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間話 『旅路での二人』


 真っ黒な空に星が散りばめられている今日の夜。

 とある平原の木の根元。

 そこには赤く燃える焚き火と、倒木を椅子代わりにしている一組の男女がいた。


「トウマさん、こっちのお肉焼けました」


「了解、俺も果物らしきものを収集してきたよ」


 旅が始まってだいたい二週間くらい経過した。

 この間、俺は異世界についてのノウハウを叩き込んでいる。

 魔物はいるし、魔法も使えるし、遺跡みたいな物もあるし、竜が空を飛んでるのも久しぶりに見た。

 『手帳』は最近、目新しい記述はされていない。

 俺やミレーユが死ぬこともないみたいだ。


「うーん、これはダメですね」


「えぇ? 一番美味しそうな色をしてるんだけど」


 現在は夕食の準備中なのだが、ミレーユがレモンのように黄色い果物を見て食べられないと言った。

 彼女と過ごす中でいくつか分かったことがある。

 まず、彼女は博識だ。

 頭を使うことはやや苦手らしいのだが、暗記することに関しては人一倍、いや三倍くらいはある。


「これはヴェノンの実と言って、食べたら死にます。魔力を元に成長し、やがては宿主に代わって身体を操り、外に飛び出す。魔物の卵ですよ」


「嘘でしょ?! これ普通に木の枝についてたよ?」


「それが特徴なんです。他の果物と同じように振舞っているので知らない人は食べちゃうんですよ。トウマさんみたいに」


「こっわ! ミレーユがいて良かった……」


 桜のような髪を指で弄りながら、モジモジしている。

 二つ目に分かったことがこれだ。

 彼女は意外と照れ屋さんということ。

 ちょっとした事でも謙遜しながら頬を赤らめるのだ。

 別に意地悪したい訳では無いが、反応を見るのが面白くついつい褒めてしまう。


「「いただきます」」


 火の上で十分に炙った骨付き肉を口へと運ぶ。

 ほのかな塩と肉の油が舌に溶け込み、口元が上がる。

 三つ目、彼女の料理の腕の高さだ。

 彼女はここ一年、旅をしていたこともありサバイバル飯が極上の料理に化けるのだ。


「マジで美味いな!」


「ありがとうございます」


 更に一口、二口と運んでいくと骨だけとなり肉の油と塩のみが口内に残った。

 俺が余韻に浸っている間に彼女も食べ終え、俺が採ってきた果物を食べる口直しの時間になった。


「あともう少しかかりそうです、明日で中間地点くらいに着きたいですね」


「でも、明日は洞窟内を通るんでしょ?」

 

 そう、予定では明日で洞窟を通り抜けるという算段だ。

 現在はその洞窟の近くまでやって来ている。

 一日かけて足早に抜ける。

 ファンタジーもののお決まりだが、洞窟内は魔物で溢れかえっている。


 危険生物いっぱいの中で、おちおち眠ったり、飯を食べることなんてできるわけが無い。

 

「氷石の洞窟、ランクはIIですが油断せずに行きましょう」


「ランクIIって、低い?」


「ええ低いです。ランクは五段階に分かれていて、Vが最高ランク。Iが最低ランクですね」


「へぇー。もしかして宝箱的な何かがある感じ?」


「いえ、特にはないですね。ダンジョンであれば宝箱はあります」


 彼女に説明を仰げば、ダンジョンに行くためには宝の地図が必要とのこと。

 宝の地図は文字通り、宝の位置を示す地図。

 そこを掘ればお宝ガッポガッポ――ではないらしい。

 地図が示す場所で暗号を唱えると、入口が現れ階層構造となっている迷宮的なあれを攻略した最下層にお宝があるらしい。

 ダンジョンも洞窟と同じくVランクに分けられている。


 と言っても俺とは無縁だが……。


「では休みましょうか、明日は沢山動くので良く寝ましょう」


 そう言うと彼女はリュックから純白の枕を取り出し横になった。

 ベッドが持っていけない代わりとして枕だけは持ってきたらしい。


 数日前までは寝る前のもうひと踏ん張りと言った感じで、彼女の算数勉強に力を貸していたが、終わってしまった。

 何ヶ月もかかっていたそれが二週間という短さで終わったことにミレーユは感動して土下座までしていた。


「よし……」


 俺は倒木を枕代わりにして今宵は寝過ごすことにした。



※※※※※※※※※※



 一晩明けて、俺たちは洞窟の入口に立っていた。

 洞窟、と言うように大きな楕円形の入口と薄暗い石の中。

 俺たちは松明を片手に洞窟内を行った。


 ぴちゃと水滴が滴る音と、冬場のように寒い空気に身を震わせながら俺たちは歩いた。

 その中で俺は岩の壁にある水晶のように透き通った葵の鉱石を見つけた。足を止めて指さしながら、


「おぉ! すっごい綺麗な石がある」


「あれは洞窟内によくある魔晶石ですよ。割ったら大量の魔素が飛び出して魔物が近寄って来ます。なので、割らないよう気をつけてくださいね」


「なるほど、さすがミレーユ先生!」


「……先生と言われるほどではないですよ」


 プイッと振り返っていた顔を戻し歩き出した。

 なるほど魔晶石か、売ればお金になりそうと思ったがそうでも無さそうだ。


 その後もジグザグとした石の上を行きながら彼女の知識量に感嘆した。

 あれは何だと聞けば、優しくかつ丁寧に細かく教えてくれた。


 洞窟内の景色にも慣れてきた頃、


「あ、ちょっと止まってください」


 軽やかな鈴のような足音が止まり、ミレーユが爽やかな青色の瞳を上に向けた。

 挙動を真似るように俺も上に向ければ、


「おわっ! 何だあの気持ち悪いの!」


「アラグネです。現在は捕食中、と言いたいところですがどうやら私たちも餌にしようとしているみたいです」


 鍾乳洞石に真っ白なとぐろを巻いた蜘蛛糸を垂らす一メートルはあるであろう真っ黒な蜘蛛。

 鋭利な歯と真っ赤な瞳をチラつかせ、ゆっくりと降りてきている。


 魔物を見るのは初めてだ。

 ゲームや漫画内で見慣れてはいるものの、実物を見ると「うっ」と気色の悪さに半歩引き下がった。

 ネチネチと音を立て、八本の足を器用に、細かく動かしている。

 特に腹部の大きさと紅色の紋様。

 

 が、ミレーユは冷静さを失わず背負っていたリュックを降ろしていた。


「糸を切ると落ちてくるので、本体をいきなり狙いましょう。では()()の言う様にできますか?」


 否定していた先生という単語を使い、ニコッとこちらを振り返るミレーユ。

 やらなければいけない、ということだ。


「ほら、早くしないとアラグネが落ちてきますよ。彼らは地上に降りると俊敏に動き回って大変なんです」


「わ、分かった……」


 俺は手を前に出しながら心の中で精霊を呼ぶ。

 

『火の魔法で間違いないですね』


『あぁ頼んだ、一撃で沈むくらいの業火を』


『では、イグフェルノと詠唱してください』


「イグフェルノ!」


 アラグネに向けた手のひらから豪炎の玉が生成されていく。大気中の魔力と体内に宿る精霊の魔力を組み合わせ吸い取っていく。


 ボワッという音と共に放たれた火玉は悠長に降りてきているアラグネを容赦なく燃やした。

 瞬時に上がる自身の体温に驚いたアラグネは糸を自分で切り、身体を岩石に擦り付け鎮火しようとしていたが不可能だった。


 ジタバタと長い足を暴れさせた後、塵となって消えた。

 あっさりだ。簡単に倒せた。


「すごいですね、アラグネを一撃で倒すのは一端の魔法使いと同程度ですよ」


「一端、つまり魔法使いを名乗れるくらいってこと?」


「はい、なのでトウマさんは『魔法使い』ですね」


 ミレーユに言われ、俺は火玉を放った右手を見つめる。

 これは決して俺の実力ではない。『精霊の加護』があってこそのもの。

 有頂天にはなれないな。


「でも、十分な実力があるのでこの洞窟は怖くないですよ」


 俺を褒めるように伝えると彼女は「偉いですよ」と言いながら俺の頭を摩った。

 身長は俺の方が高いが故、彼女はプルプルと震える足でつま先立ちをしていた。


「では行きましょうか」


 満足そうに花のような笑顔を見せると降ろした荷物を再び背負い彼女は歩き出した。

 俺も後を追って足を動き出した時、

 

『体内にイグフェルノが刻まれ、魔力が上昇しました』


『――! どういうことだ』


『トウマさんの体内には魔力が全くもってありませんが魔法を使用したことで魔力の器ができたんです。加えて一度した魔法は詠唱不要となります』


『マジか、便利すぎるんだが……代償的なものは無いよな』


『ありません。私の力によるものなので心配はご無用です』

 

 待てよ、これはある意味最強のスキルなのではないか?

 一度使えば手札と魔力が増える。

 一回、たったの一回だ。

 だが、本当にそうなのだろうか。

 俺は転生したのではなく、転移した人間。

 つまり肉体はこの世界のものではない。

 精霊を疑っている訳では無いが、心配なのだ。俺が本当に使えるのか。


 再び手を広げ、心の中でイグフェルノと詠唱。

 すると、先程のアラグネを炭にした豪炎が顕現。

 だが、体感として吸い取られたという感覚はない。それは恐らく体内に宿っている精霊の魔力を優先して使っているからに違いない。


『魔力が上昇しました』

 

「えぇっ!?」


「ど、どうしましたか?」


「あ、ごめん。何でもない」


 手の魔法を咄嗟に隠しミレーユには誤魔化した。

 何でもないことを伝えると彼女は再び足を動かした。

 

 魔法を使用しただけで魔力が増加してる……もしや転移魔法陣に使う魔力分までを補うことができるのでは?!


「そうとなれば……!」


 そこから俺は片っ端から目に入った魔物を尽く一撃でねじ伏せた。

 彼女が魔物を見つけても俺が戦った。

 ミレーユは「張り切らなくても大丈夫」だと言ってくれたが、楽な方法で帰還の道筋が現実味を帯びるのであればやらない手は無い。


 アラグネ、スコーピオン、スライム、ヘルドスネーク等、全て倒した結果、


『アイフェルノが刻まれました』

『ヒュ二フェルノが刻まれました』

『ライフェルノが刻まれました』

『クエフェルノが刻まれました』

『体内の魔力総量が増加』


 複数の魔法と魔力を手に入れたことは言うまでもないだろう。

 俺の足が早く先陣を行ったため、夜までに出られたら良いと話していたが、日が沈む前の夕方には踏破出来てしまった。

 

 

これにて一章終了……いやー早いものですね。書き溜めに追いつかれたので二章開始までもう少しだけお待ちを……。今後ともよろしくお願いします!

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