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Re:第六話【消えゆく神と残酷な選択】

ご覧頂きありがとうございます!活動報告更新しました!


 【やぁ、気分はどう? 】


 ……どういうつもりですか。アスフィを追わせて下さい。


 【だめだ】


 どうしてですかっ!


 【あの子は自分で選択した。自らの道を。だから行かせないし、追わせはしない】


 ……しかし! このままでは私達の目的は達成されません!


 【私達(・・)……ねぇ。どうやら君は勘違いしているようだね】


 かん……ちがい……?


 【そ、勘違い。君の願いはなんだい? 】


 彼を……フィーを取り戻すことです。


 【そう、だから私も君に力を貸したのさ。彼に惚れているものは多いからね、私もその一人さ】


 あなたは何を言いたいのですか?


 【あの子……今はアリスと名乗っているんだっけ? 彼女が言っていたろ? フィーが居るって……ついでにエルザも】


 ……でも、確証はありません。嘘の可能性も――


 【あははっ! あの子が嘘? 断じて無いね! あの子は君を姉と慕っているけど、私のほうが過ごしてきた時間は長いんだよ? 】


 でも、アリスは自らの名を隠し、偽りのアイリスと名乗っていました。これも嘘じゃないのですか?


 【……君、変わったね。まぁアレほどの経験をすればそうもなるのかな? でも、恨むならエルブレイドを恨みなよ? 私にその怒りの感情をぶつけられても、それはお門違いってやつさ】


 いいえ、私はエルブレイドさんを恨んだことなど一度もありません。彼は私に全てを教えてくれました。感謝することはあっても恨むなんてことはありえません。


 【全てを知ったから(・・・・・・・・)。今こんな事になっているんだろう? 違うかい? 】


 神のあなたには分かりません。


 【そうかい、力を貸してあげたってのに】


 私が望んだ未来とは違いました。


 【だけど、私がいなかったら君、あの世界で死んでいたよ? 君もあの子に言ってたじゃないか。自分だけ”才能に溢れた世界”に飛ばされたって。()()()()()()()()()()()()という君の才能は確かに反則的に強い。でもあの世界ではどうだった? 君は生き残れたと思うかい? 才能は所詮、才能に過ぎない(・・・・・・・)。『神の力』の前では無力だ。そうだろう? だからあの時、私の元に来たんだろう? ルクス】


 ……仕方なかった。消えゆく世界で……あの中で何かが出来るとすればオーディン(・・・・・)、あなたしか居なかった。


 【ほらね、結局は人任せだ。……さて、長話が過ぎた。アリス、そろそろ彼女が目を覚ますかもしれない。だからここで結論を出そうか】


 結論……?


 【そう、結論。私はアリス、彼女の方に付く】


 な――っ!? それは話が違うじゃないですか!!


 【仕方ないよ。君と意見が食い違った、ただそれだけさ】


 それじゃあ私は……どうなるのですか……?


 【うーん……分からない。今まで”神と混じった者”は何人か知っているけど、君は例外だからね】


 ……例外?


 【君はカエデであり、ルクスでもある。これまで二つの人格として生きてきた。それもどちらも長い間だね。そして今、その人格の主導権を握っているのは――どっちでもない。そう、強いて言うなら二人が握っている。……現状を把握出来ていない君のために分かるように説明しよう。アスフィ、彼を例に挙げようか。彼はアスフィとして生き、フィーとして生き、ケンイチとして生き、道化として生きた。それらは全て皆、彼の中に潜んでいた人格なわけだ。この点は君と同じだよ、ルクス。けど、彼と君には決定的な違いがある】


 その違いって……


 【単純だよ。適合者かそうじゃないか】


 適合者? 兄と私の何が――


 【だからそれだよ、楓ちゃん(・・・・)? 】


 ――っ!!


 【ケンイチくんはアスフィという、神アリアの(うつわ)に混じった。だから適合した。でも君は違う。君はカエデとして、ゴミ溜めに住む無もなき少女に混じった。神の器ではないただの”空っぽの少女”にね】


 ……知っていたんですね。


 【君と出会った時、ひと目見て分かったよ。それが何かは分からなかったけど、少なくとも何者かが混じっているのには気付いていたよ。ついでに言うと、エルザ、彼女も何かと混じっているね】


 エルザにっ!? 何故今そんな事を!?


 【神の気まぐれ、かな? それに聞かれても無いしね。あと、私にとって大事なのはフィー、彼だけさ! 彼は私の恩人だからね。さぁ、きみはどうするんだい? 兄を選ぶのか、それとも愛した者を選ぶのか……後者なら私達は仲間だ。前者なら敵対することになる。……と言っても君は”カエデ”でもあり、”ルクス”でもある。今すぐには決められないだろうね。だから私は君の中から消えることにする】


 …………。


 【これまで私は、神の器として君の二人の人格を制御していたけど、この後私が居なくなればどうなるかは分からない。未知数だ。もし君が”カエデでもルクスでもない者”になってしまったら、苦しむ間も無く殺してあげるよ】


 ……やっぱりあなたを信用した私がバカでした。神は皆、『変神』だ。


 【あははっ! …………凡人ちゃん、神とはそういうものだよ? 】



 ◇◇◇


 ――少女は目を開いた。


「……ぁ……フィ……おにい……ちゃ――あ……ああ……ああああああああああああああああああ」


 孤独となった少女は一人叫ぶ。その声は洞窟全体に響き渡った――。


 ……

 …………

 ………………


 少女の叫びはやがて消え、洞窟に静寂が戻った。冷たい空気が彼女の肌を撫で、震える体がひとり、無力さを抱えてうずくまる。


「……私は……どうして……」


 少女は感じた。自身の何かが、欠けたことに。


 ――コツ……コツ……


 足音が響いた。


「……?」


 何者かの気配が近づいてくる。だが、それがかつての友なのか敵なのか分からない。胸の奥で不安が波打つ一方、ほんのわずかな期待が混じる。体が強張り、立ち上がろうとする意思を押しつぶしていく。少女はただ、その場で息を潜めることしかできなかった。


「ようやく会えたな」


 低く、静かだがどこか懐かしさを感じる声。その声の主が、黒いマントを羽織った男だと気づいたのは、少女がわずかに顔を上げたときだった。


「……あなたは……だれ?」


 男はフードを深く被り、顔を隠している。その影から覗く赤い瞳が、洞窟の薄闇の中で光を放つ。


「俺は……いや、この場では名乗る必要はないな。ただ、お前に用があって来た」


 少女は息を呑む。男から感じる威圧感は尋常ではなく、まるで存在そのものが空間を支配しているかのようだ。


「お前の絶望……その果てに見えるものを、俺は見届けたい」

「……どういう意味ですか?」


 男はゆっくりと歩み寄り、少女のすぐ目の前で立ち止まる。そして、ふと手を差し出した。


「選べ。ここで終わりにするか、それとも――まだ足掻くか」


 その言葉に少女の胸が激しく高鳴る。足掻く……それは、これまで何度も繰り返してきた行為だった。失敗し、傷つき、それでもなお手を伸ばし続けた。その結果が、今の自分に繋がっているのだ。


「私は……」


 男の瞳が少女をじっと見つめる。その赤い光は、少女の心の奥底を暴き出そうとしているかのようである。


「私は、まだ――」


 そのとき、洞窟の奥から風が吹き抜けた。それは冷たく鋭い風で、少女の髪を揺らし、男のマントを翻す。


「――ならば進め」


 男はそう言うと、少女の前から消えるように姿を消した。


 だが、彼の立っていた場所には、一本の黒い杖が残されていた。それは彼女の手に馴染むような絶妙な形状をしており、どこか不思議な力を感じさせる。


 彼女が震える手で杖を握りしめると――その瞬間、彼女の頭の中に男の声が再び響いた。


 【その杖はお前の心そのものを表している。お前が折れない限り、それもまた折れることはない】


「……私は……折れない……」


 その言葉を口にしたとき、彼女の中に再び灯るものがあった。それはかすかな光――だが、確かな意志を持つ火だった。


「絶対に……諦めない!」


 彼女は杖を強く握りしめ、立ち上がる。暗い洞窟の中で、その姿はまるで闇を切り裂く一筋の光のようだった。


 彼女は歩き出す。どこへ向かうべきかなど分からない。だが、その足取りには迷いがなかった。


「待ってて下さい、フィーお兄ちゃん……私は、必ず……!」


 震える声で呟いたその言葉は、彼女自身を切り裂くような痛みを伴っていた。胸の奥には、二人を助けたいという矛盾した感情が渦巻いている。


 一人は大切な家族――血を分けた兄。

 もう一人は命を懸けても守りたい、大切な人。


 だが、彼女の中で混ざり合ったカエデとルクスの記憶が交錯するたびに、それぞれの思いが彼女を引き裂いていく。


 ――彼女はどちらも失いたくない。


 けれど、現実は冷たく彼女に囁く。二人を救う未来があるのか――それは、誰にも分からない。


 彼女は震える手で頭を覆うフードを掴んだ。そしてその布をゆっくりと脱ぎ捨てる。


 闇に覆われた洞窟の中で現れたのは、黒と白が混ざり合った髪。片側は漆黒、もう片側は雪のように白く輝いている。ルクスの白髪とカエデの黒髪――二つの特徴が奇妙に、しかし確かに融合していた。


 彼女の衣装もまた、変化していた。右半身を覆う布は純白の聖衣のように輝き、左半身を包むのはまるで闇そのものを縫い合わせたかのような黒い布地。その境界は曖昧で、白と黒が互いに侵食し合い、どちらともつかない模様を形作っていた。


「私は……誰……?」


 言葉が自然と漏れ出た。自分の姿が何を意味するのか、彼女には分からなかった。


 カエデなのかルクスなのか、それともそのどちらでもない存在なのか――。


 鏡などないはずの空間で、彼女は自分自身に怯えた。そしてその瞬間、混ざり合った髪がかすかに揺れると、彼女の瞳は片方が黒、もう片方が赤く輝いた。


「……でも、それでも……私は進む……!」


 新たな姿を纏いながら、彼女は震える膝を押さえ、立ち上がった。その瞳にはもはや迷いはない――。

ご覧頂きありがとうございました!


活動報告更新しましたので、良ければ読んで頂けると嬉しいです。感謝の言葉と伝えたい事を文字にしました!


では次回!

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