26.王女の苛立ち side 王女セレニティ
side 王女セレニティ
「あー、おもしろくないわ」
豪奢な刺繍が施されたクッションをソファに叩きつけながら、大きなため息をついた。
窓の外には、柔らかな夕陽が庭園を黄金色に染めているが、その美しさすら心に届かない。苛立ちの波が胸の中で膨れ上がり、窓に映る表情には不満がくっきりと刻まれていた。
「セレニティ、何を荒れているんだい?」
ふいに低く落ち着いた声が響く。振り返ると、第一王子である兄アレクサンドルが、優雅な仕草で部屋に足を踏み入れてきた。
「お兄様!」
立ち上がり、手にしていたクッションを再びソファに放り投げる。
「あの気に入らない第二王子の、さらに気に入らない近衛隊長のせいですわ!」
「はは」
お兄様が軽く笑う。その楽天的な態度が、感情をさらに煽る。一歩前に進み、床を音高く踏み鳴らした。
「お兄様、しっかりしてください。第二王子は間違いなく王太子の座を奪おうとしているのですわ。気に入らないでしょう? そしてその傍らには、近衛らしさの欠片もない、あの粗野な騎士がいるのです! あの者が夜会にいるだけで、空気が台無しですわ!」
お兄様と私は側妃の息子で、第二王子は王妃の息子。父である国王は自分で選んだ側妃の子である私たちを可愛がっているが、私を可愛がらない第二王子が気に入らない。ご自分の能力が高いからって私たちを馬鹿にしているのだわ。
お兄様は、窓際に歩み寄ると、夕焼けに照らされた庭を見下ろしながら言った。
「セレニティ、お前が何に不快を感じているかはよく分かった。しかし……」
「しかし?」
しかしって何よ。私は、眉を吊り上げた。
「それほど彼に目を向けるというのは、心のどこかで認めている部分があるのではないか? くくっ」
「は!?」
目を見開き、唇を震わせた。何を笑っているのかしらこの兄は!
「お兄様、そんなことありません! あの者を視界に入れることすら耐え難いのですわ!」
「そうなのか? 今話題の舞台のモデルになっていると聞いたぞ」
お兄様は口元にわずかな微笑を浮かべたが、それはどこか妹をからかうような色を含んでいる。
「それも気に入らないのですわ! なぜあの者なのです。他にもいるでしょう」
胸の中に渦巻く感情を整理することもできず、再びソファに腰を下ろした。視界に入れたくもない者を思い浮かべるだけで、再び苛立ちがこみ上げてくる。
あの者――部屋の中に現れたわけでもないのに、その姿が頭の中でちらつく。ふてくされるようにお兄様から顔を背けた。
「辺境伯家の令息、騎士団での戦歴、近衛への出世。他に物語に適した人物などそうそういないだろう。まあ、気を晴らす方法を探すんだな。少なくとも、表情には気をつけることだ」
心の中ではなおも不満が渦巻いていた。
かつて自分の近衛から「あの武骨な近衛隊長が、食堂で野菜ばかり食べている」と報告を受けたときには、笑いが止まらなかった。
まさか、あの顔で健康に気を遣っているなんて!
その話題は、しばらくの間、内輪での笑い話だった。しかし、今や王宮中で「野菜ブーム」だというではないか。
それだけではない。送り込んだ扱いにくい馬――名だたる騎士たちが手を焼いた馬――を、近衛隊長はいつの間にか手懐けていた。
予想していたような失敗も、混乱も何もなく、調教がすでに終わっていると聞いたときには、苛立ちで手元のペンを折ってしまったほどだ。
さらに、彼が選んだ鎧を見たときのことを思い出す。あの無骨で洗練のかけらもない鎧を見て、第二王子に言ったのだ。
「センスのない近衛隊長をお持ちで、お可哀想ね」と。
第二王子は、私を一瞥しただけで何の返事もしなかったが。今やどうだ。王宮で働く者たちの間で「一番人気」だと噂されているではないか。
平民の女と仲がいいらしい、という話も聞いたときも、『あの顔ですもの。きっと、慕われたら、物語みたいに全てを投げ出して平民のもとへ駆け込むに違いない』と笑っていたのに……! 結局何にも起きなかった。
なぜこうもうまくいかないのかしら。
こうなったら、近衛から追い出すため、私直々に手を下すしかないわ。
早々に辺境伯領に引っ込んでいればよかったと後悔させてあげる。
「……お兄様、ご相談があるのですが」




