ACT4〜人殺しの感触〜
「ハァー、ハァー!」
オレは、粗く呼吸をしていた。それは、ただ息がきれているというだけではない。初めて人を斬り殺したからだろう。まだ、手には相手を斬った時の感触が残っていた。
「ふざけるなよ!」
オレは走りながら呟く。
「現代の平和な中で生活してきたオレが、人殺しなんて」
また呟く。
「殺されてたまるか!」
この時初めて、オレが飛ばされて来たこの世界が、安全ではない事に気付いていた。
「絶対に生き残ってやる!」
そう決意した時、不思議と身体の震えが止まっていた。
「こっちです!」
森の奥でニナの声が聞こえる。オレは、その声の方向に走った。
この少し前、オレが寝ていると、突然叩き起こされた。
「早く起きて下さい!」
そう言ったのはニナだった。
「すぐに用意をして下さい!」
オレは、何がなんだかわからない状態だった。寝起きで頭がまわっていない状態で、用意を強要されていた。それは、逃げる用意だった。
「突然どうしたの?どういう事?」
「マサノリ様の命を狙っている者がいます」
オレは、その言葉を聞いて混乱した。
「命を狙うってどういう事?」
ニナに問いかける。
「説明は後でします!今は、すぐに用意をして下さい!」
ニナの雰囲気で、状況が切羽詰まっている事がわかる。ここにきてやっとオレは理解し始めていた。
「行きます!私について来て下さい!」
そう言ったニナも、緊張しているようだった。その後オレ達は、王宮を出て王都を離れた。王都の中では下水道を伝い、王都を出た後は、馬車を乗り継いだ。
「この馬車は、ガイム団長が手配してくれました」
馬車に揺られている時に、ニナが教えてくれた。
「このまま、国境近くまで行きます」
「そこに行けば安全なのか?」
馬車に乗っている時に、オレ達はそんな会話をしていた。その時に、騎士の鎧を着た者達に襲われたのだ。
「早く逃げて下さい!」
ニナがオレに叫んだ。
「一人で逃げれるわけないだろ!」
そう言いながら、オレは炎の魔術を使った。騎士達の足元に炎の槍を何本も打ち出す。フレイムランスという魔術だ。
「ウオ!」
騎士達は、その魔術に怯んで動きを止めた。オレ達は、その隙をついて逃げる。オレは、ニナと近くの森に入っていた。
「打て!」
オレ達が走る後ろで、そんな声が聞こえた。同時に何かが飛んでくる。空気の塊のようだった。おそらく、風系の魔術だろう。それがオレ達の近くに被弾する。
「キャ!」
ニナとオレは、別々の方向に吹き飛ばされた。
「逃さんぞ!」
オレを追ってきた騎士が剣を抜いた。オレもそれに迎え撃つため剣を抜いた。
「斬り合いをするのか?殺し合い?」
オレは、そう呟いていた。身体が、脚が、手が震えている事に、その時気付いた。
「死ね!」
騎士がそう言って、剣を振り下ろす。
オレは、半歩引きながら、騎士が振り下ろす剣を打ち落とし、返す動きで騎士のノドを切り裂いた。動脈が裂けたのだろう、血が吹き出す。オレは、この時の事を忘れない。そう、初めて人を斬り殺した時の事をだ。