第1話 「運命に逆らうヒーラー」
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俺が生まれたのは、緑に包まれた静かな田舎の村。
街の喧騒とは無縁で、四季の息吹と共に時間が流れる場所だ。
木造の小さな家に広い庭。質素だが温もりに満ちた暮らし――
そんな村で、ある男女に一人の赤子が授かった。
──それが俺。
金髪でいかつい父ガーフィ・シーネットの腕に収まりながら、俺は産声を上げた。泣きながらも、まるで何かを成し遂げると宣言する顔つきだったらしい。
「ォギャーオギャー!」
「おーよしよし、いい子だぞ〜」
しかし赤子の俺は荒れ狂う。母アリア・シーネットが笑顔で抱き取り、優しくあやした。
「ほらほら〜泣かないでね〜。この子、どんな才能を授かるのかしら」
「俺の子だ! 剣術に決まってる!」
「私は……皆を癒してくれるヒーラーがいいなぁ」
二人は元冒険者だ。
父はA級戦士として名を馳せた実力者。母はC級ながら回復魔法で多くを救ったヒーラー。
――冒険者には SS・S・A・B・C・D・E・F・G の八段階の階級がある。
SSは“勇者”と呼ばれる伝説級、Sは国家規模の任務を担う英雄、Aはその次――都市を救う一流の実戦エリート層だ。
父ガーフィはそのA級の中でも頂点近くに名を連ねたと言われている。
◆
俺が五歳のある日。父が真剣の素振りをしている姿に憧れ、思わず近づいた。
「ねぇ父さん、僕にも剣を――」
「来るな! 危ないっ!」
剣の軌跡が足を掠め、赤い線が浮かぶ。
「わぁっ!」
「くっ……!」
慌てて駆け寄った母の声より先に、俺は父の傷口へそっと手を当てた。
体が勝手に動いた――そんな感覚だった。
「え……?」
刹那、傷は音もなく消える。熱も痛みも残さず、ただ消失した。
「……まさか……」
「この子……!」
「才能がある……回復魔法の……!」
父は喜びながらも、どこか複雑な色を宿す。
「なに? 嬉しくないの?」
「いや、誇らしいさ。だけど……」
「だけど?」
「一つの才能を持つ者は、他の道を閉ざされる。この世界の理だ」
「……剣術の道は、もう無いってこと?」
「ああ。そういうことだ」
幼い俺には深い意味まで理解できなかった。ただ父の沈黙が“この力”の特異さを教えてくれた。
五歳で無意識に放った初めての魔法。
それが、定められた運命を狂わせる引き金になるとは、まだ知る由もなかった。
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