ヒロイン・結月
長い長い午後の授業が終わり、部活動に行く人、帰る用意をする人など。私も帰る用意を始めたときだった。
「一条さんだよね…?」
結月が話しかけてきたのだ。
ヒロインが自らこんなモブに向かって話しかけに来てくれた…。わざわざ放課後の大事な時間を使って。
「そうです!覚えててくれて嬉しいです」
結月が髪を耳にかけながら話を続ける。
「放課後ちょっと時間あるかな…?」
「全然あります」
「ならこれからカフェでお茶しない?あと、敬語はやめようよ。同じクラスなんだし」
「うん!」
二人で大通りにある人気のカフェに入る。
「それで…廉くんと麗くんとはどういう関係なわけ??」
結月の声が低くなる。
「どうやって二人を見分けたのよ!!」
結月が怒鳴りつける。
「どうって言ったって…」
「ただのモブのくせに出しゃばらないでくれる?」
あ、れ…。結月ってこんな感じだったっけ…??
「早く二人から離れないなら私があなたをクラスから孤立させる」
「二人が誰といようと二人の勝手でしょ!?」
「はぁ!?」
結月が逆ギレして私に向かって手を上げる。
「私が気にかけなかったら名も無いモブの癖に!」
叩かれると思って身構えたが痛みはいつまでもやってこない。
「うるさいんだけど」
玲苑が結月の腕を掴んで結月を睨んでいた。
「何で玲苑くんがここに…」
「あんたに“玲苑くん”って呼ぶのを許可した覚えはないんだけど」
「あぁ…」
結月が膝から崩れ落ちた。
「どうやって律に取り入ったのかは知らない。ただ、水葵に手を出すのは違うんじゃない?」
「何でここに…」
まさか居るとは思ってなかった…
「最初からおかしいと思ってた。こんな変なやつに話しかけるのは相当変わり者だからな」
「フォローの仕方!大体、元はといえば玲苑が“今朝の変なやつ”って言葉から始まってるんだよ!」
キッと玲苑を睨む。
「これで終わると思わないことですね…」
その瞬間、立ち上がった結月が走ってカフェを出ていった。
「怪我は?」
「ないけど」
急に推しと二人はどうしていいかわからんて。
「玲苑…さんは何でここに」
「何でさん付けしてんの?」
「さっき許可した覚えはないって怒ってたから…」
玲苑がびっくりしたような顔をする。
「そんな事気にしてたわけ?」
そりゃ、あんなキレ方したら心配なりますて。
「水葵は特別」
「え、それって…」
「あいつ帰っちゃったし暇でしょ」
「暇なわけでは…」
「全然あるんじゃないの?」
よく覚えてるな…
「で、玲苑は何でここに居るわけ?」
「勉強」
「流石生徒会」
帰るという選択肢は無いので玲苑の向かいの席に座って勉強を始める。
「そこ間違ってるよ」
「え、」
答えが書かれたルーズリーフに向かって指をさす。
「その問題は引っ掛け問題で…」
「なるほど…」
気づくと、2時間経っていた。
「そろそろ帰らないと…」
「うん。もうちょっと」
もうちょっと、もうちょっとっていつ終わるんだよ。
「これ」
玲苑がスマホを差し出した。
「俺の連絡先。困った事あったら連絡して」
「いいんですか……?」
「いいから教えてるんだけど」
推しと連絡先交換できた…。今なら何でもできる気がする。
「じゃ、また明日」
「また明日…」
やっぱしイケメンだった。さっすが私の推し…