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Re:第十六話【終わりから生まれる旅】

俺達はルクスの手がかりを得るため、城内をくまなく探した。


けれど、何も見つからなかった。


偽物の城だと分かっている以上、当然と言えば当然だ。


「クソッ!」


苛立ちを抑えきれず、俺は拳を壁に叩きつけた。その冷たい感触と、鈍い痛みが手に残る。


「アスフィ、落ち着いて」


レイラが静かに声をかけてくる。彼女の手がそっと俺の肩に触れる。


「この城はエルザの記憶から作られたものなんでしょ?だったら、本当にルクスが書いた手紙とは限らないよ?」


「……どうなんだ、エルザ?」


俺はエルザに視線を向ける。


「うむ、手紙を見つけたのはミスタリスが崩壊する前だからな……ルクスがあの日何を言いたかったのかは私にも分からん」


「……」


彼女の言葉には、どこか曖昧さが残る。記憶の中のエルザと、目の前のエルザ――本当に同一人物なのか、それすらも今の俺には分からない。


「いや、本当だ!当時も今も手紙の意味はよく分からなかったのだ!信じてくれ!」


エルザの声は少し荒げられている。焦りか、動揺か、それとも別の感情か――俺にはその答えを見抜く術がない。


けれど、この場でエルザを排除するわけにはいかない。彼女の力は、どう考えても必要だ。それが、俺の中で揺るぎない事実として残っている。


「……はぁ」


ため息が漏れる。俺は今何を信じるべきなのか、何を疑うべきなのか、まるで分からない。


「どうしたのアスフィ?エルザが信じられないなら、レイラが切ろうか?」


レイラが静かに告げる。その声には、冗談めいた軽さは一切感じられない。


「おいっ!物騒だな!私達は仲間だろう!?ほら!ミスタリスでのやり取りも長かったじゃないか!」


エルザが慌てた様子で声を張り上げる。


けれど、レイラの目は冷静だ。その瞳には、俺だけを映しているようだった。


「二人の時間を邪魔ばかりしたくせに……それに、レイラはアスフィさえいればそれでいい」


レイラの言葉に、胸が少しだけ温かくなる。


けれど――どこか狂気じみたものが混じっているのも事実だ。


彼女は本気だ。アスフィのためなら、何でもする。何でも守る――そんな決意が滲み出ている。


「……ルクスを探そう」


俺は静かに告げた。


「マキナはどうするの?」


レイラが首を傾げながら尋ねる。


「……どうやらそれは俺の役割じゃないらしい。マキナはもう一人の俺に任せるとするよ。……それでいいんだろ?エルザ」


「うむ、そうだな。君はあくまでアスフィだ。私やルクスが好きになったアスフィ・シーネット。なら、優先するならルクスの方だろう」


エルザの言葉には迷いがない。彼女なりに、俺達を思っての答えなのだろう。


「分かった。じゃあ、ルクス、探しに行こう?アスフィ」


レイラが俺の腕をぎゅっと掴む。その力強さが、彼女の決意を伝えてくる。


「ああ」


そう返し、俺は先に進む準備をする。


「うむ。……ん?おい待てレイラ。私は?ねぇ、私もその中に入ってるよな?」


エルザが慌てて割り込んでくる。


「レイラはアスフィのレイラなの。アスフィが行くならどこにでも行くし、アスフィが死ぬならレイラも死ぬ。その逆も然り」


前半は嬉しい。けれど、後半は意味が分からない。


なんでレイラが死んだら俺も死ぬことになるんだ?


「……まぁ、誰も死なせないから安心しろ」


俺は静かに宣言する。


――絶対に誰も死なせやしない。もう二度と。


「アスフィはレイラが守る」


レイラがそう言いながら、俺の腕に絡み付いてきた。


柔らかな感触が俺を包む。


「レイラ……当たってるんだが」


「嫌、だった?」


彼女が少しだけ顔を赤らめる。その姿が、俺にはどうしても愛おしく見えた。


だから俺も正直に答える。


「……いや、ずっとこうしていたいくらい気持ちいい」


「……うん、やっぱりレイラのアスフィだ。レイラが好きになったアスフィだ」


レイラの笑顔に、俺はどうしようもなく安心する。


そして、この笑顔が俺を強くする。


(絶対に見つけ出して見せる)


「全く、見せつけてくれるな!なら私も空いてる方を――」


「だめ」


レイラが俺の目の前に移動し、まるで盾になるように抱きしめてきた。


「レ、レイラ!?」


「アスフィはレイラのもの。今までイチャイチャ出来なかった分、これからはもっとするの」


レイラの言葉は真剣そのものだった。その瞳には、俺への独占欲と純粋な愛情が映っている。


……正直、少し戸惑う。


「分かった分かった。今回は手を引くよ。だから、その敵でも見るような目を辞めてくれないか……?」


エルザが両手を挙げ、降参のポーズを取った。その表情にはほんのりと苦笑が滲んでいる。


「心配しないでアスフィ。エルザがもし何か変な真似したら、レイラが切るから」


レイラは冷たい目でエルザを見据える。


「……あー、うん。程々にな」


「何故だ!仲間だろう!?そこは否定するとこだろう!?」


エルザが必死に訴える。けれど、その言葉はどこか空回りしているようだった。


俺はそんな二人をよそに、静かに胸に手を当てた。


………………………………居ない。


そう、今までずっと『俺の中に居た者達』が皆、消えていた。


頭の中に響いていた声も、俺の背中を押してくれた存在も、もうどこにもいない。


――そうか。本当に居なくなったのか。


心の奥にぽっかりと空いた穴を感じる。けれど、不思議と寂しさはない。


俺はずっと彼らに助けられてばかりだった。だから、もう十分だ。


言葉遣いや考え方に少し影響を受けたかもしれない。けれど、それでも『彼ら』は……”僕”を救ってくれた。


恨みなんてない。ただ感謝しかない。


ただの少し回復魔法が使える程度の僕を、器に選んでくれてありがとう。


俺は胸に手を当て、静かに目を閉じる。


……もう迷わない。


俺が救うべきもの。俺が愛するもの。


その全てが、今ここに、そして未来にある。


「――さぁ、行こう。ルクスを探しに」


俺のその一言に、レイラは頷き、エルザは苦笑いを浮かべながら肩をすくめる。


この一歩が、きっと俺達の次の始まりになる。


だから――もう迷わない。俺達の旅は、ここから始まるんだ。


この時までは、俺はそう信じて疑わなかった。

少しずつ投稿頻度上げていきます。

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