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42話 『譲れぬ矜持』

 陽の光が街全体を照らす朝時。街全体が未だに眠気に覆われ活性化していない頃、既に兵士達は目を覚ましていた。というより交代制のため一人が永遠と起きていたわけではないのだが。


「トウマさん……」


 仲間の名前を口にし、眉を垂らす薄紅色の少女。宿を兵士が見張っているためミレーユも昨晩は近寄ることすら出来なかった。幸いなことはトウマと同じように指名手配されていなかったことだろう。


 彼女は昨晩、日の入りの刻から日付が変わるまでトウマを捜していたが見つけられず北側の未開発場の草原が広がる場所で眠った。


「こういう時のために、連絡用の『伝心貝』を渡しておくべきでした……」


 『伝心貝』は遠く離れた人と連絡が取れる魔法道具である。距離は500mの範囲であれば不自由なく連絡が取れる優れもので、冒険者の必需品とも言える。欠点といえば二つで一組なため、他の貝で代用が利かないことだろう。


「アモデウス家、いえサラディンには兵士なんて居ないはず。となればあれは他の都市からやって来たのでしょうか?


 それがたまたま私とトウマさんが泊まっている宿に? 可能性としては無くはありませんが……『雲卿会』は黒衣だったはず、ではあれは……?」


 ミレーユは『雲卿会』のことについて深く知っている。いや、彼女に限らずサラディンでは常識でもあるだろう。


「今は捜さないと……」


 未だに寝ている体を起こそうと軽いストレッチのように手足に伸びをさせるミレーユ。トウマの安全を確保するため、彼女は『温熱検出』を使用する。生物は誰しも熱を持っている。このことを利用した検出方法である。


 周囲がモノトーンになり、周囲より温度が高い箇所は色が変色するのだ。回りに視界をやれば、森の奥深くで小さく色が変色している箇所がある。朝からそんな場所に行くであろう人は一人しか考えられない。


「そこですね、見つけましたよ」


 ザッと力強く大地を蹴り抜くと赤色に変わっている場所目掛けて走り出した。



※※※


 

 ここはサラディンの開発途上地の森林。

 喪失感が抜けず中々寝付くことが出来なかったミユは快眠できそうな場所を求めることなく冷たい地面に横になっていた。


 慣れない環境や普段と違って起きている時間が長かったことなどのせいか、彼女の顔色が少し悪く見える。ジュラルが見たら大慌てだろう。


 真っ白なローブに土を付け、悪夢でも見ているのか少しうなされている。そこへ登場したのがミレーユだ。


 ミレーユからすれば主人に不要と判断され捨てられた子猫である。彼女は急いで近寄り、安否確認。軽く肩を揺すれば湖のように透き通る瞳を細く開く。


「んぅ……誰……?」


「ここで何してるんですか、大丈夫ですか?」


「……ハッ! トーマ、トーマどこ!」


「トーマ?」


 目を覚ますや誰かの名前を口にする。アーモンドのように大きな瞳には憎悪が宿り、鋭い門歯がキラリと輝く。まるで、獲物を逃した猛獣のようである。ミレーユの手を握りながらミユが血相を変えた。


(まさかトウマでしょうか……だとしたらこの子はあの兵士の仲間? でもこんな幼い子が……)


「どこ、どこ! ミユ寝ちゃった……もう!!」


「お、落ち着いて。誰を捜してるの?」


「お姉さん、トーマって人しらない? まっくろーい髪で、変な服着てる男の人!」


 特徴全てがミレーユの知るトウマと一致する。珍しい黒髪を持つ人間など世界を探しても一人しかいないであろう。


 生憎とトウマは彼女の旅仲間だ。敵に売るわけにはいかない。ミレーユは首を大きく振りながら淡々と返答する。


「さぁ、私には誰のことなのかさっぱりですね」


「……嘘つき」


「……? ……あっ!」


 自身の手を握っていたミユの手のひら。

 そこから微量ながらも魔力を感じ取ったミレーユ。発動された術式を彼女は直ぐに分析。やられました、と彼女は心の中で呟く。


(『虚言開示』、幼いのにこんな難しい魔法が使えるなんて……!)


 『虚言開示』は対象と肉体的接触がある場合のみ使える魔法で、相手が嘘をついているか判断できる。対象との繋がりは精神に至るまで必要で、繊細な魔力操作が必要である。


 ゆっくりと立ち上がるミユ。その声色は童顔に似合わない低い声だ。


「お姉さん知ってるよね、トーマのことについて。教えて、そしたら助けてあげる」


「悪いけど私も譲れない、彼を死なせる訳にはいかないんです」


「トーマ許さない。絶対許さない。もう、本気で怒った」


 体内から大量の魔力が溢れ出すミユ。それを直視しているミレーユは顔が渋くなる。それらは全て憎悪という感情から来ている最悪の魔力変換。


 感情の暴発による魔力変換は通常の魔力と異なり殺傷能力が高い。時には防御貫通があるため油断は出来ない。


「イグニス!」


「……っ!」


 豪速球で放たれた火玉。それは真っ赤ではなく黒炎。黒いのは憎悪が宿っている証拠である。

 

 ミレーユは不意をつかれたものの、草に飛び込んでそれを回避する。だが回避すれば、燃えやすい自然に着火する――。


「あっ……! ダメ!」


 自身が避けたことで一本の樹木が火を纏う。黒煙を立ち上らせ、すぐに周囲にも火が移る。森全体が燃えてしまう。そう思ったミレーユはその一帯全域を覆う程の水魔法を発動。ジュッという鎮静化される音と消える黒炎。


 だがしかし、ミユに背中を見せてしまった――


「お姉さん、トーマってどこ」


(速い!)


 本物の猫のように四足歩行で迫るミユ。先っぽを火で生成した短剣にした杖を口に咥えながら、ギラリと鋭い眼光をミレーユに浴びせる。


 同じく氷で短剣を作ったミレーユ。だが、猫耳族最大の特長である速度を凌駕出来るほど素早く作成出来ない。


 完成度80%くらいで相性の悪い魔法剣を防ぐことは不可能だ。地面から猛獣のように飛び上がったミユは口にあった杖を利き手に渡す。やはり速い。ガードが間に合わない。


「シャァァァァアア!」


 完全に野生動物と化したミユのひと薙ぎはミレーユの短剣を粉々に打ち砕いた。その衝撃を未完成な武具で防げなかったミレーユはその場に尻もちをついてしまう。


「うっ……!」


 腰と地面が勢いそのままに接触し鈍い痛みが走る。だが、ここは戦場。休憩など許されるはずもない。目を光らせ、二本の鋭利な牙を見せるミユ。ピンッと逆立った紫の猫耳は怒りを表している。


「ヒュニス・テムノー」


 バッと振り払った瞬間、空間を割りながら風魔法が放たれる。『テムノー』の修飾句は『斬撃』、二対の鎌鼬が地面に腰を付けているミレーユに迸る。


 防御はほぼ不可能。しかも斬撃だ。防御が破れれば体を裂かれるかもしれない。これは回避――初撃を避けたがもう一つ。見えないように配置された刃の攻撃。


 だがミレーユとて伊達に魔法の戦闘経験を積んではいない。彼女は悪なる組織である『正理機関』の幹部をたった一人で撃退している。その事実は誰も知らないとはいえ、彼女の中で一つの大きな経験として残っている。


「風と相性が悪いのは雷! ブリッツ・テムノー!」


 目には目を歯には歯を。というように斬撃には斬撃で返礼するミレーユ。彼女の目の前でボッと小爆発が起こり、風魔法は遮られた。しかし、再び地面を駆ける音。


 二度も同じ手に掛かるほどミレーユは甘くない。未だにジンとした痛みが走る腰を曲げ、地面に手を当てる、


「アイニス・ボーデン!」


 湖に冬が訪れたようにパキパキと音を立てながら大地が氷へと化ける。


「……に”ゃっ!」


 草地を走っていたミユは地面が氷に変わったことにより思ったように走ることが不可能になる。重心がブれ、右へ左へと制御不能に。対抗策として魔法で指先の爪を鋭利なものへと変化。


 黒板を引っ掻くような嫌な音を響かせながら彼女は体軸を安定させにかかる。彼女の意識は自然と足元に集中してしまう。ここで、攻守が逆転する――


「アイニス」


 修飾句の無い、普通の氷魔法の弾幕が放たれた。ミレーユはミユを殺すつもりは無い。故に、氷塊の先端は平坦となっている。


「……っ! デフォルトォ!」


 獰猛になりつつあった幼い少女の顔が初めて強ばった。咄嗟の防御魔法。ガンっと重低音を響かせながら氷の弾雨を弾く。だが、その重さと量は咄嗟の防御では防ぎきれない。やがて亀裂が入り、崩壊。氷塊がミユの額を捉えた。


 氷が砕け、ミユの真っ白な額に赤が走る。鈍い衝撃と痛みを覚え、仰向けに倒れる。


「ごめんなさい、どうしても譲れないの……」


「うぅっ……ミユだって、譲れない! ミユが、トーマを取るの!」


 幼い少女の双眸に宿る深い憎悪、たった一晩でそれが誕生したとは到底信じられない。


 ミユは起き上がり、再び迎撃の構えを取る。額から鮮血を垂らしながら杖をギュッと握り、ミレーユを睨みつける。


 ミレーユが来ている衣の背中には鳳凰が刺繍されている。この世界での鳳凰は『調和と愛情』を象徴する生物。その時、橙色の鳳凰の瞳が怪しく光った。


 それを感じ取ったのか、ミレーユはピクリと反応する。ギリッと奥歯を噛み締め、強い意志を水晶の瞳に宿らせ手のひらをミユへと向ける。


 ミレーユの纏う雰囲気が変わった。彼女が神に成り代わったように神々しい存在に見えた。


「我は天より舞い降りし双肩の――」


「――お嬢様ぁ!!」


「「っ!!」」


 ミレーユが謎の詠唱を始めた瞬間、老齢の主を求めて叫ぶ誰かの声が森中に響いた。


 

 


 






ミユは半獣半人で、体の一部を猫のように変化させられます

聴力を上げたり、足の速さを上げたり、爪を鋭くしたり……etc



情報過多なため整理します


『伝心貝』

遠く離れた人どうし連絡が取れる魔法道具。トランシーバーのようなものです。


『温熱検出』

温度が高い箇所は真っ赤に変化し、生物がいることを感知できる。サーモグラフィーをイメージしてください。


『虚言開示』

被使用者と相手と肉体的接触があること、精神まで繋がりを持つこと。

この二つの条件を満たした時、相手が直前に吐いた言葉が嘘か分かる。


イグニス=火魔法

ヒュニス=風魔法

アイニス=氷魔法


テムノーは『斬撃』の修飾句

ボーデンは『地面』の修飾句

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