ACT30〜刺客とサラマンダー〜
「ほう!我らの気配に、こんなに早く気付く者がいるとはな!」
闇の中から一人の男が現れた。いや、後ろに数人を引き連れている。
「アサシンか?」
ナミナが呟く。ナミナは素早く剣を抜き、戦闘態勢を整えた。オレ達もそれにならい剣を構える。
オレは、横目でナミナをチラ見した。今まで、オレは気付いていなかったが、ナミナはオレが思っているより、騎士として優秀なようだ。
まあ、当たり前だろう。騎士団に入るだけでも選抜されるのに、その中でも上位の騎士なのだから。
「暗殺者?俺を狙ってきたのか?」
オレは、ナミナの事を考えていたのを切り替えて、戦闘態勢を整えながら言った。
「聖女様の威光を語る者を粛清する!」
暗殺者の男は、そう言って湾曲した剣を引き抜いた。刀のように湾曲した剣だが、日本刀とは違う。
確か、中東にファルシオンとかいう湾曲した剣があったが、それに近いかもしれない。
「聖女?あなた達、アルティア正教の人間ね!」
ニナが、そう叫んでいた。たしか、聖女を崇拝する教団で、ヴァンライズ王国の国教だったはずだ。
「多くは語らん!死ね!」
男がそう言った後、暗殺者達がオレ達に襲いかかってきた。
オレは、暗殺者の一人の剣を撃ち落としながら、攻撃をしのぐ。思ったよりも落ち着いて対応できている。
「コイツら、強いぞ!」
暗殺者の攻撃をしのぎながら、オレは叫んでいた。
「アルティア正教が抱える特殊部隊です!」
リーシオがオレに答えた。ニナとリーシオは、魔術と剣で連携を取って戦っているらしい。
横目で少し見るのが精一杯で、余裕がない。自分の身を守るので精一杯だった。
暗殺者達は、剣術もマナの使い方も、凄まじく上手かった。
「このままでは…!」
オレの横で暗殺者の相手をしているナミナが呟く。
「うわー!なんだ!」
その時、オレ達から少し離れた場所にいた暗殺者の一人が悲鳴をあけた。
その声を聞いて、暗殺者達の攻撃が少し緩くなった。オレも声の方向を見る余裕ができた。
「なっ!こんな時に魔物だって!」
黒い邪気をまとった魔物が、暗殺者の一人を襲っていた。
周りを見ると、邪気をまとった犬型の魔物の群れが、オレ達を囲んでいた。
「申し訳ありません!彼等との戦闘で、魔物の接近に気付きませんでした!」
ナミナがオレに詫びる。こんな状況で魔物を感知できないのは仕方ない事だ。
「グワッ!」
「ギャッ!」
オレ達を囲んでいた暗殺者達は、邪気をまとった魔物の攻撃を受け、短い悲鳴を上げている。
手練れであっても、通常の武器では対応できないようだ。
「ホーリーブレード!ホーリーロッド!」
オレは、そう叫びながら、オレ自身とナミナ、リーシオの剣に浄化の力を付与する。
同時に、覚えたばかりの浄化魔術で、ニナの持つロッドにも浄化の力を付与した。
「行きます!」
そう言いながら、ナミナが暗殺者の間を縫ってオレ達に襲いかかってきた魔物を、一撃で倒した。
オレやニナ、リーシオも、同じように接近してくる魔物を、簡単に葬っていく。
「バカな!我々が手こずっている魔物をやすやすと!」
暗殺者のリーダーらしき男が呟いているのを、聞きながらオレは剣を振るっていた。
「あの剣に付与しているのは、浄化の魔術か?」
男は、驚愕の顔で、また独り言のように呟いた。
「数が増えてきているのか?」
男を横目に剣を振るっていたオレは、横で魔物を切り裂いていたナミナに声をかけた。
「さっきより増えています!ここに集まってきているようです!」
ナミナが、また一匹魔物を切り裂きながら答えた。
「ナミナ!少し頼む!でかいのを打つ!」
「わかりました!」
オレは、そうナミナに声をかけた。ナミナだけでなく、その声を聞いたニナとリーシオもオレの浄化魔術の発動の時間を稼ぐために、援護をしてくれた。
と、言っても数秒の事ではあるが。
「ホーリーストーム!」
オレは、そう叫びながら浄化魔術を発動させた。浄化の光が竜巻のように、渦をまきながら広範囲に浄化していく魔術だ。
今現在、オレが使える浄化魔術で、効果範囲と威力で、破邪の秘術の次に威力を持つ魔術だ。
ホーリーストームによって、周りにいた数十匹の魔物は浄化され、逃げていった。
「これでは、まるで聖女様ではないか!」
暗殺者のリーダーらしき男は、オレの浄化魔術を見て、そう呟きながら呆然と立ち尽くしていた。
他の暗殺者のメンバーも同じように呆然としている。
「ふぅー!どうする?まだ、続きをするつもりか?」
オレは、一息つきながら暗殺者のリーダーらしき男に尋ねた。
「オマエは何者なんだ!」
男が混乱した声で、オレに尋ねた。
「ただの異世界人だよ」
「なら、なぜ浄化魔術を使える!なぜ、聖女様の威光を使う!」
男が叫ぶように言った。
「聖女の威光を使った覚えはないんだけどな!ただ、魔物を討伐しただけだ!」
「なら、浄化魔術は?」
男がさらに食い下がって言う。
「オレもわからない!何故か使えた!」
「そんな…」
男は絶句していた。そして、あきらかに混乱している。
「今回は引く!いくぞ!」
男は、混乱したまま手下を連れて去っていった。
「大丈夫?」
ニナがオレの下に駆け寄り声をかけてきた。
「ウギャーオ!」
オレがニナに答えようとした瞬間、街道の奥の森から、巨体が現れた。
「なっ!サラマンダー!」
ナミナが呟いた。
「そんな!なんでこんな所で…」
リーシオが、その巨体を確認してさけんでいた。
「あれがサラマンダー?」
オレは、元いた世界のゲームなどの知識を思い出していた。作品によってサラマンダーの姿には、違いがあった。
だいたい、ドラゴンっぽい姿をしているか、デカいトカゲのような姿をしている事が多いはずだ。
確か、炎に耐性があって、自身も炎を吐くはずだ。どうやら、この世界のサラマンダーは、デカいトカゲのようだ。
「これがサラマンダー?」
おれが呟く。目の前のサラマンダーは、四本の足で立った状態でも、オレの背丈以上の大きさがあった。
「コイツ!私達を襲う気満々ね!」
ニナが、戦闘態勢になりながら言った。ナミナもリーシオも戦闘態勢になる。もちろんオレもだ。
「邪気をまとっている訳ではないみたいだな!」
オレが剣を構えながらニナに聞いた。
「単純にエサを探して出てきたか、もしかしたら、さっきの浄化魔術で浄化されたけど逃げないか、どっちかね」
ニナの答えに納得した。基本的に浄化された魔物は逃げる事が多い。
コイツみたいに、浄化されても人を襲う魔物もいるという事だ。
「ハッ!」
オレは、ニナと共に少し後ろに下がり、距離をとりながら、炎の魔術を打ち出す。全く効いていないようだった。
「ダメよ!サラマンダーに炎の魔術は効かないわ!全身のウロコは炎耐性を持っているの」
ニナがオレに叫ぶ。
「ウロコに耐性?」
オレが、呟いた。その時サラマンダーがオレに前脚の爪で攻撃してきた。
「マサノリ殿!」
ナミナが叫ぶのを、オレは聞きながら、その爪の攻撃を剣で撃ち落としながら逸らす。
真正面から受けるのではなく、受け流すように撃ち落としていた。
そんな攻防が何度か繰り返される。この受け流すような技術は、元いた世界の剣術の技術だ。
サラマンダーは、爪だけでなく尻尾を使って攻撃もする。
オレは、それをしのぎながらサラマンダーの顔を剣を斬りつけた。
浅い切り傷を付けたが、たいしたダメージではない。
「すごい!まるで一流の騎士のような動き…」
ナミナが、そう呟くのが聞こえた。
「ガン!」
そんな音をが鳴り響き、オレはサラマンダーの尻尾の攻撃で吹き飛ばされていた。
「マサノリ!」
ニナが叫ぶ。オレは、吹き飛ばされて、近くの木に背中からぶつかった。
「ぐ、う!ヤバかった!マナを上手く使えてなければ、やられてた!」
オレが独り言のように呟きながら立ち上がった。
「大丈夫なの?」
立ち上がったオレを見て、ニナが叫ぶ。
「ああ、ヤバかったけど、大丈夫だ!」
オレは、ニナに答えた。その間、ナミナとリーシオが魔術と剣でサラマンダーを抑えていた。
「やってみるか!」
オレは、独り言のように呟いた。サラマンダーに吹き飛ばされたからか、理由はわからないが、一つ思い付いた事があった。
「何?どうしたの?」
ニナがオレに声をかけた。
「ホーリーブレードができるなら、もしかしたら!」
「何?」
オレの呟きにニナが聞き返す。
「一か八か試してみる!」
「何を?」
ニナが聞き返すのより速く、オレはサラマンダーに向かって走り出した。
「ニナ!援護頼む!」
そう言いながら、ナミナとリーシオに参戦したオレは、サラマンダーの爪と尻尾の攻撃を受け流す。
ニナとリーシオは、少し距離をとり、氷や水の魔術でサラマンダーを攻撃して、オレとナミナを援護していた。
「フゥッ!フゥッ!」
と、オレは呼吸を整えながらサラマンダーの攻撃をしのぐ。
「ここだ!」
オレは、そう叫びながらサラマンダーの爪の攻撃を受け流すと同時に、サラマンダーの目に剣を突き刺した。
「ハァーッ!」
気合の声と同時に、剣から炎が噴き出す。
「ギャォウ!」
サラマンダーが、そんな鳴き声を出しながら逃げ出して行った。
「ハァー!」
オレは、そんな声を出しながらその場に座り込んでいた。一気に疲労が出て、動けなくなったようだった。
「大丈夫?マサノリ!」
ニナ達は、サラマンダーが遠くに逃げたのを確認してから、オレの下に集まってきた。
「ああ、なんとかね」
オレが、力なく答えた。
「最後のはなんですか?剣から炎が出たように見えましたが」
リーシオが、どうしても我慢ができなかったのだろう、疑問をぶつけてきた。
「ホーリーブレードで、浄化の魔術を剣にまとわせられるなら、他の属性魔術もできるかも、って思ってさ」
オレが、そう答えたのに対してリーシオは目をまわるくしていた。
「そんな使い方、聞いた事もないわ!それにサラマンダーには炎の耐性があるはず!」
ニナも我慢できずに疑問を口にしていた。
「まあ、剣に炎の魔術を付与したのは、ぶっつけだったから、上手くいってよかったよ」
ニナ達は、少し呆れていた。
「それと、サラマンダーが炎の耐性があるのは、ウロコとかの外部だろ?身体の内側はそうでもないと思ってさ」
「そんな事を、あの状況で…」
ニナが、呟く。
「なんとなく、咄嗟に思い付いたんだ!上手くいってよかったよ」
「無茶しないでよ!なんかあったらどうするの?」
ニナが、真剣な顔で怒っているようだった。
「あの、ゴメン…」
オレは、ニナに謝った。そして、周りを見渡し、ナミナとリーシオにも謝る。
「とりあえず、なんとかなったな!」
オレが呟いた。
「いえ、凄い事だと思います!たった四人でサラマンダーを撃退したのですから」
リーシオが少し興奮気味に言った。
「そうなの?」
「はい!普通、騎士が十人以上で戦っても、撃退できるかわかりません!」
オレの言葉にナミナが答える。
「運がよかったんだろうな!」
本当に、運がよかったんだろう。疲労がたまった身体は、重かった。
オレ達の北の村への旅の最後の夜は、激闘だった。
暗殺者と魔物、そしてサラマンダーとの連戦だった。でも、オレ達はそれをしのいだ。
暗殺者達は、また襲ってくるだろうか?おそらく、魔物の討伐も続ける事になるだろう。
だけど、今のこの仲間達となら、なんとかなるような気がした。
オレ達の旅は、まだ続くのだと、オレは何となく予感していた。




