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第137話 「エルシア・ヒナカワⅦ……」

夢と過去。そんな話。

 エルシアはただじっとエルブレイドを見つめていた。

 

「……………………おおう……しゃま……」

 

 少女の痛々しい体とたどたどしい話し方に、エルブレイドの頭は怒りの感情が支配する。

 

「見なさい! これが人間兵器というものだ! ……しかしまだ終わりでは無い。こんな少女一人で国家権力を相手にするのは不可能だ……」

「江四留……貴様というやつは…………」

「エルシア嬢は(うつわ)に過ぎない。あなたのスコープ(・・・・)が必要だ……」

 

 江四留はエルブレイドに歩み寄る。

 

「――いいですか日名川様。これはあなたと私が作り上げたのです」

「…………違う……その子は俺の――」

「何も違わない。エルシア嬢には欠落した部分があった……そうでしょう?」

「…………」

「だんまりですか……。私は一目見て分かりましたよ。この子は感情をコントロール出来ない病気だ」

 

 江四留は続けた――

 

「『注意欠如・多動症』。通称ADHD(・・・・)。何も珍しい事では無い。よくある発達障害の一つです。しかし、この子はその中でも特に症状が強い。そこで私は思った。この子なら私の願いを叶えてくれると」

「願い……?」

「そうです。私の願いは強き者だけが生き残る世界を創ることです。今の日本は見ていられない。上が駄目なら国が駄目になる。声を上げることは自由です。しかし、無意味だ……国民がどれだけ喉を枯らし叫んだ所で、その声は上には届かない……私は思った。ならば私自身が上に立てばいいと!」

 

 江四留は両手を広げ叫ぶ。

 

「…………日名川様。あなたは私が憎いでしょう。しかし、もう遅い。私の計画はあなたと出会う前から組まれていた。後はその(うつわ)と『未知を見通す千里鏡(イリアススコープ)』だけでした……ですので私は今からエルシア嬢と二人で取りに行きます」

「………待て。行かせるものか」

 

 エルブレイドは江四留のジャケットを掴み静止させる。

 

「何です? 私にまだ何か?」

「お前の好きにはさせない」

「……エルシア。愚かなお父様を黙らせなさい」

「…………あい」

 

 エルシアはエルブレイドの元へ瞬時に近付き、蹴りを入れた。その動きはもはや人間の動きでは無かった。

 

「がはっ!?」

「あははははは! 良いですよ! 偉いです、エルシア」

「あいが……とうごらいあす」

「ございます、ですよ。……さぁ行きましょう。こいつは放っておいても大丈夫です。どうせ何も出来やしないのですから」

 

 江四留はエルシアを連れて出て行った。

 

(……何度見ようと慣れないものだな)

 

 ――その後、日名川ビルディングは二人の侵入者に乗っ取られた。銃も持たない男と少女のたった二人に。

 

 …………………………。

 

 【どう? ……今のところエルシアは殺せてないけどまだやる? 】

 

 ……………………まだ……だ。

 

 【……でも君まだ迷ってるよね。エルシアを殺すか殺さないかを。そんな覚悟で続けても意味は無い】

 

 過去のワシ……俺はエルシアを殺せなかった。殺してあげられなかった。

 

 【そうだよね、ならもう終わる? 】

 

 だが、まだだ。まだ終わっちゃいない。

 

 【……続けるってことね。分かったよ。なら最後まで飛ばしてあげよう。所謂スキップだよ。無駄を省く為さ】

 

 ………………。

 

 【君が選ぶ所までね】

 

 ……やれ。

 

 【言われなくとも】

 

 エルブレイドの視界は真っ白になった。

 

 ……

 …………

 ………………

 

 ――目を開けると、日名川家が燃えていた。

 

「…………よりによってここからか」

 

 エルブレイドは立ち尽くした。燃える家の前には少女と男が立っていた。

 

「――おい! 聞いているのか日名川!!」

 

 男は叫ぶ。

 

「……はぁ……聞こえている」

「どうだ? 家が燃えた感想は。手始めに燃やしてみたんだ。もちろんやったのは私では無い。この子だ。この子が自らの手で家を燃やしたのだ」

 

 男は少女の頭を撫でた。

 

(触れるな。触れるなと言え、俺)

 

「…………何も言えない、か。まぁいい。後は親子水入らずで楽しむといい。私は私のやるべき事をやるのでねぇ」

 

 男は少女を置いて去っていった。

 

「…………エルシア。すまない……俺はお前を殺す」

「……お父様。エルシアは覚悟が出来ています」

 

 エルシアは既に言葉を取り戻していた。その様子を見たエルブレイドは再び覚悟が揺らぐ。

 

(言葉は辛い。覚悟を壊してくる……)

 

 エルブレイドはエルシアにゆっくりと近付き、気付けば握っていたナイフをエルシアの首元に当てた。

 

「…………お父様、ありがとうございました」

 

 自分の命の最後の言葉。エルシアの口から出てきたのは感謝だった。

 

「…………………………ダメだ」

 

 エルブレイドはナイフを落とした。

 

「……………………ワシにはやはりお前を殺す事はできん」

「………………そう……ですか」

 

 エルシアは悲しげな表情で去って行った。燃え盛る家に背を向けて。

 


 ***

 


 【やっぱりダメだったね】

 

 …………ダメだ。ワシには……。

 

 【人類最強なんて君には相応しくない。人類最弱くらいがお似合いだ】

 

 ………………元よりワシは自分で人類最強と思った事は一度もない。

 

 【……あの子はその後、運命の人を見つけ子を残した】

 

 ………………。

 

 【怪物が化物(・・)を生んだんだ】

 

 ……あの子は化物じゃない。

 

 【いいや、化物だ。怪物の血を継いでいる】

 

 あの子の父は優秀だ。

 

 【ふーん。思ったより評価高めなんだね。弱いとか言っていたのにさ】

 

 …………アレは自分に向けた言葉だったのだ。

 

 【…………ぷっ……あははは! ってことは何? アイツは君の言葉を自分に向けられた言葉だと勘違いしたの? 】

 

 ……お前は弱い(・・・・・)…………それはワシの事だ。

 

 【……ふぅ。それを聞いたらアイツ驚くだろうね。……ま、それももう出来ないか。死んでいるからね(・・・・・・・・)

 

 ……………………お前は弱い……エルブレイド・スタイリッシュ。ワシは……弱い……。

 

 【でも約束通り私の勝ちではあるけど、初めに言った様に罰は無いから安心してね】

 

 ……もう罰は喰らった様なものだ。お主はワシの心を壊した。それだけの事をしたのだ。

 

 【そうだね。……世界の均衡を保つ為、と……後は暇つぶしかな。じゃ、またね。ゆっくり休んでよ】

 

 …………どの口が言うとるんじゃ。

 

 ***

 

 ――エルブレイドは目を覚ました。

 

『シーレンハイル』の宿のベッド。そこにエルシアの姿は無い。

 

「…………エルシアはどこに」

 

 すると部屋の外から大きな足音が近付いてくる。

 

「――大変です! エルシアが!!」

 

 血相変えて部屋に入って来たのは青髪の少女アイリスだった。

 

「エルシアがどうした? 何があったんじゃ」

「エルシアが……エルシアが……」

「落ち着くんじゃ……まずは深呼吸を」

 

 アイリスは息を切らしていた。言われた通りゆっくりと深呼吸をする。

 

「…………すぅ……はぁ……」

「落ち着いたか?」

「……はい。すみません、わたくしとしたことが……」

「いいんじゃ。それよりエルシアに何があった」

 

「エルシアがここの住民を殺しました」

「………なんじゃと?」

 

 アイリスの言葉を耳にしたエルブレイドは、慌てて宿を出ていった。

ご覧頂きありがとうございました。

エルブレイド、彼は一体……。

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