表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
169/285

第135話「エルシア・ヒナカワⅤ」

 エルブレイドは思い出す。この世界にはいい思い出もあるが、それ以上に悪いモノのほうが多い。

 これはアイツが作った世界。ここに居る者達は本物では無い。

 

「…………のはずなんじゃが」

「どうしました、あなた?」

「いや、何でもない。少し悪い夢でも見ていたようだ」

 

(もしくは、あちらが悪い夢なのか……)

 

「――お父様!」

 

 金髪の少女がエルブレイドに抱きついた。

 

「おおエルシア、おはよう」

「おはようございます、お父様」

「こらっ! エルちゃん。いきなり抱きついてはダメと何度言ったら分かるのですか?」

「……ごめんなさい、お母様」

 

 エルシアという名の少女を叱る、同じく金髪の女性。二人は容姿が似ている。

 

「すまない、俺は少し用がある。お前達は先に食べててくれ」

「そうですか……またお仕事、ですか?」

「ああ。今日は帰るさ……」

「でしたら、あなたの帰りを待っていますね。ご飯は家族皆で食べる。これが日名川家の決まりですから」

「…………ああ、そうだったな。分かった」

 

 エルブレイドは家を出る。振り返ると若い女が手を振っている。

 

「……ワシは幸せじゃったな」

 

 エルブレイドは手を振り返し、何も持たずに歩き出す。

 

「喋り方は変えた方がよいか……なるべく意識していこう」

 

 ***

 

「うむ……何だかここに来るのも懐かしいな」

 

 エルブレイドは目の前にそびえ立つ大きな構造物を下からじっくりと全体を眺めた。

 高さは三百メートルはゆうに超えている。

 

「……さぁ、入るとするか」

 

 近付くと自動で開く扉を抜けると、迎えるのは黒いスーツを着た者達。

 

「おはようございます、日名川(ひなかわ)様」

「うむ、おはよう」

「早速ですが、日名川様とお話をしたいと言う方がこちらに――」

「紹介は必要ありません」

 

 黒いスーツ姿の者の発言を(さえぎ)り、後ろから現れた男。

 

「初めまして。私は江四留(えしる)と申します。いやぁ実は私、他人に自分を語られるのが苦手なんですよ。お前が私の何を知っているんだ、と思ってしまうんです」

 

 男は目線をスーツ姿の者に向ける。

 

「申し訳ありません!」

「いえ、いいんですよ。次から気をつけて貰えればね」

 

 男はスーツ姿の者の背中を優しく叩く。

 

「頼みましたよ?」


(相変わらず嫌な奴じゃ)


「…………あまり私の社員をいじめるのは辞めて頂きたい。で、話とは何でしょう、江四留様」

「いじめるなんてとんでもない! 私は注意をしただけです。……まぁいいでしょう。今回私がここへ来たのは噂に聞くアレ(・・)を見に来ましてね」

「……そうですか」


 エルブレイドは目を細めた。


(ワシは知っている。ここから全てが始まった)


「……おや? どうしました?」

「いえ、少し目が悪いもので。さぁ、こちらへ。私が案内します」

「ありがとうございます。では、お願いしますね」

 

 エルブレイドは大きなフロアを進んでいく。黒のスーツ姿の者達が、エルブレイドに次々と頭を下げていく。

 

 中に入ると上へと自動で上昇する箱。エレベーターという物に乗り、目的の場所へと向かう。

 

 ……

 …………

 ………………

 

「……着きました。こちらへ」

 

 エルブレイドは大きな扉の前に来た。その扉の横にはスーツ姿にサングラス、おまけに服の上からでも分かるくらいの筋肉を持つ大柄な男が二人立っていた。

 

「おはようございます、日名川様」

「うむ。こちらの方を中へ入れても良いか?」

「初めまして、江四留と申しま――」

「もちろんです。お入り下さい」

「…………」

 

 ガタイのいい男達は江四留の入室を許可する。

 

「……躾がなっていませんね、日名川様。この者達は私の言葉を遮りました。今の私は客人です。無礼にも程がありますよ?」

「…………申し訳ない。この者達には後で言っておきます。さぁ、どうぞ中へ」

「頼みましたよ? 日名川様」

 

 大きな扉が開くと江四留という男が我先と中へ入っていった。

 

「悪いな、お前達」

「い、いえ。我々の方こそ申し訳ありません」

「……日名川様? どうしたのです? 早く来てください」

 

 先に中へと入った男に急かされ、エルブレイドも中へと入る。

 

 扉の奥には、大きな望遠鏡の様な物が置いてある。人間よりも何倍も大きいものだ。

 

「……ほう、これが噂に聞く日名川財閥の『イリアススコープ』ですか」

「ええ、私達の宝であり象徴です」

 

 男は『イリアススコープ』と呼ばれる大きな望遠鏡の様な物に、触れた。

 

「……ふむ。これは確かに、何でも見つけられそうですね」

「仰る通り、この『イリアススコープ』は何でも(・・・)見る事が出来ます」

「……それはつまり、このスコープで見れないものは無い、と?」

「ええ。覗いた者の望むものが見られます。それは惑星だけでなく、未来さえも(・・・・・・)

 

 エルブレイドのその言葉に男は手を叩いた。

 

「素晴らしい!! これがあれば日本は無敵ですよ! 日名川様!」

「……何に使おうと考えているのかは分かりませんが、あなたの考えている様な事には使用致しません」

「……念の為、私が何を考えているか聞いても?」

戦争(・・)でしょう。顔を見れば分かります」

 

 男の口角は上がり、無意識に笑っていた。

 

「これはこれは、やはり見抜かれてしまいますか。……しかし、日名川様? 逆に聞きますが、あなたはこれを何に使うのです?」

 

(何の為、か……また同じ事を……)

 

「守る為です」

「何から? ……まさか他国からの武力攻撃を守る為にですか? それは武力では?」

「武力ではありません。この『イリアススコープ』にそんな兵器の様なものは搭載されておりませんので」

「違うっ!! そんな事は分かっているっ!! 私はこのスコープで敵兵の戦略を読み、守る為に戦いを仕掛けるのは武力では無いかと聞いているんだっ!!」

 

 男は近くの壁を強く叩いた。

 

「…………申し訳ありません。少し感情的になりました。……しかし、答えて頂きたいものですねぇ」

「……江四留様はさっきから何を言っているのでしょうか。私はこの『イリアススコープ』で戦いを仕掛ける等と一言たりとも言っておりませんが」

「………何?」

 

 男は眉間にしわを寄せる。表情がまた歪み始めた。

 

「この『イリアススコープ』は守るのです。それは戦争の為ではありません。日本(・・)の為です」

「……それは大きすぎる。具体的に聞きたいものですねぇ」

「疫病の予防や交渉に使うつもりです」

「交渉に……? それは他国との交渉という意味ですか?」

「そうです。他国にも色々な考え方があります。食糧難民、家族を人質に取られ仕方なく兵士となる子供達。そういったものを救いたい。この『イリアススコープ』で把握し、交渉を優位に進めるのです。戦争が起きる前に手を打つ。ひいてはこの世界から戦争そのものを無くす為に」

 

 エルブレイドは淡々と説明する。

 

「……やはり規模が大き過ぎる。その交渉が上手くいかない時はどうするのです?」

「その時はそれまでです。交渉が成立する国を探します」

「…………違う……それでは意味が無い……意味が無いのだ…………」

 

 男は頭を抱え、髪を両手でかき乱した。

 

「江四留様。先もお伝えした通り、この『イリアススコープ』は戦争を目的に開発したのではありません。日本をひいては世界を守る為です。蔓延する疫病がどういったものか事前に分かれば対策も出来る事でしょう。……それに懸念されている他国との交渉が上手くいかない時についてですが、失敗することはありません」

「…………なぜそう言い切れる」

「|交渉が成立する国を事前に把握できるから《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・》です」

 

 エルブレイドのその言葉に男は反応した。

 

「ああ……そうか。その手があった…………はは! はははは! そうですよ! それがあるじゃないですか!! ねぇ!! あっははははははは!」

 

 男が声高らかに笑う。その声は二人の居る部屋に響き渡った。

 暫く笑った後、男は驚く程冷静になった。まるで感情が無くなったかのような真顔である。

 

「………………用事を思い出しました。私はこれで失礼します、日名川様。本日はこのような機会をいただきありがとうございました。では、私はこれで失礼します」

 

 江四留は部屋を出る。

 

「――どけっ! 邪魔だ無礼者!!」

 

 門番を怒鳴りつけ、男は一人で帰って行った。

 

「…………はぁ。無礼者はどっちやら」

 

 エルブレイドは一人部屋に残され、ため息をついた。

この男は一体……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

★ 面白かったら応援を! ★

★★★★★評価お願いします!

あなたの評価が、新たな物語を加速させます!


【カクヨム版も公開中!】 攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ