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Re:第十話 【演者なき舞台、幕が上がるとき】

今回はかつての黒幕が出会う話。

「……フッフフフフフフフフフ……フハハハハハハハハハハッ!ふっかーーーーーーーーーつ!!…………さて、ここはどこでしょうかネェ」


仮面を被った男が一人、乾いた声で笑う。

それは歓喜の笑いではなく、ただ己の存在を確かめるような、虚ろな響きを持っていた。


彼の名は、道化のエーシル。


かつて幾度も世界を壊し、創り直し、再び壊した狂気の男。

愛する者を救うために、何度も何度も"改変"を繰り返し、ついには"道化"という仮面を被ることでしか己を保てなくなった者。


「……あ〜なるほど、また世界が変わったというわけですネェ」


彼は瞬時に自身の置かれている状況を理解した。

この現象は初めてではない。何度も経験している。"繰り返すこと"には慣れている。


――しかし、今回は違う。


「……おかしい。私の中に彼らが居ない」


エーシルの笑いが、少しずつ消える。

無意識に己の胸元に手を当てるが、そこには何もない。


(こんな事は初めての現象だ)


これまでの世界では、常に"彼ら"の声が響いていた。

彼の中に存在していた、"もう一つの自分たち"。

彼を嘲笑い、彼を罵倒し、あるいは彼に共鳴していた存在たちが――今は、いない。


「……私の力は……なるほど、どこかの()に奪われてしまいましたか。いえ、持っていかれたと表現するほうが正しいでしょうかネェ…………つまらん」


道化は淡々と呟く。だが、その声には感情がない。


「誰も居ないのに道化を演じても意味がない、力も無い。一体どうなっているのでしょう」


"道化"とは、観客がいるからこそ成立するもの。

だが今、この世界には"観客"がいない。演じるべき"舞台"も、用意されていない。


ならば――


「…………こんなのは初めてですね。オーディンの仕業、でしょうかね」


彼は仮面の下で目を細める。思考が巡る。可能性を探る。

だが、確信には至らない。


(……さて、本当にどうしたものでしょうか)


この世界が"どう変わった"のか。

レイラは、妻は、この世界に"存在"しているのか。


「もし、生きているのであれば探さなければ」


彼はそっと仮面に手をかける。しかし、すぐにその手を止めた。


「……私の中に彼らが居ないとなると、恐らく分離した可能性が高いでしょう。そうなれば私が仮面を取ると世界の認識に影響が出る可能性がある……困ったものですね」


"仮面"とは、彼を"エーシル"として存在させるための"境界"である。

これを外せば、何が起こるか分からない。


「……妻に会うのに仮面が必要とは、神は酷いことをする」


彼は鼻で笑った。

神――その存在は、この世界ではどうなっているのか。

"神でなくなった"のか、それとも"依然として神を演じ続けている"のか。


「まぁどちらにしても、原初の神共は変わらず神を演じているのでしょうね」


彼は静かに呟いた。そして、そのまましばらく沈黙する。


――何も起こらない。

――誰もいない。


「…………にしても、暇でしょうがない。誰か居ないもの――」


その瞬間。


「……」


彼の視界に、一人の女が映る。


「ああ、そういえばあなたもいたのですか」


黒の着物をまとった女。禍々しい角を持ち、その黒髪は滑るように闇の中へと溶けていく。

彼女の立ち姿は、まるでこの世界に"溶け込んでいる"かのようだった。


一瞬、彼は見惚れそうになる。


(……相変わらず、美しい)


しかし、彼はすぐに冷静さを取り戻し、言葉を紡ぐ。


「全部、聞いていたのですネェ?」


女は何も答えない。ただ、静かに彼を見つめている。


「……今更演じるなと、言いたいのですか?」


沈黙が返る。


「……無視ですか。…………行くところが無いなら来なさい。こんな私で良ければの話、ですがね」


女は何も発さない。だが、その目だけが僅かに揺れた。


そして――彼の後をついていく。


(……結局、来るのですか)


道化は仮面の下で苦笑した。


かつて彼に"利用された"というのに。

かつて彼に"騙された"というのに。


それでも――


(分からないものですねぇ……)


彼は振り返らずに歩き続ける。

黒の着物を纏った女は、無言で道化の背を追い続ける。


「こうして、道化と漆黒の巫女は、運命に導かれるまま、再び歩みを始めた」


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