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ACT8〜浄化の魔術〜

「この先に村があるはずだから、そこでちょっと休もう!」

「なんか、楽しそうに見えるけど気のせい?」


オレとニナは、あの国境付近での戦闘の後あの村を出た。村人達のケガを回復魔術で治療して、すぐの事だ。


「だって、旅らしい事をするの、始めてだから」

「たしかに、国境の村まで行った時は、旅というよりも逃げるって感じだったけど」

オレは、あの命を狙われた夜の事を思い出していた。


「でしょ!だから、旅っぽいのは始めてなの!」

「いや!一応、今も逃亡中なのは変わらないんだけどね」


オレ達は、そんな話をしながら街道を歩いていた。街道と言っても、森に隣接している部分を土で固めただけの、舗装されきれていない道でしかない。


「この街道を北の方に進めばいいんだよね」

「ええ!ゲランさんの話だと、北の方の村に支援者がいるみたい」


そう、オレ達はゲランの紹介で、北の村に向かっていた。最初にオレが召喚された首都からは、北東の方角になる。


「キャーー!」

そんな話をしていたオレ達は、遠くで女性の悲鳴を聞いた。


「今のって悲鳴よね?」

「ああ、行ってみよう!」

オレ達はすぐに悲鳴の聞こえた方角に向かった。


「来るな!」

そう叫びながら、男が棒のような物を振り回していた。男の後ろには、女性と子供がいた。


「行くよ!」

オレは、ニナに短く言いながら走りだす。男が振り回す棒の先には、オオカミのような姿の魔物が立っていたからだ。それも、群れなのだろう複数だ。


「なんで、こんな所で!」

そう言いながらニナも走る。後で聞いた話では、この辺りでオオカミ型の魔物は少ないらしい。


「これをくらえ!」

そう言いながら、オレは炎の魔術を魔物に打ち出す。同じようにニナも、水の魔術を打ち出していた。


「なんだ?」

オレが呟く。オレの魔術の威力が減衰したように感じた。ニナの魔術も、いつもの威力ではない。


「これって邪気?」

オレ達の魔術は、多少の効果はあったようだが、魔物を追い払うほどではない。なんとか、襲われている家族らしい人間と魔物の間に入ったオレ達は、魔物と睨み合う形となった。


「効いてないのか?」

オレが叫ぶ。さっきまでの攻撃で、魔物達も警戒しているらしい。動きが止まっている。


「邪気が私達の魔術を弱めてる!」

「邪気?あの魔物の周りの黒いのがか?」

目の前の魔物は、黒いオーラのようなものをまとっていた。


「なら剣で斬るまでだ!」

「待って!剣でも無理よ!あの邪気に遮られるわ」

オレは、剣を構えてマナを集中していく。


「魔物相手には、マナで強化した剣が有効だったよな!」

そう言いながら、ガイム団長の言葉を思い出していた。


「ハァー!」

気合とともに剣にマナが集まる。


「邪気で弱まるなら、極限まで集中させる!」

オレは、そう言ってマナを剣に集中させた。その時、剣が通常のマナの光ではなく、白い光へと変化していた。


「ガウッ!」

魔物の一匹がオレに襲いかかってきた。オレは、その動きに合わせて白く光り出した剣をふるった。


「ギャッ!」

そんな声を出しながら、魔物は真っ二つになる。オレは、違和感を感じていた。マナを集中しているといっても、切れ味が良すぎる。まるで、紙を切り裂いたようだったのだ。


「なんだ!今のは!」

オレは独り言のように呟いた。それを見た魔物が少し怯んでいるようだった。


「今の光、浄化魔術?」

「浄化魔術だって?」

オレは、ニナが横で驚いて呟くのを聞いて、復唱するように聞いていた。


「なら!」

その時の思い付きでしかなかった。同じようにマナを集中させて、魔術のように放つ事ができるのではないか。そう考えたのは。


「ハァー!」

オレは、剣を持っていない左手を魔物に向け、その手のひらにマナを集める。その集まったマナは、剣の時と同じく白い光に変化していく。


「いけるか?」

オレは、そう呟きながら光を放った。白い光は波のように空間に拡がっていった。


「これって浄化魔術?」

ニナが驚いて呟く。光の波は、魔物を覆っていた黒いオーラを打ち消していく。


「キャン!」

そんな鳴き声を放ちながら魔物達は逃げていった。


「なんとか上手くいったみたいだな」

オレが、言うと隣に立つニナがブツブツと独り言を言っていた。


「浄化魔術なんて、これじゃあまるで聖女様と同じじゃない」

「ん?どうしたんだニナ!」

おれが声をかけた時、ニナは我に帰ったようだった。


「ううん!なんでもない」

そして、そう言う。少し気にはなったが、襲われていた人達が気になって、話を打ち切っていた。


「大丈夫でしたか?」

「ありがとうございます」


オレが、声をかけると、そんなふうにお礼を言われた。オレは、元の世界でこれ程人に感謝された記憶がない。


困っている人を見かけても、声をかける勇気がなかった。それに、毎日忙しい日常の中で、他の人に気を使っている余裕もなかったと思う。


オレは、どちらかというと他人に無関心な生活をしてきたように思う。でも、この世界に来て、ケガをした人を助け、魔物に襲われている人を助ける事ができた。


「いや、こちらこそ、ありがとうございます」

オレは、なんだか人を助ける事ができたのが嬉しくなっていた。だから、そんな言葉が口から出たのだろう。襲われていた人は、キョトンとした顔だった。


「無事のようですね!ケガはないですか?」

オレは、さらに襲われていた人に声をかけた。彼等は、遠目に見た通り家族のようだった。夫婦と娘さんが一人の三人家族だ。


「大丈夫?ケガしてるね」

そう言って、オレはまだ十歳にも満たないだろう女の子に回復魔術をかけた。膝を擦りむいた程度の傷だったので、すぐに回復した。


「ありがとう」

女の子は、少しはにかむようにお礼を言っていた。


「あの、この近くの村の方ですか?」

家族が落ち着いたのを見計らって、ニナが尋ねる。


「はい、この先にある村に住んでいます」

「そうですか」

ニナは、真剣な顔で何かを考えているようだった。


「あの、この辺りでは、さっきのような魔物が頻繁に出現するのですか?」

ニナが家族に尋ねていた。


「どうしたんだ?」

家族が答える前に、オレがニナに尋ねていた。


「ちょっと、気になる事があって」

「この辺りで魔物が群れで出現する事はほとんどありません」


「やっぱり!」

ニナは、予想していた、というような反応だった。


「どういう事なんだ?」

「後で、詳しく話すわ!」


オレが聞くと、ニナは短く答えた。この後、オレとニナは、家族が住む村で休む事になった。使っていない小屋があるらしく、そこを自由にしてよいそうだ。




その夜、オレとニナは、助けた家族に案内してもらった小屋にいた。助けたお礼という事で、夕食をご馳走になり、この小屋で一泊させてもらっている。


「何か気になる事があるんだろ?」

オレは、小屋で二人になったタイミングでニナに話しかけた。


「ええ、今日の魔物は邪気をまとっていた」

「ああ、そうだったな」

オレが答えた。


「前にも話したけど、この世界では邪気が強くなる時期があるの」

「その邪気を浄化するために聖女を呼び出すんだろ!聞いたよ」

ニナの話におれが続けた。


「でも、邪気が強くなる速度が速いの!」

「どういう事?」


「私が知る限りだけど、邪気が発生してから強力な邪気を持つ魔物が現れるまで、数年くらいかかるはずなの!」

オレは、疑問に思った事を口に出した。


「邪気が発生したのっていつの事なんだ?」

「聖女様やマサノリが、召喚される直前に観測されたわ」

また、オレは疑問が湧く。


「邪気の観測って何を、どういう風に観測するの?」

「聖地と呼ばれる場所があるの!」


「聖地?」

オレがニナの言葉に聞き返す。


「ええ、聖地と呼ばれているけど、邪気の高まる量を観測する場所ね」

「つまり、その場所の邪気の量で、邪気が強まる時期が来るかを予測しているわけか」


「ええ、そうよ!」

オレは納得がいった。ただ、個人的にはもっと神託とか占いなどの、もっと神秘的な方法で予測していると思っていたので、ちょっと驚いていた。


案外、現実的な方法だ。ガスの噴出量を測定して、そこから火山の噴火の確率を算出するようなイメージだろうか。


「その聖地の邪気の量が、一定以上になったら邪気が強まる時期がくるって感じか」

「まあ、そんなに単純ではないけど、邪気の量で予測しているのは事実ね」

何となく理解したオレは頷く。


「待ってくれ!オレ達が召喚される少し前って事は、まだ一年もたってないじゃないか」

「そうなの、邪気を持つ魔物が出現するのは、世界の邪気の量がある程度強まってからのはずなの」

ニナが言っていた通り、今回は今までの事例より格段に邪気が強まる速度が速いのだろう。


「本来なら、もっと邪気に対する準備に時間をかけれたはずだけど、今回は準備の時間がないって事か」

「ええ!」

ニナが頷いた。


「この国の準備は間に合うのか?」

「わからないわ!」

ニナが、首を横にふりながら言った。


「おいおい大丈夫なのか?国が対応できないなら、一般人に犠牲がでるんじゃないのか」

「ええ、犠牲がでるかもしれない」

そう言った後、ニナはオレを見つめた。


「どうしたんだ?」

オレは、ニナの視線に気付いて尋ねた。


「通常、邪気が高まる前の数年の間に、聖女様は準備を整えるの」

「聖女の準備って?」

ニナの視線は気になったが、話の続きをうながす。


「魔術の訓練ね!特に聖属性魔術を使えるようになるための訓練よ」

「聖属性魔術か?たしか、オレ達が首都から逃げた時点では、聖女は聖属性魔術を使えないって言ってなかったか?」

オレは、その時の記憶を思い出していた。


「ええ、そして今も聖女様は、浄化の活動をしていない」

「浄化の活動?」

これについては、はじめて聞く内容だった。


「今までの聖女様は、半年程度で、聖属性魔術を覚えて、土地の邪気の浄化をしていたはずなの」

「今回は、一年近くたっても浄化をしていない!もしかして、まだ聖属性魔術が使えないのか?」


「たぶん!」

ニナが考えをまとめながら話していた。


「でも、オレでさえ聖属性魔術を使えはじめてるんだぞ!大丈夫なのか?」

「だから問題なのよ!」

ニナが、ため息をつきながら言った。


「もし、聖女様が聖属性魔術を使えてれば、マサノリが使えても、聖女様の助けになる程度にしか思われなかったわ」

「聖女を助ける戦力の一つか」


「ええ!」

でも、実際はオレの方が先に聖属性魔術を使ってしまった。


「前にも言ってたな!だからオレが狙われたんだって」

「狙われてる原因はそれだけど、それよりも重要な事があるわ」


「浄化か?」

現在、世界の邪気が強くなってきている。


それは邪気をまとった魔物が出現した事であきらかだ。本来、そうなる前に土地の浄化を聖女がしなければならない。


「誰かが、土地や魔物の浄化をしなければならないって事だよな」

「ええ、現状マサノリしか浄化魔術をできる人間はいないわ」


ニナが言いたい事はわかった。今日、オレは浄化魔術を使った。聖女が動けないのなら、誰かが浄化の活動をしなければならない。そうでなければ、邪気はどんどん強くなっていく。


「今の状況で浄化の活動ができるのか?」

「無理ね!」


ニナは、冷たく言い放った。中央のオレ達への対応について考えたのかもしれない。実際、国のバックアップなしに、浄化の活動をする事は難しい。移動手段が個人では限られているからだ。その上で、オレ達は命すら狙われている。


「ハァ〜!とりあえずオレ達にできる事は、早く聖女が覚醒してくれる事を祈るくらいだな」

オレは、そうニナに言った。それを聞いたニナは少し複雑な顔をしていた。


「もしかしたら、今回は聖女様ではないのかも…」

ニナがそう呟いた言葉を、この時オレは聞き逃していた。





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