットが打たれた黒い角製の柄を握りしめた。


四半世紀もの間ずっと馴染んできた、脂の染み込んだその柄に指が巻きついた瞬間、二キロの鋼鉄の絶妙な重量バランスは、まるで自分自身の前腕の自然な延長であるかのように感じられた。


彼は床から刃を引き抜いた。


ためらいはなかった。まな板の上で何千本もの背骨を叩き割ってきた職人の冷徹で正確な動きで、アルトゥーロは骨割り包丁を三十センチ持ち上げ、最初の一発目の銃弾がすでに骨を砕いていたマルコの首の後ろ――延髄(えんずい)の真上――に向かって、垂直に振り下ろした。


ドスッ――バキィ。


分厚い鋼鉄の刃が延髄を完全に断ち切った。マルコの下顎が床の上で最後にもう一度だけカチリと鳴り、二十四歳の若者はようやく、老肉屋の重みの下で永遠の静寂を取り戻した。


「……すまんな、若いの」


アルトゥーロは奥歯を噛み締めて短く呟いた。


彼は包丁を床に置くと、さっきチェーザレの一撃が真っ二つに切断した回転椅子の背もたれのクロームメッキの鉄パイプ――長さ八十センチの硬い鋼鉄の棒――を両手で掴み、斜めに切れたその先端をチェーザレの右の腰骨の下に深く差し込んで、敷居の鉄の段差を支点にしてバールのように構えた。


四十メートル先のコンクリートのトンネルの奥で、血と漂白剤にまみれた水色の作業着を着た影――エレナ――が四つん這いのまま角を曲がって飛び出してきた。首を肩の上に折り曲げたまま、白濁した目を南口警備室の扉に釘付けにしている。


そのすぐ後ろから、小腸が飛び出したレインコートの長身の男と、首にクレーターが開いた女の姿も現れた。


アルトゥーロは深い一息で肺の隅々まで空気を満たし、金属デスクの土台に安全靴の裏を強く踏ん張ると、自分の九十キロの全体重を鉄パイプの端に預けて、てこの原理で一気に押し下げた。


彼の背中と両肩の筋肉――かつて中央卸売市場で牛の枝肉を担ぎ続けた老職人の筋肉――が大きく膨れ上がり、灰色の警備服の縫い目がミシミシと悲鳴を上げた。


「そこから……どけぇッ!」


凄まじい負荷に鉄パイプがわずかにしなったが、チェーザレの骨盤が床から十センチ浮き上がり、敷居の金属の段差を乗り越えた。


アルトゥーロは巨漢の胸板に右足の裏を突き立てて渾身の力で蹴り出し、百十五キロの死体の重心を境界線の向こう側へと押しやった。


巨大な死体はゴロリと横向きに回転しながら敷居の向こう側――コンクリートの通路側――へと転がり落ち、ついに扉の軌道が完全に空いた。


トンネルを四つん這いで疾走してくるエレナとの距離は、すでに十二メートルを切っていた。


その後ろの狭い通路は、うごめく死肉の壁と化していた。


アルトゥーロは南口警備室の防音鉄扉の内側のハンドルを掴み、鉄筋コンクリートの壁ごと枠が震えるほどの猛烈な勢いで手前に引き閉めると、サムターン錠の鋼鉄のつまみを一気に回した。


ガチャン――ズドンッ!


カンヌキが落ちたわずかコンマ一秒後、エレナの肉体が外側から扉に激突し、その一秒後には他の三体の死人が次々と体当たりを食らわせた。


ドゴォォンッ! ドゴォォンッ!


アルトゥーロ自身が最初の一発目で撃ち抜いた網入りガラスの小窓の穴から、爪の折れた青黒い片手――エレナの手――が警備室の中へと突き出され、彼の喉を掴もうと空を掻いた。そのすぐ横の隙間には、割れた眼鏡の男が顔を押しつけ、黒い血の泡を吹き散らしている。


アルトゥーロは一歩後ろへ下がり、警備室の奥の壁に埋め込まれた主制御パネルへと向かった。


外灯のスイッチの横に、透明なプラスチックカバーで保護された大きな赤いキノコ型のボタンがついた黄色いボックスがあった。


『緊急閉鎖 ―― 南口警備室・防犯重量シャッター』。


アルトゥーロはカバーを跳ね上げ、開いた手のひらで赤いボタンを思い切り叩いた。


扉の頭上、そして警備室の外壁全体に沿って設置された上部ケースの中で、大型の三相モーターが重く低い機械音の咆哮(ほうこう)を上げて起動した。


ヴヴヴヴヴ……ガチャン、ガチャン、ガチャン!


コンクリートにボルト止めされた両脇の鉄製ガイドレールに沿って、頭上から厚さ五ミリの亜鉛メッキ鋼板製の『防犯装甲シャッター』がゆっくりと下り始めた。


割れた小窓の目の前に鋼鉄の刃のようなシャッターが下りてくるのを見ても、エレナは腕を引かなかった。


なおも警備室の内側に向かって鉤爪のような指を振り回し続け――そしてついに、総重量四百キロのシャッターの下端が小窓の高さに達し、ギロチンのように一気に通過した。


少女の青黒い手首がドア枠との間でスパッと切断されて外へ落ち、シャッターはそのまま外の死人たちの体を押し退けながらコンクリートの床まで完全に下りきると、電磁ロックの重い音を響かせて固定された。


ズシィィィン――ガチャン。


南口警備室の中に、完全な沈黙が落ちた。


厚さ五ミリの装甲シャッターと防音鉄扉の二重の壁の向こう側からは、ただ遠くくぐもった鈍い音――トントン……ザリッ……――だけが聞こえてきた。まるで深海に沈んだ潜水艦の船体を、外から誰かが指の関節でノックしているかのような頼りない音だ。


人間の歯も、爪も、体当たりも、コンクリートのレールに固定された五ミリの鋼鉄の板を曲げることなど永遠にできない。


ここはもう、完全なバンカー(地下要塞)だった。


アルトゥーロは両腕をだらりと垂らしたまま、狭い部屋の中央に長い十秒間、立ち尽くしていた。


やがて彼は金属の壁に背中を預けたままゆっくりと滑り落ちるように床に座り込み、横転した椅子の横に疲れ果てた両脚を投げ出した。


落ち着いた、規則正しい手つきで、彼は黄色いジャケットの内ポケットを開け、液状ステロイドの一回分のアンプルが入った透明ケースを取り出すと、二本の指でプラスチックの先端をパキッと折り、苦い薬液を飲み干した。これで気管支の炎症がぶり返すことはもうない。


それから彼は冷たい壁に後頭部を預け、目を閉じて、ゆっくりと息を吸い込んだ。


空気は鼻腔を通り、気管を下り、大きく開いた気管支を抜けて、左右の肺の底の底まで温かく、清潔に、何の音も立てずに満ちていった。


ゆっくりと息を吐き出す。


笛音はしない。ラ音もしない。胸骨の痛みもない。


聞こえるのは、自分自身の静かで規則正しい呼吸音と、毎分七十回の正常なリズムへと戻っていく心臓の鼓動だけだった。


アルトゥーロは非常灯の赤い薄闇の中でそのまま座り続け、制御盤の上のデジタル時計の数字が分を刻み、やがて時間を刻んでいくのを静かに眺めていた。


『03:15』。


『04:30』。


『05:58』。


午前六時まで、あと二分。


この六年間に過ごした他のどの朝であれば、日勤の同僚が交代にやって来て、アルトゥーロは古い愛車に乗り込み、眠るために自宅へと帰るはずの時刻だった。


アルトゥーロは急ぐことなく立ち上がった。


南口警備室の壁にあるモニター盤――外の荷捌き場や外周の大駐車場を映す外部回線に繋がっていたため、無傷で残っていた四つの画面――に歩み寄り、主電源のスイッチを入れた。


四つのブラウン管が低い電気音を立てて点灯し、狭い警備室の中を白っぽい灰色の光で照らし出した。


外では、夜が終わっていた。


外部カメラは、十月の夜明けの白く濃い朝霧に沈んだ広大なアスファルトの駐車場と、街の中心部へと続く並木道を映し出していた。


青い回転灯を回すパトカーの姿はなかった。救急車も、消防車もいなかった。


腰の高さまでたなびく乳白色の霧の中に、駐車場のアスファルトの全面から並木道の歩道、そして広角レンズが捉える地平線の彼方に至るまで――『何百人もの動かない人間たち』が立っていた。


パジャマ姿の男やスーツ姿の男、服が引き裂かれた女、一キロ離れた市立病院から歩いてきたらしい黒い血にまみれた白衣の医師たち。


彼らは夜明けの冷気の中で、霧の中に植えられた黒い彫像の森のようにピタリと立ち尽くし、全員が全く同じ方角へと顔を向けていた。


三時間前、静まり返った闇夜に四発の銃声を轟かせた、この『レ・アルカーテ・ショッピングモール』の南側に向かって。


アルトゥーロは画面の中のその静まり返った無数の頭部の海を、長い間じっと見つめていた。


警備室の隅には、事務所のウォーターサーバー用に買い置きされたミネラルウォーターのボトルが十二本入った箱と、自衛消防隊用の非常食が詰まった金属ロッカーがあった。


水はある。缶詰の食料もある。周囲は厚さ五ミリの装甲鋼板に守られており、胸ポケットにはステロイドのアンプルと、あと二百回噴射できる吸入器が入っている。


アルトゥーロはズボンのポケットから、血のついた綿のハンカチを取り出した。


床に落ちていたチェーザレの二キロの骨割り包丁を拾い上げると、かつて屠殺場で仕事を終えた毎晩そうしていたように、幅広の刃についた脂をハンカチで丁寧に拭き取って清め、デスクの化粧板の上にきちんと並べて置いた。


次にホルスターからスミス&ウェッソン38口径リボルバーを抜き、シリンダーをスイングアウトさせて薬室に残された二発の真鍮の銃弾を確認すると、小気味よい音を立ててシリンダーを戻し、骨割り包丁と青いヴェントリンの吸入器の横に並べて置いた。


頭上のデジタル時計が、かすかな音を立てて『06:00』に切り替わるのを彼は見上げた。


アルトゥーロはモニターの前のミネラルウォーターの箱の上に腰を下ろし、長く、自由で、音のない深い呼吸で肺を満たすと、バンカーの薄闇の中で疲れたように小さく口角を上げた。


「……どうやら今朝は、六時になってもシフトは終わらないらしいな」


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【 警備記録 ―― 記録終了 】

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