第167話「『-何度でも救う-』」
これは君が偶然の末、始まった物語だ。
(俺の……?)
そう、君が全ての元凶であり、諸悪の根源なのさ。
(俺が諸悪の根源だって? んなまさか――)
そうなるだろうね。でも本当のことさ。私はその事実を今から君に話す。だから覚悟して聞くんだね。
(……さっき龍の背にのって覚悟したばっかなんだが)
あははは! 言っとくけど……そんなのとは比べ物にならないよ、君がしたことは。
でも、私は君だけを攻めるつもりはない。だって君自身も被害者なのだから。
(分かった、教えてくれ)
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……始まりはある隕石から始まった。その隕石は不思議な力を持っていた。
(隕石?)
そう、隕石。別に不思議じゃない。隕石が落ちるくらいどこにでもある。みんな知らないだけでね……でも、その隕石は不思議な力を持っていた。
(不思議な……力)
触れたものに未来、過去を見せる力さ。
(……へー)
あははは! あまりピンと来てないようだね。無理もないか。ここだけ聞いたら不思議な力を持ったただの石ころだ。
……でも、知識ある者が手を加えると話は変わってくる。ほら、料理とおなじさ! 素材のままでも食べられるけど、調理したほうが美味しい、でしょ?
(なんかその例え最近聞いたような気がする)
多分サリナが見せた記憶だね。私もこの例え方は結構お気に入りなのさ!
(いいから続けてくれ)
……そうだったね。時間も限られてるからね。その不思議な力を持った隕石に、ある研究者が目をつけた。
その者の名は、”日名川 刃”、今のエルブレイドにあたる人物だね。
(……さっきのじいさんのことか)
そう、彼。ここではエルブレイドでは無く、”ジン”と呼ばせてもらうよ。
ジンはこの隕石を使い、ある望遠鏡のようなものを作った。
(望遠鏡……? なんで望遠鏡なんだよ)
その隕石の力を使用するには、直接触れる必要があった。
(過去とか未来が見れるってやつか)
うん、段々理解してきたようだね。その望遠鏡にジンは『イリアススコープ』と命名した。
(イリアス……)
聞き馴染みがあるよね。そう、イリアスとは私のことだ。
(そのスコープを作ってジンとかいう男は何がしたかったんだ?)
世界平和。
(何だそれ)
ほんと笑っちゃうよね。……でもね、彼にはそうしなければいけない目的があった。
隕石に触れた日、彼は未来の日本を見た。
(お前が見せたのか)
まぁそうともいうのかな。でも、その頃の私はまだ人格を持ってないからね。ま、それは後はまた何れね。
(何を見たんだ?)
地球の滅亡。
(は?)
別に起きないとは限らない。ただ確率が低いだけでね。
ほら、よく君たち人間の間で「明日地球が終わるとしたら最後に何を食べるのか」って話あるでしょ?
(ほんと例えんの好きな、お前)
分かりやすく説明してあげているんだよ! でね、彼は……ジンはそんな事態を防ぐべく研究していたってわけさ。
(なるほどな)
ほんとに分かってるの〜?
(ああ、分かってる分かってる)
ならいいけどね。ジンには守る者が居た。家庭があったのさ。妻の”エルザ ヒナカワ”と、娘の”エルシア ヒナカワ”。
ジンにとって世界を守るなんてことは二の次だった。家庭を守る、それが彼の初めの目的だった。だって地球が終わったら元も子もないからね。
(でもこの話をするってことは、失敗したんだろ?)
……そう。失敗……いや、モノ自体は成功した。ただ悪用されたんだ。
(悪用? 誰がなんの為にだよ)
名は江四留。ジンと同じく研究者をしていた男だ。彼はあらゆる手を使い、娘のエルシアと『イリアススコープ』を手に入れた。
(なんで娘も……?)
エシルの計画の為さ。ただ、エシルにとってエルシアはただの偶然の実験体に過ぎない。それも失敗作だった。
(最悪なやつだなそいつ)
ああ、最悪だね。もうちょー最悪。
(お、おう。なんかやけに感情籠もってるな……)
そりゃ籠もるさ。だって私が傑作だからね。
(……それじゃお前も実験の被害者――)
そ! そりゃ感情も籠もるよね。あははは!
(笑えねぇよ……)
……せめて笑って欲しいものだね。そしてエシルは、長い年月と実験の被害者たる子ども達のお陰でついに完成させた。
『イリアスのコア』を。
(イリアスのコア……)
エシルの目的は守るジンとは違い、奪う事を目的としていた。それは、全てだ。
(全て……)
何もかも自分の思い通りになる世界、そんな世界を作ろうとしていた。
(でもよ、地球が滅亡するんならそんな事したって意味ないだろ)
その通り。だからエシルは地球を救った。
(……は? すまん、言ってる意味が分からん)
救ったんだよ、文字通りね。エシルは自分の目的の障害となるものは全て排除した。その中にたまたま、地球を救う必要があっただけ。
(そんな簡単に地球救ってんじゃねーよ……)
簡単なものか。彼は地球を救うために何万回と世界をやり直した。『イリアスのコア』を使ってね。
エシルの凄いところはその執念深ささ。自分の目的の為なら、何が何でもやり遂げる。俺は何度でも救うと、そう決めてね。
(その能力、別の方向に使えばよかったのにな)
……ほんとそうだね。でも、彼も人間だ。何万回も世界をやり直して正気で居られる訳が無い。
エシルは狂った。狂気に落ちたのさ。
(まぁそうなるだろうな。何万回って、一体何年生きてんだよって話だし……)
そうしてエシルは何度も世界を改変した。そして、その過程である世界に辿り着いた。
(ある世界?)
うん。魔法なんかが飛び交う世界さ。まさにファンタジー! ってね。
君たちにとっては魔法は当たり前だろうけど、それはこの世界だからさ。地球には魔法に近しいものは存在しても、死んだ人間を生き返らせるなんて真似は出来ない。他にもある。これはあくまで一例だけどね。
(魔法……魔法か…………)
エシルはね、狂気に落ちてしまったけど、そのファンタジーの世界に魅入られたんだよ。
魔法で何でも出来る、これぞまさにエシルの求めていた世界。……そのはずだった。
(そのはずだった……?)
彼も人間だ。人を愛する事だってある。狂気に落ちた彼は人を愛した。その子のお陰でエシルは狂気から何とか離れることが出来た。……しかし、魔法でやりたい放題やっていたエシルを恨む者が出てきた。
(まぁそうなるよな)
けど、誰もエシルに叶わなかった。創造者である彼に敵なんて居ない。皆返り討ちさ。
そこでエシルに叶わないと考えた者達は、ある方法を思いつく。
(……なんだ?)
エシルを殺せないのなら、ヤツの大事なモノを奪えば良い、とね。
今まで奪う側だった彼には当然の報いだね。
(エシルは何を奪われた?)
妻、だよ。言ったろ? 愛する者が出来たと。彼女は人間だった。魔法も使えない人間。
エシルは妻を奪われ再び狂気に落ちた。泣いて、叫んで……。
でも、蘇生魔法なんてものはエシルには使えなかった。そうして愛する妻を失くしたエシルが取った行動は――
(再び世界の改変をする……)
正解。どうして分かったの?
(……俺ならそうする……と思う。大事なモノを失くしても、手に入れる方法があるのなら、それがどれだけ確率が低かろうと試す……と思う)
……うん。……そう、君の言う通りエシルはまさにそれを実行した。
再び世界を改変した。しかし、何度改変しようとその世界に辿り着けなかった。
彼の肉体は変わらない。しかし、改変を始めた時点で既に老体だった。精神的にも疲弊し、もうコレが最後の改変になる、そう考えた。
(老体で何万回も……すげぇじいさんだな)
そうだね。人間とは思えない精神力だね。
……エシルは、『イリアスのコア』の適正者となる者を探した。
(適正者?)
エシルはもう自分の力では改変できなくなったんだよ。老体だからってのもあるけど、世界の改変には精神に負荷が掛かる。
だから彼は適正者を探し、そのものに改変をさせる事にした。
妻を失くした魔法の世界で、エシルは人探しの魔法を習得していた。……ちなみに私も使える。
(そ、そうか)
そしてようやく適正者が見つかった。場所はとある学校。適正者は女子生徒だった。
(女子生徒、か)
名を 白狐 瀬里奈。今の君がよく知るサリナの姉だ。
(あの露出の激しい狐のお姉さんか)
エシルは堂々と真っ昼間から校舎に侵入した。私は『観測者』。ここから世界が一変する。