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47話 『定められた運命』

「もしかしてだけど、暗殺一族の家系だったりする?」


「それを聞いて――まぁそうだな……。私は人殺しの教育を施された人間だ。祖先は一日を生きるのにも必死で、パン一つのために人を殺すような人間だった。当然と言えば当然か、死にたくないからな。幸運なことに祖先は武勇に秀でいた。盗みをしても誰も捕まえることができなかったのは百戦錬磨の人間だったからだ。ある日、路地裏でくたばりそうなところを見つけてくれたのが――」


「アモデウス家の前家ってことか」


「祖先は前家に恩を感じ、一家総出で忠誠を誓うことを決めた。先程、魔法に頼らないと言ったがあれは半分嘘だ。初代は魔法使い、魔法を使わない武術体型を敷いたのが二代目。そこから脈々と受け継がれ、新しい技が造形、現在に至る」


「楽しい、なんてことは無かったよな」


「どうだろうな。幼少期の記憶といえば武術を教わったこと、人を殺し続けていたということをしか覚えていない」


「…………」


 トウマは振り返らなかった。今、自身の首に冷たい銀の刃があるからだ。少しでも動けば血が吹き出るだろう。裏切られたことを理解していないわけでは無い。普通なら込み上げてくる怒りや焦燥感が湧いて来ないのだ。

 微かに感じる火薬特有の臭い。首に当てられた刃を躱したところで爆風に巻き込まれるオチがありありと浮かぶ。


「なぁ転職しようぜ。まだ間に合うかもしれないんだしさ」


「転職? 今更何を言う、私が殺した人間の数は千を超えている。今更市井の民に混じり、普通の生活を送るなど無理に決まっている」


「やっぱりそうか……。一族に改革を、っていうのも無理か。名家に家督相続があるように、一族にも長みたいなのがいるんだろ? 族長にお願いします、って頭下げるのも無理なのか」


「先程も言ったように上は族長、下は末端に至るまで全員が暗殺を生業とする者たちだ。真っ当に生きるべきだなどと言えるはずもない。我々は生まれた時点で生き方は決まっていた。運命も、何もかも」


 鉛のように重たい言葉にトウマは何も返せなかった。恐らく、ダイシバは一族の長に違いない。本来ならば耳など貸すはずもないトウマの言葉に応対をしてくれるのだ。加えて、どこか悲しげであり刃が小刻みに震えている。

 和解の道はほぼ絶たれた。ダイシバは意見を曲げない。いや、曲げることが出来ない。長は一族の頂点であり代表だ。彼が膝を曲げれば一族は皆頭を下げることと同義だ。


「俺をどうする気だ? アモデウス家に引き渡すのか?」


「当たり前だ。我が主君がそれを望んでいる。抵抗するなら私は四肢を落とさねばならなくなる。それだけは避けたい、だから反抗なんて馬鹿な真似はしないで欲しい」


「だったらあんたが反抗しろよ。その決められた運命っていう籠から抜け出して自分の夢見る空に羽ばたけば良いじゃないか」


「死生有命。我が一族はアモデウス家と絶縁状を出されれば生きていけない。長として下の人間を飢えさせるわけにはいかないのだ」


「……やっぱり無理か」


「何故『転移魔法陣』で逃げようとしない。私を気づかっているのならば無用の長物だ」


「逃げないんじゃなくて逃げられないんだ。遠くまで飛ばせるようになったとは言え、微細なコントロールが出来るわけじゃない。俺だけを転移させることはまだ出来ないんだよ」


 とは言うものの、陣を描こうと何度も試したがその前に致命傷を負わされるのが目に見えていた。それ故、そもそも魔法陣を作成できない。逃げる方法はゼロだ。

 トウマは釈然としている。いつもと同じであれば暴れたり取り乱しするのだが今回は抵抗を見せない。ハナから諦めているということは無い。人を信用することに嫌悪感を抱きつつあったトウマは心のどこかでダイシバと境界線を引いていたのだ。


「もういいな。トウマ、仲間の女も恐らく私の同族が捕らえているはず。同じ牢獄には入れぬが行き着く先は同じだ。あの世で仲良くするがいい」


「なっ……お前――!」


 心臓がドキンッと跳ね上がった瞬間、初めて落ち着き払っていた様子を乱し、殺気が立ち上った。刹那、項に手刀を穿たれ意識が飛ぶトウマ。

 倒れ行くトウマを視界に入れつつ、拳サイズの『伝心貝』を取り出す。貝を耳に当て、声を発するダイシバ。


「終わったか?」


「終わりましたぁ。当主様、同じ場所に連れて行けば良いですかぁ?」


「念には念を、隔絶した空間に連れて行く。特にトウマは魔法が使えない『領域』の中に閉じ込める」


「分かりましたぁ。ただ、この女の子僕の推測ですが『忘姫』かもしれないです」


「……二百年前の大罪魔女か。悪いが用事が終わるまで監視を頼む」


「分かりましたぁ。お任せをぉ」


 ブツっと通信が途切れる。「さて」とグッタリと地べたに横ばいになっているトウマを見つめる。手に持っていた刃を収め、トウマを担ぎ上げた。先の見えない暗い森の奥地へと進みながら、


「……我々は共に最悪な運命を歩いているようだ。『異世界人』トウマ・カガヤ」



※※※



「……ここは、草原?」


 次にトウマが目を覚ました場所は絵に書いたような自然の暴力ばかりが見える大草原地帯。スイスの絶景に匹敵するほど、地平線まで続く緑の地面。波の立っていない海を投影したような雲ひとつない蒼空。

 人生で一度だけで良いから見たいと願っていた世界がトウマの目の間にある。願いが一つ叶ったということに気がついた時、トウマは言葉を失った。ようやく、自分の感情に整理が着いた時、一歩踏み出した。


「すげぇ、マジですげぇ…………」

 

 靴底に感じる硬い地面。頬を撫でるように吹く微風。鼻腔を刺激する自然の香り。世界ってすごいとトウマは思った。果ての無い草原を無意識に歩き出していたことに気がついた時、視界の端に何かがチラついた。


「あれ? 誰かいる、女の子かな?」


 緑しかないこの地に、唯一ある黄色のグラジオラスを愛でる少女の背中。黒曜石のように艶やかな髪が風に靡かれ、甘い香りがトウマの鼻を刺激した。


「あの、ここってどこか分かりますか?」


 トウマが声を掛けると少女はシルクローブの端に付着した土を払いながら立ち上がる。驚いたことに、少女とは言ったもののトウマと大差ない身長であった。女性がゆっくりと振り返る。


「ようこそ、ボクの世界に」


「ボクっ娘か珍しい……。ボクの世界って、この世界を創り出したのはまさか君?」


 七色の光を瞳に宿す女性は「そうだよ」と首を縦に振る。自称呼びから服装、瞳の色、世界の話など困惑する要素が多いためかトウマは警戒を一レベル上げる。

 体が硬くなっていることに気がついた女性はクスッと微笑むと細く白い指で髪を弄りながら、


「警戒しないで欲しいな。ボクと君の間柄じゃないか」


「……? 俺たちどこかで会ったことあったけ? だとしたらごめん、覚えてないかも……」


「まぁ当然と言えば当然かな。ボク、なんて呼んでなかったし正体を明かすこともしなかったしね。ボクはずっと君の中にいたんだよ。魔力を渡して君が魔法を使えるようにしたり、魔法陣について学びを共にしたり、言語読解を可能にしたり――」


 明らかになる一つ一つの事実を耳に入れる度、トウマは口と目を大きく開く。目の間にいる黒髪の女性はずっと自分と生活していた精霊なのだ。小さな粒子から人間の姿に変身、化けるなどということがあるのか、とトウマは信じられなかった。


「少しいい頃合いかと思ってね。君を呼んだんだ」


「呼んだって、お前俺が今どんな状況か――」


「君こそ今世界がどういう状況か……まぁ後で良いか。今ここで死なれたら困るんだ」


「だったら早く俺を元の世界に帰らせてくれ。一刻を争うんだ」


「まぁゆっくりお花見といこうか。ボクは君としたかったことが多いんだ」


 意味不明な発言にトウマは眉間に皺を寄せる。サーっと流水のように腕を動かすと周囲に桜の木が出現。パラパラと花びらが舞い降り、転移直前の記憶がトウマの脳裏を過ぎった。祖父母と共に花見をしている最中に転移したことをトウマは今でも恨んでいる。

 おいで、と手招きしている精霊を見るとレジャーシートを木の根元に敷き、サンドイッチを手に持っている。呑気なものだ、そう思いつつトウマも腰を下ろした。


「はい、君の分だ」


「お、おう。でも俺急いでるんだ」


「大丈夫、ここの時間の一秒は向こうの世界での何千分の一だから」


 時間軸のズレを説明されたトウマはようやく胸を撫で下ろした。何も問題無いのならばと思ったトウマは貰ったサンドイッチを口に運ぶ。豆腐のように柔らかいパンに挟まれたレタスのシャキシャキ感、トマトの酸味が絶妙にマッチしている。ハムに関しては言うまでもない。野菜にプレスされつつも自分を主張するハムがこのサンドイッチの主役だろう。


「美味いな、宿で食べた料理よりもこっちを毎日食いたいなー」


「嬉しいことを言ってくれるね。ボクとして最上級の褒め言葉だよ」


「どうも。で、何を話したいんだ」


「ゴクン。そうだね、ボクが一番に言いたいことを端的に伝えると――今すぐミレーユから離れるんだ」


「……は?」


「警告する、今すぐミレーユという少女から距離を取るんだ。絶対、君は、かつてないほど、自分を殺したくなるほど、後悔する。これは、定められた運命なんだ」


 凛とした雰囲気から一転、重苦しい空気を纏った彼女が言い放った言葉を信じられなかった。虹色の瞳は鋭いナイフのような眼光を放っていた。



 

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