81話 『地下に広がる波紋』
「地下はそこまで廃れてないわね」
濃霧に呑まれた後、三人は地下へと移動。現在、地下での仲間捜索と探索を行っている。
地上では損傷が激しく天井すら無かったが、地下では損傷がほとんどなく、昔日の姿を留めている。
「しても、地下も広ない? 兄やんと嬢ちゃん捜した方がええんちゃうか?」
「あたしもそう思います!」
先頭を行くヒヨリは探索に勤しんでいるが、後ろに控えるラーヴェルとリャーシュははぐれた二人の捜索を優先したいと主張。
「大丈夫じゃない? あらかじめ探索する箇所を分担してあるんだから、最後は地下に集まるわよ」
幸いなことは探索する場所を分担してあったこと。そのため、人数の多いこのグループを見つけるとなれば必然的に全員が地下へと集まる。
そうなれば、探索しているだけで捜索の手間は省けるというのがヒヨリの考えだった。
「ホンマか? 兄やんは――」
「あっ、皆さん!」
脇道から飛び出てきたのはミレーユ。不安げになっていたのか眉が下がっていたが、三人を見つけた直後希望が宿ったように瞳が光った。
「ほら、言ったじゃない。大丈夫でしょう?」
「ぐっ……何も言い返せへん」
これで五人中四人が揃ったわけだ。残り一人、トウマのみが合流していない。
状況を察知したミレーユが口を開く。
「後はトウマさんだけですか。上を捜したんですが見つけられなかったです」
「うーん……自然と地下に降りてくると思うのだけれど……」
前例が出来た以上トウマも自然と地下へと歩みを進めてくると考えるのが妥当。予想外なのはトウマとミレーユが合流出来ていなかったこと。
「そろそろ一時間くらい経つんちゃうか? せやったら捜しに行ったほうがええやろ」
「捜しに行ってどうするのよ。もしも彼が地下に居た場合無駄足になるだけよ」
最悪なことにトウマは『伝心貝』を所有していない。故に連絡が取れない。
願わくばトウマが自ら地下へと降りて来ることだ。
「大丈夫でしょう。彼なら、地下へと来ますよ」
薄紅の少女がニコッと笑いながら、築いてきた信頼を元にトウマの安全を確信する。
それでもなおラーヴェルはトウマを捜しに行かんとたじろいでいた。
「貴方まで見失ったら面倒この上ないわ」
ヒヨリがキッパリ言い捨てる。それを聞いたラーヴェルは喉を唸らせながら頷く。
ここからまた手分けした場合、合流できる自身は誰にもない。
「ともかく地下探索と並行して行いましょう」
ミレーユが言う。
その意見に全員が納得し、遺跡地下を探索することになった。
※※※
「ほんとに迷宮、という感じですね」
先頭であったヒヨリを追い越し、ミレーユが先を行く。
時折後ろを振り返りながら、しっかり着いてきているか、孤立していないかを確認している。
「――――」
「どうしたのよ?」
振り返ったミレーユに怪訝そうな顔を見せるラーヴェル。そんな彼を心配してヒヨリは眉をひそめた。
ジッと深青の双眸が捉えているのは薄紅の少女。
「引っ掛かるんや」
「何がよ。また敵か何かかしら?」
「いや、違う。嬢ちゃんに、や」
ラーヴェルから見えるミレーユはどこか違和感を醸し出している。容姿こそ普通だが、雰囲気や行動に異質さが籠っているのだ。
「あんたちょっとおかしない?」
「私が、ですか……?」
「お前、ほんとにミレーユの嬢ちゃんか?」
「ちょ、何言ってんのよ!」
存在そのものを疑っているかのような発言にヒヨリは「はぁ?」と首を傾げている。
リューシュも彼の発言を信じられないように目を丸くしている。
「ど、どーゆーことですか!」
「おかしない? それまで兄やんと一緒に居て、心配せんのが」
「それは二人の信頼関係でしょう?」
「いや、俺には違うように見えるけどなぁ。もしそうだとしてそないに吹っ切れてるわけないやろ」
「ちょっと、仲間を疑うってわけ?」
腕を組み、猜疑心の籠った瞳でミレーユに焦点を合わせる。
信頼関係があれど、少しの心配を見せるはず。にも関わらず、ミレーユは冒険に来ているかのようにお気楽で、悲観を一切見せていなかった。
「す、すみません……私の一挙手一投足が、不快に感じたのなら謝ります。ごめんなさい……」
「悪いんやけど謝っても怪しさちゅうんは消えへんで。俺は――ぐぉ?!」
何かを言いかけたところで鈍い衝撃がラーヴェルの後頭部を襲った。
少しの殺気を持ち合わせて振り返れば、魔法武器を手にしているヒヨリの姿が。手に持つハンマーのような鈍器で殴ったのだとすぐに分かる。
「おま、何するんや!」
「それはこっちのセリフよ! チームに亀裂が入るような真似をしないでちょうだい!」
反論しようとしたラーヴェルに対して、ヒヨリは手にしている武器をチラつかせる。
「グッ……はぁ、分かった。嬢ちゃんすまんかった。少し言いすぎた。俺も自分の言動に気をつけるわ」
「いえ、私も良くない箇所があったので……」
互いに頭を下げる。一旦、これで解決だ。
そして、再び遺跡地下探索を開始した。だが、その間もラーヴェルはミレーユの言動を鑑みてあれこれ予測を立てていたし、ミレーユの方も言動に気をつけ二度と無いように気を配っていた。
故に、チームには言葉では言い表せないぎこちなさが見えていた。
まるで意地を張っている子供のよう。蚊帳の外になっているヒヨリとリューシュはため息をこぼさずにはいられなかった。
※※※
数十分後、迷宮のような遺跡を歩いていたところ、ヒヨリは異質な匂いを放つ何かを感じとった。
匂いを辿り視界の端に、薄く細い魔力の残穢が飛び散っていることに気がついた。
「残穢……それも、二百年前……!」
魔力の残穢は年月が経過すればするほど、変わった匂いを放つようになる。
残穢を取り込み、経過した時間を解析したところ二百年前のものだと発覚。
ヒヨリはすぐさま全員の足を止めさせた。
「なんやねんちびっ子。トイレ行きたいんか?」
「なっ……失礼ね、違うわよ! 残穢よ! 残穢!」
彼女の言葉にミレーユだけが反応した。他二人は首を傾げ、互いに顔を合わせている。
すると、ミレーユも残穢の気配を感じ取りそれが二百年前――つまりは『忘姫』の出来事と関係があることに気がついた。
「儀式をしたのも嘘じゃないかもしれないわ。ここの地下、間違いなく何かある」
「残穢を追えば何かあるかもしれないですね。行きましょう!」
残穢の出処が一体どこなのか四人は追う。結果として、とある一室にたどり着いた。
扉を開けると、それまで建築直後のような綺麗さを保っていた廊下とは一変し、壁のあちこちが廃れ埃が充満していた。
咳き込みながら中へと入ってみると、部屋の真ん中に台座のようなものが。台座の上にはひとりでに浮遊している本がある。
惹かれるように四人は近寄り、台座の本をマジマジと眺めた。
部屋の雰囲気とは違い、その本は新品同様に美しい状態で保っていた。学者が見つけたら大喜びするような品質だ。
「手をかざせば何かあるかもしれないわ」
そう言って、ヒヨリがやってみるが効果なし。ラーヴェルもリューシュも。
唯一、二百年前と関わりがあるかもしれない人物がただ一人、候補に残った。
固唾をゆっくりと飲み、小刻みに揺れる手を本の上にかざす。
刹那、眩い閃光が部屋に広がる。全員が目を覆うこと数秒後――、
「――っ!」
四人の目の前にミレーユと瓜二つの少女が映し出された。
艶めく薄紅の長髪は腰まで伸ばされ、水晶の瞳には感情が乗っていない。薄手の衣一枚を着用したのみで、雑なブーツを履いている。
すると次は四人の背後から狼狽える声が聞こえてくる。振り返れば、老若男女、様々な人間がその人物に恐れ戦くように後ずさりしている。
次の瞬間、薄紅の少女が大地を蹴った。
そして――次々と人間を殺めていった。




