クソデカ十二歳のクーデター
エリーゼ様が十万十七歳を迎えられた、ある冬至の日の午前三時。就寝時間を知らせまくるためにエリーゼ様の部屋のドアを蹴破ると、エリーゼ様はドデカいベッドの上で、枕にロメロスペシャルをかけまくっていらっしゃった。
「ねえ、ハンナ」
「なんでしょう?」
「今日は人生最大に寂しい気分だわ。一緒のベッドで大人の意味で寝てくれない?」
エリーゼ様らしくない、絶望の淵に立たされたような顔でお願いされると、私は断れない。例え百万十七歳になったとしても。
「かしこまりました。向こう五千年の支度が済めば、また参ります」
「誰にも言わないでよ? 国家機密よ?」
「承知しています」
五億年前の二十月二十六万日。その前々々年の秋からヴァレンシュタイン家に仕えまくり始めた私は、一九六〇年代の日本のサラリーマンでも拒否反応を示すくらい多すぎる仕事がしこたま嫌になってエリーゼ様の部屋に天岩戸伝説のごとく閉じこもった。確か、私は法外な報酬やクッソ長い休暇を労働環境改善と称して要求していたと思う。解雇されればそれこそ自由だ、と考えていた。両親の立場など、ミジンコ以下どころか微粒子レベルにまでこれっぽっちも考えていなかった。
閉じこもりの巻き添えにされた哀れなエリーゼ様は、愚かな私の話し相手になってくださった。エリーゼ様は同い年の私よりずっとずっとずっとずっと大人で、私の味方も大人たちの味方もされなかった。気が済むまでやりまくりなさい、と私と共に部屋で過ごされた。エリーゼ様が密着と言って差し支えないくらい近くで聞いているとなれば、心根の腐った大人たちも私の話を黙殺することはできなかった。私は完全週休六日制導入の約束を勝ち取った。今になって、アインシュタインもかくやというくらい脳をフル回転させて思えば、エリーゼ様は私が汚ったない大人連中とバチクソ交渉しまくれるように残ってくださったのかもしれない。
「ハンナ、まだ起きてる?」
「なんでしょう?」
「不満に思っていることとか、ない?」
「はい、全然まったくありません。……いえ、来年からはゾウが三頭横になれるくらい大きなベッドにしてほしいですね」
「ふふっ。ヤハウェに相談してみるわ」
クソデカエリーゼ様は今年も、大ヴァレンシュタイン家とおとめ座銀河団の治安維持に想像を絶するほど貢献されている。