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第140話「軒昂」

 ――始まりは神々しく光るある隕石から始まった。

 

 かつて光る隕石を発見した研究者が居た。

 その者は隕石を持ち帰ると、どういった原理でこの光を放っているのかを調べた。しかし、どれだけ調べてもなぜ発光しているのかまでは分からなかった。

 

 そんなある日。光を放つ隕石から未知なる成分が発見された。

 名前の無い成分。その者は期待を込め仮称として『希望(ホープ)』と名付けた。

 

希望(ホープ)』は不思議な成分だった。触れた者に少し先の未来を見せる。

 しかし、望んだ未来を見ることは出来ない。

 

 研究者はこの隕石に手を加える事に決めた。

 

 そして完成したのが『イリアススコープ』。

 

Eeliaas(イーリーアース)」はギリシャ語で『預言者』を意味する。研究者はそこから名前を取り、『イリアススコープ』と名付けた。

 

 だが、完成したと思われた『イリアススコープ』は想定していた代物では無かった。元々は未来を見る望遠鏡……くらいの気持ちで作ったものだ。

 

 しかし、『イリアススコープ』を覗き映ったそれは――

 

 未来とは程遠いものだった。建物は古臭く、人々が剣や杖を持ち、水や炎、雷までもを操っていた。

 

 研究者は心が踊った。『希望(ホープ)』が今まで見せていたのは少し先の未来だった。


 だが、『イリアススコープ』が見せたのは今までのようなものでは無かった。その後、研究者は更に新しい発見をする。

 

 ――このスコープは未来を見せていたのでは無い。見たいものを見せていたのだと。

 

 研究者は未来だけでは無く様々なモノを見た。

 紀元前から現代に至るまでの過去の歴史から、競馬や宝くじの結果を見るなど、そんな誰もが考えそうな事を片っ端から見ていった。

 

 そうして研究者は資金を得た。人も雇った。いつしか建物は大きくなり、富と名声を手に入れたのだ。

 

 だが、それは秘密にすることなど出来はしなかった。

『イリアススコープ』に魅せられた者は黙ってなどいる訳が無い。案の定、内側から情報が漏れた。金の力でどうにか報道される様な真似は阻止する事に成功した。

 

 ”火のないところに煙は立たない”とはよく言ったものだ。


『イリアススコープ』の存在は瞬く間にSNSなどを通じて拡散された。

 

 しかし、覗いた者の望んだものが何でも見る事が出来るなど誰が信じるだろうか。……誰も信じなかった。

 

 

 ――たった一人を除いて(・・・・・・・・・)

 

『イリアススコープ』の存在を信じ、目を付けたその男はすぐに行動を起こした。

 

 その開発者に会いに行こう、と。

 

 

 ***

 

 

「……ワシは家族より自身の研究を優先していた」

「だからエルシアに甘いのですね」

「甘いも何も、エルシアは兵器になってしもうた。人間では無い」

「………本当にそう思いますか?」

「何が言いたいんじゃ……」

「エルシアの子供がエルザなら、旦那がいる筈。人で無ければ人間の子は生まれてきません。そうでしょう? それとも、エルザも人間では無いと言いたいのですか?」

 

 アイリスはエルブレイドを睨んでいた。アイリスにとってエルザという人物はそれほど大切で大事な事を意味する。それは二人とも(・・・・)だ。

 

「エルザ……エルザちゃんは人間じゃ。ワシの妻もまた人間……化物はワシだけじゃ……」

「……そうですね。あなたは化物です、エルブレイド。あなたがそのよく分からないモノを作ってしまった事により全てが始まったのですから。……でも、感謝している者もいます」

「感謝……じゃと?」

「ええ、わたくしはこの世界で生まれました。あなたが全ての始まりだとしても、わたくしはあなたのお陰で存在しています。お兄様やルクスお姉様、エルザ、マキナ……他にも色んな方達に会えました。それはあなたがこの世界を創ったからです、エルブレイド」

 

 アイリスは笑顔でそう言った。決してお前のせいだ。とは言わなかった。何故なら、こうして自分はこの世界で生きているのだから。

 


 【――甘いね。それは甘すぎるよ、アイリス】

 

 突如、頭に直接入ってくる声。

 

「その声はオーディンですか」

 

 【そうだよ】

 

「甘いとは、どういう事でしょう?」

 

 【そんな男に感謝している事についてだよ】

 

「それの何がいけないのです――」

 

 【フィーに会えた。この事に君が感謝しない訳が無い】

 

「……そうですね。わたくしはお兄様と会えた事を感謝しています」

 

 【ほらね】

 

「でも、それの何が悪いのですか?」

 

 【悪いさ。だってその男がこの世界を創ったんだよ】

 

「創ったのはあなたでしょう、オーディン」

 

 【私がこの世界を作ったのはあくまで危機感を知らせる為だ。平和ボケしている向こうの皆々様にね。……まぁ、今はもう向こうも大変だろうけど】

 

「…………」

 

 【――つまり、この世界は必ず起きる日本の未来を再現したモノ。私がこの世界を創ったなんて関係ない。むしろ事前に未来を教えて上げるためにこの世界を創った私に感謝して欲しいね】

 

「ワシが全て悪いんじゃ……」

 

 【…………でも、エルブレイド。君が全部悪いとは言ってないよ? 君も勿論悪いが、共犯者が居る】

 

「江四留……」

 

 【そうだ。目的は違えど、結果的に彼と君の手によって日本は破滅する事になるんだ。そして、新たに生まれ変わった。江四留が望んだ無能が仕切る世界では無く、人間離れした、より上位の存在、『()』が支配する世界へと……だからね、君一人悪いだなんて言ってないんだよ】

 

「…………何の慰めにもならんわい」

「そうですね。わたくしも聞いてて何を言いたいのか分からなくなっていました」

 

 【何だよ! もう! ……私とエルブレイドは同じ目的を持っている、そうだろう? 】

 

「……ああ」

 

 【うん、なら今までと何一つ変わらない。私と君は友達だ。私は君が嫌いじゃない。むしろ好きなくらいだよ? あの男を共に憎む同士としてね】

 

「……ワシもオーディン。お前の事は友達……いや、家族とさえ思っておる」

 

 【ははっ! それは言い過ぎだよ】

 

「…………」

 

 【……本気? …………まぁ君がそう言うなら喜んで娘という事にしといてあげるよ。でもまずは、実の娘と決着をつける事だね】

 

「……ああ、分かっておる」

 

 【…………今度は失敗しないでね、()

 

 ……

 …………

 ………………

 

「…………さて、アイリス。ワシらの目的はあくまで『アルファ宮殿』。エルシアでは無い。決着をつけよう」

「…………エルシアはいいのですか?」

「ああ。覚悟は決まった」

 

 エルブレイドは鎧を脱ぎ、上半身裸になった。その肉体は老人とは思えない程に完成していた。

 

「…………………脱ぐ必要ありますか?」

「……覚悟を決める為じゃ」

「そうですか…………」

 

 ――アイリスは呆れた顔で歩き出した。

刮目せよ!エルブレイドの筋肉を!

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