プロローグ
月の光が反射して、大きく振りかぶられた剣が光った。
オレは、半歩引きながら、騎士が振り下ろす剣を打ち落とし、返す動きで騎士のノドを切り裂いた。
動脈が裂けたのだろう、血が吹き出す。
「ふざけるなよ!」
オレは、そう呟きながら震えた手をなんとか抑えて走り出した。いや、震えているのは手だけではなく、身体全体だとすぐに気付いた。
「なんで、こんな事になってんだよ!」
オレは、独り言を呟きながら走った。騎士達がオレの命を狙って探しているからだ。
自分の身を守るためとはいえ、オレは初めて人を殺した。まだ、震えが止まらない。
「オレは、この世界に間違って呼ばれただけだぞ!」
オレは、走りながら、さらに独り言を呟く。そうだ、オレはこの世界の聖女召喚の儀式に巻き込まれただけなんだ。
「オレは聖女と関係ないだろう!」
誰も聞いていないセリフを、オレはまた呟いた。
この世界では、百年程度の期間に一度、邪気が強まる時期がくるという。その邪気によって、魔物は凶暴化し、土地はやせ農作物が育たず、災害が増える。
その邪気を浄化する力を持つのが、聖女と呼ばれる人間だ。毎回、異世界から召喚するのだそうだ。
ただ、今回の聖女召喚では、関係のないオレまで召喚された。そして、目障りになり始めたオレは、命を狙われ騎士団に追われている。
「絶対に生き残ってやる!」
オレは、そう自分に言い聞かせながら走った。