7話
さらに半年の時が流れた。
俺は相変わらず鍛錬を続け、着実に成長を重ねている。
【名前】エル
【レベル】1
【力】20(+6)
【器用】7(+2)
【敏捷】8(+5)
【知能】20
【魔力】40(+10)
【運】10
【魔法】身体強化
【スキル】魔力操作
そしてこの半年で、俺の人生に大きな変化が訪れた。
……なんと、初めて「友達」ができたのだ。
相手は近所に住む子どもたち——ギンとラン。
ギンはがっしりとした体格で、頼れる兄貴分といった雰囲気。
ランは年上らしくしっかり者で、まるで小さな保護者のような子だ。
最近では、いつもの鍛錬に加えて、このふたりと遊ぶ時間が増えてきている。
おそらく親同士の話し合いで、彼らが俺の“遊び相手”兼“面倒係”に任命されたのだろう。
「エル! 今日はなにして遊びたい?」
ランがにこやかに尋ねてくる。
「うーん……」
「また昨日の“魔法使いごっこ”か? あれ、全然面白くなかったぞ」
ギンは不満げに口を尖らせた。どうやら魔力の知覚トレーニングは彼の好みに合わなかったようだ。
だが、それでいい。
俺の狙いは「遊び」ではない。
このふたりには、密かに“トレーニング”を施しているのだ。
「きょうは……かけっこがにしゅる!」
「お! いいぜ! そういうのを待ってたんだよ!」
ギンは満面の笑みで拳を握りしめた。やはり身体を動かすのが好きなのだろう。
「いいわよ。じゃあ、私たちが追いかける側ね。範囲は家の周りだけ。エル、ちゃんと逃げ切れるかな~?」
ランも袖をまくりながら張り切っている。
「わかった!」
その瞬間、俺は静かに【身体強化】を発動した。
ただ逃げるだけじゃない。この“遊び”を通して、俺自身の魔法運用の実践経験を積むと同時に、ギンとランの「敏捷」と「力」も引き出すよう誘導する。
まずはふたりと距離を取り、家の反対側へと移動する。
ランはよくできたお姉さんで、「まてー!」とあえてゆっくりと追いかけてくる。
一方のギンは——大人気ない。
彼は本気で家の逆側から回り込み、俺を正面から挟み撃ちにしようとしていた。
完全に勝利を確信した表情で、ギンは俺の正面へと躍り出た。
「エル、つかまえたっ!」
——が、甘い。
【身体強化】を使った今の俺の敏捷性は、常人のそれを遥かに上回っている。
ギンが両腕を広げて突っ込んでくるその刹那、俺は宙を舞った。
軽やかな宙返り。ギンの頭上を飛び越え、そのまま彼の背後へと着地する。
ギンは勢い余って地面に倒れ込み、呆然とした顔で空を見つめていた。
腕の中にいるはずの俺が、どこにもいないのだ。
「……えっ?」
その困惑顔を見下ろしながら、俺は心の中でそっと呟いた。
——まだまだだよ、ギンおにいちゃん。
トレーニングは、始まったばかりだからね。