第166話「失敗」
死ぬかと思った……。
「はぁ……もうちょっと丁寧に降りれないのかよ」
「すみません、背中に誰かを乗せていると思うと、なんだかむず痒くて……」
ま、何人も乗せている訳だからな。仕方ないもんなのかね。
龍の気持ちなんて分からんが。
「で、ここが安全な場所ってとこか?」
「はい、名を『アルファ宮殿』と言います」
ここは見覚えがある。確か、サリナが見せてくれた記憶にあった場所だ。
「ここは私の宮殿よ」
「やっぱりか」
ここが安全……? 全然そういう風に見えない。ボロボロで今にも崩れそうだ。
「では、中へ入りましょう」
そう言うと白龍は人間の姿に戻った。
「おい皆! 龍が人間の少女になったぞ!?」
「……何を言っているんですか、アスフィ」
皆の視線が冷たい。どうやら驚いているのは俺だけのようだ。なんだよ……皆知っていたのかよ。
それぞれが宮殿の中へと足を踏み入れた。
***
「……ここ、一応私のホームなんだけど。これはれっきとした不法侵入よ?」
「そんなもの今更じゃろうて。……久しぶりじゃな皆」
奥からただならぬ雰囲気のじいさんが現れた。
「レイラこんなおじいさん知らない」
「……うむ、それも仕方あるまい。ワシの名はエルブレイド。人類最強と呼ばれておる……が、まぁただのじいさんだ」
絶対ただのじいさんじゃないだろ。明らかに普通じゃない体格だ。
「うむ、皆ここに揃ったということはこれから始まるわけじゃな」
「……何がだよ」
俺はエルブレイドに言う。ここで事情を知らないのは多分俺だけだし、ここで聞かなければ俺だけ知らないまま話が進みそうだ。
「『再構築』、じゃ」
「再構築だと!? そんなことしたらまた世界が改変されるんじゃないのかよ!?」
「……そうよ。私達は失敗したの」
サリナの言葉にここに居るものは黙り、場は静まり返る。
「…………どういうことだよ……皆はそれでいいのか?」
「――良いわけ無いでありんす」
また俺の知らない者が宮殿の奥から現れた。今度は露出の激しい狐のお姉さん。サリナに似ているような……。
いやでも、サリナは猫でこのお姉さんは狐だし違うか。
「セリナお姉ちゃん!」
「……その声……まさかサリナでありんすか!?」
本当に姉妹だったよ……。サリナが言っていたお姉ちゃんというはこの人の事か。
いや、にしても全然違うな。見た目もそうだが雰囲気が真逆だ。
……そうか。サリナのこの姿は俺には猫耳の獣人に見えるがそれは『魅了』のせいだっけか。
なら、皆にはサリナの姿は一体どういう風に写っているんだろうか……まぁ今はそんな事聞ける雰囲気ではないが。
「本当に居たなんて……ずっと探していたでありんすよ…………」
「私もずっと会いたかったよ、お姉ちゃん」
「……姉妹水入らずのところ悪いんだが、その話し方は元々か?」
「……な訳ないでありんす……その様子を見ると本当に忘れているようでありんすね、フィーさん」
セリナと呼ばれた狐の女が俺に言う。当然俺は見に覚えがない。
「よっ、アスフィ!」
今度は額に傷をつけた剣士らしき人物が現れた。
誰だよこのおっさん。
「……つっても、今はもう覚えてなねぇみたいだな。そこのじいさんから聞いたぜ? ……悲しいな……クソッ……本当なら感動の再開となるはずだったのによ」
「感動?」
「ああ。……俺の名はガーフィ。ガーフィ・シーネット。一応お前の父親なんだぜ? ……まぁこの世界で言うと、だがな」
うーん。いまいちよく分からん。
「もう既に君に変化が起きているってことさ」
「……お前、オーディンか」
「やぁ。久しぶり……でもないのかな?」
緑髪緑目の少女。サリナの世界では『死の神』と呼ばれていた者。
「どうしてお前が……」
「私だけじゃないよ! 君に会いたい者は他にも居る」
そういうと、オーディンは「ジャジャーン!」っと、もったいぶって紹介する。
「……久しいな、アスフィ」
「お久しぶりです、お兄様」
「久ぶり? 始めまして? アスフィさん」
金髪で黄色目の女性と、青髪青目の少女が二人。青髪の方は瓜二つというレベルじゃない。見た目も声も姿も全く同じだ。
……だが、俺はこの三人を覚えては居ない。
「うむ……やはり、私達の事は忘れているようだな」
「ですね。悲しいものです」
「……なんだよ。ここに居る奴ら全員俺の知り合いなのか?」
俺は恐る恐る聞いてみた。
「それはワシから――」
「いいや、エルブレイド。これは私が説明しよう。『イリアスのコア』であり、『異分子』でもある私が」
「……うむ、承知した。すまんな、オーディン。今更だが、エルシアの件も助かった」
「いいよ。またお茶にでも付き合ってくれたらね。……ケンイチ、少し長い話になる。でも君にはそれを聞く権利、使命がある。……なんか違うなぁ」
オーディンは「うーん」と唸りながら頭を抱えている。
「……うん、こう言う方が正しいかな。諸悪の根源さん」
オーディンは俺を睨みつけ、確かにそう言った。




