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第23話 「子作りは神秘的な儀式!? エルザの誤解と俺の崩壊」

――レイラが発情した翌朝。


俺は、一睡もできなかった。


夜通し高ぶった鼓動は、いまだに収まる気配がない。

何より、レイラの柔らかい感触が手のひらに焼き付いて離れない。


「……眠れなかった……」


そう呟くと、隣のベッドがわずかに揺れた。

レイラがゆっくりと体を起こし、俺を見つめる。

その顔は、いつものレイラだった。


「おはよう、アスフィ……眠れなかったの?」


「……うん」


「あのさレイラ――」


「朝ごはん、食べに行こう」


俺が昨日のことを話そうとした瞬間、レイラはさらりと言葉を遮った。


「え?……あ、うん」


会話の流れを断ち切られ、俺はそれ以上踏み込めずに朝食へと向かう。

食堂に着くと、案の定、エルザ親子が先に座っていた。

昨日、エルザにはレイラとの"あの瞬間"を見られてしまったわけで……めちゃくちゃ気まずい。


だが、エルザは何も言わず、黙々と朝食を食べていた。

今日のメニューは、パンに卵料理、そしてソーセージのような肉。

こういう時、何か話したほうがいいのか、それとも触れない方がいいのか……。


――もしかして気にしているの、俺だけ?


思わずエルザに声をかけた。


「……ねぇエルザ、昨日のことなんだけど――」


「パパ、今日は私の番よね」


「そうだね、今日はエルザちゃんの日だよ」


「うん、分かった」


……やたらタイミング良く話を遮られる。

レイラもエルザも、何故か昨日の話をさせてくれない。

偶然か? それとも意図的か?


まあ、それよりも気になったのは”番”という言葉だった。


――あ。


察した俺とレイラは、静かに朝食を食べ続けた。

この宿では、前日や当日にその日の剣術修行の師範が決められる。

そして、今日の師範は――


「今日の修行は、エルザ・スタイリッシュが担当する!」


ああ、終わった。


別に嫌というわけじゃないが――いや、嘘だ。

めちゃくちゃ嫌だ。


エルザの修行は"教える"というより、"ひたすら力をぶつける"という表現の方が正しい。

当然、命に関わらないよう手加減はしてくれている……とは思う。

だが、武器が竹刀じゃなくて"柔らかい木のおもちゃ"だとしても、痛いものは痛い。


それより先に、俺には確認しなければならないことがある。

俺たちは道場へと足を運び、いざ稽古が始まる前に、俺はエルザに尋ねた。


「なぁエルザ、昨日の夜のことなんだけどさ――」


「大丈夫だ!」


……なにが?


「パパから聞いた! 君たちが行っていたのは、子供を作るのに必要な神秘的な儀式だそうだな!」


「……」


え?


いや、まぁ間違ってはいない……が、なにを教えたんだエルザのパパン。


「私の方こそすまない! 私はてっきり"いやらしいこと"をしているのかと勘違いしていた……! それがまさか、子を作るのに必要な儀式だったとは!」


エルザの言葉に、何故か全く反論できなかった。


何一つ間違っていない。

何も間違っていないのだが、

――何か、めちゃくちゃ引っかかる……!


「……」


俺の隣で、レイラが顔を伏せた。

昨日のことを思い出しているのかもしれない。


「……うん、まぁそうなんだよね! 僕たちは子を作ろうとしていたんだ! だから次からは邪魔しないでね!」


とっさに適当なことを言ってしまった。

だが、エルザは満足そうに頷いた。


「やはりそうか! 分かった! もう邪魔はしない! 存分に! バンバンやってくれ!」


「…………」


俺はレイラの方を見た。

レイラは静かに背を向け、肩を小刻みに震わせていた。


「しかし、君たちは結婚するのだな! やはり私の目に狂いはなかった!」


うん、この話題を持ち出したのは俺だが……

そろそろやめてほしい。


エルザがこれ以上何か言うと、レイラがヤバい。

実際、レイラは下を向きながら、体をプルプルと震わせていた。


だから俺は話題をすり替える事にした。


「そうだエルザ!そんなことより剣術修行を始めよう!」


「おお! まさかアスフィ! 君からそんな言葉を聞ける日が来るとは! 私の修行をそんなに楽しみにしてくれていたんだな!」


ちっげーーーーよ!!!


誰が好き好んでお前のサンドバッグになりたいか!

そんな性癖は俺には無い!!!


だが、俺は顔を引きつらせながら、


「あ、ああー……たのしみだなー……はやくやりたいなーー……」


と、棒読みで応じるしかなかった。


***


――数時間後。


「よし、今日はここまでにしよう!」


エルザの剣術修行がようやく終わった。


「……あり……ありがとうござ……ました……」


「……ありがとうございました……」


俺はバタンキュー。ダメージは回復魔法でどうにかなるが、心のダメージはどうにもならない。

レイラは最初に比べ、随分と疲れていないようだった。

むしろ、エルザに食らいついていた。


そう――レイラは『獣化』を身に付けたことで、俺より圧倒的に戦えるようになった。

とうとう、俺だけがサンドバッグ状態になってしまった……

これが才能の差か。


「やはりレイラは飲み込みが早いな! このままでは私もいつか追いつかれるかもしれないな! ハッハッハ!」


ホントかよ。


エルザはまだ本気を出していない。

そもそも、持っていたのは柔らかいおもちゃだ。竹刀ですらない。


「エルザのおじいちゃんは、本当に強かったんだね」


「……ああ、とても怖い人だったがな。だが、強さは本物だったよ」


エルザより強い……? 想像がつかない。


「……祖父は、このミスタリス王国の誇りだ。あの人がいなければ、この国はなかった」


「偉大な人だったんだね」


「……ああ」


エルザは少し寂しそうに笑った。


――こうして、今日の剣術修行は終わった。


疲れ果てた俺は、ベッドに倒れ込む。


「……レイラ、また潜り込んでこないかなぁ」


淡い期待を抱いたが――


しかし俺の期待も虚しく、何も起こらなかった。


「…………なんでだよ」

ご覧いただきありがとうございます。今日もミスタリスの1日は平和です。

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