1話 『異世界転移』
『冬馬輝は鉈を持った男に四肢を切り落とされ出血多量で死亡する』
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一時間くらい周囲を歩き回って分かった。
異世界転移したらしい。転移先はまさかの森林地帯。
空で竜が飛んでいるし、ここがどこか分からないし。どうしたものかと、右往左往していた時に突如空から降ってきたのがよく分からない手帳だ。
口元が自然と上がる。心臓の鼓動が早まるのを感じる。これが、帰還方法を示してくれる最強の魔導書に違いないからだ。だが、次の瞬間にはその希望は絶望と不安に返還される。
『冬馬輝は鉈を持った男に四肢を切り落とされ出血多量で死亡する』
ページをめくった瞬間、息が止まった。
死ぬ、いきなり死について書かれている。しかも、まだ内容は続いている。
手帳の次の行:
『一. 女を助けて、自分が四肢切断で死ぬ』
『二. 女を見捨てて逃げて、自分だけ生き残る』
これは選択、ということだろうか?
一は選びたくないから二をと思ったが、自分のせいで誰かが死ぬということだろ?
選べ、そう言われている気がした。
自分が死ぬか、女が死ぬか。シンプルだが、選べない。死にたくないが、誰かを間接的に殺したくもない。
現実に戻って俺が人殺し、なんてことを知ったらじいちゃんばあちゃんが泣く。あの二人のために、俺は帰らないといけない。
「なんだ……っ?」
突然、何かを吸い取られるような感覚に襲われた。
まさか手帳に毒物が、中を開いたら毒を吸引するようになっていた? やられた、そう思っていたが次の瞬間には何事も無かったように、体に平穏が訪れた。
「なんだ、えぇっとで何で帰らなきゃいけないんだっけ。……あぁそうだ。俺は二人のためにも早く帰らないといけない」
一瞬、二人のことを忘れてしまった。
やはり何か体に細工でもされたのだろうか。
手帳にあった女、まさかヒロインらしき人物が……そう思い周囲を見渡した時、目に入ったものは何も無かった。
「ていうかこんなもんほんとに起きるのか?」
ため息混じりに愚痴を零すとどこからともなく声が聞こえてきた。
「誰かー!」
「これはまさか!」
人を呼ぶ声が聞こえた。
声色は高く透き通るようなもの。
俺は気が付けば駆け出していた。手帳を信じている訳では無い、ただ早く帰りたいだけだ。
「うん?」
案外近い場所だったようだ。走り出してすぐに女性を見つけた。遠巻きに彼女を見れば、豪炎のように赤いロングヘアーに黄金の大きな瞳。豪勢な白衣のようなローブを纏う様は天使のように輝いて見える。
だが黄金の瞳にはどこか不安と恐怖の念が混じっているし、肩は紅色で染まっている。恐らく血だ。
彼女は人名を叫びながら近づいてくる。
「あぁ……異世界だ。夢なんかじゃない、本当に転移したんだ」
先程の竜と謎の手帳の選択記述に加えゲームイベントのような展開。確定的だ、ここは異世界ファンタジー。
「あら、あなた――」
気前の良く、不思議そうに顔を傾げてそう問うてくる彼女。森の中に女性が一人とは、あまりにも危険ではないか?
「あ、えと俺は――」
軽い自己紹介をしようとした時、図太い死の影が森に差し込んだ。
「やあっと見つけたンダ。手間どらせやがってンダ」
訛りの効いた方言のような声色。
振り返れば自分と同じ方向から歩いてきたであろう肥満体の男が立っていた。おっぴろげな腹には刺青が入れられ盗賊のような服装、そして手には鉈・があった。
「――ッ!」
『冬馬輝は鉈を持った男に四肢を落とされ出血多量で死ぬ』
「うそ、だろ……」
まさか、と思っている間、男は鉈を愛くるしい生き物を愛でるように触り、舌で囀る。
分かる。こいつはイカれてる。鉈をベロベロ舐めてるし、女性も身構えている。
こいつは本気で人を殺すに違いない。
「さっきそこの男が見えたから拷問して聞こうと思ってンダ。でもその必要は無いンダ」
「ひっ……!」
『一. 女を助けて、自分が四肢切断で死ぬ』
『二. 女を見捨てて逃げて、自分だけ生き残る』
パズルのピースが当てはめられるように繋がる。俺が一人で残っていたら――そう思うだけで冷や汗が自然と吹き出す。嘘じゃない、この男は本気でやる目をしている。
「まぁンダ、男の方も犯罪者なンダ。殺すしかないンダ」
男が鉈を両手に構える。
「お兄さん、戦える?」
「む、無茶だ! 武器なんて無いし、人を殴ったことすら!」
「じゃあ私が魔法使うから、殴って!」
「殴るって、俺戦えないよ?!」
俺の話を聞いていないのか彼女は手のひらに火玉を作り出し、それを男目掛けて投じる。男も応戦するように鉈を振りかざすと放たれた火玉を両断、地面に落とした。
「ま、魔法……」
「くっ、やっぱり手強い相手ね。二人で行くわよ」
「え、いやだから俺戦えないんだけど……!」
今度は突っ込もうとする彼女。それに右往左往し、どうしたら良いかキョロキョロと見ていた時、手に持った手帳が眩い光と共に浮遊した。
自我を持ったように浮くと、パキンっとガラスの割れた音がした直後、手帳から氷塊が出現。男目掛けて飛びかかった。
「ぬぉぉ?!」
思わぬアクション。
男は予想外を突かれ、反応が遅れた。氷の弾幕が男を削り、うち数発が男の体を捉えた。
その光景に男のみならず、俺も女性も驚いていた。
「戦えるじゃない。その『魔導書』があれば!」
やる? やるしかないのか?
当然そうであろう。
死にたくなければ奴を殺すしかない。
だが、殺すまでは……とりあえず痛ぶるくらいでいいか。
「う、ん。とりあえず、なんとかしてみる」
「いてぇンダ! なにすンダ!」
額に大きな打撲痕を作った男はそこを擦りながら立ち上がる。
俺は、こんなところで死んでられない! 帰らなければいけないんだ!
「いくわよ!」
「任せろ!」
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