44話 『自称天才』
大森林のとある木の幹。全体重を預け、自身の家のベッドに横たわっているかのように眠る青年。背中に固いものを感じつつも嫌な顔一つせず心地よく眠っている。
日差しがチラッと彼の顔に差し込むとその青年は目を覚ました。昨晩の疲れが未だに顔に残っているが顔色は悪くない。
「もう朝か……ここは、あぁそっか幹の上にワープしたのか」
昨夜、二度目のワープにてこの場へと降り立った。ミユという自分を何故か憎んでいる少女から逃げるために。
「一応逃げたは逃げたんだけど……」
少し引っかかりを感じつつトウマはポケットに手を入れる。長方形の何かを掴み、取り出す。真っ黒な『手帳』である。題名は『FFの手帳』、全くもってこれが誰のもので何故自分に与えられたのか不明である。
中を開き最新の未来が書かれた箇所をマジマジと見つめるトウマ。
「やっぱり、か……」
『トウマ・カガヤはミユに殺害される』
1.彼女を殺める
2.生存確率30%を信じて逃げる
全くもって同文。一言一句違わぬもの言い。
死の淵まで追い込まれたのだが、今思えば軽かったようにも思えたのだ。予想していはいたが、やはりため息をこぼさずにはいられない、とトウマは思いながらポケットへとしまう。
「これからが本番ってとこか……ゲホッ」
ともかく今日の目標を整理せねば、と未だに眠気が残る脳をフル稼働させる。
まず地図が欲しい、とトウマは思った。闇雲に歩き回ったところで意味がないのは百も承知だ。今どこにいて、城門はどこにあるのか。可能ならば自身の敵の居場所も教えてくれるチートを、と思ったが流石に無理か、と諦める。
地図がある無いにしろゴールは変わらない。ミレーユと共にこの街から退去する。彼女一人を置いていく訳にもいかない。そんなことをするほどトウマは落ちぶれていない。
「地図は……何か応用出来ないかな。魔法がイメージの具現化ってことなら出来るんだが……まぁ、ゲホッ、それも模索しながら歩くか」
精霊に聞けば良い、と思い自分の胸に手を当ててみたが起きている気がしない。まさか昼夜逆転という最悪な生活習慣が形成れつつあるわけないよな、と思いつつとりあえず寝かせることにしたトウマ。
「地図が手に入らないなら高く飛びたいよな、そうすれば場所なんて余裕で判明するのに。あわよくば目的地までひとっ飛びー、なんてな」
某国民RPGゲームの伝統技が頭を過ぎったがそんな技術は持ち合わせていない。
「……殺す、か」
今までのは全て昨晩の出来事を忘れるため繕っていたもの、という訳では無い……。
戦闘不能に追い込めば良いとあの時、口にしたものの果たして本当にそれが出来たか怪しい。
それが出来ないのであれば殺すなどと大それたことなんて出来るわけがない。が、向こうは本気で殺しに来る。今更前言撤回など出来るけがない。
「今日で抜け出せば良い……。そうだ、今日で逃走成功させたら良いだけだ。うんうん、いけるいける!」
自分を無理やり叱咤しながらトウマは幹から下りる。こういう時は下手に怯えたり、ゆっくりと下りようとするほど怪我をする。思い切った方が良いのだ。
何事もなく無事に着地、大きく伸びをする。
「逃亡生活二日目、今日でミレーユと逃げる。行くぞ冬馬輝!」
勢い込んで今日も元気良く走り出したトウマ。走り出した方向は……街の市街地がある方向だった。
※※※
「ここら辺全くいないですね、どこに行ったんでしょうか」
パールの言葉に耳を貸さず走り出したミレーユは大森林に開拓された街道を走っていた。無論一人、と思っていたのだが後ろから誰かの気配を感じた。捜している人かもしれない、そう思ったミレーユは振り返るのだが、
「あなたですか、まだ何かありますか」
「い、いや僕を……はぁ、はぁ……この五つの『称号』を持つ僕の告白を捨てて、勝手に走り出すのは……礼儀がなってないから……」
疎まし気な眼光を浴びられた青年はパール。彼はミレーユの後をずっと追いかけて来ていた。彼の服装を見るに学生、時間帯はもう登校時間だ。にも関わらず彼は何しているのか、そう思ったミレーユは聞く。
「学校は良いんですか? 登校時間ですよね」
「フッ、この僕ほどの人間ともなれば自由登校が許可される。僕はね、学校にいる数少ない特待生なのさ」
「特待生は授業を免除されるんですか?」
「その通ーり! 僕だけの特権、五つの『称号』を持つ僕だからこそ出来ること。だから行かなくても良いのさ。どう? 僕と一緒に来ないかい?」
「優秀な生徒であるならもっと貪欲に授業に出た方が良いですよ。先程も言ったように私は人を捜しているので」
大人しく引くと思われたが返礼の言葉として来たのが少しの自慢と先程と同じ言葉。少し期待した自分が間違っていたと肩を落とす。
再び捜す、と思ったがこのまま『温熱検出』を用いての捜索は少し非効率なのではないか。広大な森林地帯を走ることは極めて面倒だし時間が掛かる。
「空が飛べたら良いんですが……」
ミレーユは初めパールと接触した際、少し浮遊した。彼女の浮遊魔法にも限度があるせいぜい二、三メートルが限界だ。それで木よりも上空に行けたら良いのだが……。
「もう一度宿に、と思ったんですが無理ですね。あの女の子に敵対意識を持たれてしまった以上、私も迂闊に歩けなくなってしまいました……」
今朝の出来事が無ければと思ったが既に起きたことは仕方ない。やはり、歩いて捜し回るしかないのか……そう思っていたところ、
「人を捜しているのならこの天才にお任せあれ。どんな魔法も巧みに使いこなし、教科書を網羅出来るので!」
(……この人に頼るのもあり、かもしれないですね。彼は今日一日時間がある。話だけ聞くのならありかもしれないです)
「では天才さん、人を捜す魔法を教えてくれませんか?」
「もちろんっ! 僕となればどんな事も出来る。君、『温熱検出』を使ってるだろう?」
「気づいていたんですね」
「当然だよ。一目ぼ……ゲホンゲホン。一目見た時から理解していたとも。確かに人を見つけるのに持ってこいだけど効果的ではないね。何かというと――」
自分の得意になったのか、パールは胸を張って大々的に話し出した。
「ずばり、飛翔することが欠けているっ! 空を飛べさえすればより効率的になる。ちなみに、僕は杖無しで五メートルは飛べる。だから僕が君を背負って――って、待ってよ!」
再び話を聞いた自分が間違いだったと思い、話の途中で身を翻したミレーユ。天才と自称する故、何か斬新な発想が聞き出せるのかと思ったが自分と同じ答えだった。
が、このまま走ればやはり体力の消耗が激しい。少し、飛んだ方が楽か、と思った彼女は魔力を足下に込めた。そのまま体は宙に浮遊。後は進みたい方向に行くだけ。
遅れないようにとパールも同じように浮遊し、ミレーユの後を追う。その中で彼は口を開く。
「捜してる人って知り合いなんですか?」
「……はい、そうですよ」
「もしかして彼氏、なんてことは無いですよね!」
「違いますが……どうしてそんなことを聞くんですか」
「いやー気になったから?」
「そうですか」
「それよりもしかしたらもう君を置いて街を出ちゃったんじゃない? だとしたら凄い薄情な奴だよね、ていうか捜してる人って男?」
「…………」
パールの言葉にどこか棘を感じたミレーユは体を反転。「おっ?」と少し驚きと嬉しさが混じっている顔を浮かべるパールに向けてミレーユは、
「アイニス・ヴィンド」
右の掌をパールに向け詠唱する。すると、吹雪のような冷たく細かい粉末が彼を襲う。咄嗟に腕で防御、だがミレーユの方が早い。そのまま魔力を垂れ流しにしすると、瞬時にパールの体が氷に覆われる。
「ちょ、な、何するんだ!」
「彼のことを知らないあなたにあれこれ言われる筋合いはないので、それとあなたに手伝って貰おうなんて思ってないのでさようなら」
辛うじて全身が凍ることは無かったが暫く身動きは取れないほどパールの体は氷漬けにされた。狼狽えるパールに氷以上に冷ややかな視線を向けたミレーユ。
その後振り返ることなく飛び去ったのは言うまでもない。
「何だよ……。ま、まぁこれが俗に言うツンデレってやつ?」




