第58話「『ゼウス・マキナ』」
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ヨダレは何とか収まった。だが、垂れ流していたせいで口元が乾いてカピカピだ……。
しかも、水分をかなり持っていかれたような気がする。
「なにか飲みたい……」
「うむ、私もだ……」
「水魔法は……ダメですね。またエルザがお腹を壊しますし」
いや待て、この場には水の神だったアイリスがいるじゃないか!
……この状況で流石に断らないよな……?
「なぁアイリス――」
「わたくし人間ですので」
ちっ。こいつ、まるで俺が頼むことを読んでいたかのように被せてきやがった。
もういいよ!お前には何も頼まねぇ!二度とな!
「……確か我の記憶では、この辺りに川が流れていたはず」
「なに!?本当かゼーウスよ!」
エルザが食いつき、ゼーウスが首を縦に振る。
よし、そうと決まればそこまで急ぐまでだ。
……
…………
………………
「……なぁ、どこだよ川」
「あれ?我の記憶ではここに流れていたのだが」
「それいつの話だ」
「分からない」
俺はもう一度、アイリスにお願いする。もう頼みの綱がアイリスしか居ない。
「なぁ、アイリス頼むよ!俺たちもう干からびそうなんだ」
「…………ルクスお姉様、如何なさいますか」
頼む!ルクスお姉様!お前の一言で俺たちの命が救われるんだ!
ルクスは悩みに悩んだ末――
「……よし、良いでしょう。アイリス、お願いします」
「やったぜ!」
俺は思わずルクスに抱きついた。
「アスフィ!?」
「流石は俺のルクスだ!感謝してるぜ」
「い、いえ……それはどうも……」
「はぁ……感謝はわたくしにして欲しいものですね」
そういうとアイリスは、なにもない場所に、小規模の湖を作り出した。
「……皆さんどうぞ」
「腹壊さないよな?……特にエルザ」
「わたくしの水は魔法ではありません」
よくわからないが、そうと決まれば――
早速俺たちは飲み尽くさんとする勢いで湖に口をつけた。
美味い……ああ水ってこんなに美味かったのか……。
これからは水に感謝しながら生きていこう。
アイリス様、ありがとう。
***
「――オェェェェェェェ」
エルザが突然、勢いよく吐き出した。
「ア、アイリスよ……なぜ私だけ吐くのだ……魔力は含まれていないのではなかったの……うっぷ……オェェェェェェェ」
「ちょっと待て、こっち見て吐くなよ!」
俺は慌てて距離を取った。だがエルザの顔は青白く、明らかに普通の状態ではない。
「恐らく、アイリスの水にも微量の魔力が含まれていると思いますよ?『水の都フィルマリア』に居た住民からは魔力を感じました。つまり、アイリスの水には魔力が含まれているということですね」
「ルクス……なぜそれを先にエルザに言ってやらないんだ」
「……エルザなら大丈夫かと。それに多分止めても無駄でしたよ」
「…………その筈は。わたくしは神……あ、そういう……ことですか……」
アイリスは一人でブツブツ呟き、不敵な笑みを浮かべていた。
確かにあれは止められないな……。誰よりも真っ先に飲み始めたもんな。それに前回大丈夫じゃなかったんだよなぁ。
今回は前回よりかなり飲んでるが、大丈夫かなエルザのやつ……。
***
しかし、俺達が思っていたよりエルザの状態はかなり深刻なものだった。
エルザはその後、倒れてしまい、それっきり目を覚まさない。
時刻は既に夜を迎えている。
「神の水を多量に摂取した末路だろう」
呆れた顔で言うゼーウス。
「そんなこと言ってる場合かよ!」
「そうですよ!エルザは一体どうなるんですか!?」
俺とルクスは焦っていた。あの頑丈なエルザが倒れたのだ。無理もない。
俺たちはその意外な結果に動揺していた。
「落ち着いて下さい、ルクスお姉様、アスフィさん」
落ち着いたトーンでそう言うアイリス。
「わたくしの水は神力を宿すもの。魔力に似ていますが、魔力ではありません。……恐らく、魔力暴走ではなく、ただ神の力に充てられただけです」
「それはつまりどうなるんだ?」
「寝れば治ります」
本当かよ……エルザが倒れるなんて余程の事だぞ……。
だが、紛れもないアイリスが言うんだ。
ここは言う通りに寝かせておくしかないか。
それに、どっちにしろ俺たちにはどうしようもないしな。
***
俺たちは焚き火を焚き、眠ることにした。
今回の見張りは俺がすると前に出た。
「任せました、アスフィ」
「ああ」
ルクスは眠りについた。
「……なぁ、お前達は寝なくていいのか」
「神は寝なくても大丈夫だ」
「わたくしは神ではありませんが、寝付けなくて」
「そうか……なら少し話さないか」
俺は神と”自称”神を辞めたものと話すことにした。
「お前らに言いたい……いや、聞きたいことがある。俺には……俺の中には、自分じゃない何かが居るんだ」
「ええ、そうでしょうね」
「……それを聞いてお前はどうしたい『神の子』よ」
「その『神の子』ってのもよく分からないがな……昔から気づいていたんだ。俺は時々俺じゃない感情が出てくる事がある。それを抑える努力をしてきた……だが――」
俺はあの日のことを思い出す。
「…………俺の幼馴染……レイラが死んだ時……それが抑えられなくなった。この姿もきっとそれとなにか関係しているのかもしれない」
「そうですね」
「我からは何も言えない」
レイラが死んでいるのを見た時、俺は俺を抑えられなくなった。
今までもそんなことが何回かあった気がする。覚えている節と覚えてない節があるが。
ただ、一つ言えることは俺は『普通の人間』じゃないということだ。
神でもない。こいつらの言う、『この世界の者』じゃないのかもしれない。
なら……それなら俺は……
「……俺は一体何者なんだろうな」
「それは――」
「ポセイドン」
「…………すみません、出過ぎた真似を」
「いい」
アイリスは何かを言いかけた。だが、それはゼウスの声によって、最後まで言うことは無かった。
「我がお前を『神の子』だと言うのはなぜだと思う」
「……分からない」
神の子……俺は神じゃない。
「『神の子』それはつまり、お前自身を神と言っている訳では無い」
「どういうことだ……。お前は……ゼウスは俺の父さんと母さんが神だって言いたいのか?」
「……我はこれ以上は何も言えない。盟約によってな」
また盟約か。盟約ばっかりだなこの世界は。
だが仮に……もし俺の両親の……あるいは片方が神であるなら、ゼウスの言う事の辻褄が合う気がする。
「さて、我も寝るとしよう」
「わたくしもそうします」
「神は寝なくてもいいんじゃなかったのか?」
と、俺が聞くと二人の神は、必要無いだけで眠るのは好きだと言った。
「……仕方ない、俺が見張りをしてやる」
「必要ない。我がいる限り魔物の類は近寄ってこないだろう」
なんだよそれ。便利だな。
「……だとしても念の為だ」
「そうか、勝手にしろ」
ゼーウスとアイリスは眠った。
「『神の子』か………………」
次の日の朝、見張りをルクス達に任せ、俺も少し眠ることにした。
――俺は夢を見た。
『よぉ、また会ったな』
(またお前か……姿を見せろ)
『姿は見せられない。これも盟約だ、悪いな』
(この世界は盟約ばっかりでうんざりだ。ゼウスもアイリスも)
『そんなこと言うな。これはお前のためでもある盟約だ』
(俺のため?)
『ああ、詳しくは言えない、これも盟約だ』
(もういい、盟約、盟約って聞き飽きた。で、何の用だ。もう消えたかと思ったが?)
『消えるわけが無いだろう。なんせお前の中には――』
(盟約、か)
『……まぁその通りだな。よく分かって来たじゃないか。……だが今回は忠告をしに来ただけだ』
(忠告?)
『ゼウ……ゼーウスにも言われただろ?』
(そういえば、ゼーウスが確かにそんなことを……)
『アイツはあんなんでも一応神だからな』
(お前はゼーウスの何を知ってる)
『……全てだ。まぁとにかく注意しろ』
(だから何にだよ)
『マキナ《・・・》にだよ』
***
俺は目が覚めた。……あいつは何が言いたかったんだ。
「マキナ……か……ん?」
静かすぎる。まだ寝ているのか? ふと俺は周囲を見渡した。
ルクス達が……居ない……? どういうことだ。
辺りには誰もいない。眠っていたはずのエルザも、見張りをしていたはずのルクスも。二人の神も……俺以外誰もいない。
俺はこの大地に一人取り残されていた。
「……なんだ、この身の毛のよだつ感じは」
俺は皆を探した。走った。ただただ走って探した。
……
…………
………………
見つけた。
ルクスとエルザが倒れていた。俺はすぐさま駆け寄った。
「…………なんだよ……これ」
ルクスとエルザの体には傷ひとつ無い。
にも関わらず、二人は目を覚まさない。
「遅かったな『神の子』よ」
「わたくし達では何もできません」
「お前たちがやったのかぁっ!!!」
「違う、落ち着け。我たちでは無い。やったのはアイツだ――」
ゼーウスは上空を指差した。
『やったのは我だ、アスフィ・シーネット』
「ゼウス……が二人?」
ゼウスと同じ顔、同じ背丈の瓜二つの物がそこに居た。
「片割れよ。こいつには近寄るなと言ったはずだ」
『近寄ってはいないだろう……そっちから来ただけだ』
「……そうか」
こいつら何を……言っている? ゼウスが二人? ……どういうことだ。
「おいお前! ルクスとエルザに何をした!」
『………なにも』
「そんなわけないだろう!」
俺はゼウスと瓜二つの少女に激怒した。
感情が抑えられなかった。
『……我はただ……そう、眠らせただけのこと』
「ねむ………らせた?」
『聞いたことは無いか?『呪い』という言葉を』
なに……まさかルクスとエルザにも『呪い』を……?
母さんと同じ『呪い』を……?
ってことは、もうルクスとエルザは……
「……お前、覚悟しろよ」
『盟約により我はお前に近づけない。だが、お前から向かって来ると言うならまた話は別だ』
許さない……許さない……許さない許さない許さない。
俺はこいつを絶対に許さない。
第四章もいよいよクライマックス。
王国篇が長くなりすぎました…( ̄▽ ̄;)




