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41話 『記憶にある君』

 人の本質的な死とは一体何か。そう問われた時、多くの人が『忘れられた時』と答える。これは世界共通の認識と言っても良い。


 異世界での死はどうか。それは分からぬ。想像の世界であった異世界では分からない、というのが答えだ。空想上だと思っていた世界に降り立ったトウマも恐らくそう思っているはず。


 向こうの世界基準に則ればトウマの中のミユは死んだ。

 だが、この世界基準であればミユは死んではいないのかもしれない。


 実体としては生き続けるが、生物としての輪郭を捉えられないトウマにとってミユは死んでいるのではなく知らないと言った方が良いのか……。


「うっ、ぐぉ……!」


「……っ!」


 あれほど憎いと言ったのに、自分を殺そうとしたのに。トラウマを蘇らせたのに、忘れられたというのに……。


 突如として悶える声と共に額を抑えたトウマを見てミユは少し戸惑ってしまった。


「くっ……キル、バーン!!」


 脳の新神経の痛み。神経系は地球の技術を持ってもブラックボックスなことが多い。無闇に脳を開き治療をすれば二度と目を覚ますことは無くなる。


「がぁぁ! くっそ!!」


 槍で小突かれているような感覚。まだ針なら耐えられたかもしれないが、到底耐えられそうもないトウマ。


 逃げようにも逃げられぬ。助けを求めようにも誰も助けてはくれぬ。この街には敵しかいないからだ。このような深い森で助けを読んでも魔物と勘違いされるのみ。


『時には哀れみの情を掛け、楽にしてあげるのも狩る側の責務だ。苦痛を見て、楽しいと思う人間は人ではない』


 かつて兄と魔物狩りに出た際に教わったことがミユの脳裏に過ぎる。立場上、ミユは狩る側でトウマは狩られる側だ。


 力の無い、息も絶え絶えなトウマ。苦しみより助けるために楽にする。これこそが最善手なのではないか。そう思ったミユが少しの迷いと共に一歩前に出た。


「ぐぉ……」


 やがて自分の目の前までやって来た幼き少女をまるで獣を見るような瞳で見上げるトウマ。絶望を宿し小刻みに揺れる黒目。胃に重たい物が沈んでいるような気持ち悪さ。


 木製の杖を額に当て、魔力を込める。氷だ、冷たく情が乗っていない冷ややかな氷刃。大粒の涙を流し、言葉に妬みを載せながら、


「さようなら」


 似たような情景と重なる――


「がぁぁぁ!」


「――ッ!!」


 額が貫かれる直前、トウマは自らの真下に転移魔法を発動。その陣を描く速度は以前の何倍も速い。描き、手を置き、魔力を流す。死という恐怖がアドレナリンを大量分泌させ、超人的な行動を可能にした。


 ここは森だ。地面よりも木の幹に降り立つ方が良い。そう思ったトウマは最も近くにあった木へとワープした。


「ど、どういうこと……? 消えた……?」


「精霊の言う通りだった」


 バッとミユが振り返れば大地に膝を着いていたトウマが同じ姿勢で幹にいる。


 何かを諦め、悲しげな声色でトウマは彼女を見下ろす。


「あんたは狂ってる……対話なんていらなかった。例えそれがかつて俺の記憶にあった君でも、そうでなくても……もうどうでも良い」


「ミユの優しさだよ! 苦しんでるからせめて楽にしてあげようって! 自分の気持ちをグーっと抑えたのに、なんで――」


「感情を抑えられたなら逃がしてくれよ。何で殺そうとするんだよ……俺が何したってんだ! 初対面の君に何をしたっていうんだよ!!」


「……」


「黙り、か……。もう良い、知らない。信用しない。良心に従わず、精霊の言うようにしていればよかった。君は、俺の記憶になんて初めから存在してない」


 トウマの口より宣告された言葉は死刑よりも重く、苦しかった。受け取ったミユは口をワナワナ震えさせグッと小さな手に力を込める。


「次会った時は君が俺を殺そうとしたように、俺も君を殺す。和平交渉なんてしない(勝てるか知らないけど見栄は張っておかないと……)」


「待って!!」


 転移魔法を発動させようとした時、ミユがストップを掛けた。これ以上は蛇足だと思い立ち去ろうとしていたトウマは一瞬だけ手を止めた。


 しかし、もう決めたことだ。男なら一度決めたことは曲げるべきではない。やはり先程のような速さで発動は出来ないため、トウマは手動で魔法陣を描き始める。


「『正理機関』と対峙したのはほんとっ!?」


「知らねーよ、それが理由だとして答えは変わらない。じゃあな」


 幹に自分が入るくらいの魔法陣を描き終えたトウマは魔力を流す。終わりだ、もう。今宵の一幕は終焉したのだ。


 淡い光が森一帯に煌めいた直後、もうトウマはそこにいなかった。ただ一人残されたミユはトウマがいた場所を惜しそうにずっと見つめていた。


「そんな…………」



※※※


 

 魔法陣で森を後にした、と思われていたが現状で最大三十メートルが限界のトウマは森を抜けられず再び幹の上に移った。


「ぬぉぉ……精霊」


 堪えていた頭の痛みに悶えながら自分の内側にいる生物を呼び起こす。丁寧な口調で落ち着き払った声色で「はい」と返事をする精霊に、


「お前の言うように狂ってた……殺す側の人間のくせして情を見せた。死にたくなかったからっていうのもあるかもしれないけど、情を見せるくらいなら助けろって話だろ。情けをかけといて殺すのは殺人者と同じ思考だ……狂ってる」


『ですので申し上げた通りでしょう? 今回の件で彼女は本気で貴方を殺しに来ます。次は容赦する必要はありません』


「人を殺すのと魔物を殺すのは違うか? なるべく殺生はしたくない、出来ても戦闘不能くらいだと思う……」


『確実に殺した方が良いです。でないと負けるかと』


「なるほど、分かった(転移魔法を使いながら独特の戦い方しないと無理だろ。武術習ってた訳じゃないし)」


「ともかく、寝る……ここは魔物もいないし兵士もいない。ようやく落ち着いて眠れる……」


 安息の地を手に入れたトウマは鉛のように重たい瞼を閉じた。その直後、数秒も経たぬうちにトウマは深い睡眠へと入った。


『お疲れ様、君はボクの言うこと全てを信じていれば問題ない。君が失った記憶はシュラーゲルに入る前……あの男のみは消せなかったけれど』


 労いの言葉と妬みを入れながら精霊は呟く。泥のように眠っているにも関わらず精霊が起きていられるのは、魂を個々で所有しているからだろう。精霊がトウマの心臓に寄生しているなら無理だが、肉体という器に寄生しているため起きていられる。


『利用するようで悪いけど囚われていたボクにとって算段はこれしか無かった。君をまだ死なせる訳にはいかないのさ……全てはあいつを殺すため、少しの間利用させてもらうよ』


 羊毛のように柔らかく穏やか声はどこか申し訳なさそうにも聞こえる。


『にしても、こんなにも大きくなったのか……記憶にある君は産まれて間もない赤子だったんだけどね。また、会えて嬉しいよ。


 ボクの、可愛い可愛い()()……』


 



 

 

スタート良かったけど後半少しグダグダだった……

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