1話
初作品です。
拙い文章ですが、お許しください。
長く、そして辛かった闘病生活が、ようやく終わろうとしていた。
この十五年間――生まれてからずっと、人生のほとんどを病院のベッドの上で過ごしてきた。
窓の外の季節は何度も巡ったけれど、その風景を肌で感じることはほとんどなかった。
ベッドの横で泣いている母と父。
ごめんなさい、「普通」に生まれることができなくて。
でもね、ふたりの愛情は、ちゃんと伝わってたよ。それだけが、生きる理由だった。
今までありがとう。ぼくの世話で、きっと大変だったでしょう。
これからはふたりで、長く幸せに暮らしてね。
ぼくは少し先に、天国で待ってるから――
静かに、瞼を閉じた。
――――――――――――――――――――――――
……ずいぶん長く眠っていた気がする。
ゆっくりと目を開けると、知らない女性の腕の中に抱かれていた。
彼女は若く、美しい人だった。まるで、大昔のヨーロッパの街娘のような格好をしている。
「エル? 起きたの? お腹がすいたのかな?」
大きくて、優しい瞳が、まっすぐこちらを見つめてくる。
……なにが起きているんだ?
たしか、ぼくは病室で、両親に見守られながら――死んだはずだ。
ここはどこ? この人はいったい誰なんだ?
慌ててあたりを見回す。どうやら家の中のようだ。
けれど、その造りはまるで歴史の教科書で見た中世の建物のようだった。
そして――自分の体に、違和感を覚える。
うまく手も足も動かせない。視線の先に見えたのは、ぷっくりと丸い自分の手。
「あ、あうあー……(あのー)」
喋れない。言葉が出てこない。
――まさか、ぼくは赤ちゃんに……!?
「やっぱりお腹が空いたのね」
その女性――おそらくこの世界の「母」なのだろう。
彼女は微笑むと服をまくり上げ、乳房をあらわにした。
戸惑いもあったが、不思議といやらしさのようなものは感じなかった。
これはきっと、本能的な感覚なのだろう。
そう自分に言い聞かせながら、乳をくわえ、栄養を摂取する。
――なんだろう、この安心感。
しばらくして母が部屋を出ていくと、満腹になったぼくの気持ちも、だんだんと落ち着いてきた。
転生――それは、長い入院生活の中で読んでいたライトノベルによく出てきた言葉だった。
事故や病気で死んだ人間が、剣や魔法の世界に生まれ変わるという、あれだ。
もしかして、本当に……?
まずは、目の前の情報を整理しよう。
家の壁はレンガのような石材でできている。天井は木の梁に、藁や葦が乗っている。明らかに現代日本の建築様式ではない。
部屋の中央には暖炉があり、鉄製の鍋がかけられていた。
少なくとも、ある程度の鍛冶技術は存在しているようだ。
あとは――母の服装が妙に薄着だったこと。肌寒さを感じる気温にもかかわらず、だ。
もしかすると、この地域は寒冷地でありながら、暖房技術に乏しいのかもしれない。
……ひとまず、ここまでが現状だ。
さて、転生モノといえば、あとは“アレ”が定番だろう。
「……うえー、あう(ステータス)」
……発音ができなかった。
念じてみることにする。
(ステータス)
何も起きない。
イメージが足りないのか? 頭の中に、画面が表示される様子を思い浮かべる。
もう一度――
(ステータス)
【名前】エル
【レベル】0
【力】1
【器用】1
【敏捷】1
【知能】15
【魔力】1
【運】10
【魔法】なし
【スキル】なし
――で、出た!!
視界に文字が浮かぶというよりは、頭の中に直接映像が流れ込んでくるような、不思議な感覚だった。
……なるほど。知能と運以外は軒並み1。おそらく赤ん坊だから、これが下限値ということだろう。
魔法もスキルもまだ何もない。そしてレベルは0スタート。
冷静に、冷静に。状況を整理しよう。
ぼくはどうやら、異世界に「転生」した。
しかも、スキルや魔法、レベルといった、ゲームのような概念まで存在している。
そしてこの世界では、ぼくは「エル」と名付けられたようだ。
――病院のベッドの上で、ただ天井を眺めていた前世とは違う。
新しい人生が、今ここから始まろうとしている。
正直に言おう――これはもう、最高すぎる。