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36話 『記憶と憤慨』

「おー!」


 発動が成功したトウマはいても立ってもいられず、何度何度も魔法陣を使用した。その度に感動の声を漏らし、現実であることを再認知させられるのだった。


 気がついた時には三十分くらい魔法陣を発動させ続けていたようでスープは既に冷めていた。そこで我に返り、感動と嬉しさを一度堪える。次の段階へ駒を進めるため次の作業へと行動を映さなければならない。


 その前に……。


「食器片付けないとな!」


 意気揚々と口角を上げながらトウマは食事を平らげ食器を返却した。



「完成図……っと」


 再び自室へと戻ったトウマは完成した図を記念品とするため「完成図」とタイトルを入れ、ノートから切りはずしポケットへと収めた。


 二、三メートルの魔法陣が完成した事はやはり大きい。魔法陣は段階を踏まえる必要がある。作図の知識と魔力装填。


 レベル1の勇者がいきなり魔王に挑んで勝てる道理が無いのと同じで対等に戦えるまでレベルを上げる必要がある。


「次は距離を伸ばすか、それとも生物を転移させるか……」


 初級では早くも生物の転移を可能にする術を学ぶ。とは言っても命を宿す生物を転移させるのは莫大な魔力が必要となる。


 今日はともかく、距離を伸ばす魔法陣の作成に力を入れよう。とトウマは決めた。


 該当するメモしたページを開き、魔法陣の作図法を眺める。見た目は同じだ。六芒星に円、縦棒横棒。一つ一つが何を意味しているのかはまだよく分からないのが現状。


 六芒星は恐らく術式の展開。魔法陣のベーシックとなる部分だろう。円や棒は皆目見当もつかない。


「ともかく作図だな。書いて体験しないことには何も始まらん。今の俺はさっきのブースト効果がかかってるから余裕だぜ!」


 バフが付与されたトウマは黙々と陣を作成していく。先程は使ってしまった自動羽根ペンも使う素振りを一切見せず、ノートに図を描いていくトウマ。


 六芒星は上手く描けたが、円をどうしようかと迷っていた時――ガチャガチャと甲冑の音が耳に入ってきた。音源は室内、ではなく外だ。加えてガヤガヤと人が何か言っている声がトウマの集中を散らした。


「騒がしいな、何だ」


 せっかくの快感に浸っていたトウマは邪魔されたことに不愉快さを覚え窓の外を注視する。


 通りの中央を偉そうに歩く甲冑を纏った兵士たちを見ながら何事かと騒ぐ人々。あまりにも色んな声が飛び交うためにトウマには何を言っているのか不明だった。


「何で兵士がいるんだ? アモデウス家の権力が発動でもされたのか?」


 アモデウス家は復習をトウマらに誓った。故にヒヨリ達は街を出たのだが……。


「怖いなあんなのに捕まったら面倒だ。アモデウス家は街一番の権力者、楯突くのは間違ってたのかな……」


 違う、違うだろトウマ・カガヤ。


「引きこもるのも時間の問題な気がする……。街で鬼ごっこでもして一人ずつ転移魔法陣で飛ばそうかなー」


 微笑しながら見下ろすトウマ。何を言ってるアモデウス家だけでは無いはずだ。


「うーん、流石に今出るのは不味いな。今日はやっぱり大人しくするべきだな。

 ん? あの女の子猫耳生えてる。やっぱり猫耳族なんかもいるのか」


 猫耳族の少女、恐らくはミユ。何故名前が出てこないのだ。


「えっおいおい、あっちはかなり年の食ったじいさんだ。あっちこっちに指示を出してるっていうことはリーダー格ね。しかも着流し……いや、日本刀みたいなのも見えるんだけどいつの間に日本文化取り込んだんだよ」


 着流しの日本刀、リーダー格の老齢の男。間違いなくジュラル。二人、いやその兵士は全て己を捕縛せんとシュラーゲルから遥々やって来た集団。


 それを知っているはずのに……普通なら冷や汗が飛び出し、思考が鈍り、手足が震えるはずなのに、冷静を保っているのは何故だ、何故なのだ。


「……あの人らどっかで見たことある気がするんだよなぁ」


 悲劇だった。

 最悪だった。


 トウマは死の予知を得る代わりに『記憶』を奪われていた。祖父母の顔を忘れたように、二人との何から何まで頭から消えていた………………。


「まぁ、朝からご苦労さん。とりあえず魔法陣作るか」


(冗談で言ったつもりだけど戦闘に転移魔法陣を食い込ませる事も出来るんじゃないのか……?)


 窓に向けていた体を机に戻し、再びノートとにらみ合いを始めるトウマ。同じく何かを始める連中が外にいた。


「トウマという青年を見つけよ!」


 シュラーゲルから派遣された兵士らが街のあちこちへと放たれたった一人の青年捜索を始め出した。中心格はジュラル、そして……


「絶対、許さない!」


 満月のように丸く可愛い顔に憤怒を宿らせた猫耳の少女。ラベンダーのように華やかな耳を逆立たせ、たった一人の青年へ復讐を果たさんと鋭爪を研いでいた。

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