ACT2〜趣味で剣術を学ぶ〜
オレがこの世界に来て数日が過ぎていた。王宮での生活は、まだ慣れたわけではないが、違和感は薄らいでいた。
ニナが、色々と世話をやいてくれているからかもしれない。彼女は、魔術師団の人間として、関係のないオレを巻き込んだ事に、責任を感じているらしい。
「申しわけありません!魔術師団の人間として、私はこの儀式をまとめていた一人です」
彼女はそう言っていた。どうやら、儀式の中核部分を受け持っていた一人だったらしい。だからか、オレの要望を極力聞こうとしてくれている。
「あの、オレに付いてくれてるのは有り難いけど、やる事もないからヒマでしょ」
オレは、あてがわれた部屋のすみで、神妙な顔つきで立っているニナに声をかけた。
「いえ、何かありませんか?なんでも言って下さい」
責任を感じて、オレを気遣ってくれているのはわかるが、これといってオレにやる事はない。
「とりあえず、庭でも散歩しようか」
やる事もなく、二人で部屋にいるのは時間を持て余してしまう。オレは、そんなふうに思っていた。
「天気いいね〜」
オレは、王宮の庭を歩きながらニナに声をかけた。
「はい、そうですね」
まだまだ、ぎこちない会話だと思う。
「ん?なんの音だ?」
オレは、遠くで聞こえる金属や木製の物がぶつかる音を聞いた。
「たぶん、騎士団の訓練の音だと思います」
「騎士団?」
どうやら、近くに騎士団の訓練場があるらしい。
「そこって、見学する事ってできるかな?」
「たぶん、大丈夫だと思いますよ」
オレは、騎士達の訓練に興味が出ていた。元の世界で剣術や体術などをやっていたからだろう。こっちの世界の戦い方を見てみたいと思ったのだ。
「ええ、かまいませんよ」
短く刈り込んだ金髪の男は、オレ達の見学を快く受け入れてくれた。なんでも、男は若く見えるが、副団長なのだそうだ。
「へぇ〜!木製の剣を使うんですね」
「はい、訓練ではケガをしないように木製の物を使います」
副団長が律儀にオレの質問に答えてくれた。
「それでも、木製だとケガをしそうですね」
「大きなケガでも、木製の剣程度ならば、ポーションでだいたい治りますから」
この世界では、傷の回復にポーションを使うらしい。傷薬の効果の高い物といった感じだろう。薬草や鉱物などの原料に魔力を加えて作るそうだ。これも、副団長が教えてくれた。
「オレの世界では、竹刀というもっと安全な物を使っていたので、なんか痛そうだなって思って」
オレが学んだ剣術の練習では、袋竹刀という、さらに特殊な器具を使っていた。
「マサノリ様も、剣術をされていたのですか?」
隣で聞いていたニナが聞いてきた。
「ああ、うん、オレの世界では剣で戦う事はないんだけど、大昔は剣を使っててね。そのテクニックが残ってて、オレはそれを練習した事があるんだ」
「剣を使って戦わないのですか?」
副団長が、オレの話に興味を持ったらしく聞いてきた。
「ええ、他に武器があるんですよ」
オレは、そう言って簡単に説明した。
「それに、オレのいた国では普段戦う事はないので、剣術の練習は趣味みたいなものだったんですよ」
副団長とニナは、異世界の知らない話を聞いて感心していた。
「剣術の経験者なら、訓練に参加してみますか?」
「いいんですか?でも、オレの剣術は趣味程度のものなので、通用するとは思えませんが」
実際、平和な日本で練習している剣術が、実際に戦闘のために毎日訓練している騎士達に通用するとは思えなかった。
でも、試してみたいという欲求もあったので、訓練に参加させてもらう事にした。最悪、ポーションで治してもらおうとも考えている。
「お願いします」
オレは、模擬戦の相手をしてくれる騎士の一人に礼をした。騎士もそれに返してくれる。
「行きます!」
そう言って、構えていたオレは、相手に向かって歩みを進める。模擬戦なので待っていないで、自分から攻めようと考えたのだ。
「カン!」
木と木がぶつかる乾いた音がした。オレが打ち込んだ、右斜め上からの俗に言う袈裟斬りを相手の騎士が剣で受け止めたのだ。
オレは、右側に周り込むようにして、受け止めた剣に自分の剣を擦り入れるようにする。相手の態勢が少し崩れたのに対して、剣を返して、相手の小手を打った。実際には小手のところで寸止めにした。
「そこまで!」
その時、そう叫ぶ野太い声が聞こえた。
「団長!」
声した方を見て、副団長の青年がそう言った。そこには、ガタイの良い大柄な男が立っていた。年齢は、四十歳前といったところだろうか。浅黒い肌の太い腕が鎧と服の間から見えている。
「君が異世界から来たという男か?」
そう言った団長と呼ばれた男は、ニカッと笑って握手を求めてきた。
「第四騎士団団長のガイム・リンドだ」
そう言った声に圧倒されながら、オレも自己紹介をする。
「藤本正則です!よろしくお願いします」
「今のは、異世界の剣技か」
騎士団長は、名前を聞くなり、そう聞いてきた。
「はい!そうです」
「いや~、いい動きだった」
「いえ、相手の方が手加減してくださったので」
オレはそう言った。実際、相手の騎士は手加減をしてくれていた。手加減というよりも、油断をしていたというのが正しい。だから、うまくオレの技が入ったのだ。
「どうだね、次は私とやってみないか?」
「お願いします!」
オレは即答していた。実際、たたかわなくても、この団長さんは強い。圧倒的な存在感を感じて、オレは気付いていた。でも、胸を借りるつもりで相手をしてもらおうと考えたのだ。
「イテテ!」
その後、案の定オレは団長に何度もやられた。オレの技はことごとく返されていた。圧倒的な反射神経とパワーだった。
「大丈夫ですか?」
ニナが心配そうに声をかけてきていた。
「いや~、何度か危ない時があったよ」
団長は、そう言いながら笑っている。
「どうだい、これからもウチの訓練に参加してみないか?」
「いいんですか?」
オレは、うれしそうに答えた。何もやる事がなかったけど、とりあえず、面白そうな事を見つけた。オレは、この時そう思っていた。