2話
現状の把握は、ひとまず完了した。
次に考えるべきは――今後の方針だ。
この世界の治安がどの程度かは、まだ分からない。
けれど、どんな世界でも生き残るには力が必要だ。
今の自分にできる最善策は、できるだけ早くステータスを向上させること。
【名前】エル
【レベル】0
【力】1
【器用】1
【敏捷】1
【知能】15
【魔力】1
【運】10
【魔法】なし
【スキル】なし
ステータスはご覧の通り。
やはり、知能と運以外は「1」のままだ。赤ん坊である今の肉体を考えれば当然といえば当然か。
まず、「力」。これは筋トレが思いつく。
「敏捷」は走ることだろうか。だが、いずれもこの赤子の肉体では限界がある。
いや、筋トレだけなら、多少は……できるかもしれない。
思い立ったが吉日。さっそく実行に移す。
仰向けになり、両腕を天に向かって突き出す。
それを、ベンチプレスの要領で上下に動かす。――1、2、3……。
成人男性からすれば笑ってしまうほど低負荷だが、今のぼくにとっては違う。
まだ未発達な筋肉が、早くも悲鳴をあげはじめる。
10回、15回、20回――。
限界だ。ぷるぷると震える腕が、これ以上の動作を拒否している。
……これは、間違いなく明日は筋肉痛だな。
続けて、足、腹筋、背筋――使える筋肉はすべて使うよう意識して、赤ん坊なりのフルワークアウトを終えた。
全身がぽかぽかと熱を帯び、汗がじんわりとにじむ。
ひとまず、これで“筋トレ”は完了。
ステータスに変化があるか確認してみよう。
【名前】エル
【レベル】0
【力】1
【器用】1
【敏捷】1
【知能】15
【魔力】1
【運】10
【魔法】なし
【スキル】なし
……変化なし。
そりゃ、そう簡単に上がるわけないか。
世の中、いや、異世界でも筋肉は裏切らない。継続あるのみ。明日も続けよう。
次に考えるのは――魔力。
これも、よくある設定だと、体内にある“エネルギー”のようなものを感じ取るところから始まる。
そう、"魔力を感じる"ってやつだ。
試してみよう。意識を内側へ、内側へ――静かに、深く集中する。
…………
「…………わややい(わからない)」
まったく手応えがない。
体の中にエネルギーが流れてる気配もなければ、ビリビリするような感覚も皆無。
……30分ほど頑張ってみたが、感覚すらつかめなかった。
やはりこれも、時間をかける必要がありそうだ。
筋トレと同じように、毎日継続すること。そうすれば、いつか“魔力”を操れる日が来るかもしれない。
こうして、“第二の人生”は始まった。
誰にも知られず、誰にも頼らず、ベッドの中でこっそりと――
未来のために、静かに、そして確かに力を蓄え始めるのだった。