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18話 『占星術』

 今朝の起き心地とやらはかなり快適だった。

 なぜならベッドがこの世のものでは無いと思えるほどふっかふかだから。

 ミレーユが拘ったという宿のベッド。

 一回しか使用していないが、これでお別れとは何とも寂しい。

 何でも収納できる便利道具があれば真っ先にこれを入れて、旅先でも使えるようにしたいところだ。


 余談はこのくらいにして……。


「占星術?」


「はい、昨日お話した占いのことです」


 すっかりと元気になったミレーユがパンを頬張りながら言う。

 「んーおいひい」と幸せそうに噛み締める彼女を見ると自然と口角が上がった。


「そういえば確かに言ってた気がする……」


 あれは、彼女が盛大にグラスを割ってしまい一緒に掃除している時だ。

 偶然にしては割って入るタイミングがバッチリだったことに疑問を持った俺が尋ねると、


『占いの名手に教えられたの』


 乙女チックな感じで言われたのを思い出した。

 なんとも馬鹿げていると思ったが、ここはファンタジーだ。

 俺がいた世界よりも現実味を帯びていることは間違いなし。


「旅の前に占って貰おうと思ってるんですが……どうですか?」


「占いか……俺も少し気になるかも」


 気になる、と言ったが半信半疑だ。

 彼女の占いが運良く命中しただけで、的中率が10%もないヘボ占い師かもしれない。

 紫のカーテンの中に入れられ、水晶玉を前にしたインド風のローブを纏った婆さんがニヒニヒ笑いながら水晶を見つめる。

 濁ったり綺麗になったりを繰り返し、こちらからは何も分からない状態の中、その占い師が口を開いて、


『おやおや、これは難儀難儀。近いうち死ぬよ』


 なんて怪しげに伝える状況がありありと浮かぶ。

 が、先程も言ったようにここはファンタジー。

 星による占いはあってもおかしくないし、的中率は高いはずだ。


 て、ことでいざその人の元に行こうとなり向かったのがここだ。


「……ここ、宿の中……しかもエーレさんの自室でしょ? 何かの間違いじゃ……」


 連れてこられたのは宿一階の一番奥。

 宿全体の中でも一番広い部屋で、普通の家庭のリビングくらいでかい。

 内装は結構シンプルで質素なのだが、どこを見ても本ばかり積み上げられている。どれもこれも占いのことばかりで、その中に少し金融や経営、心理学のような本があるだけだ。


「そんなこと無いですよ。エーレさんが占い師です」


 嘘やろ……。

 あの太っちょ女将が占い師て……。

 どう見ても占いのローブ着れないでしょ。

 ミレーユやっぱり回復出来てないんじゃないか?


 そんなことを思っていると、扉が開き後ろから「ようこそようこそ」とニヒニヒ笑う声が聞こえた。

 振り返ってみれば真紫の金の縁取りが施された衣装を着たエーレが。

 その手にはクッションがあり、水晶玉がそれを陣取っている。

 ドスンっと目の前の椅子に座ると、水晶をテーブルに慎重に置く。

 水晶を一度見て、今度はこちらを見ると、


「さぁてお客さん、本日はどういったご要件で?」


「私とトウマさんの未来を占って欲しいんです」


 え、このまま進めるの?

 当たり前のように進めるミレーユを横目に俺は()()()に視線を移す。

 それっぽい手つきで手順を踏み、何やら摩訶不思議な動きをし出すと水晶の内側が曇り始める。

 しばらく曇った後、パァっと光が溢れる。


 エー、占い師はそれをまじまじと見つめると大きく頷きミレーユを指さし大声で言う。


「其方は失われし物を取り戻し、真の自分を見つけられるだろう!」


 わー、何この胡散臭い感じ。

 この人さっき話してた的中率10%の人や。 

 再びチラッとミレーユをみれば目を輝かせ、「本当ですか!」と食い入るように前のめりになっている。

 あかん、この子純粋すぎる。

 

「次は其方の殿方……どれどれ……」


 そして今度は俺のターン。

 またしてもそれっぽい手の動きをすると、濁り出す水晶。

 だが、今回は違う。

 濁り、濁り、濁ってからのさらに濁り、やがてドブのような色に変色。

 最終的には真っ黒になった。


「んぉ? んん?」

 

 これには占い師もビックリ!

 どうやら俺は専門家でも読めない人間らしい。

 まぁ一応異世界人だしな、こういう事で異変が起きるのは何となく予測はついていた。

 彼女はしばらく悶えた後、呟くように言った。


「お主は……見えぬ!」


「はい……?」


「何も見えぬが、過酷な運命を辿ることは間違いないだろう。

 其方の望み、それが果たされるかは分からん。

 だが、迷いなく、根気強く一直線に進めば道は開けるだろう」


「迷いなく根気強く……」


 占い師の言葉をなぞる。 

 簡単そうに聞こえて難しいものが結果として出てしまった。

 迷いなく、根気強く。

 この二つを満たせば俺は、帰られるのか……。

 新年の初詣で小吉を引いたような気分だ。

 当たりでもそうでもない微妙な感覚。

 項垂れ、立ち上がろうとした時、占い師が口を開く。


「其方の人生において鍵となる人間は四人……中でも『太陽の娘』を傍に置けば、最高の輝きを放つことだろう」


「『太陽の娘』?」


 正しくあの空に輝く恒星が産んだ子供、って訳ではないだろう。

 二つ名的なものだろう。

 『太陽の娘』か、覚えておこう。

 その人がいれば俺の帰還への道筋は確約されたようなものか……。


「ふぅー疲れた、ひっさびさにこれ着たよ」


 せっかくやや良いムードであったというに、占い師が化けの皮を取り本性を現した。

 エーレは自身の顔を手で仰ぎ、清涼な風を得る。


「エーレさんありがとうございます。さすが元『占星術』の教授!」


「え、教授?」


 ミレーユが拍手を彼女に送る中、俺は言葉に引っかかる。

 教授だと……。

 宿を経営しているこの女将が元教授、魔法学校だろう。そこで教鞭をとっていたなど信じられるものでは無い。


 というより、『占星術』という言葉を聞いて思い出した。


「星の要素どこ!?」


 俺の疑問が部屋いっぱいに響いた。



※※※※※※※※※



「ということなんです」


 ミレーユからエーレの占いについて説明を受けた。

 まず初めにエーレは嘘をついていない。

 彼女は本当に学校教員だったし、『占星術』を教えていたエリートらしい。


 で、今回の占いは『占星術』を使ってはいないみたいだ。

 ミレーユも直前まで星を使って占うと思っていたらしく水晶を持って入って来た時、驚いたという。

 何でも『占星術』は星の動向を何年も先の未来まで予測したり、星と星を結んだりして星座を作ったりと手順が多い。


 つまり――めんどくさい、ということだ。

 彼女はこの後も店で働かねばならない。

 占いで体力を削ぐ訳にはいかないのだ。


「ということだ、二人とも後は自分の力次第ってことさ」


「探しものを取り戻せる……そうと来たら早速サラディンに行きましょう!」


「そうだね、昨日の分を取り戻すためにもそろそろ行こうか」


 俺たちは立ち上がりエーレに一礼。

 すると彼女ははにかんだ笑顔を向ける。


「なんか恥ずかしいじゃないか。大したことはしてないよ。二人とも達者でね」


 部屋を出る直前、俺は後ろが気になり振り返った。するとエーレが俺に視線を送り、コクリと一つ頷く。

 その意味は……きっとミレーユのことだろう。

 俺はそんなつもりはないんだが、どうやらエーレはそのつもりらしい。


 開店前の宿を出ると、すっかりと日は昇り街は活気に満ちていた。


「さぁ行きましょうか」


 中サイズのリュックを一つずつ抱え、俺たちは歩き出した。

 俺は決して忘れていた訳では無かった。

 心のどこかではまた後でも良い、と思っていた。

 もしもこの時視ていたら……全然違う未来だったかもしれない。



※※※※※※※※※※



『一. サラディンの街に行くことを先送りにし、騎士団の統制を練る。これによりトウマの疑いは晴れる』

『二. 上官を自主脱退させる。だが、助けた青年は立ち直ることが出来ず、国から姿を消す』

 

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