24話 『蓄えたもの』
二章スタート!
そして、本日一話目の更新です。二話目は19時に公開!
一ヶ月。シュラーゲル王国を旅立ってからそれくらいの月日が過ぎていた。その間、ミレーユから様々なノウハウを取り込んだ。
魔法との基本戦闘に始まり、旅の心得、食糧調達のための知識などなど。
それらを取り込んだことも大きいがトウマが得た中でもやはり大きいのは魔法の習得だろう。
「ガルーダが上空にいます」
隣を歩くミレーユが青空をチラッと見、トウマに告げた。黒い影が二人を覆った。その正体は大きな翼を広げ円形に飛び回る異形の見た目をした鳥の群れ。
軽い返事をしたトウマは右手を上に向け風の斬撃を飛ばした。重力に逆らったそれは空気抵抗すらもものとせずガルーダを両断。液体とモツが地面と衝突し汚い音を立てるのを耳に入れながらトウマは言う。
「あのままにして良かったんだよね?」
「はい。すぐに灰になりますし、飛び出た血液などは他の生物に食されるので心配はありません」
薄紅色の髪をツインテールにした少女がトウマに返事をする。
魔法を体得したとは言え、トウマには魔法を扱える素質は皆無だった。しかし、彼の内側には生物界隈の準最強格の精霊が宿っている。
魔力とトウマの間を仲介し、発動を促しているのは全て精霊なのだ。
「あれですね」
「うぉ……」
広々とどこまでも続く草原地帯。その中にポツンと佇む真っ白な城壁。ミレーユの発言的に目的地であるサラディンであることは間違いない。
だが、何といってもその白さだ。白って二百色あんねんとはよく言ったものだが恐らくはその種類の中でも一番と言って良いほど白く、雪などは比べ物にならなかった。
「まずは宿の確保ですね。私が確保しておくのでトウマさんは先に図書館に向かっててください」
「いや申し訳ないんだが」
「私の方こそ、いつも一人で旅をしていたんですがトウマさんがいるおかけでいつもより何倍も楽しい道でしたので」
ニコッと微笑む彼女の笑顔にトウマは不意に顔をそらし頬を赤くする。それを必死に隠すようにしながら、
「わ、分かった。よろしく、お願いします……」
「はい。任されました」
※※※
魔法都市サラディンは流石と言ったところだろうか。真っ先にそう思わされたのは魔法の力をふんだんに応用した建築物だ。
転移して早々発見した浮遊城がこの街では当たり前かのようにそこら中にある。落ちてくるかもと思いもしたが何も気にしていない様子の人々を見てトウマは少し安心した。
そして、トウマの目を一番に引いたのがワープポータルだ。ゲームにありがちなポータルの上に乗ればあら不思議、次の瞬間にはワープしてるのだ。
いつか……いや、この街で、トウマも転移魔法陣を完成させるのだ。しかし、本当に出来るのだろうか。自分が作成したものを使えば見知らぬ土地に飛ばされて永久に行方不明とかあるのではと不安が頭を過ぎった。
「なぁ精霊ちょっといいか?」
『はい。お呼びでしょうか』
「図書館ってどこだ?」
『この街道を真っ直ぐ進み左に曲がったところにある聖堂のような建物です』
「ありがとう」
この一ヶ月で精霊との仲も少し近くなった。と言ってもカーナビのような扱いをしているだけなのだが……。
言われるがまま歩いていくと白を基調とした洋風の聖堂が現れた。それは教会のようにも見えるが一応聖堂という括りに入るらしい。
トウマは目の前にどっしりと構える聖堂の前にある階段を一つ一つ丁寧に登っていく。一つ段を上がる度に『あの時』のように後ろを振り返りたくなる衝動に襲われる。
と言ったもののここでの階段は王宮のように地位の高さを象徴しているように高くは無い。そのため振り返ったとしても特にこれといった物珍しい風景は見えない。
「ありきたりだな」
階段を全て上がり終わったトウマが少し残念そうに呟く。引いてみれば感嘆の声がまだ出そうであったが建物の根元までやってくればやはりありきたりだ。
模様が刻まれた大理石の柱と、大きな入口。人気がないのか人の出入りは見受けられない。良く手入れされているのか建物の縁に沿って花壇が広がっている。
「シュラーゲルとはまた違うな」
『かの国は歴史を重んじるので改装工事をしないんです。ですがここの聖堂は綺麗さと純白さを優先しているので毎年大改修しているのです』
「おぉ解説ありがと。毎年って大変だな。中に貯蔵されてる本は大丈夫なのか?」
『古い書は重点的に管理されています。歴史を重んじないとはいえ古書はお金に置き換えられないので。新書は毎年取り入れています。特に魔導書は熱心にかき集めているようです』
「流石魔法の先進都市だな」
立ち話もほどほどに、そう思ったトウマが大扉を開ける。すると真っ先に髪とインクの匂いが彼の鼻を刺激した。外装の白とは異なり、内側は暖色の黄色い光が天井から注がれていた。
シュラーゲルは螺旋状に、しかしサラディンは横に長いらしく上を見てもビルの五階までくらいしかない。
それでもなおどこまでも本が敷き詰められている。どこを見ても書だ。本の暴力と言って良いほど。
「俺あんまり本好きじゃないからちょっと引き攣るんだよなぁ……」
『私はウキウキが止まらないですね。本が生きがいの私からすれば一刻も早く本を開いて欲しいです』
「まぁやらないことには終わらないしな。やりますか」
と言って行動すると決めたは良いものの、トウマは唸ってばかりであちこちを歩き回っていた。「これか?」と言っては眉をひそめてやはり戻す。それをひたすらに繰り返していた。
「分からん。転移魔導書ってどこだ?」
『さぁ、私もこの図書館に立ち入るのは初めてなので』
唯一の当ても今回ばかりは分からないとのことだ。そうなれば店員さんに聞けば良いのだ。
が、ここで一つ問題が発生する。受け付けが分からない。そもそも受け付けなどあっただろうか?
「タグをいちいち調べる訳にもいかないし、時間を掛けずにパパっと終わらせたいんだよな」
『誰か立ち読みしている人はいないんですか?』
「いないだろ。俺、曲がり角を行ってから人ひとり見なかったんだが。これじゃあ俺がぼっち君だよ」
『ですが今私の魔力探知には数十人のいると出ていますが』
「じゃあいるのか。それってどこか分かったりする?」
『道案内しますね』
やはりカーナビ展開になってしまった。だが精霊は嫌そうな素振り一つ見せずトウマを誰かの元へと案内する。
横に広いと言ったが、サラディンの図書館の横幅は600mある。毎年の工事によって数メートル単位で伸びている。つまり、まだ伸びる。来年もその次の年も。
「ふんふふーん♪」
「……あの子で間違いないのか?」
『一番近くにいた人物です』
ものの二分足らずで第一村人を発見した一行。その村人の背丈はトウマの胸あたりで大自然のように深い緑の髪を腰まで下ろし、お尻を振る度に風に靡かれる木のように揺れる。
図書館には不相応な半袖のメイド服を着用し律儀にローファーまで履いている。そして手には箒でサッサと床を掃除していた。
「あの、すみません」
「はいっ! どうしたんですか」
パッと膝元まであるスカートを揺らしながらこちらを見た。幼さの残る童顔、いやまだ子供なのだろう。ぱっちりと開かれたカラメル色の瞳には絶えず太陽のような光が宿っている。幼そうながら通った鼻筋と紅色の小さな唇。間違いなく美少女の類いに入るはずだ。
「転移について書かれた書を探してるんですが」
「はいっ! お任せあれ!」
ビシッと箒を持っていない右の手を額に添えた。敬礼だろうか。
この図書館の従業員らしき少女が「こちらです!」と陽気に案内をする。その笑顔につられてトウマの口角も右上がりになる。
「珍しいですねっ! 転移についてとは!」
「そうなんですか?」
「はいっ! ここを訪ねてきてくださるお客様は数多くおられますが、転移は初めてです!」
「マジか。じゃあ俺が記念すべき一号だな」
「はいっ! おめでとうございます!」
静寂の場を貫くはずの場所。沈黙を破り続ける少女は普通なら冷ややかな瞳を向けられるはず。だが、
「お、リューシュじゃん。今日も仕事頑張ってるな」
「はいっ! この仕事大好きなので!」
「リューシュちゃん。今日もお疲れ様」
「はいっ! お疲れ様です!」
「リューシュ、後で本を探すの手伝ってもらっても良いか?」
「はいっ! お待ちくださいませ!」
行き交う人は全員少女に挨拶と少しの笑顔を配った。しかし、「リューシュ」と呼ばれたこの女の子はそれ以上の倍の笑顔と愛嬌を振りまいている。お釣りが返ってこないと分かっているにも関わらず、だ。
「リューシュ、っていうのか」
「はっ! 申し訳ございません! お名前を伝えるのを忘れてました!」
トウマが彼女のものらしき名を口にすると彼女はビクッと反応し、動かしていた足を止めた。そのまま後ろを振り返って、手を大きく後ろに広げながら頭を下げる。
「申し遅れました! リューシュと言いますお見知り置きを!」
「おぉう、深いな」
九十度に近い角度で上体を曲げたリューシュにトウマは少したじろいだ。年齢は普通の人族として考えると十三歳程度、だろうか。
にも関わらずその丁寧な所作と言葉遣いから彼女がどれだけ教養ある子か理解できる。
「俺はトウマ、よろしくな」
「はいっ! よろしくお願いします!」
バッと頭を上げれば緑色の髪が大きく弯曲。乱れた髪を少し整えてから、
「案内しますね!」
パァっとホテルマンのような笑顔を再び見せる。そして回れ右をして軽いスキップを入れながら棚の間を行く。
「なんか元気もらったな」
小さく呟くとトウマも彼女に倣って軽く地面を蹴り、右へ左へと揺れながら彼女の跡を追った。
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