歩調が早くなる夜
掲載日:2026/10/01
ざわざわと騒がしい夜。
道ゆく楽しそうな顔がそれぞれに夜を楽しんでいる。
一人になりたくて、いつも曲がらない角を曲がる。
喧騒は遠のくのに、自分のヒールの音だけが響く。
淡く紫に光るネオンのバーが目につく。
ここなら一人になれそうな気がして、扉を開ける。
室内では二、三人静かに過ごしている。
頷き、鳴り続けるスマホの電源を切る。
深呼吸して、そっと席に着く。
気づけば、バーテンダーがコースターを置いていた。
真っ白なコースターが、やけに清々しかった。
注文を済ませると、カチャカチャと氷が砕ける音が聞こえ始める。
一定のリズムが心地良い。
一口、カクテルを飲む。
無意識に、ため息が溢れる。
カクテルをつかむ指を見つめる。
新品だった指輪も、だんだん傷がついてきた。
そっと、指輪を撫でる。
指先に、冷たい感触が伝う。
グラスの水滴を、コースターは静かに受け止めていた。
結局、二杯飲んで店を出た。
少し、氷の音が優しすぎた。
アパートの前に着くと、見慣れた後ろ姿。
コンビニの袋を握りしめて、肩を落としている。
なんだか、少し笑ってしまう。
気づけば歩調は早くなっていた。




