18.私の宿命
sideレティシア
幼い頃から、祖父母の指導で経営手腕や諜報活動を学んできた。
一族は、表向きは優雅な貴族でありながら、裏ではその技術を駆使して、子爵家ながら富と権力を有してきた。
父は穏やかでのんびりとした性格で、庭いじりや釣りが趣味。
母は慈愛に満ちた優雅な女性だが、どこか少し天然でおっとりとした性格。
兄はおおらかで好青年風だが、細かいことには無頓着で、音楽やアートを愛する。
そんな中で、私だけが祖父母の影響を強く受け、並外れた意志と技術を持つ存在となった。
「お前がダメなら、子爵家はわしの代で終わりだと思っていた……」
10歳の時、祖父は感慨深げにそう呟きながら、豪快に笑いながら言った。その目には、孫娘への誇らしさが滲んでいた。
「お前の才能の片鱗が見えた時には、神に感謝したものだ」
その言葉に、小さな胸が高鳴った。祖父の期待に応えたい、一族の誇りを守りたいという強い思いが私を突き動かす。
子爵家の名声を守るため、または一族が築いてきた富と権力をさらに拡大させるための役割を担うことが、私の宿命だと気付いたのは、この時だった。
*****
10歳の時、子爵家の領地の市場で問題が発生した。
作物の価格に対する不満が爆発し、市場での取引が停滞していた。ある者が値を上げれば、他方も追随して価格が上がり、それに対抗する形でまた値を下げる。結果、売る方は赤字で気付くと、今度は売ることを控える。農民や商人の意見が交錯し、安定しない市場に領民たちは困惑し、調停は難航していた。
ある日、部屋の隅で絵本を広げていると、祖父が苦々しい顔で書斎から戻ってきた。
「おじいさま、困っているの?」
祖父は少し驚いたように微笑んで、ゆっくりと椅子に腰を下ろしながら答えた。
「少しな。お前には難しい話だよ」
その言葉に、ますます興味を持った私は椅子を引き寄せ、祖父がじっと見ていた資料に小さな手を伸ばして指を差した。
「これって、農民の作物の値段でしょ? どうして同じ種類の野菜でも、この人のところの値段は安いの?」
祖父は驚いたように目を見開き、少し間をおいてから、驚くべきことだと言わんばかりに、頷いた。
「おお、よく気付いたな。しかし今日は安くても、明日は高いかもしれない。毎日、値段が変わるかもしれないことに困っているんだ」
「おじいさまがみんなの作物をまとめて買い上げて、売ればいいじゃない? いっぱいあれば、買う人もいっぱい来て、もっと高く売れるんじゃない?」
その瞬間、祖父の目がさらに光り、驚きと感心が入り混じったように広がった。
「それだ! 共同で出荷を行う、という方法か……物流コストの削減や市場への供給の安定化が図れる。お前は、すごいな!」
また別の日。
庭でのかくれんぼ遊び中、私は茂みに隠れていた。使用人たちが近づいてくる足音に気付き、隠れ場所を変えようとした瞬間、「動いたら足音で見つかる」と気づき、その場でじっと動かずに気配を消すことを選んだ。
無心で時を待つうちに夕暮れが迫っていた、悲鳴のような声を上げながら私を探す使用人たちの声が聞こえ、しぶしぶ出て行った。
「ここまで長い時間、隠れるのが上手な子も珍しいな」
夕日を背に受けた祖父の声が響き、私に向けられた目に感心と驚きの色が混じっていた。
それから特別な教育を始めることを、祖父は決めたそうだ。
私の意志を尊重すると言いながら、どこか楽しそうに微笑む祖父の表情に、私も自然と従うことにした。
ただ、一人はつまらなそうだったから、バレンも一緒にならやるといった。
いまだにバレンには文句を言われるけど。




