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40話 『再会の挨拶』

「アァ……ァァァァァ!!」


 ドン、ドンッと大木に頭を叩きつける音と若い人間の悲鳴が響いていた。額の肉は弾け、血は噴水の如く吹き出している。


「治れ! 治れ治れ治れ!!」


 治療法など知らぬ。治癒魔法を掛けたが全くもって効果が無かった。

 故に別の痛みで意識を逸らすことしか出来なかった。


 聞こえる、笑う声が。誰かの笑い声が。


『キャハハハ!! 新神経の病は不治の病! 治療法などないわ!!』


「うるせぇ! うるせぇうるせぇ!!」


『治癒魔法は傷を塞ぐだけ、空いていない穴を塞ごうとしても意味が無いのと同じ! キャハ! おバカさーん!』


「黙れ! 誰だよお前っ!!」


『知ーらない! 幻覚でも見てるんじゃないのぉ!? 痛い? 痛いよねぇ? でもでも、仕方ないの。儀式に参加した以上、これは避けられないの』


「消えろ、消えろ消えろ消えろ消えろ!」


 客観視すれば頭のイカれた青年である。誰もいないにも関わらず、ひたすらに誰かに罵声を浴びせるトウマ。木の表面が凹み、紅に染まる度にトウマの声は荒々しく変化する。


『帰れないのよ、全ては破壊神ヴィルバース様のために! 貴方のエネルギーを全て復活に使う、だからもっと苦しんで貰わないと!!』


「誰だよ、てめぇはぁ!!」


『キャハッ! ■■の精霊、キルバーン。ずっと貴方の傍にいるしずーっと見てる。離れないから。


 貴方は、か・ち・く・よ」


「フーッ、フーッ!」


 全身に沸騰したような熱が走る。眼球に力をいっぱいに込め、頭を打ち付けるトウマ。だが、『■■の精霊』の気配がフッと消えると頭痛は嘘のように無くなった。


「が、ぁ……」


 安心か嬉しいのか、草原に力なく倒れるトウマ。せっかく頭痛が止まったというのに割れた額がジンっと痛みを走らせた。


 虚無であるトウマ。すると体内に誰かが起き上がって来るのを感じる。


『大丈夫ですか?』


「――てめぇ、舐めたマネしやがって!」


『いや、え? 何ですか?』


「嘲りやがって! 家畜だと思ってたのか!」


『家畜? 本当になんの事かさっぱりですが……』


「言質は取ったぞ、あのバカみたいな頭痛の中でも精霊というワードだけは聞き逃さなかった。お前の名前がキルバーンってこともな!」


『キルバーン……まさか……』


「白々しいんだよ! ふざけんな!」


 ぎゅうっと右手で自分の首を絞めるトウマ。精霊は具現化されたことは無い。だが、自身の体内に宿っているため首を絞めて自分の怒りを表していた。


 縄で絞められているように、トウマの首は変色を始め、口端からヨダレが垂れる。


「お前は、信用でき、ない……早く、出ていげぇ!」


 次の瞬間、トウマの自我に反して左手が動く。向かう先は首を絞めている右手。手首を掴むと、引き剥がそうと引っ張られる。


「なっ……」


『言いましたよね? 精霊は主従契約で貴方が死ねば私も死ぬ。貴方だけは死なせない、と』


「お前、俺の体を乗っ取って――!」


『契約を結んだ精霊は主の体内に居続ける時間が長いほど成長速度も上がり、魔力操作が出来るようになる。


 貴方は私の魔力を使い続けているため全身に私の魔力が流れている。つまり……』


 左手の前腕が見た事ないほど隆起する。ボディビルダーの筋肉と同じくらいの肉密度が服の下からでも分かる。


 首に当てられていた右手を完全に取り払い、手首を単純な力で圧迫する。


「がぁぁぁ!」


『そして、精霊は本当の名前を知られてはいけない。不純なるキルバーンなどと忌み嫌われた名前など名乗るわけが――』


 ゴキッ!


「いってぇぇぇえ!!」


『あ、やり過ぎてしまいました。直ぐに治します!』



※※※


 その頃、トウマが宿泊していた宿前付近では――


「報告、します……雲卿会(うんきょうかい)の一味が逃亡しました……」


「何?! 警備兵は何をしていたのだ」


「すみません……暗闇と黒衣により目標を失って――」


「ぬぅ……(目標のトウマに加えて後一人を追うのは厳しい。偏らせるしかないだろう)」


「現在、都市の東側を中心に――」


「もう良い、そっちは追う必要はない。簡単な方を先に仕留める。貼り紙に書かれた男を捜すのだ」


「しかし、横っ面を叩かれる可能性が……」


「良い、それは追々考える。今はとにかく、あの男を捕縛し私の目の前に連れてくるのだ!」


「は、はい!」


 報告を受けたジュラルは馬上にて眉をひそめる。


「逃げられた、とは……やはりアモデウス家の懐刀は侮れませんな……」


 雲卿会はアモデウス家の必殺の鉞。暗殺一族とでも言おう。幼い頃から殺しの英才教育を受けた人々の集まりで、アモデウス家の代わりとして汚れ仕事をする暗殺者だ。


「必ずアモデウス家よりも先にトウマ殿を確保する。我が主のために――」


 長年付き従って来た主への思いが強いジュラルは腰に帯びている刀を掴む。しがれつつある手のひらだが、血色はまだ良く筋肉もある。


 鞘から引き抜けば透き通るような鋼。この刀は数年前、従者の証としてミユから贈呈された名刀なのだ。


 この刀で数多の脅威となった敵を切り伏せてきた。その度、ジュラルの忠節は周知のものとなり騎士団の団長として恥じない功績を得ていた。此度もまたこの忠節を世界に知らしめる、と思っていたのだが……。


「ミユ様が見られぬ……」


 先程まで近くを彷徨いていたミユの姿が忽然と消えていた。まさか、嫌な予感が頭を過ぎる。


「誰か、ミユ様を見ていないか!」


 血相を変えて老齢とは思えぬ程の大声を出す。しかし、誰も知らないと首を振っている。誰一人、気が付かなかったというのか。役立たず、と思ったがその子守りの役割を一番管理しなければいけなかったのは自分だ。この失態は自分のもの、そう思い兵を叱りたい気持ちをグッと堪えた。


「私は今からミユ様を捜しに行く、もし戻って来たのならここに留まるよう伝えよ!」


 馬の手網を握りしめ、ジュラルは馬と共に夜の街道を走った。


(ご無事であってくだされ……!!)



※※※


 

 サラディンは正方形に近い形をしている。門は南北両方にあり、トウマは南側から入って来た。トウマが宿泊していた宿は南側にある。その後紆余曲折あり、現在は反対の北側にある未発展の土地にトウマはいる。

 そこは未発展ということもあり自然が多い。精霊と少しばかり喧嘩しながら人気の少ない方角に走っていた。で、辿り着いたのがここだ。


 述べたように自然が多く視界が悪い。だから鬼ごっこや隠れんぼには最適、見つかることは無いと思っていたのだが――


「君が、ミユ、で合ってるかな……?」


「知らないフリしても意味ないもーん。ぜーんぶ知ってるから!」


「元気だな……俺はもう疲れたよ」


 身ぶり手ぶり大袈裟に行うミユとは対照にトウマは顔がやつれ覇気というものが一切見られない。今日一日、激動過ぎたのだ。


 今すぐにでも横になりたい。足がズキズキと痛み、喉は数日雨が降っていない田畑のように水を求めている。


「バレないと思ったんだけど、猫だから鼻が良いし足も速いのかな……?」


「当たり前! 知ってるでしょ」


「……知らないよ。初対面、だろ?」


「そーやって逃げようとするんだ。やっぱりジュラルの言うとーり、さいてーだね」


 冷徹に人格を否定し始めるミユ。いつものトウマならツッコミの一つ入れるんだろうが、その気力は無い。


「なんで、俺を捕まえようとするんだ?」


「だーかーら、嘘ついてるのバレバレ! ミユの嫌なことしようとしたじゃん!」


 ぴょんぴょん跳ねながら杖を振り回すミユ。いろいろと騒がしいが、マリン色の瞳だけはトウマに焦点を合わせている。


「……本当に分からない。君がどんな子で、俺たちがどう出会ったのかそれすら分からない」


 暗闇の中、ポツリとどこか寂しそうに呟くトウマの言葉を聞きミユはスンっと鼻を利かせる。


 彼女の鼻に入って来たのは邪悪さを感じる負のオーラ――ではなく「無」だ。何も無い、清廉潔白な無の感情の匂い。


「え……本当に、知らない、の?」


「本当に知らない。名前を知ったのも最近だ」


「そんな、何で、どうして嘘ついてないの……?」


 先程までの激情はスッと消え去り、何故か寂しいものがミユの心をいっぱいに埋めつくした。


「君は、誰だ……?」


 何の迷いも疑いも無く、キッパリと吐き捨てるトウマを見てミユは本当に忘れられていることに気がついた。

情報過多過ぎたかもれない……何卒ご容赦を……

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