ACT11〜アルティア正教の思惑〜
荘厳な宮殿の廊下を男が歩いていた。その廊下は礼拝所に向かう廊下であった。男は、眉間にシワを寄せながら、後ろに付いた人間に何かを言っていた。
この男の名は、ヘラルド・ギニュールと言う。このヴァンライズ王国の国教である、アルティア正教の大司教であった。
「まさか、このような事になるとは」
ヘラルドは独り言のようにそう言った。
アルティア正教は、王国内に多くの教会と信徒を持っていた。それは、王国内の何処にでも正教の息のかかった人間がいるという事でもあった。
そして、それは同時に、情報網が王国内に張り巡らされているという事でもある。そのため、大司教であるヘラルドのところには、多くの情報が集まる。
それは、国の中枢である国王の情報網よりすぐれていた。おそらく、王国内において、最も情報伝達が速く、最速で情報を手にできるのはヘラルドだと言えるだろう。
「あの男が聖属性魔術で村人を助けただと」
また、ヘラルドは独り言を呟く。
「村人を助けるために戦い、回復魔術を使ったなど」
独り言は少し語気が粗くなっていた。アルティア正教は聖女を信仰する宗教である。
実際、この国では何度となく聖女によって救われてきた歴史があった。しかし、今回は状況が違ってきていた。
「なぜ、聖女様ではなく、あの男なのだ!」
ヘラルドは、憎々しくそう呟いた。通常ならば、アルティア正教にとって、聖女以外で聖属性魔術を使う者は貴重である。
普段ならば、聖女の恩恵を受けた人間として、聖職者として取り立てられる事が多い。しかし、今回は問題があった。
その男が異世界人だという事。そして、現在の聖女が聖属性魔術を使えていない事である。
「これでは、正教の威信が失態する」
そう、ヘラルドは呟いた。
「王国を救うのは、聖女でなければならない」
さらに一人呟く。
「これ以上、あの男の情報が広がれば、正教の教義がぐらつく事になる」
聖女以外の人間が、王国を救う事になれば、正教が崩壊する事にもなりかねない。
「それは、あってはならない事だ!」
ヘラルドの目は決意した者の目であった。
「誰か!誰かいないか!」
ヘラルドは、正教のために決意を固めた。




