第2話 「孤独なヒーラー、猫耳少女と出会う」
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どちらも合わせてお楽しみください。
五歳になった頃から、俺は毎日のように母から回復魔法を教わった。
最初は見よう見まねだったが、半年も経つと「ヒール」はもちろん、上位呪文の「ハイヒール」まで使えるようになった。
「あなた! この子、もうハイヒールを習得したわ!」
「ははっ、やっぱり俺たちの子だな!」
両親に褒められた瞬間が、いま思えば最も無邪気に輝いていた時期だった。
魔法を学ぶのが楽しくて仕方なかった――あの時までは。
◆
その日の午後。母が次の支援魔法を教えようとしたところへ、父が割って入る。
「待て、次は剣だ。ヒーラーといえど自分の身は守れた方がいい」
父はかつてA級戦士として名を馳せた実力者。その構えは鋭く、子ども心にも“本物”だと分かった。
だが俺には、剣を振るたびに「才能がない」と突きつけられているようで、どうしても気持ちが乗らなかった。
「踏み込みが甘いぞ!」
「はいっ、父さん!」
汗と埃の匂い。父の厳しい叱咤。それでも続けたのは、“いつか役に立つ”という言葉を信じたからだ。
剣術が嫌いになりかけた――しかし、完全に嫌いになれなかったのは父の背中が眩しかったからだと思う。
◆
七歳。
母との魔法稽古の帰り道、ふと漏らした独り言がある。
「僕、才能……ないのかな」
「何を言ってるの? 七歳でハイヒールを使える子なんて滅多にいないわよ」
母は優しく笑ったが、胸の底のもやもやは晴れなかった。
“もっと強くなりたい”――その思いだけが、幼い心を少しずつ焦らせた。
◆
十歳の春。
父と母以外とほとんど顔を合わせない日々に、ある来客が現れた。
トントン、と扉を叩く控えめなノック。
母が戸を開けると、見知らぬ若い女性と俺と同じくらいの年頃の少女が立っていた。
「突然すみません。この子に剣術を教えていただけませんか?」
――剣術を? 俺は耳を疑った。
父が呼ばれ、客間に案内する。緊張気味の母親は事情を語った。
六歳で木の枝を振り回し始め、どうやら剣術の才があるらしい、と。
父は「それで才能判定とは早計だろ」と言いたげだったが、真剣な眼差しに頷いた。
「いいだろう。ただ、うちの稽古は厳しいぞ。覚悟はあるか?」
「はい。レイラは強くなってパパとママを楽にさせたいんです」
レイラ――黒髪ロングにふわふわピンクの服。そして小さな猫耳。
亜人の中でも獣人族という、さほど珍しくはない耳だが、初めて間近で見た俺は思わず見入った。
「可愛い耳だね」
「……ありがとう」
控えめな声。どうやら人見知りらしい。
それでも俺は、一目で“この子と友達になりたい”と思った。
「今日からお前の友達であり、ライバルになる子だ。自己紹介しなさい」
「うん!」
胸を張り、笑顔で言う。
「初めまして! 僕はアスフィ・シーネット! よろしくね!」
「……レイラ・セレスティアです。よ、よろしく……」
握った小さな手は驚くほど冷たくて、しかし震えてはいなかった。
ここから始まるのだ――孤独だったヒーラーと、剣を求める猫耳少女の物語が。
【……今のところ、順調。いや、ここからが本番だ】
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