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46話 『すれ違い』

 北門からトウマらがいる森林地帯の距離は凡そ三、四キロ。だがこれはあくまで直線であった場合。ここは未開拓地。いわば道など整理されていない。


 トウマもダイシバも初見。故に、追いつかれることが多々ある。その度にダイシバが懐から小型爆弾を取り出し敵へと投げつけていた。


「シュ……」


「ぐぉぁ!!」

「き、気をつけろ! 爆弾だ!」

「そんなこと分かってる! だが見えん!!」


「我が一族は古来より魔術などというヘボに頼らず自力で生きる術を見つけてきた一族。至高の領域にある技術を貴様らごときの者が破れるほど易くはない」


「何そのかっこいいセリフ?!」


 ダイシバが扱う爆弾は煙幕と何かを掛け合わせたものだ。それが何なのかトウマには依然として不明だ。死滅することもあれば、超音波が響いたり、毒が入っていたり、催涙ガスのようなものがあったり、棘が飛び散ったりと忙しかった。


 そんなこんなで木々の間を走り抜けること数分、壁にぶつかった。


「あだっ!?」


 と言ってもぶつかったのはトウマ一人なのだが。目の前に壁など見当たらない。だが、何かがある。


「まさかこれがぬりかべというやつか……」


「恐らく領域だな。しかもかなり高度な技術で作られた」


「領域? 領土の話は後回しに――」


「違う。結界で覆われた内側の事だ。私たちを出さないために結界を貼ったんだ。烏合の衆ばかりかと思ったがそうでは無いらしい、腕の良い魔術師がいるに違いない」


「それって、ゲホッ、俺たちにとって不利じゃないか? 出るのに時間が掛かりそうだな、まずいな」


「不利? 何故だ、今ここに結界術の弱点を付くことが出来る人間がいる」


 泣き言を呈するトウマに対し、当たり前のように彼の意見を否定するダイシバ。ゆっくりと人差し指を立て、誰かにそれを向ける。


「え、俺? 俺がこの結界を破る鍵を握ってるって? バカ言えよ、ついさっきまでこの街のことについて何も知らなかった奴だぞ」


「物分りが悪いというよりも記憶力が悪いのか? 『転移魔法』を使える人間は誰だ」


「あ、なるほど……。でも、本当に結界を通り抜けることが出来るのか?」


「別にその魔法を使う必要は無い。そうなると結界を力づくで破る必要があるのだが、破壊されたことは直ぐにバレるだろう。そうすればまた追われる。それを避けるためにトウマ、あんたがいるんだ。あんたにしか出来ないことだ」


「……照れるじゃねえか」


 口をへの字に曲げ、顔を少し赤くするトウマに対し「早くしろ」という眼差しを向けるダイシバ。それを感じ取ったトウマは地面に魔法陣を描き始める。


 今回は二人分入れるくらいの大きさだ。使用する魔力量も多いだろう。それに関しては精霊が供給源なためトウマには問題ないが……。


「よーっし、出来たぞ」


 領域を跨ぐだけなため転移する距離は縮めている。無駄な魔力出費は避けなければという主婦視点がトウマにはあった。


「なるほど、これが『転移魔法陣』……初めて見るがこんな感じなのか」


「俺もつい最近知ったんだけど、割と楽しいんだ。ちなみに、俺以外が使うのはダイシバが初めてなんだ。おめでとう初の乗客だ!!!」


「何もめでたくは無いと思うんだが……さぁ行くぞ」


「あいよ、じゃあ成功しますようにっ!」


 言霊に祈りを込めたが、恐らくは成功するとトウマは思っていた。まだまだ日が浅いが一度も失敗していないから、という自信がどこかにあったのだろう。


 精霊から魔力を受け取りつつそれを魔法陣に流し込む。すると、眩い光が二人を包んだ。数秒後、景色はほとんど変わらないが確実に領域の外側に出ていた。


 一応念の為とトウマが後ろに向かって歩いたが、見えない壁にぶつかった。つまり、転移成功だ。


「うっし! 大分慣れてきた、このままいけば!」


「…………」


 自身の心で湧き上がる自信を感じたトウマが小さくガッツポーズ。トウマの様子にダイシバは若草色の瞳を細め、何かについて思考を巡らせていた。


「よし、行こうぜ!」


「あぁ、そうだな」


 背中を向けるトウマに、ダイシバは自身の懐に手を入れ何かを取り出そうとしていた。



※※※



「……っ、ここで何が」


 時を同じくしてミレーユはとある場所にたどり着いていた。それはダイシバが初めて煙玉を投げた場所。おびただしい量の血と人の死体。全て、顔が何かに貫かれたように穴が空いている。


 加えて真っ白な白煙や、火薬のような臭いが残っていた。


「火魔法で爆発を起こすと火薬の臭いはしないので、爆弾か何か投げたのでしょうか……もしかして、先程の熱気はこれ……?」


 彼女が『温熱検出』で森を走っている中、一度だけ凄まじいほど熱が上がった場所があった。距離的にもここで間違いは無い。これがトウマの仕業なのか、いや彼には不可能だ。ならば誰が――そう思った時、


 


 ズザッ


「……っ!」


「おやぁ、生き残りがいたとはぁね」


 光をも吸収しそうなほど暗い黒衣を纏った痩せ型の人物。衣とは真反対である新築の家の壁のように白い髪をポニーテールにしている特異さが歪さを体現している。


「その仮面は……」


 何よりも目を引いたのが純金から成る仮面。刺青のようなものが入った仮面を被っている者たち。それは――


「『雲卿会』ですね」


「あらぁ、知ってるんだぁ。以外以外だなぁ。僕って有名人だったりするぅ?」


 ヌルッとその人物が前のめりになった瞬間、大地が小刻みに揺れた。ミレーユは咄嗟に後ろへと下がる。同時、硬い地面を真っ二つにしながら偃月刀が飛び出した。


「おっとぉ、反応が良いねぇ。女の子にしては動ける方だぁ」


「どうして私を襲うんですか?」


「うーん……まぁ良いか。実はさぁ当主様からトウマって男を殺せって言われたんだけどぉ、もう一人仲間がいるから僕はそっちを襲えって言われたんだぁ。君で合ってるよねぇ?」


「……(早い、あまりにも早い……誤魔化すのはもう無理、ですよね)」


「あれぇ? この間って間違って無いということだよねぇ? 女の子、名前はー?」


「女の子、って呼ぶのは少し礼儀を欠いていると思います」


 呼び方がミレーユの神経を逆撫でした訳ではないが彼女は氷魔法で武器を生成。水晶よりも水晶らしい双剣。岩よりも固く、絶対零度の冷気を放っている。


「へぇー、あぁーもしかして『忘姫』って君のことかなぁ?」


「……?」


「あぁっと、『忘姫』っていうのはぁ、二百年前まで存在した南側諸国のお姫様のことなんだぁ。

 王族出身でねぇ、髪色と瞳の色がぁまさに君なんだぁ」


 薄紅色のロングヘアーと西洋海のように心を掴まれるほど美しい水色の瞳。それを指摘する男に対し、ミレーユは少し困惑を覚える。


 だが驚くべきことに彼女はそれを否定しない。ミレーユも件の姫について少し知識がある。自分と全く同じ容姿を持っているためもしかしたら、と何度も思った。


 加えてその考えを助長したことがある。


 それは――ミレーユという少女は自身の出自について一切記憶が無いのである。


「あれれぇ? また正解なのかなぁ。僕は昔から勘が良くてさぁ、その点だけ見れば当主様を凌駕するんだぁ」


「そうなんですね。私は興味は無いので――」


「うっそだぁ。君がこの街でしてたこと僕はぜーんぶしってるんだけどぉ?」


「私的なことにまで踏み込むのは礼儀がなってないですね。『雲卿会』の人は武術は教えられても礼儀は教わらないのですか」


「それってぇ皮肉ってやつぅ? 許せないなぁ、当主様をバカにするなって教わらなかったぁ?」


「先程から口にしている当主様とは誰のことなんでしょうか?」


 徐々に熱気を帯びつつあるこの状況でミレーユは軽い探りを入れる。これまでの問答で相手側が口の軽そうな正確である、と予測を立てたのだ。すると、彼女の予想通り男は、


「当主様は今頃、トウマっていう人間を捕まえてるよぉ。歴代最高で最強のあの人の前ではだぁれも勝てない」


「……っ、信じないですね。彼はそう簡単にやられる人ではないので」


「どうなんだろうねぇ、世界に災いをもたらした『忘姫』の信頼なんてゼロに等しいねぇ」


 そう言って男は低く構え、ミレーユはギュッと双剣を握った。

 


 




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