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第83話「 『龍神セルロスフォカロ 』」

ご覧いただきありがとうございます!

とは言ったものの――。


エーシルどころか、マキナたちに追いつける足がない。


彼女たち『神』は飛んでいる……対して俺たちは徒歩。


この圧倒的な移動手段の違いを前にして、俺たちができることは限られている。


「……追いつけないな、これ」


「う、うむ」


「そう……ですね」


エルザとルクスの声も、どこか焦りを孕んでいる。


このままでは、俺たちが到着する頃には全てが終わっている可能性すらある。


それを考えると、ここで無策に走るのは愚策だろう。


キャルロットから借りた『虎車』は既に逃げてしまった。


俺たちの足では、到底間に合わない。


――何か手はないか。


俺は考えた。


「……あ、そうだ」


「どうしたのだ、アスフィ?」


思い出した。


再構築される前の世界で、マキナに色んな魔法を教えてもらったことを。


もちろん俺は使えなかった。だが、魔法の呪文に憧れて、使えもしない呪文をマキナに懇願し、いくつも教えてもらっていた。


マキナも使えない、俺も使えない。


人間には扱えない、そんな魔法――。


……ただし一人(・・)だけ。


恐らく人間でありながらこの魔法を使える者がいる。


「――ルクス。お前だ」


「………はい?」


ルクスは目をぱちくりさせた。


俺がマキナから教わった魔法、それはかつて龍神が使っていたとされる魔法だった。


龍神ハクが言っていた『戦争』……おそらく、あの戦争で使われた魔法だ。


龍神ハクが人間の姿になれるように――。


”人間”が”龍神”になれる魔法。


だが、この魔法は攻撃魔法でも防御魔法でもない。


支援魔法でも回復魔法でもない。


どのカテゴリーにも当てはまらない、異質の魔法。


それ故に、人間には扱うことができない――ただ一人を除いて。


「ルクス、今から俺が教える『呪文』を復唱してくれ」


ルクス・セルロスフォカロ。


彼女には『あらゆる魔法を扱える』という才能がある。


だからと言って必ずしも扱えるとは限らない。


……だが、俺はルクスを信じている。


「いいかルクス、呪文はこうだ……」


……

………

…………


「……なんか長いですね……覚えるのが得意な私が言うのもなんですが、よくこんなの覚えることが出来ましたね、アスフィ」


「男はカッコイイものは大体覚えてるもんだ」


「……そうなんですか……分かりました。もう覚えました」


流石の記憶力だ。


「いきます!」と意気込むルクス。


彼女は手を上に掲げ、詠唱を始める。


「我らは勇ましくも気高き『龍神』――」


「神の名に恥ぬ気高き『龍神』である――」


「Είμαστεοιπιοδυνατοίδράκοι.Τοαίματουθεούτουδράκουκατοικείσεαυτότοσώμα.Οκόσμοςμεθέλειτώρα.Τώρααπελευθερώστετο,τοπερήφανοπνεύματουΘεούΔράκουπουκατοικείμέσαμου!――」


……。


「………な、なぁ、アスフィ……ルクスのやつ、頭おかしくなったのか?」


「大丈夫だ、俺の記憶が正しければこんな感じだった………たぶん」


ルクスの詠唱を改めて聞いて、俺も少し不安になってきた。


……確かに意味が分からないよな、これ。


教えた俺が言うのも何だが、まるでジュゲムのフルネームでも覚えるかのような気分だ。


✳︎✳︎✳︎


……どうやら、唱え終わったようだ。


ルクスの体が光を放ち、サイズがどんどん大きくなっていく。


「お、おい!?アスフィ!?これは何だ!!ルクスがどんどんデカくなっていくぞ!!?」


「……ああ、実際に見るのは初めてだが、すげぇな……」


ルクスの成長は止まらない。


やがて光が収まり、そこにあったのは――。


「…………これがルクス……なのか?」


「ああ、名付けて!龍神セルロスフォカロ……ってとこだな!」


「龍神セルロスフォカロ……か。うむ、いいな!ルクスが消えてしまったのは残念だが、これはこれでいい!」


白く輝く龍の鱗。


銀色の角に、綺麗な赤い目。


その頭からは、ルクスのトレードマークとも言える白髪がなびく。


まさに神々しく、美しい白龍。


「あの……これが私ですか?」


「ああ、成功したみたいで何よりだ」


ルクスは自分の体を首を長くして見ていた。


本当に首が長い……。


俺はルクスの鱗を撫でる。


ザラザラとしているが、柔らかさもある。


「なぁ、この場合ルクスの胸はどこになるんだ?」


「………アスフィが今撫でている所です」


「なるほど……無いな」


「……泣きますよ?」


まぁ元々大きい訳ではなかったが……何て言ったらブレスでも吐かれそうだ。

だが、小さいのがむしろルクスのいいとこだろう。


エルザは腕を組み、頷く。


「ああ、それにしても美しいな!!」


龍神セルロスフォカロとなったルクスを見て、エルザは感動の声を上げる。


「よし……!龍神セルロスフォカロ!俺達を背に乗せてくれ!」


「……あの、その呼び方ちょっと恥ずかしいんですけど」


「何を言う龍神セルロスフォカロ!お前は今、美しく輝いているぞ!さぁ私たちをその背に乗せていってくれ!」


「………泣きますよ?」


さて、冗談はこれくらいにして、エーシルを追うとするか。


――早くしないと、そろそろ本当にルクスが泣きそうだ。


「では……飛びますっ!」


その言葉と同時に、ルクスの巨大な両翼が力強く羽ばたいた。


俺たちの体がふわりと浮き、重力から解放される感覚が広がる。


夜の静寂の中、龍の翼が風を切る音が響く。


それに合わせるように、ルクスの身体が光を帯びているように見えた。


まるで星空の中に、一筋の流星が駆け抜けるかのように――。


「うぉ!!すげー!ルクスすげーぞ!」


「うむ!これは感動だ!」


俺とエルザは興奮を抑えきれず、はしゃぎまくっていた。


龍の背に乗るなんて、そうそうできる経験じゃない。


この壮大な視界、この浮遊感……どれを取っても、俺の知る冒険のどれとも違う。


だが――


「ゆくのだ!龍神セルロスフォカロ!!!」


「そうだ!いけー!龍神セルロスフォ――」


「――うわぁぁぁ!!?」


突然、ルクスが宙で一回転した。


俺たちはあわや振り落とされそうになる。


「わわわかった!もう言わない!言わないからやめてくれルクス!落ちる、ホントに落ちるからぁぁぁぁぁ!」


俺は必死に背中の鱗にしがみつく。


「………アスフィ……私はなんだか吐きそうだ……」


ふと隣を見れば、エルザの顔が青ざめていた。


――これはマズイ。


「おい!ルクス!エルザが吐くぞ!いいのか!?お前の綺麗な背にエルザのゲロが降りかかるぞ!?」


「……っ!!」


さすがに嫌だったのか、ルクスの動きが止まった。


俺も安堵の息をつく。


「……ふぅ、助か――」


「オェェェェェェェェェェェェェッ!!!」


「助かってねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


龍の背から、大量のゲロを撒き散らすエルザ。


飛び散る白銀の光――もとい、汚れた軌跡。


その夜、星が瞬く美しい夜空に――


汚い虹が掛かった。

もはやチート能力すぎるルクス。


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