Ex.ep final……
第二部はこちらで完結となります。
天才とは努力する凡才のことである。
偉人アインシュタインの名言だ。
才能としてただ決めつけるだけでは無く、努力してこそ花が開く。
よく言ったものだ。
***
「行きましょう、真希さん」
「…………」
「……えっと……真希さん? どうしました?」
「……………私は一人で大丈夫」
「そうですか……では先に行きますね」
「うん」
学び舎、この世界では学校と呼ばれる場所。
「真希さん? ……あの方が気になるのですか?」
「うん」
彼女の視線の先には黒髪の少年が居た。
「彼は須藤くんです。私もあまり話したことは無いのですけど、あの方凄いですよね。何でも、剣道の世界大会で優勝した事があるみたいです。それも最年少で。……でも彼、今はもうやってないみたいですね。勿体無いですよね。才能を無駄にしていると言うか……」
女生徒は言う。
「……才能だけじゃないよ。あの子は努力の天才なんだ」
「え?」
「才能という言葉だけであの子を語るのはやめて欲しい」
彼女は女生徒にハッキリと言った。
「……ごめんなさい。私、真希さんを怒らせるつもりは無くて……本当にごめんなさい」
「いい。怒ってない」
「え……でも……」
「よく勘違いされるけど、怒ってない」
「そ、そうですか。……では、私は先に行きます。真希さんも早くした方が良いですよ。担任の松岡先生、あまり言い噂を聞かないですから。では」
女生徒は彼女の元を離れていった。
「…………須藤……くん」
少年の名前をポツリと呟いた彼女。他の生徒は皆教室を離れ、彼女だけがただ一人残されていた。
「………………須藤……くん……」
彼女は何度も名前を呼ぶ。誰も居ない教室で。
そんな時、悲鳴が聞こえた。
「……なに?」
彼女は悲鳴のする方へと歩いていく。教室を離れ、階段を降りる。
すると大勢の生徒が彼女の元へと悲鳴をあげながら走ってくる。そしてそのまま通り過ぎて行く。
「なに……? 皆どうしたの?」
「――あ! 真希さん! 早くこっちへ逃げて下さい!!」
先ほどの女生徒が彼女の手を引く。
「何があったの?」
当然状況の掴めない彼女は疑問に思う。しかし、彼女が答える前にそれは聞こえた。
【校内に不審者が侵入しました! 生徒の皆さんは逃げて下さい! 見かけても決して近付かないで下さい!繰り返します――】
校内にアナウンスが流れた。その声は震えていた。この放送を流しているのもまた同じく生徒。怖いのも当然。それでも、他生徒の為にとこうして震えた声でアナウンスを流していた。
「――私の人生は再び新しい世界と共に幕を開ける!!!!」
侵入者が大きな声で叫んでいた。
「……誰?」
「真希さん! あれがアナウンスで言ってた不審者です! 早く逃げましょう!!」
女生徒は彼女の手を取り、逃げようとする――。
「……どこへ行こうとも無駄です。私はこの世界を破壊する者――」
侵入者の手にはナイフが握られていた。
「は、はやく! 真希さん!!」
「……う、うん………………ごめん、足動かない」
彼女は足が竦んで動く事が出来なかった。
「そんな――」
女生徒は動けない彼女をどうしようかと考えていた。
「…………行って」
「……でも!」
「大丈夫、行って」
「…………真希さん、ごめんなさい!」
女生徒は動けない彼女を置いて逃げていった。
「………………逃げ無いのですね。……いや、逃げられないのでしょうか」
侵入者は彼女、真希に言う。
「それならそれでいい。……死ね」
侵入者は真希に近付き、ナイフを振り下ろす――
ドンッ
廊下に鈍い音が響いた。
「大丈夫?」
「須藤……くん?」
侵入者は床に倒れていた。
「なんで……来たの?」
「教員共が無能だから来た。今頃、生徒達を置いて校舎の外だよ。あいつら、真っ先に逃げやがった。アナウンスをしているのも生徒だ。本来なら教員がするものだろ?誘導すらしていなかった。……俺、やっぱり入る学校間違えたかも」
彼は真希の前に立ち、侵入者の頭を箒で殴った。
それはまるで竹刀を扱うかのようだった。
「……………………痛いですねぇ……」
「爺さんよ、そんな短いナイフなんか持って何しに来た。ここには何も無いぞ」
「…………ふふっ……新たな器を探しに来た」
「なに? 器? ……寝ぼけてんのか爺さん」
「……『イリアススコープ』は私に教えてくれた。この学校に適正者が居ると」
侵入者は訳の分からない事を口走る。
「……ボケてんなこの爺さん。……なぁ、お前」
「…………真希」
「そうか。真希、離れてろ。この爺さんを黙らせる。最悪、永遠に逝っちまいそうだがな」
男子生徒は真希にそう言うと、再び箒を握り直す。
「お前に興味はない、須藤 剣一」
「……何で俺の名前を知っている?」
「私は何でも知っている。剣道世界大会の優勝者であり、同じくその道の師である、君の祖父はギネス記録にも載っている本物の実力者」
「……誰が偽物だ」
「偽物だよ、お前は。君は祖父の足元にも及ばない」
侵入者は落としたナイフを握り直した。
「そして、私の足元にも及ばない」
「お前、今俺にやられたの覚えてねぇのか。ボケもそこまで来たのか」
「……そうかもな」
侵入者はニヤリと笑う。
「なんだコイツ。キメェな……」
「須藤くん。気を付けて」
「……ああ。何だか嫌な予感がするな。この爺さん」
男子生徒は目の前の侵入者に集中する――。呼吸を整え、箒を力強く握りしめる。
「………………ガハッ」
「……須藤……くん?」
男子生徒はその場に倒れた。二人とも何が起きたのか全く理解出来ずにいた。
「……………テメェ……俺に何をした……」
「私は何もしていない。君が一人で倒れただけです。剣一くん」
侵入者の前で伏している男子生徒。
「さて……私は行く。お前はそこで大人しくしていろ」
男子生徒を通り過ぎていく。
「お前……まさかその女に――」
侵入者の老人は真希の元へと近付いていく。
「何を勘違いしているのです。私の目的はお前じゃない」
「…………え? どうしてここに……逃げたんじゃ……」
老人はそのまま真希の元を通り過ぎて行く。そのまま歩いていく老人の先には、逃げ遅れたと思われる女生徒が居た。真希はその女生徒を見て、不思議に思った。
「――私が必要とするのはあなたです。白狐 瀬里奈」
老人の前に居たのは黒髪の女生徒。真希を置いて逃げた生徒。
真希を……親友を置いて行く事が出来なかったのだ。
「……誰ですか?」
「白狐 瀬里奈。お前の妹の命を助けてやる」
「…………何故妹の事を知っているのですか?」
「私はなんでも知っている。自殺に失敗し、今も尚死よりも苦しい状態を保っている妹」
「何故それを……」
「私に協力すれば妹を助けてやる」
「…………本当に?」
「ああ、もちろんだ。その代わり、私からもお願いがある」
老人は女生徒に迫った。
「――妹の命を助けてやる代わりに、異なる世界に繋がるゲートを開け」
女生徒は老人、江四留の言葉の意味が理解出来なかった。それ故に女生徒は承諾してしまった。事態を重く考えていなかったのだ。
老人は道化のごとくニヤリと笑う。
――その瞬間、二人は真っ白な空間に包み込まれた。
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