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第184話「因縁:全ては繰り返し、そしてまた――」

久しぶりに後書きを書いてます。

これが最終話となるので、その補足や感謝を書いてます。

良ければ見て頂けると嬉しいです。

 因縁ある者達の元へ、ボロボロで今にも破けそうな白衣を着た老人が姿を現した。


『さぁ早く。その手にあるものを渡しなさいオーディン』

「嫌だね」

『頑固な子だ……一体誰に似たのやら。君がこの世界で好き勝手出来るのは私のお陰なのですよ? エルシア?』

「そうかもね。でも、こんな世界にしたのもあなただよ、江四留」


 オーディンと老人が相対する一方で、


「すまん……ワシはもう」

「……なるほどね。君の狙いはこれだった訳だね」

『アヒャヒャヒャヒャッ! 如何にも! ジン、お前ほど厄介な奴は居ないのでね。勝手に弱ってくれるというのなら待つだけです。手間が省けるのでねぇ』

「おのれ江四留……」

『おや、思い出してもいいのですか? それ以上記憶を思い出せば天才ヒナカワ様の寿命が縮まるだけですよ』

「アスフィ、すまん。エーシル、貴様でも良い。どうか後は頼んだ」


 その言葉を最後にエルブレイド・スタイリッシュは動かなくなった。目の光が消えた。


「……これはどういうことなのかしら? 私には全く理解できないのだけど〜」

「母さん、エルブレイドはたった今死にました。僕らに後を託して」

「あら? 死んじゃったの? なら私の魔法で――」

「それは不可能です。エルブレイドが死んでいるのは心です。肉体的なダメージではありません」


 そうアスフィが説明すると、ようやくアリアも理解した。人が死んだというのに簡単に蘇生しようとするアリア。彼女もまた神なのだと、アスフィは思った。


「なら私達でやるしかないわね〜」

「いいえ、僕一人でやります……そうしなければならないので」

「どうして? どうしてアスフィちゃんなの?」

「……これは僕と奴の問題だからです、母さん」


(ここまで来たのはこれが初めてだ。今までの記憶が戻りつつある。全ての記憶が戻れば僕は負けない。しかし、記憶が戻れば僕は僕じゃなくなるだろう)


『アスフィ、でしたか。辞めておきなさい。私を殺せばこの世界が閉じると言ったでしょう』

「僕は何もあなたを殺すなんて一言も言っていないです」

『ほう、ならどうすると?』

「こうするんです――『真・ヒール』!」

『なるほど、動けなくなる魔法ですか。しかしまぁこんな老体の生命力を奪おうとは、なんとも慈悲のない少年だ』


(効いてない!? いや、僅かではあるけど腰が曲がったような気が……)


「フィー、効いてない」

「やっぱりですか」

「ねぇフィー。フィーは我との記憶をまだ持ってる?」


 霧で囲われ、周囲の音が遮断された宮殿でマキナは少年に問う。


「……ああ、持ってる。けど、時間の問題だな。今俺の中では、これまで幾度も失敗してきた俺達の記憶が渦巻いている。これがいつ揉みくちゃにされてもおかしくはない」

「そう、なのか。……我は、記憶を置いてきた。だから記憶は無くとも体がフィーを覚えているのだ。フィーの温もりを体が忘れたやるものかと抵抗している」

「記憶を置いてきた……? よく分からんが、お互い大変だな。記憶を置いてきた者と記憶が溢れ出す者でさ」

「ああ。だが、もう我は覚悟を決めた」

「何がだ?」

「我はこの男を殺す」


(何いってんだマキナのやつ。奴の言う事を聞いてなかったのか?)


 マキナはアスフィの横に並んだ。


「下がれマキナ。ここは俺が――」

「フィー、もういい。もういいのだ。我は……もう沢山だ。今までずっとフィーばかりに任せてしまっていた。ここで終わりにしよう」

「おい! ちょっと待てマキナ!」


 マキナは老人に向かって歩いていく――


『おや、あなた……そうか。いつも邪魔ばかりしていたのは、あの時のあなたでしたか』

「久しぶりだ、老人。と言っても今の我にお前の記憶はないがな」

『いい判断です。全てを思い出せばあの老体のようになるだけですからねぇ。人間の脳というのは未だ完全に解明されていないものが多い。脳は記録を宿す役割がある。脳内メモリが無いと誰が言った! ……脳は完璧ではないのです。無限に記憶を保存する事なぞ不可能だと私は思う。そこの老体がその結果だ。記憶を持つものは改変後、すべてを忘れる。そうは言っても人間の脳はよく出来ているものだ。脳内が記憶によりパンクしないよう、どうでもいい事は忘れ、記憶から抹消されるようになっている。それを解明したのは私だ。そこで私は一定の記憶までしか保てない人工脳の制作に成功した。沢山の犠牲者はでましたがね』

「よく喋るな」

『アヒャヒャヒャヒャッ! 私はお喋りが大好きでしてねぇ。不快にさせていたのなら申し訳ない』


 マキナの罵倒にも近い言葉に、老人は不気味に笑う。


「お前は居てはならない。オーディンは渡さないし、お前の計画も阻止する。それが我の…………私の目的」

「マキナ……本当にやるんだね? 君がいいなら止めはしない。きっと君のやろうとしている事をすれば世界は元に戻るんだろう。でも、君の夢は叶わない(・・・・・・・・)。いいの?」

「構わない。最初から我には高すぎた望みだった、ただそれだけだ」


(やめろ……やめてくれマキナ……何をするのかは知らないがとにかくやめてくれ! 動けよ俺の体!!)


 アスフィは体を動かそうと必死にもがいている。


「……ごめん、ケンイチくん。私、君の事が好きだったよ。ずっと言いたかった。これでやっと言えたよ」

「……お前、記憶が」


 マキナが笑った。


『何故です……私の”記憶保管計画”は私しか知らないはずです!』

「あなたが嘲笑った天才が見つけた。そしてあなたの計画はここで潰える」

『馬鹿な! な、なぜ!? ……エルシア、貴様の仕業か!』

「違う違う。私はなーんにもしてないよ? あなたの言う通り『死の神』としての役割もちゃんと果たしていたしね」


 江四留は頭を掻きむしった。


『私の計画が……』

「じゃあね、皆。さよなら……ケンイチくん。私のことは忘れてね。レイラ、大切にしてあげて」

「――待てマキナ! マキナーーーーーーーッ!!」


 マキナはエシルに懐から取り出した漆黒のナイフで腹を突き刺した。


『……な、なんだこれは……』

「これはあるチート鍛冶師特性のナイフ。このナイフは一度使えば折れてしまう。でも、その破片は刺された者の体内に残り、内側から破壊する」


(マキナいつの間にそんなものを……)


「マキナはね、ずっと考えていたんだよ。君を取るか、世界を取るか。勿論、両方がベストだった。でも、覚悟を決めたようだよ」

「……何の……だよ」

「相殺、さ。マキナは江四留を殺しこの世界の幕を閉じる事にした」

「でもそんな事したら――」

「そう、当然みんなもれなく死ぬ。この世界に居るものはね。だからあのナイフで殺したんだよ」


 マキナが持つ漆黒のナイフ。それはかつて譲り受けたショートソードに似ていた。


「……ゲン……じい……」

「懐かしいねぇ。彼もまた役割を与えられた者だ。思った通りの剣を作る役割」

「役割ってなんだよ」

「なんだい? 覚えてないのかい? 君が作ったんだろ(・・・・・・・・)


(俺が作った……?)


「まぁそれはいい。この世界はもう終わる」

「待て! 終わるとどうなるんだ!?」

「また始まるのさ、ただそれだけ。ただし、マキナは……」

「おい、何だ言えよ!」

「……その世界にマキナは居ない。仮に居たとしても、それはもうマキナじゃない」


 オーディン、彼女の表情は暗いものだった。今まで見たことがない程に。


「……いいさ見つけてやるよ。何度繰り返そうと、何度忘れようと俺はお前を救う、マキナ。だから待ってろ。すぐに迎えに行く」


 ***


「……なにこれ? 霧が晴れていく……」

「……何度わたくしを待たせるのですか。殺すのなら早く殺しなさい」


 サリナはキャルロットから奪い取った剣を落とした。


「……何、まさか失敗したのアイツ。最悪。良かったね青髪ちゃん、助かったよ?」

「……それはどういう――」

「おーーい皆! 無事か!?」

「その声はガーフィ?」


 ガーフィに続き、今まで分断されていた者達が次々と集った。


「おい! そいつは誰だ!」

「フタバ。よろしくね、おじさん!」

「誰がおじさんだ! ……これはどういう事だ。いきなり俺達の邪魔をしていた霧が晴れやがった……」


 ガーフィはよく分からんと考えていると、


「おじさん。これは多分決着がついたんだよ。どっちかが負けて、どっちかが勝った。どっちにしてもこれからどうなるかは分からないけどね」


 フタバがそう言うと、突然宮殿の壁が消えていく。崩れるとはまた違う現象。


「おいおいなんだよこれ!」

「再構築……世界は終わりを迎え、また始まる」

「……失敗したのか、アスフィ……」


 ガーフィはその場に崩れ落ちた。


 宮殿が段々と原型を失くしていき、やがて宮殿の外が見えてきた。そこに見えたものは、青い空や、雲一つ無い。真っ白な世界。


 ――そして、また始まる。終わりから始まりへと。


 ***


 ……

 …………

 ………………


 温かい日差しが差し込む中、白のワンピースを着た少女が大きな城の中を走り回っていた。


「コラ! 危ないから走ってはいけないと何度言えば分かるんだ! エルザ!」

「ごめんなさい、お父様。でも私、今日は気分がいいのです。だって今日は――」


 少女動く足を止め、父親と思われる者に振り返る。


「今日は勇者が来る日なのですから! 楽しみですね、お父様! 一体どのような殿方なのでしょうか」


 少女は笑い、はしゃぐ。


「私達を討伐にでも来るのでしょうか! きっとそうですよね! 私、ずっとこの日が楽しみだったのです!」


 艶のある金髪に、整った顔の少女は飛び跳ねる。


「勇者、楽しみですね」

「……ああ、そう……だな」


 禍々しくも大きな城で、親子は勇者を待つ。城門前には何万とも数えられる不気味な兵達が槍や杖などを手に勇者を待つ。


 そして――


「待たせたな! 魔王エルザ! お前を討伐しに来たぜ!」

「待ってましたよ! 勇者アスフィ! さぁ! この軍勢を退け、私の元へと来ることが出来れば――」


 魔王言いかけた瞬間、勇者の一振りで兵が一瞬にして真っ二つになった。


「お見事です。そうでなくては……面白くありません」

「降りて来いよ、魔王。そんな高いとこにいたら危ねえぞ?」

「あら、心配してくださるのね! それは大変失礼致しました! 今すぐそちらに向かいますので!」


 そう言うと魔王と呼ばれる少女は城の窓を突き破り、降りてきた。


「お待たせしました」

「だから危ねぇつってんだろ?」

「大丈夫です、私頑丈なので!」


 勇者はため息を吐いた。全く理解していないと。


「んじゃ、始めるか」

「そうですわね、勇者殿」


 魔王と勇者である二人はお互い向かい合い、近づいていく――


「「”マキナを探しに”」」


 あろうことか、魔王と勇者という地位も名声も真逆に位置する二人は手を取り、言う。目的は探し物。


「――お待ちを! 勇者様!」


 銀色の鎧を身に纏う、青髪の少女が二人の間に割って入ってきた。


「どうした荷物持ちのアイリスよ」

「勇者様! 忘れ物です!」

「ん? 忘れ物なんてあったか?」


 勇者は腕を組み首を傾げる。


「ありますよ! 僕という忘れ者が(・・・・)

「あ〜なるほど。そういう――」


 勇者が理解した所でまた新しい顔ぶれが現れた。


「待って。私も行くわ」

「剣聖レイラ……お前こっそり後をついてきたのか」

「ええ、勇者だけでは力不足だと思ったから。それに魔王がいるしね。勇者の貞操はこの剣聖レイラが守り抜く!」


 そういうと剣聖と名乗る少女は両手でやっと持てるかどうかという大きな漆黒の剣を片手で空に向かって掲げた。


「んじゃ、改めて。行くかお前ら! 探し物の旅へとよ!」


 こうして勇者一行に魔王一人という、なんとも歪なパーティーの旅が始まったのだった――。

 目的は共通の探し物。彼ら彼女らは時間が掛かろうとも決してその歩みを止めない。


 欠けてはならない者だからだ。

 

 

ご覧いただきありがとうございました。

これにて物語は完結となります。

……結局どういう事?となったかと思います。

この物語はそれが正解であります。


【世界は繰り返し、何度も改変を繰り返す……。

しかしその度、姿形が同じとは限らず】


ハッピーエンドでもバッドエンドでもないストーリー。

そんな物語を描きたかったのです。ようするに、終わらない物語を。


また、お気付きかと思いますが一度登場しただけの彼ら鍛冶師も、また裏で動いていました。


また、時間がありましたらifなどを投稿するかもしれません。

その際はまたよろしくお願いします。


ここまで、お読みいただいた方には改めて感謝を。ありがとうございました。


″水無月いい人より″

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