6話
季節は巡り、気づけばこの世界に来てから半年が過ぎていた。
そして今日、俺は一歳の誕生日を迎えた。
朝、いつものようにステータスを確認すると、思わず目を疑った。
【名前】エル
【レベル】1
【力】15(+11)
【器用】5(+4)
【敏捷】3(+2)
【知能】20(+5)
【魔力】30(+28)
【運】10
【魔法】身体強化
【スキル】魔力操作
……な、なんだこれ。
大幅なステータスの上昇。一体何が起こったのか。いや、むしろ——なにか“起こった”のか?
思い当たる節はひとつしかない。
「……誕生日ボーナス、か?」
レベルが上がっていることからして、おそらくそうだ。誕生日と同時にレベルアップ、そしてそれに伴って各ステータスが上昇したと考えるのが自然だ。
それにしてもこの“ばらつき”は何だ? 均等に上がるわけではなく、特定の項目だけが大きく伸びている。
これはまるで……ゲームにおける“努力値”のようなものだ。
思い返せば、この半年間。俺は赤ん坊の体に鞭打って、筋トレに魔力トレーニングと日々狂ったように鍛錬を重ねていた。
特に、魔力を極限まで放出し、気絶寸前まで消耗し続ける。魔力枯渇トレーニングはそれこそ狂ったように行っっていた。
母からすれば「よく眠る赤ちゃん」だったろうが、その実態は“気絶”である。
その成果が数値に反映されたのだろう。
特に魔力の成長は異常ともいえる。これは間違いなく、あの“発見”が関係している。
そう、魔力を体外に放出し、それを自分の肉体に纏わせる——
この試みが成功したことで、魔力による身体能力の向上が可能になったのだ。
そしてそのタイミングで、俺のステータスに【魔法】として「身体強化」が追加された。
発現と同時に、魔力の扱いは格段に洗練され、魔力の消費効率も最適化された。
以前のステータスでも、身体強化状態を30分近く維持できていた。
今なら、数時間の持続すら夢ではない。
……この世界で“強くなる”という目的において、確かな一歩を踏み出した気がする。
だが、立ち止まるわけにはいかない。今日もまずは日課の筋トレから始めよう。
体重が軽い赤ん坊の肉体では負荷が足りないため、逆立ちからスタートだ。
そこから片手を外し、さらに指三本で支える。
その状態で腕を屈伸させ、上下運動を繰り返す。
我ながら異様な光景だ。ホラー映画も真っ青の不気味さかもしれない。
もちろん、母親の目を盗んで行っている。
魔力トレーニングの副作用で「よく眠る子」だと思われているので、監視の目もゆるい。やりやすい環境である。
全身のトレーニングが終わると、次は魔術の訓練へと移る。
ちなみに、すでに歩行は可能だ。正確には、だいぶ前から歩けていたが、不審に思われないよう、一般的な発達時期に合わせて“できないふり”をしていた。
今では堂々と部屋を歩いている。先日部屋の中をジョギングしていたら父が腰を抜かしていたがあまり気にしていない。まだ外に出る許可はないが、家の中でも得られる情報は多くなった。
半年前、父と母が話していた“ヴァイキング”の動向は、今のところ音沙汰がない。
だが来年のこの時期には危険が迫るらしく、村では傭兵を雇う準備として村長に納める貢納金が増やされているという。
父は嘆きながら働き、母は溜息まじりに小言を言う。
そんな平穏な毎日が続く。
それでも俺は今日も、鍛え続ける。
この世界で生き抜くために。