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第33.5話:『白い天使』発言の代償(if)

※この話は第33話のIFもしもルートになります※


本編とは異なる分岐で、「アスフィたちが王都を離れなかった場合」の物語です。

※最新話の続きではありませんのでご注意ください。

ただし、全く関係ないとも言えないかも……?


 ミスタリス城の裏門は、昼間の喧騒が嘘のように静かだった。


 人気もなく、警備の兵士すらいない。

 城下町からこっそり抜け出した俺とルクスにとっては、都合がいいはずだった。

 だった、のにだ。


「うむ、遅かったではないか」


 その声が聞こえた瞬間、俺の足が止まった。

 嫌な予感しかしない。


 薄明かりの下、パジャマ姿の王女が立っていた。

 ピンクの水玉模様、完全に部屋着だ。手には何か持っている……いや、あれチョコバナナじゃねぇか?


 なんでそんな格好で門番してんだよ。


「……なんでチョコバナナ?」


「夜食だ!小腹が空いてな」


 ルクスと顔を見合わせる。俺の目には「やばい」が、ルクスの目には「詰んだ」が映っていた。


「……ところでエルザ、こんな時間にどうしてここに?」


 ルクスが恐る恐る声をかける。エルザは、まるでその質問を待っていたかのように堂々と答えた。


「うむ、アスフィがルクスに“白い天使”などと宣言した件だな。今や城中が騒がしいぞ?私は王族としての義務を果たし、レイラに逐一報告した。それはもう事細かくな!」


 俺は天を仰いだ。


 ……終わった。


 レイラに全部知られた。しかも“王族の義務”とかいう謎理論で。


「お前ホントに……いや、なんで報告すんだよ!!そこは普通空気よんで……」


と言いかけたところでやめた。だってこいつ空気読め無いんだもん。それを理解していたはずなのに、忘れていた。これは俺が悪いな。


「うむ、白い天使がどういう意味か知らずに使ったのか?アスフィ」


 知ってたら言ってねぇよ。


 エルザがふと、俺とルクスの手を見た。

 ……まだ繋いでた。


「その手はなんだ? まさか、その状態で戻ってきたのか?」


 やべ。


 咄嗟に離そうとしたが、間に合わない。 というかルクスが離してくれない。

 その一瞬の逡巡が、すべてを物語っていたらしい。


「ふっふっふ……ハーハッハッハッハ──ゲホッゲホおえぇ……ふぅ、逃げ場はないぞ、アスフィ。レイラはすでに此方へ向かっている」


 マジで余計なことしかしねぇなこの女王。


 俺は目を閉じた。

 ルクスが袖を引く気配がする。


「……逃げよう?」


 その声には焦りと、本気の恐怖が滲んでいた。けど。


「……逃げられねぇよ。逃げたら、また同じだ」


 あの日のように、何もかも失って、後悔だけが残る未来。


(あの日……未來……何言ってんだ俺)


【まさか自力で】


また頭に何か声が聞こえてきた。


 そして扉の向こうから足音が聞こえる。女の子が出して良い足音じゃない。

これは魔王だ。魔王レイラ様の登場だ。


 激しい音と共に確実に近づいてくる誰かの気配。


誰かっていうかもうレイラなんだけど。


 チョコバナナを口に咥えたままのエルザが一歩下がった。


(お前いつまで食ってんだ……)


女王様は知らぬ顔だ。


 ──ガチャ。


 扉が開いた。


 姿を見た瞬間、俺の呼吸が止まる。


「……アスフィ」


 その声は冷たくて、でもどこか震えていた。


 レイラ・セレスティアが、そこにいた。


「ちょっと今からお話しでもしよっか」


 背中に嫌な汗が流れる。

 まるで断頭台に立たされた気分だった。


 終わった。

 俺の平穏、ここに崩壊。


---


 レイラの目が、まっすぐ俺を射抜いていた。


 怒っている。

 いや、それだけじゃない。


 困惑、苛立ち、不安……そして、寂しさ。

 全部がないまぜになった感情が、視線の中に宿っている。


「……で、何を言ったの?アスフィ」


 真正面からの問い。

 ごまかしは効かない。言い訳をすればするほど、逆効果だと分かっている。


 けど、だからって何て言えばいい。


言い訳を考える暇など無く、ただ純粋に俺は──


「白い天使、って。そんな……そんな意味があるなんて知らなく──」


「知らなかったら言っていいの?」


 返ってきた言葉は、静かだった。

 でも、鋭く胸に刺さる。


「レイラ……」


「言葉の意味を知らなかったとしても、相手をどう思ってるかくらいは、分かるよ。女の子はね、そういうの勘が鋭いんだよ?」


 その一言で、俺は口を閉ざした。


女の子、怖い……。


 レイラは続けることも、責めることもせず、ただじっとこちらを見ていた。

 でもそれが一番、きつい。


「……ルクスも」


 彼女の視線が、次は隣に立つ少女へ向けられる。


「最初から知ってたよね。“白い天使”の意味」


「……はい」


「どうして、途中で止めなかったの?」


「……それは」


 ルクスが言葉を詰まらせる。

 珍しい。あの冷静なルクスが。


 ──いや、違う。

 今の彼女は、冷静なんかじゃない。手が、震えてる。


「僕は……嬉しかったんです」


 ルクスの声は、掠れていた。


「誰かに……“天使”なんて言われたの、初めてで……だから、止められなかった」


 その言葉に、レイラの目がわずかに揺れた。

 でも、彼女は一切表情を崩さないまま、俺を見た。


「アスフィ。……アスフィはどう思ってるの?」


「……え?」


「ルクスのこと」


 来た。核心。

 たぶん、この場にいる全員がわかってた。どこかで、絶対にそこへ辿り着くって。


「逃げないんでしょ。じゃあ答えてよ」


 レイラの声は、もう怒ってなんかいなかった。

 ただ、まっすぐだった。


 俺は視線を落とした。


 どうすればよかったのか。

 何が正解だったのか。


 そんなこと、分かるはずがない。

だって白い天使なんて知らなかったわけだし……ルクスだってそうだ。その発言を途中で止めろなんて言われても流石に無理があるだろう。


 だから俺から出た言葉は正直すぎるものだった。


「……分かんねぇよ。ルクスは優しくて、ちゃんと俺を見てくれた」


()()()()()


「でも、レイラも……俺をずっと支えてくれた。だから、どっちかなんて、選べるわけない」


 正直に言えば、全部失うかもしれない。

 でも、それでも俺は。正直に言うしかできなかった。


「……お前たちの前で、嘘はつきたくない」


 静寂が落ちた。


 レイラはしばらく無言のまま、俺を見つめて──


「……さっきからアスフィどうしたの?口調。俺、なんて……」


しまった。ルクスに俺の事について話してから、自分の制御が難しくなっていた。


心が軽くなったおかげ、なのか。


 レイラの言葉にルクスも、目を伏せていた。

 エルザは……というと、まだチョコバナナを食っていた。


お前どれだけストックしてんだよ。


「……アスフィ」


 レイラが、小さな声で名前を呼ぶ。


「覚悟して」


「へ?」


俺は瞬時に受け身の構えを取った。絶対に殴られるとそう直感したから。でも違った。


「……アスフィは選ばないって言った」


「う、うん。言ったけど……」


「じゃあレイラだけを選びたくなるようにさせてあげる」


 そう言い残して、レイラはくるりと背を向けた。その顔は赤く染まっていた。

今度は怒りじゃない。……そう信じたい。


「……うむ、これにて修羅場は幕を下ろしたようだな」


 エルザが、満足げにバナナの棒をポイっと地面に投げ捨てた。


「元はと言えばお前が──」


そう言いかけた瞬間、エルザが耳元で囁いてきた。


「アスフィ、君に話がある。大事な話だ」


その声は真面目な時のエルザの声色だ。今までチョコバナナを頬張っていた彼女ではない。


「いや〜、それにしても私は今夜もいい仕事をした!まさしく、調停役にふさわしいだろう?」


そしてまたいつものエルザに戻った。


「全部かき乱してただけだろうが……」


「うむ。さすが私だな」


 こいつにだけは、勝てる気がしない。


 俺は、ルクスの方を見る。

 彼女はまだ、何か言いたげに俯いていた。


「……ルクス。ありがとな」


 その言葉に、彼女は言葉無く少しだけ笑った。


 静かな夜風が吹いた。


 壊れかけた関係は、ぎりぎりのところでなんとか繋ぎ止められた。

 けれど──それがいつまで保つのかは、まだ誰にも分からなかった。


そしてそれは、アスフィとルクスが獣人の国『フォレスティア』に赴く事がない事を意味する。


それがレイラの生存に関わるのかはまだ誰も知らない。




ご覧いただきありがとうございました!

第33話のifストーリーでした。


で、これなんですけど続きます。

本編の更新頻度が落ちてしまい申し訳ありません。しかし必ず完結へと導くのでお待ちください!


尚、ifストーリーもちょくちょく更新する形になります。


この世界でのifストーリーは主にルクスに焦点が当てられる形となります。

最新話とは関係ありませんが、全くないとは言えない。

明かされた内に秘めた思い。そんな隠れた彼女の一面が見られるかも知れません。


では、ありがとうございました!



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